89_ダミアンの孫③
マルグリットの口から突然語られた高貴な出自にさすがのアヤセも驚きを隠せなかった。
「マルグリットさんは、貴族の出だったのですか!? そうなるとダミアンさんとルネ少年も?」
「はい、祖父は前代伯爵で父に爵位を譲って隠居していました。ルネは私の同母弟です。もし、伯爵家が存続していたら次期当主になっていたでしょう」
(没落貴族の令嬢に御曹司、か。これがマルグリットさんの言う本当の「秘密」だったのか。設定自体は、ゲームでありがちだが、実際に身近な人にそんな設定が付いていたら有名人と知り合いになった感じになるな。……いや、本人達は実際の生活がかかっているから、そんな浮ついた気持ちで接するのは失礼に当たるだろう。そこは気を付けなければ。それにしても、他界した元伯爵夫妻の死因や没落の原因も設定上から、何となく推測できそうだ)
「先ほどダミアンさんから、伯爵御夫妻が既に亡くなられていると伺いました。御愁傷様です」
「お心遣いありがとうございます。祖父からは、他に何かお聞きになっていますか?」
「いいえ、特に伺っていません。自分は最近王都に越してきたばかりで、おまけに世情に疎い冒険者ですから、詳しいお話しを聞かせていただけるのは有り難いと思っています。ですが、その、マルグリットさんのお気持ちは大丈夫でしょうか?」
辛い記憶を思い返させることになるかもしれないと相手を慮るアヤセの問いかけに、マルグリットは小さく笑みを浮かべて、返答する。
「私のことを気遣ってくれるなんて、アヤセ様はお優しい方ですね。でも、このことは私から直接お伝えしたいと思っています」
「分かりました。マルグリットさんがよろしければ引き続きお願いします」
アヤセが続きを促したことにマルグリットは頷き、大きく息を吸い込んで話を再開する。
「まず、王国でのヴァロア伯爵は『謀反人』という認識が一般的です。七年前、伯爵家は王国への反逆容疑をかけられ取り潰しとなりました。私達は連座を免れたものの所領と全財産を没収され庶民に落とされたのです」
「『謀反人』……」
「もちろん、父が反逆なんて企てるはずはありません。父は講和派の貴族によって殺害されたのだと思います」
(話の内容から察するに、貴族の政争に敗れて汚名を着せられたというところか。それで政敵が「講和派」ということは、ヴァロア伯爵は「抗戦派」といったところだろう。言うまでもなく相手は帝国だな)
「伯爵は、罪状を自白した訳ではないのですか?」
「はい、父は公判の場に出廷すらしていません。嫌疑は全て亡くなった後にかけられたのです。父に限って身に覚えのないものばかりで、祖父も私も正に晴天の霹靂でした」
「伯爵が亡くなられた原因が『講和派』によるものと言われましたが、伯爵は帝国に対して抗戦を主張していたのでしょうか? それで講和派と対立して暗殺されたとお考えなのですね?」
「はい、父は一貫して反帝国の立場を取っていました。一方で王国内では、帝国に恭順の意を示し、事を荒立てないようにしようと考える派閥もありました。講和派は大貴族が多く、実際に帝国軍を何度も撃退して功績を重ねる、小貴族出身の父の発言力が強まるのを恐れて、凶行に及んだと聞いています。父と母は王城に登城する途中、何者かに襲撃され命を落としました」
ここでも帝国の存在が大きく影を落としている。小国が大国に脅かされ、抗戦か従属を迫られ、それぞれの派閥が相手と血なまぐさい政争を同国人同士で繰り広げる……。現実世界の歴史においても何度も繰り返されている光景だ。
マルグリットの話しか聞いていないので、どちらの派閥の考えが正しいのか、アヤセには今のところ判断を下せない。ただ、彼女達の生活ぶりを見る限り、現在の王国は、対帝国の方針のみならず、実権のほとんどを講和派が握っていると見てよさそうだった。
「話してくださいましてありがとうございます。御夫妻が揃って受難されていたとは知りませんでした。マルグリットさん達の今までの辛い御苦労を思うと、言葉が見つかりません」
両親を奪われた上、貴族階級から無一文で庶民に落とされ、謀反人の家族とみなされた祖父と孫達は、今までどの様な気持ちで生きてきたのだろうか。三人の逼塞した生活を垣間見て想像する限り、味わった苦労は並大抵ではないはずだ。
「こちらこそ、私の身の上話をお聞きくださいまして、ありがとうございます。それで、話は本題に入るのですが、私達は依然として講和派から監視を受けており、時折嫌がらせに近い干渉を受けることがあるのです。例えば私達の生活にしても、職に就くのを妨害したりします。祖父はそのせいで、会員数が少なくて誰もやりたがらないアイテムマスターギルドのギルドマスターしか働けるところがなかったくらいです」
(講和派も随分了見が狭いことをするな。しかし、考えようによっては抗戦派の大物の遺児は後の禍根になり得るから、生かさず殺さずの状態にしておく必要があったのだろう。講和派がうかつに手を出せないことから考えると、今でもヴァロア伯爵を支持する者が少なからずいるということだ。そうでもなかったら、七年前に三人とも連座で処刑されている可能性が高いし、仮にそれを免れたとしても現在まで刺客の手にかからず生き残れないだろうから)
「おそらく、講和派は成人したルネ少年が伯爵家を再興して、自分達に対抗する勢力を再構築するのを恐れているのでしょう。言い方が悪いですが皆さんを言わば『飼い殺し』にしているのだと思います。最も、伯爵家当主の資格はマルグリットさんだってありますが」
アヤセの指摘にマルグリットは困った顔をする。
「私達は別に講和派に対する復讐や伯爵家の再興なんて望んでいません。……それは、もちろん父と母を殺した犯人は憎いですが、復讐をしたところで両親は帰ってきませんから」
アヤセは、マルグリットの考えを意外に感じる。両親が謀殺された上に貴族から庶民に落とされ塗炭の苦しみを講和派に強いられているのに、いくら何でも人が良すぎるのではないだろうか。
「ですが、こんな仕打ちを受けているのに、これからも黙って耐えるつもりなのですか? それに、帝国に対抗しようとする者達にとって、ヴァロア伯爵家の旗印は、希望の象徴になるはずです。周りだって放っておかないでしょう」
「私にとって、祖父と弟と平和に一緒に暮らすのが第一なのです。確かに、祖父は今でもギーの叔父様や他の方と連絡を取り合っています。でもそれは、講和派に対して何か行動を起こすためのものではなく、単に情勢を私信でやり取りする程度のものなのです」
「講和派にとって、それだけでも危険視するに十分だと思います。もしかしたら、自分がダミアンさんから受けたラタスへの手紙配達の依頼だって監視の対象になるかもしれないのですから」
「!」
マルグリットはハッと息をのみ、肩を震わせる。彼女の過剰ともいえる反応にアヤセは首を傾げた。
「どうかされましたか?」
「い、いいえ、失礼しました。……実は、アヤセ様にお話ししたかったことを先に言われてしまい、驚いてしまったのです」
マルグリットはそう言いながら先ほどと同じように目線を落とし、スカートを握りしめる。
「アヤセ様には先にお詫びをしておかなければなりません。私達はアヤセ様を自分達のために利用してしまいました」
利用とは、アイテムマスターギルドで山積されたクエストを休みなく受注させられていることだろうか。いくらダミアン老人の職がかかっていたとはいえ、自身はただ一会員としてギルドの依頼をこなしていただけに過ぎない。それが、マルグリットの言う利用されたことになるのだろうか。アヤセには彼女の言葉の真意を測りかねる。
「自分が利用されていたのでしょうか?」
「はい。先ほどの話で講和派が様々な嫌がらせをしてくると申しましたが、妨害は私達だけでなく私達に関わりを持とうとする方にも、行ってきます。それも、暴力を伴って……。二年前、伯爵家に仕えていた元庭師が、私達の生活の窮状を見かねて食料品を何回か届けてくれたことがあったのですが、ある日ポロマック川で他殺体となって浮かんでいるのが発見されたのです」
「……!」
「彼はよく私達に尽くしてくれました。それなのに食料品を分け与えただけで殺されなければならないなんて! 講和派は私達には直接危害を加えませんが、私達に関わる方々には容赦はしません。今も伯爵家に仕えていた者の中には、私達のことを気にかけてくれますが、庭師の件もあり、表立って接触を図れないのです。アヤセ様が言われましたとおり、アヤセ様も既に講和派の監視対象になっている可能性が十分にあります」
クエスト報告の際に、ダミアン老人がタラスへの途上におけるトラブルの有無を聞いてきたのは、アヤセが講和派から何かしらの妨害を受けていないか、心配しての発言だと今更ながら気付いた。
(相手は自分が草原を突っ走って、ラタスに向かうとは、思ってもみなかっただろう。普通に街道筋を歩いていたら、どこかで待ち伏せされていたかもしれない。しかし、疑わしい者を片っ端から排除するやり方とは、相手もやることが強引だな)
これは、ダミアン老人やマルグリットにルネ少年、場合によっては王都に在住するヴァロワ家所縁のNPCも含め、うち何人かと親しくなることで発生するイベントなのかもしれない。アヤセは、偶然アイテムマスターギルドとサモナーギルドにそれぞれ所属したことによって三人と知り合い、イベントトリガーを引いてしまったと考えるべきだろう。
(自分は、三人と既に食卓や雀卓を囲む仲になっているし、アイテムマスターギルドに頻繁に出入りして、しかもダミアン老人の個人的な依頼を受けてギー隊長への私信配達までこなしているからな。自分が講和派だったらそんな人物にはクロ判定をくだすだろう。これではイベント一直線だ)
「うーん、確かに今のところ実害が及ぶようなことはありませんが、これから相手が何かしら仕掛けてくるかもしれませんね」
「はい、私もそう思います。アヤセ様には、色々と助けていただいたのに、結果的に私達は自分達の生活のために、アヤセ様を危険な道に引き込んでしまいました。本当に申し訳ございません」
マルグリットは、心底申し訳なさそうに頭を下げる。
彼女とダミアン老人は、住居と収入を失わないために、王都のアイテムマスターギルド唯一の会員であり、ある意味稼ぎ頭のアヤセを、本人の知らないうちに講和派に協力者と見なされ、目を付けられるのを承知の上で、結果的に味方に引き込んだかたちになる。
(講和派がどの程度帝国に依存しているか分からないが、場合によってはマリーさんやホレイショ達、あと、ゲンベエ師匠達にベン場長もそうだが、監視がついた自分と接触することで、芋づる式に帝国に対する敵対行動を察知されてしまう恐れがあるのだよな。事前に打ち明けてくれれば、皆にも前もって注意喚起ができただろうに……。ただ、こればかりはイベント進行も関係もしているから仕方がないだろうし、マルグリットさん達の置かれた状況を考えると、自分を失う訳にはいかないから、なり振り構っていられなかったのも理解できる)
当初は、人を利用して、後になって謝罪の体で種明かしするダミアン老人とマルグリットを快く思わなかったアヤセであるが、相手の側に立って状況を再考し、考えを改める。
(それにダミアン老人達は、ゲームの犠牲者と言えなくもない)
ダミアン老人やマルグリットを初め、ゲーム上のNPCは、例外なく役割を与えられてその場に配置されている。極端に言うと、ダミアン老人達が不幸な境遇に置かれているのは、「運命」という名のゲーム上の都合に縛られているからなのである。
(NPCは、プレイヤーがゲームを楽しむために、ただ自らの役割を果たすだけなのだよな。さすがに、命を狙ってくる相手なら黙っている訳にはいかないが、やっぱり、ダミアン老人達を自分は、責める気になれない)
「お話を伺い、正直な感想として、事前に相談もしてくれないお二人の姿勢に不信を持ったのは確かです」
「……」
アヤセの率直な物言いに、マルグリットは視線を落としたまま何も答えない。
「ですが、三人の窮状や今まで辿らされてきた経緯もよく理解出来ました。それに自分だってダミアンさんとマルグリットさんから、ギルドの適正な仕事を多く回してくださったお陰で、こうして曲がりなりにも一端の冒険者として軌道に乗れたのだと思っています。お二人が自分に価値を見出したように、自分もお二人のギルド職員としての能力や仕事に対する真摯な姿勢を利用しようと考えていたのかもしれません」
「アヤセ様……」
マルグリットは視線を戻し、アヤセの目を見る。その瞳は微かに潤んでいる。アヤセはその目を真っすぐ見返しながら、続きを話す。
「そこで、改めてお二人との『取引』を提案させていただきたいのです」
「えっ? 『取引』でしょうか?」
マルグリットは、急に話の方向が変わったことに目をぱちくりして、面食らった顔をする。
「はい、簡単なことです。自分からは、引き続きダミアンさんの私用を含め、アイテムマスターギルドの依頼の受注をする代わりに、ダミアンさんがギー隊長達に知らせている帝国や講和派に関する情報を自分にも流していただきたいのです。実は、自分と付き合いがある者の中には、帝国の動向に注意を払わなくてはならない者がいますので、情報を提供いただけると非常に有り難いです」
(よくよく考えてみたら、講和派が主導権を握って、帝国への従属を決定したら帝国軍も王国に進駐するだろうし、そうなるとクラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」の連中も乗り込んでくるだろうから、自分も安心して王都に住んでいられなくなるのだよな。無闇に戦端を開かれるのも困るが、だからと言って今の時流が正しいとは思えない。情報収集はやはり必要になるから情報源は欲しいところだ。最悪、ベン場長の大砲は諦めてもいいし、ホレイショの造船だってまだ振り出しにも至っていないから、ダミアン老人とマルグリットさんに協力しても講和派が嗅ぎつけるまでには、まだ猶予があるだろう。もしかしたら帝国の情報がホレイショ達の役に立つかもしれない)
「そ、それは祖父に相談してみないと回答はできかねますが、おそらく応じられると思います」
戸惑いを見せながらもマルグリットは、申し出を前向きに検討する旨を回答した。これに対しアヤセは頷き、言葉を続ける。
「それでは、ダミアンさんにも意向を伺ってみてください。回答は後日で結構です」
「あの、アヤセ様、取引の申し出は、私達にとって非常にメリットがあるものですが、本当によろしいのでしょうか? 今後アヤセ様に危険が及ぶかもしれないのですよ?」
心配そうな顔を見せ、懸念をおずおずと伝えるマルグリットに、アヤセは安心させるように笑いかける。
「冒険者とは、自由な生き物です。到達点回帰があるので、命を落とすことだってありませんし、この世界でどの様に生きるか自分自身で選択できるのです。……自由すぎて住人(注:NPCには自分達のことがこの様に聞こえる)の方々に迷惑をかける不届き者もいるのは問題ですが、とにかく、冒険者が世俗のしがらみをおもねる必要なんかどこにも無いのです。ですから自分も権勢を振るう講和派の影に怯えて手を引くつもりはありません」
(シナリオで運命が定められている彼女達に、どの様な結末が待ち受けているか分からない。だが、自分の行動でそれを良い方向に変化させ、場合によっては進行に抗ってでも三人が幸せになるような手助けを何でもいいからするべきだ)
「……自分の進むべき道は、今夜食卓を共にしたダミアンさんとルネ少年、それにマルグリットさんの力になることです。この選択は、一人の冒険者として間違っていないと断言できます」
マルグリットの潤んだ目から、涙がじわりと溢れだす。彼女は慌てて顔を伏せ、袖口で涙を拭った。
「アヤセ様、ありがとうございます。祖父もそれを聞いてきっと喜ぶと思います……」
(NPC相手に情に流されてしまうなんて自分らしくないかな? でも、メリットは他にもあるのだよな)
「まぁ、最も決め手は、マルグリットさんにあるのですけどね」
「えっ、私でしょうか? …………まさか! 私の体が目当てなのですか!?」
「違います。こちらを御覧ください」
間髪を入れない否定に、両手で胸元を隠して身をよじっていたマルグリットが複雑な顔を見せるが、アヤセは彼女の表情に気付くことなくインベントリから、一つのアイテムを取り出す。
「『タマモの思念』です。覚えていますか?」
アヤセが取り出したのは、価値7の召喚獣の思念だった。ソフトボール大の思念は、水色の光の点滅を微かに繰り返している。それはまるで心臓の鼓動のようだった。
「もちろんです。アヤセ様がサモナーギルドの会員になられたのも、この思念の召喚が目的でしたよね」
「ええ。召喚までの道のりはまだまだ遠そうですが、マルグリットさんにアドバイスをいただいたとおり、普段から声をかけたりしているお陰か、最近少し色が濃くなったような気がします」
思念の中にいる召喚獣は、外の世界の様子を不完全ながらも把握することができる。そのことをマルグリットから教えてもらったアヤセは、今までタマモの思念に対して暇を見つけては、外の風景を見せたり、声かけを行ったりしていたのだった。
「色合いは私には分かりかねますが、いつも思念をご覧になっているアヤセ様でしたら、変化に気付かれるのかもしれませんね」
「そうかもしれません。こう長く接していると愛着も湧いてきます。早く『契約の器++』を入手して、タマモを召喚したいところです」
「契約の器++」は、「契約の器+」を強化することにより入手できるものの、肝心の「契約の器+」は、一定以上のギルドの貢献度ランクの会員のみ購入できる仕組みになっている。残念ながら未熟なアヤセは、購入可能な貢献度ランクにまだまだ至っていない。
「今後もギルドの貢献度ランクを上げなければなりませんが、そのためには、マルグリットさんに依頼の斡旋や助言をいただくのが不可欠だと思っています。どうも自分は、ガブリエルと上手くやれそうにありませんので」
苦笑しながら、アヤセはマルグリットにタマモの思念を手に取らせる。両手で包み込むように思念を受け取った彼女は、目を閉じてその感触を確かめるように、少しの間そのままの姿勢で動きを止めた。
やがて、目を開いたマルグリットは思念をアヤセに返しながら感想を述べる。
「とても温かい鼓動を感じます。きっと、中の召喚獣も早く外に出て、アヤセ様のお役に立ちたいと思っているのでしょう。私がギルドに勤めて以来、目にしてきた召喚獣の中で一番の大物かもしれません。……これは、召喚しない手はありませんね。私も、アヤセ様のお気持ちと同じです。取引が成約した暁には、全力でアヤセ様のために協力させていただきます」
「それは大変助かります。タマモの未来は、マルグリットさんにかかっていると言っても過言ではありません。それと最後に、もう一つ提案があるですが」
「はい、提案でしょうか?」
「ええ、その、自分を呼ぶ際に『様』付けは止めて、できれば違う呼び方にしてもらえると助かります。こういう呼ばれ方には慣れていないもので……」
「それは、ギルド会員の皆様に対しては統一的にお呼びするルールですので、アヤセ様だけ特別扱いするのも他の会員様の手前難しいです」
「うーん、それでは、せめてギルドから離れた際は、変えていただきたいのですが」
「そうですね、それでしたら支障はきたさないと思います。ちなみにどのようにお呼びすればよろしいでしょうか?」
「『様』以外でしたら如何ようにも。さん付けでも呼び捨てでも構いません」
「どうしましょう? 迷ってしまいますね……」
マルグリットは、考え込む素振りを見せるが、妙案がすぐに思い浮かんだようで、笑みを浮かべる。その顔は、ダミアン老人の孫としてアヤセの前に現われた際に見せた、いたずらっぽい笑顔と同じだった。
「それでは、今度からアヤセ様のことを『アーヤ』ってお呼びしますね」
「え? 『アーヤ』!?」
「何だか響きが親しみやすそうですから、これなんていいかなって思いました。あと、私は近しい人達から『メグ』と呼ばれています。今後私のことは、メグってお呼びくださいねっ♪」
「し、しかし、『メグ』と『アーヤ』では少し気安すぎませんか? 周りが聞いたらどう思うか……。マルグリットさんだって変な誤解を招くのは迷惑でしょうし」
「あら、周りのことは気にする必要はありませんわ。それに迷惑だなんて思ってもいません。如何ようにお呼びしても良いと仰ったのはアーヤですよ。もう変更はいたしかねますからそのおつもりで。よろしくお願いしますね、アーヤ♪」
「確かにそう言ったのは自分だから仕方がないか……。でも、恥ずかしいのであまり外では呼ばないでくださいよ?」
「フフッ、どうしましょうか~?」
マルグリットはそう言いながら再度いたずらっぽい笑みを浮かべる。
アヤセは彼女の予想もしなかった宣言に頭を抱えつつも、宿命に囚われた暗鬱な表情から一転し、何だか嬉しそうに笑顔を見せる様子を見て安心したのだった。




