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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第六章_タマモ召喚!

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98_トロワーヌ公国

 ―――主、主……。主に早うお会いしとうございます。


 誰かが自分に呼びかけてくる。だが、その声の主のことが全く分からない。一体誰なのだろうか? 水色の靄か霧のようなものがヴェールのように目前に覆いかぶさり、情報の取得に制限がかかる状況下で、相手のことを何とか探ろうと四苦八苦していたが、それは、自身を呼ぶ男の声が割り込んできたことにより途絶された。


 「おい、相棒、起きろっ。着いたぞ!」


 アヤセはホレイショに乱暴に揺さぶられて眠りの世界から引き戻された。


 「…………。ああ、済まない。いつの間にか眠り込んでしまったようだ」

 「随分ぐっすりと寝込んでいたぜ。バイタルは大丈夫なのか?」

 「リアルで寝不足という訳では無いけど、深い眠りのようで意識もあるような不思議な感覚だったな」

 「本当に大丈夫か? あまり無理はするなよ。まぁ、それはさておき、退屈な旅はもう終わりだ。着いたぜ。トロワーヌ公国へ!」


 まるで、ホレイショが言い終わるのが合図であったと言わんばかりのタイミングで、乗合馬車のドアが大きく開け放たれる。そして、それと同時に勢いよく吹き込んできた潮の香りが室内を満たす。それは新しい冒険の始まりを告げるものであった。


 ここは、トロワーヌ公国の首都ポールトロワーヌ。名前から連想できるとおり港町である。王都の港湾部に比べると幾分も小規模ではあるが、整備された埠頭に係留されている船舶の数や上げ下ろしされている積み荷の量を見る限り、まずまずの活況ぶりを見せていた。


 「王都と比べると小ぶりだが、そもそもあちらは大陸東部随一の港だからな。ここもその王都との交易で一応栄えている部類に入るだろうぜ」


 ホレイショが伸びをしながら港湾施設を一望し、率直な感想を述べる。


 「……」

 「そうは言っても、王国との連絡船が不定期なのがネックだ。せっかく帆船に乗船できると思っていたのに、今は不便な乗合馬車しか交通手段が無いとは参ったな! それに施設も、せめて王国の中型船クラスが楽に出入りできるくらいの港口は欲しいところだぜ」 

 「……」

 「……ん? どうした?」


 珍しく上の空で突堤の上空を飛ぶカモメを眺めているアヤセに気付き、ホレイショが様子を尋ねた。


 「えっ? ……ああ、大丈夫だ。先ほど馬車の中で夢を見ていたみたいで、それについて考えていたんだ」

 「ゲームで夢を見るなんてそりゃ珍しいな。それで、どんな夢だったんだ?」

 「うーん、それがよく覚えていなくて……。誰かに呼びかけられていたような、そんな夢だった」

 「それは不思議な夢だな。で、呼んでいた奴の特徴とかは覚えているのか?」

 「思い返してみると、声質が若い女性だったような、そんな気がする。透き通った綺麗な声だったな」

 「えっ、若くてキレイな? それってノエルのことじゃないですかぁ~!」

 「おわっ!?」

 「先輩っ! 会いたかったですぅ~」


 ホレイショが驚きの声を上げるのと同時に、背後から声を上げた主がアヤセに飛びつこうとするが、あえなくプリスの袖に阻まれた。


 「ちょっとぉ~!? 先輩そっけないですよ~」

 「……人前で抱きつこうとするのは褒められた行為ではないな。それに、自分達が話していたのはノエルのことでは無い」

 

 アヤセはそう言いながら淡々とノエルを押し戻す。

 一方で不満そうなノエルは、アヤセが誰について語っていたのか気になって仕方がないようで、再び突っかかってきた。


 「じゃあ、誰なんですか~? 先輩が気になる若くてキレイなノエル以外の人って!」

 「それは自分にも分からない。一体誰なのだろうか……」

 「もうっ! ごまかさないでください~!」

 「おい、相棒……」

 「何か? ……。あー」


 ホレイショが注意を引いたことで、現況に気が付くアヤセ。これ以上ノエルがへそを曲げて話が進まなくなると面倒なので、適当に取り繕うことにした。


 「本当に誰だか分からないから仕方が無い。例えノエルが若くて綺麗であっても他の誰かだということは確かだ」

 「……!」

 

 真面目な表情を装い、さり気なくノエルを持ち上げることを言うアヤセ。対してノエルはこれがお世辞とも分からずに、気を良くしたようだった。


 「先輩ったら、ノエルの魅力をよ~く知っているのですねぇ~。まぁ、それは当然かもしれませんけど~」

 「はいはい、そうですね。それより先方も自分達のことを待っているだろうから、早く行った方がいいのではないだろうか?」

 「あっ、そうでしたね! じゃ、案内しますね~」


 上機嫌で先導を始めるノエルを尻目に、ホレイショがアヤセの肩を労うようにポンと叩き、それに対しアヤセは苦笑いを返した。


 (夢のことは気になるが、まぁ、ここは気持ちを切り替えて今回の「仕事」に集中しなければな。自分の目的のためにやることは沢山あるのだから)


 ========== 


 ゲームがリリースされて以来、大陸東部諸国は帝国の度重なる侵略を受け、その結果、この地域で存続しているのは、王国を含めて数国を残すのみとなっている。


 そのうち王国の南隣には、「南方三公国」と呼ばれる小国がそれぞれ西から東にかけて並んで国境を接しており、西側からバヤン川流域の豊かな植生の草原が広がり、農業と牧畜業で栄える「アンボワーズ公国」、真ん中に豊富な鉱物資源を有する「ドゥ=パラース公国」、そして東側に海運盛んな貿易国「トロワーヌ公国」の順に並んでいる。

 南方三公国の各君主は王国王室と血縁が繋がっており、共通の文化を有し、おまけに経済面でも王国との交易に依存していることから、その立ち位置は、さしずめ王国の衛星国といったかたちだ。


 アヤセがホレイショと共に今回訪れたポールトロワーヌは、王都から乗合馬車でおおよそ四日の距離に位置する情緒溢れる港町である。彼らが長旅を経てわざわざここに来たのにはいくつか理由があったが、そのうちの一つは、現在ポールトロワーヌを一時的な活動拠点にしているノエルから助力を求められ、それに応じたためだった。


 「こんな遠いところまで来てもらってごめんなさ~い」

 「いいってことよ。丁度俺達にもこの国に用事があったからな」

 「そぉ~ですか? それなら良かったです~。戦闘が強い人をとにかく呼んでって、ルクちゃんが言うものですから~」

 「しかし、ノエル嬢にもフレンドがいたなんてな。しかも女だけの五人組なんて賑やかそうだぜ」

 「ノエルにだって友達くらいいますよぉ。皆第三次組でノエルより早くゲームを始めているから色々教えてもらっています~」

 「自分と同じ第三次組か。それだと基礎レベルはノエルの方が高いのでは?」

 

 第三次組の基礎レベルは、戦闘職が25から35、生産職が20から30ぐらいが一般的であるので、第四次組ながら基礎レベルが50もあるノエルに、他のメンバーがそうそう及ぶとは思えなかった。


 「そ~ですね、一番基礎レベルが高いのはルクちゃんで36ですねぇ。でもスキルを沢山持っていて、リアルで剣道をやっていますから、戦い方は凄くカッコいいんですよ~。ノエルなんていつも動きが遅いって怒られています~」

 「ふーん、ま、その『ルクちゃん』とやらはなかなかの使い手のようだな」

 「それほど戦闘に自信があるのだったら、自分達をあてにせず自力でダンジョンをクリアできるのではないだろうか?」

 

 アヤセが疑問を差し挟む。

 ノエルがアヤセ達に求めた「助力」とは、つまりダンジョン攻略の助っ人だった。


 トロワーヌ公国には、「千本松原海岸洞」という有名なダンジョンがあり、彼女達はそこに挑戦しようとしているようだが、急きょ戦闘をこなせるプレイヤーが必要になったらしい。ノエルからの依頼は唐突なものだったが、折よくアヤセもそのダンジョンに用事があったのでその頼みを応諾し、この場にいるというかたちだ。


 「それは……」


 ノエルが歯切れ悪く言い淀む。ブツブツと不明瞭な言葉を口の中でつぶやき、彼女にしては珍しく何かを伝えようか悩む様子を見て、アヤセは水を向けようか迷うものの、結論が出るよりも早くノエルは元の明るい表情に戻り、話を戻してしまった。


 「それは後で説明があると思いますから、まずはルクちゃんたちに会ってくださ~い」


 アヤセ達に背を向けノエルは先導のため先を歩き始める。先ほどの様子の変わりようにはホレイショも気付いていたようだったが、二人は何も言わずその後をついていくことにした。

 

 ========== 


 ノエルがアヤセ達を案内したのは、波止場近くにある居酒屋だった。

 日の入りまでには大分早い時刻だが、店内は既に今日の仕事を終えた港湾労働者のみならず、寄港した船舶の乗客や乗組員と思しきNPCまで混ざり盛況を見せている。彼、彼女らの種族や服装まで雑多な外見は、ポールトロワーヌの異国情緒を引き立たせるのに一役買っていた。


 そんな先客達をかき分けるようにアヤセとホレイショはノエルの先導に従って店内を進み、一番奥にある円形大テーブルまでたどり着く。テーブルには四人組の女性プレイヤーが居座わり、ノエルを待っていた。既に空の瓶やジョッキがテーブルの大部分を占有しており、四人が酒と料理を先に楽しんでいた様子が容易に把握できた。


 「遅いっ! 私達をこんなに待たせるなんて、あなたも随分偉くなったものね!」


 女性の一人がノエルの姿を認めるや否や、乱雑に手に持っていたジョッキをテーブルに置きつつ、頭ごなしに怒鳴りつける。そのあまりの剣幕にアヤセとホレイショは、お互いに顔を見合わせた。


 ノエルにきつい言葉を投げつけた、つり目の女性は、長い黒髪で前髪を眉毛の高さで切り揃え、ポニーテールに束ねており、華麗な柄がついた道着袴姿のような服装をしている。そのいで立ちとテーブルに立てかけてある日本刀のような得物を見て、アヤセはこの人物こそが先ほどノエルが言っていた「ルクちゃん」であると直感した。


 「ごめんなさい……、ルクちゃん」


 ノエルが小さな声で詫びるが、「ルクちゃん」は更に怒気を強め追い込みをかけてくる。


 「こんな簡単なお使いもできないなんて、あなたは本当にモタモタしているわね! それに『ルクちゃん』なんてあなたに呼ばれたくない! 私には『ルクレツィア』という素敵な名前があるのよ!」


 ルクちゃんことルクレツィアの声量は他の客が振り返ってテーブルの様子を窺うほどのものである。アヤセは、そんな大声を浴びせられ小さくなるノエルを見かねてルクレツィアの前に出た。


 「ノエルのここに来るのが遅くなったのは、出迎えを受ける自分らの到着が遅れたことが原因です。彼女を責めるのはお門違いです」


 急に話に割って入りノエルを庇った初対面の人物を、黒髪の女性はうろんな目でしばらくの間ジロジロ見るが、ようやくアヤセ達が何者かを理解したようだった。


 「あー、あなた達はノエルさんが言っていた例の人達ですね。……ですが少し黙っていてくれませんか? 部外者に口出しをされる謂れはありませんので」


 始めに見せた無遠慮な目を変えずにルクレツィアは言い放つ。アヤセはその横柄な態度を不快に感じつつ、再度事情の説明を試みようとするが、彼女の隣に座っていた女性が小さく咳払いして口を開いた。


 「ルクちゃんもその辺になさっては。この方達が乗車していた乗合馬車の到着が遅れることも予想できましたし、ノエルさんがここまで案内するにもそれなりの時間が必要なのは分かっていたでしょう?」

 「そう言ってエスメラルダは、ノエルさんにいつも甘いのだから! でもまぁ、いいわ。エスメラルダの顔に免じて今回のことはこれ以上何も言いません。彼女に感謝なさい」

 「騒がしくて済みません。どうぞお二人とも空いている椅子にお掛けください」


 一方的に話を切り上げたルクレツィアの振る舞いは感心しないが、何はともあれエスメラルダという女性プレイヤーの取り成しのお陰で話が進みそうだ。


 「改めまして、私はルクレツィアです。このパーティー『エスメラルダ&ルクレツィア』のリーダーを務めています。基礎レベル36、職業は戦士でサブジョブは弓士です。ゆくゆくは侍へのクラスチェンジを目指しています」

 「『ルクレツィア&エスメラルダ』? 二人だけか?」

 「それが何か? 言いたいことがあるならはっきり言ったらどうですか?」

 「……いや、何でもねぇぜ。つまらねぇことだ」

 

 フンと鼻を鳴らすルクレツィアを尻目に、アヤセもホレイショと同じように、五人組のパーティーであるにも関わらず、何故パーティー名に二人だけの名前だけしか用いないのか疑問に感じたが、話が横道に逸れるのを防ぐため口を挟むことは控えた。


 「先ほどルクレツィアさんは剣道の心得があると伺いました」

 「ええ、参段を取得しています。私の刀でどんな敵だって斬り捨てて見せますよ! そういえばあなたも見たところ刀を使うようですね? 剣道の経験は? 段位は?」

 「自分は居合道を少々嗜んでいます。剣道の経験もあります。段位は初段です」

 「はぁ、初段ですか。先ほど言いましたとおり私は参段ですけどね」

 「……」

 「それに居合なんて、演舞だけのお遊びでしょう? それで本当に刀を扱えるのですか? 軽い気持ちで武士の魂たる刀を帯びて欲しくないですね!」 

 「ルクちゃん。そういう言い方をしたらお相手が困ってしまいますよ」


 無表情で何も反応を示さないアヤセを言い負かしたと勘違いし、得意顔になっているルクレツィアをエスメラルダが再度たしなめる。

 エスメラルダは名が体を表わすかの如く、縦巻きロールをばっちりきめたエメラルドグリーンの髪色が特徴的で常に物腰やわらかい表情をたたえている。しつらえのしっかりした重装鎧を着用していることから職業は戦士系ということが想像できた。


 「私、エスメラルダと申します。基礎レベルは35です。職業は戦士でサブジョブはプリーストです。ホーリーナイトへのクラスチェンジが目標です」

 「ホーリーナイトですか。戦士とプリーストの組み合わせでしたら、他にもクラン『ブラックローズ・ヴァルキリー』のエルザ団長のパラディンや、岩鉄さんのテンプルナイトとかも選択できるかもしれませんね」

 「あなた、エスメラルダの実力を知らないのですか? 知らないから『選択できるかもしれない』と言えるのです! いずれエスメラルダはエルザ団長と肩を並べる程のトッププレイヤーになりますよ! クラン【蒼き騎士団】の幹部の青星さんもそう言ってくれました!」

 「…………。それは失礼しました」


 ルクレツィアは何かと人に食ってかからないと気が済まないのだろうか? エスメラルダの目標に対して述べた所感にまで突っかかってくる攻撃性に、アヤセは心の中でうんざりする。


 「ノエルさんも、この人達を見て分かったでしょう? 無知ってそれだけで罪になるって」

 「まあまあ、ルクレツィアさん。お二人もノエルさんも困っていますよ。それに私の実力はまだ、トッププレイヤーの皆さんに比べたら全く不足しています」

 「そんなことはない! 第三次組で出遅れたけど、これからエスメラルダは強くなる。 親友の私が絶対に貴女をトッププレイヤーにしてみせるから!」

 「ルクレツィアさんの言う通りです。エスメラルダさんでしたらきっとなれます!」

 「そうですよ。一緒に頑張りましょう!」


 今まで一言も発せず、ノエルがルクレツィアに責められるのをにやにや笑って傍観していただけの残り二人の女性プレイヤーもスイッチが入ったかのように、ここぞとばかりにエスメラルダを持ち上げる。パーティー名からして違和感があったが、部外者から見たらある意味異質に感じるこの空気に触れたら、パーティーの力関係は、リーダーのルクレツィアとその親友ポジションにあるエスメラルダに偏っているのが、嫌でも理解できるというものだ。


 「ノエルさんもそう思うでしょう?」

 

 ルクレツィアはノエルに問いかける。その口調からは有無を言わさない圧が滲み出ており、同意を強要しているのはありありと分かった。


 「でも~、青星さんは何か信用できないし……」

 「……!」

 

 ルクレツィアのつり目が更につり上がり、大きく息を吸い込みノエルを怒鳴りつけようとするが何故か直前でそれを押しとどめる。そして感情をコントロールするためだろうか、吸い込んだ息を静かに、時間をかけて吐き出してそのまま黙り込んだ。


 「もういいでしょう。ルクレツィアさん。皆さんが応援してくれることはよく分かりましたから」


 いつの間にか口元に運んでいたジョッキをテーブルに戻しながらエスメラルダはルクレツィアを宥める。彼女はそれに対し不満げな様子を見せるがそれ以上何も言わなかった。


 「でも、ノエルさんも面白いことを言いますね。王国最強クラン『蒼き騎士団』の幹部の青星さんを信用できないなんて。青星さんは、以前戦争イベントでポーションを差し入れした際にも、こちらが恐縮してしまうほどお礼を言ってくださる律儀な方ですのに。ノエルさんの良いところは、無邪気で素直なところです。ひねくれた考えを持たず、子供のように純粋でいてくださいね」

 「でも、少し子供っぽくありません?」

 「そうそう、胸だけは大人ですのにね」


 アヤセ達に紹介すらされない二人がクスクス笑いながらノエルに皮肉を言う。アヤセがノエルを見ると、彼女は二人の嫌味に一瞬顔が強張ったものの、無言で笑顔を見せている。その表情は普段アヤセ達に見せているものと同じであったが、アヤセはノエルの顔に貼り付いたお面のような笑顔の下に、別の感情が波立っているのに気付いた。


 エスメラルダは二人の嫌味に同調もせず、かといってたしなめることもせず、興味なさげに縦巻きの巻き具合を確かめるように髪をいじり始める。それをルクレツィアが微かに視界に納め、再び口を開いた。


 「二人共、無駄話はそれまで。それで本題に入りますけど、アヤセさんとホレイショさんでしたか? 職業と基礎レベルを教えてもらえます?」

 「はい、自分の職業はアイテムマスターで基礎レベルは33です。サブジョブは選択中です」

 「俺の職業は大工でサブジョブは水兵だ。基礎レベルは39だぜ」

 「……」


 二人が職業と基礎レベルを申告した後、テーブルはしんと静まり返る。

 少しの間沈黙が続いたが、エスメラルダがそっとジョッキを持ち上げ、口へ運ぶ。そしてそれと待っていたかのようにルクレツィアが大げさにため息を漏らした。


 「はぁぁぁっー。この程度なの? ノエルさんの声かけに応じてわざわざ来てもらいましたが、もう結構です。どうぞお帰りください」

 「何だと?」


 ルクレツィアの出し抜けな不要宣告にアヤセとホレイショは耳を疑う。さすがに乗合馬車で王都から四日も揺られ、たった今到着した者達に対する言動としては不適当であろう。


 「人をこんなところまで呼び出しておいて、来た途端帰れとは非常識過ぎねぇか?」

 

 たまりかねたホレイショが抗議の声を上げるが、ルクレツィアはそんなことも分からないのかとばかりに口角を片端だけ上げ、嘲り笑うような表情を見せる。これに合わせて名前も知らない二人も同調して、再びクスクスと嫌らしい笑い声を上げ始めた。


 「当然でしょう? 私達は明日この国有数のダンジョン『千本松原海岸洞』に挑みます。あのダンジョンの挑戦推奨基礎レベルは、純粋戦闘職で28から35とそれなりの難易度です。生産職のあなた達の実力では太刀打ちできないでしょう。はっきり言いますが、あなた達は私達の足を引っ張るだけのお荷物です。だから不要と言ったのです」

 「だからと言ってそんな言い草はねぇと思うぜ」

 「ノエルさん、あなたの知り合いに戦闘が強い人がいると言うから人選を任せたけど、それがこれなの? サブジョブ戦闘職の半人前と『あの』アイテムマスター? ふざけているの? ダンジョンを甘く見ないで!」

 「でも……、先輩達は少し前の戦争イベントでも活躍しましたし、アヤセ先輩にはラタ森林地帯でPKから助けてもらいました~」

 「はぁ? アイテムマスターにそんなことできる訳ないですよ~」

 「ノエルさん如きでは、人を見る目も無いに等しいですから、このようなミスは仕方が無いのでは? でもすぐに分かるような嘘をつくのは良くないですよね」

 「ま、そうよね。本当に時間の無駄だったわ。やっぱり頼むんじゃなかった!」

 「……」

 

 ルクレツィアからは罵声を浴び、他の二人にも嘲笑されたノエルは下を向いてしまう。そして、我関せずの姿勢を取るエスメラルダは、澄ました顔でジョッキを傾けている。ここまで言われ続けてアヤセは、ノエルが何故このような連中と行動を共にしているのだろうかと疑問を感じずにはいられなかった。


 「責任は貴方達の求める条件をよく確認せず、誘いを受けた自分達にあります。ノエルを責めるようなことはしないでください」

 「先輩っ! それは違います~。悪いのはちゃんと伝えなかったノエルです~!」

 「はい、庇い合いはもういいです。じゃあ、私達は楽しいお食事に戻りたいので、もうお引き取りくださいね」

 「……それでは、そうしましょう」

 

 そう言いながらアヤセは席を立つ。ホレイショも文句の一言でも言いたかったようだが、アヤセが冷静に対応しているのを見て、不承不承それに倣った。


 「先輩……、ごめんなさい」


 ノエルが二人を送ろうと立ち上がるが、アヤセは首を振って制した。

 今回は相手の身勝手さに振り回されたが、結果的にノエルの面目を潰すことになってしまった。それなのに、最後まで自身らを気遣う様子を見せる彼女をアヤセは気の毒に思った。


 「お二人ともわざわざご足労くださいましたのに、こんなことになりまして申し訳ありません。しかし、ダンジョンは危険が伴う場所ですから、安全のためだとお思いになってどうぞご理解くださいね。せめて今後はトロワーヌ公国で観光を楽しまれてはいかがでしょうか?」

 「エスメラルダは本当に優しいわね。こんな戦力にもならない生産職を気遣えるのだから」

 

 ルクレツィアがエスメラルダを褒め称え、その後に続き二人組が同じように美辞麗句を並べ立てる。その様子にホレイショは、心の底からげんなりした顔を見せた。


 「お気遣いありがとうございます。ですが自分達は観光地巡りを行うつもりはありません」

 「あら、観光はなさらないのですか? 近くには風光明媚な名所がいくつかありますのに」

 「確かに、ポールトロワーヌも魅力的な街ですし、他にも見るべき名所はあるかもしれません。しかし、自分達もプレイヤー、つまり『冒険者』でありますから、もっと魅力を感じる場所があります」

 「……あなた何を言っているの?」

 「『千本松原海岸洞』に挑戦してみようと思います」

 

 アヤセの出し抜けな宣言を聞き五人は、ぽかんとした顔を浮かべていたが、しばらくしてようやく理解が及んだようで、ノエルを除く四人が一斉に吹き出した。

 

 「何を言うかと思ったら、人の話を聞いていましたか? あのダンジョンはあなた達のような生産職にはハードルが高いって言いましたよね。とんだ笑い話ですね!」

 「挑戦したいお気持ちは分かりますが、ルクレツィアさんが言う通り、時には身の程を弁える必要はありますよ。お止めになられてはいかがでしょうか?」


 口調は慇懃だが、言葉の裏に隠れるルクレツィアと変わらないアヤセ達を侮る姿勢を見せるエスメラルダに対し、アヤセもまた丁寧ではあるが断固たる意志で返答する。

 

 「御忠告恐れ入ります。先ほどお聞きしたとおりダンジョンは危険を伴う場所ですから油断せずに望むつもりです。それと、自分の経験から申し上げてダンジョンは一緒に潜るメンバーによって難易度が大きく変わります。自分達は幸いにして自信過剰なパーティーと行動を共にする必要が無くなったので、その点は心配せずに済みそうです。……行こうホレイショ。それでは失礼します」


 アヤセはノエルに頷きつつ、さっと身を翻してホレイショと共に酒場を後にした。



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