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新たに野次馬の中から現れたゴブリンは、俺の前に跪いていた。同じように殴りかかってきたので、同じように拳を止めて、そのまま手加減して関節を決めて跪いてもらった。
「すまない、誰か他に相手になってくれる者はいるか?」
野次馬たちを見渡しても誰も声を上げようとしなかった。声を上げているというか、うめき声を上げているのは拳を掴まれながら跪いているゴブリンだけだった。
「ググゥ・・・俺より強いマッスルはいる、調子に乗るなよ」
「そうか、なら連れて行ってもらおうか?」
「えっ」
拳を放し、自由に動けるようにした。こういう筋肉の鍛え方はよくない、どこかにトレーニング場所がありそこが間違った筋肉を作っている。
俺は確信めいていた。
まさか本当に放してくれるかと思わなかったゴブリンはゆっくりと立ち上がり、俺の方を見ていた。
「なんだ? 早く案内しろ」
「あ、はい」
俺たちはゴブリンに案内され、数階建ての建物に入る事になった。そこはトレーニングジムであったが、地下に案内され、そこは闘技場のような場所だった。
「なんだこいつは?」
どうやらここで一番の筋肉を持つゴブリンだと一目でわかった。鍛え方が戦闘を行う前提の筋肉を持っていた。悪くないが、良くもない、だが他のゴブリンよりは良い。
「強いやつがいるから調子に乗るなと言われた。それで本当に調子に乗ってるのはどっちなのか確かめにきたんだよ」
「へっ、チビと鼻が潰れたオーク女がデートに来る場所じゃねえぞ。グギャギャ」
「デートついでに相手にされるのがお前になるわけだから、笑うのは当然だな」
「なんだと? てめぇ、あそこで舐めた事言ってすみませんでしたと謝らせてやるよ。その後にお前のオーク女も相手してやる。グギャギャ」
オーク女じゃない、人間だと言いたいがこの世界に人間はいないので角無しの鬼人と言えばいいのか? と迷っていたらナミが話しかけてきた。
「ねぇ、レンツさっさとそいつわからせてきて・・・その後に私もやるから」
「・・・お、おう」
殺気こそないものの、ナミの表情は今まで見てきた中で能面だった。俺は闘技場のステージに上がり、利き腕の左腕を背中に隠し、右腕だけで戦う意思を見せた。
「てめぇ、よほど死にてえらしいな?」
手でいいからかかってこい、とジェスチャーをし、わざとらしくため息をついてあげた。
ゴブリンはいきなり殴りかかってくるだろうと思ったが、ショルダータックルでいっきに俺を吹き飛ばすつもりだった。俺はうまく押し返すように、背中からぶつかるように攻撃する貼山靠という技で応じた。
ショルダータックルなので、走りながらこちらに来ているのだから、両足が浮く瞬間を狙って相手に攻撃を与えた。すると踏ん張れないのでキレイに吹っ飛んでくれた。闘技場の場外に吹っ飛び、転がっていき、壁に激突した。
「どうした、盛大に吹っ飛んでいったが・・・何かの余興か?」
「ふざけんじゃねぇ!」
立ち上がり、闘技場に戻ってきた。致命傷ではないし、そこまでダメージは負ってなく、続行可能なのは吹っ飛ばした時にわかった。身体と身体がぶつかる事で筋肉同士の会話が弾む。
ゴブリンは、今度はショルダータックルではなく拳や蹴りで語ろうとパンチを繰り出してきた。ジャブを交えつつ、ローキックを入れたり、なかなか筋はよかった。
一つ一つ捌いたり、交わしたりし、ゴブリンの筋肉を確認していき、ここぞと狙ってくる攻撃に対してカウンターを手加減して入れて上げること数回。
その数回程度で、相手は向かってくる事を辞めたのだった。
「あ、あんた一体・・・なんなんだ?」
「俺はレンツ、筋肉を愛する者だ――」
「レンツ、交代。私の番」
あれ? 筋肉について大事な話をしようとしたのに、どうして遮るんだ?
サイキックで闘技場の外に放り出された。
「私はオークじゃないわ、証明してあげるからかかってきなさい」
「ふ、ふん。筋肉じゃない脂肪なんて怖くないな」
ゴブリンは容赦なく、ナミにショルダータックルをした。俺とは違い、吹き飛ばさず片腕で止めて、相手が驚愕するのを確認すると引っ張り持ち上げ、地面に叩きつけた。
ナミが掴んでいた場所はナミの手形がくっきりとついており、ナミが踏ん張った後が闘技場にくっきりと残っていた。サイキックパワーなのか、それとも筋肉なのか、それとも噂に聞いた女子力というものなのかと思った。
「ねぇ、確かにちょっとだけ食べ過ぎたからオークに見えるかもしれないけれど、失礼じゃないかしら?」
「はっ、はっ、はっ」
背中を打ち付けられて、呼吸がうまくできてないから返事をしようにもないゴブリンだった。
「す、すびっ、すみまっ――へっ?
ナミは立ち上がってこないゴブリンの胸倉を掴み、無理やり起こし、持ち上げた。そのまま片手で締め上げるように持ち上げていき、ついにビリビリと音をしながら服が破けゴブリンは尻もちをついた。
「なんて?」
「すみませんでした!!」
泣きじゃくりながら土下座をし、ひたすら謝罪を繰り返していた。周りのゴブリンたちもあれはオークじゃない、あんなのオークじゃないと言っていたので誤解が解けて何よりだった。
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