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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第五章_伯爵の遺児

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91_ペナルティ

 当面の課題は山積しているが、ひとまずアヤセが伝えることを伝えた後は、テーブルに並べられた洋菓子を楽しむ時間となった。ジュイエを含む女性陣が消費する量もそれなりだったが、アヤセ(とチーちゃん)はそれを更に上回り、それを目にしたホレイショが胸焼けに襲われ、自身のために用意してくれたスコーンにも手を付けられないのを尻目に、次々と皿を空にしていく。


 「……」


 一心にチーちゃんと一緒に洋菓子に取りかかるアヤセに対し、一通の封筒を胸前で両手持ちしたマリーは声をかけたそうな素振りを見せるが当の本人はそれに気付かない。


 「あ、あのっ、アヤセさん」


 意を決しマリーが声をかける。それに反応して、洋菓子に夢中だったアヤセがようやく皿から顔を上げた。


 「おっと、気付かずに済みません。自分に何か?」

 「実はお願いが。これを……」


 マリーを待たせてしまったアヤセはその非礼を詫びつつ、差し出された封筒を手に取ろうとする。しかし、このタイミングで突然個人アナウンスが鳴り響いた。


 =個人アナウンス=

 運営から通告。これよりあなたを強制召喚します


 「えっ!?」


 アヤセが驚きの声を上げると同時に周囲が暗転する。

その異変に他の者達が気付くのと同時にアヤセはその場から消え去った。


 ==========


 「港のカフェ」から強制的に転送されたアヤセが次に目にした光景は、オフィス用の机や椅子が無機質に並んだ事務所のような場所だった。

 この場所は見覚えがある。以前運営AIから呼び出され、事情聴取を受けた場所だ(注:「14_クランとの対決②」参照)。


 アヤセを呼び出した張本人は、既にこの場所で待ち受けていた。髪から靴まで全身パステルカラーのピンクで統一した以前と変わりない姿をした運営AIは、アヤセの転送完了を確かめると平板な口調で語り出す。


 「お待ちしていました。どうぞこちらにおかけください」

 

 有無を言わさない口調で場所を指し示す運営AIに従い、アヤセは部屋の一角にあるソファーにかける。


 「……」


 アヤセと対面するかたちでソファーにかけた運営AIは無言を貫いている。更に表情も乏しく、どの様な思考を巡らせているのか顔を見る限り推測するのは難しい。しかし、アヤセは運営AIが自身を強制召喚した理由について、見当はおおよそついていた。


 「……何故、アヤセ様をお呼びしたのか、その理由はお分かりですよね?」


 運営AIは絞り出すような声でアヤセに語りかける。その様子は先ほどの無表情から変化し、アヤセの行いを責めている一方で悲しんでいる、憂いを帯びた目をしていた。


 「どうして、このようなことをなさったのですか? あの時、人の痛みが分かることを私の長所と励ましてくれたのに、御自身では人の痛みが分からなかったのですか?」


 (近いうちに呼び出しがあると思っていたが、随分時間がかかったものだな。事実関係の確認のためか、それともなるるんとクリードが戻って来る時期が遅かったのか。いずれにしても、あいつらが運営に泣きつくとは皮肉なものだな)


 「……バイタルログアウトでしょうか? それとも緊急ログアウトでしょうか?」

 「えっ?」

 「なるるんとクリードは、自分との対戦の際、『バイタルログアウト』か『緊急ログアウト』のどちらで勝負を投げ出したのかをお尋ねしています」


 アヤセが運営AIに問いかけた「バイタルログアウト」とはプレイ中のプレイヤーが体調不良等により、ゲームシステムがプレイ継続を危険と判断した際、強制的にゲームを終了するもので、もう一方の「緊急ログアウト」は、戦闘中等のログアウトに適さない場面においてプレイヤーが自らの意志でゲームから抜け出す行為をさす。

 二通りのログアウトは意味合いが大きく異なるため、アヤセは二人がどちらの方法でログアウトをしたのか確認をするため言及を求めたのだった。


 一方、今までだんまりを決め込んでいたアヤセから、急に質問が飛び込んできたことに運営AIは戸惑うものの、問われた内容の重要さを理解してしぶしぶと答える。


 「……二人とも緊急ログアウトをされました。ですが、あのままプレイを続けていたらバイタルログアウトになっていたかもしれません。私達運営はその結果を重く見て、アヤセ様に処分を下すことを決定したのです」

 「それで処分の内容は?」

 「四十八時間のログアウト停止、戦争イベントのランキング報酬の没収及び当方で不要と認められるまでの期間における要注意人物リストへの記載です」

 「……」


 運営AIがアヤセを呼び出したのは、先の戦争イベントにおいて、なるるんとクリードがアヤセと対峙した際に戦闘の途中でログアウトをしたことに対して、アヤセの危険行為を問い、処分を言い渡すためだった。戦闘時にアヤセはクラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」在籍時に二人から受けた仕打ちの借りを返すべく徹底的に叩きのめしたのだが、運営はその手法を問題視したのである。


 (実際、自分は二人がバイタルログアウトになっても構わないと思って追い込んでいたからな。処分の内容としては妥当な線だろう。しかし……)


 「内容は承知しました。ですが、緊急ログアウトはバイタルログアウトと性質が異なります。言わば二人は自己都合でログアウトした訳ですが、自分がなるるん達のバイタルに深刻な影響を与えたとどの様に判断されたのでしょうか?」

 「それは、当人の訴えとバイザーに記録されたバイタルログを分析したからです。脳波や心拍数等で通常の戦闘ではまず出ることが無い危険水域の数値が記録されており、アヤセ様がお二人の緊急ログアウトに大いに関与していると判断されたのです」

 「実際の数値に異常があったかもしれませんが、自分が二人の心身に変調をきたしたことに関わっているという証明にはならないと思います。もしかしたら二人がその日極度に体調が悪くて、偶然自分がその場に居合わせただけかもしれません。その時の様子を確認できる運営通報用動画は無いのですか? 当人の証言だけで今回のような処分を下すのであれば、それは拙速であると考えます」


 以前自身がアイオス達のハラスメント行為を訴え出た際に、運営通報用の動画について案内されたが、その話が一度も出てこないのでおそらく証拠として動画は提出されていないと思われる。運営は、アヤセがなるるんとクリードをどの様に追い込んだかを客観的に知る情報は何一つ持っていまい。バイタルの変調は事実として残っているが、それだけでは二人の訴えを補完はするものの、証拠としては十分ではない。

 

 「そ、それほどバイタルログの数値が異常だったということです」

 「具体的に、自分とその異常数値にどの様な因果関係があるのでしょうか?」

 「それは、当事者の証言を聞いて……」

 「当事者はなるるんとクリードだけではなく、自分も含まれます。処分の決定を既に下されていますが、当事者全員の言い分を聴取するべきではないでしょうか?」

 「運営チームは、アヤセ様の聴取は不要と判断したようです」

 「……」

 

 運営の中には、性善説を何が何でも信じなければならないと思い込んでいるスタッフでもいるのだろうか? 申告に対する両者の言い分を聴取することを前回も要望したはずなのに、それを行わず片手落ちの対応をとる稚拙さにアヤセは呆れて絶句する。


 「……以前も言ったと思いますが、告発を受けた側にも弁明の機会を持たせるのは不可欠だと思います。これについては再度強く要望させていただきます」

 「はい、御要望は承りました。」


 運営AIは、相変わらずクレームに対するテンプレートのような台詞を述べる。アヤセはその態度に本当に自身の要望が届くのだろうかと疑問を持つが、今回の件については、二人に対する罪悪感は一切ないものの、アヤセが感情に任せた行いをした結果によって、運営AIや運営チームが調査のため多大な労力を費やしていることから、ペナルティが課されるのも仕方がないと考え直し、これ以上の抗議は止めることにした。


 「色々と申し上げましたが、処分の内容については承知しました。この度は御面倒をおかけしました」

 「この後、強制ログアウトを実行いたしますので、それから四十八時間ログイン停止措置が取られます。残時間はバイザーで確認できます。また、要注意人物リストの記載については、これによりゲームのプレイ等に不利が生じるようなことはありませんが、再度違反行為が認められた場合、即刻ブラックリストへ記載し、当ゲームのプレイを一切お断りさせていただきます。解除の際は当方より連絡いたします」


 処分を受け入れ深々と頭を下げるアヤセに対して、運営AIは事務的な応答をするが、憂いを帯びた目に変化はない。運営の規則に従い、アヤセにペナルティを申し渡したものの、彼女の心中はアヤセの身の上を案じていることはよく伝わってきた。

 

 「戦争イベントにおけるログを拝見いたしました。死に戻りという不運がありましたが、アヤセ様の御活躍は今回の件を除けばどれもめざましいものです。純粋にゲームを楽しまれていると思っていたのに、このようなことになり、本当に残念です」

 「……」

 「これは私からのお願いですが、ログイン停止が解除されましたら必ずお戻りください。私は以前アヤセ様に誓ったとおり、多くのプレイヤーの方々に楽しんでいただけるようなゲーム環境をこれからも作り上げていきます。是非、それをアヤセ様にも見届けていただきたいのです。私の使命を気付かせてくれたアヤセ様に。ですから、必ず……、必ずお戻りください」

 「はい、必ず戻ってきます」


 アヤセの即答を聞き運営AIの表情は、今まで憂いを帯びていたものから少しだけ和らいだように見えた。


 このゲームはまた戻ってプレイをしたいと思うほど魅力的だ。運営には言いたいこともあるがプレイヤーファーストを掲げて日々努力をしてくれているお陰で、こうしてゲームを楽しめることに感謝を忘れてはならない。


 (最も、より良いゲーム環境にするためには、排除の必要がある連中もいるのも確かだ)


 「ところで、自分の処分の内容は、申告者にも伝えられるのでしょうか?」

 「はい。当事者には結果をお知らせいたします」 

 「そうですか。ちなみに、ログイン停止中に自分から運営に申し立てを行うことは可能でしょうか?」

 「はい、バイザーからはできませんが、ホームページを経由すれば可能ですので、パソコン等からアクセスして御申告ください」

 「分かりました。お伝えする内容を整理して早急に送ります」


 (岩鉄さんから聞いた話だとなるるんとクリードは、戦争イベントが終了してから一度もログインしていないと言っていたし、この後戻ってくるかは分からないが、自分の処分を聞いて手を叩いて喜ぶ姿を想像するのは癪にさわるからな。あいつらにも今までの報いを受けてもらおう)

 

 今回は運営AIから告げられた処分を受け入れたが、なるるんとクリードをこのまま無傷でいさせるつもりはない。アヤセもこれまで受けた仕打ちに対し運営に訴え出ることを決意した。


 「当方の用件は以上となります。復帰を早めるために、停止措置も早く開始した方が良いかと思われますので、そろそろログアウトに移らせていただければと思いますが、いかがでしょうか?」


 運営AIは話を切り上げ、アヤセにログアウトを勧める。アヤセも運営AIの意図が分かっていたので申し出に異論は無かった。


 「はい、それではお願いしたいのですが、最後に一点だけ。現在ログイン中のフレンドに連絡を取りたいのですが、方法はありますか?」


 ログイン停止措置が取られる四十八時間はゲームの日数だと二十日程度に相当する。強制転送される前に「港のカフェ」でマリーが自身に何を頼もうとしていかのか気になったアヤセは、彼女とコンタクトが取る方法がないか尋ねるが、運営AIは困惑した表情でそれに応じた。


 「……申し訳ございません。アヤセ様は強制転送された際にゲームの通信が遮断されていますので、フレンドの方とは既に通信ができない状況です。当方では伝言などは承っておりませんので、後はプレイヤー同士で個別に連絡を取り合っていただくほかありません」

 「えっ!? 現実世界での連絡先は交換していません。どうしたら……」

 「誠に残念ですが、当方で取れる措置がございません」


 運営AIは深々と頭を下げながらアヤセに宣告する。

 

 「そんな……」


 打つ手が無いアヤセは言葉を失うが、その間も体が透け始めており、強制ログアウトが無常に進行している。


 「それではアヤセ様、私はここで失礼させていただきます。……最後の御要望にお応えできず申し訳ございませんが、お戻りをお待ちしております。」


 こうしてマリーに対する大きな気掛かりを残し、アヤセは強制ログアウトとなった。


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