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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第五章_伯爵の遺児

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87_ダミアンの孫①

 サモナーギルドを辞したアヤセが次に向かったのは、アイテムマスターギルドだった。

 目的は、先般の受注した依頼の報告のためである。


 手紙の配達から始まり、連鎖を重ねて最終的にPK討伐作戦の発動まで至ったダミアン老人のクエストは、成り行きで現地受注したものを含め二件に及んだ(注:第三章参照)。


 ====================

 【クエスト(NPC)】

  ダミアンの依頼(1)

  内容:ラタスの衛兵隊長ギーにダミアンの手紙を届けよ

  報酬:貢献度 (アイテムマスターギルド)+15、8,000ルピア、経験値500

 ====================

 

 ====================

 【クエスト(NPC)】

  ダミアンの依頼(2)

  内容:ラタス衛兵隊長ギーの依頼を完遂せよ

  報酬:貢献度 (アイテムマスターギルド)+15、9,000ルピア、経験値1,400

 ====================


 (戦争イベントなどに忙殺されて報告が遅くなってしまったな。またダミアン老人に嫌味の一つか二つ言われるかもしれない。それにしても、比較的長めのクエストだったせいか、貢献度が二件合わせて30上がるのは大きいな。今までの経験から考えると、おそらくこれでギルドランクが上がって「4」になる可能性がある。……クエストの件数が一体何件増えるのか考えたくもないが)


 ギルドランクが上がれば様々な恩恵があるはずなのに、アイテムマスターギルドでは、アヤセを追い立てるようにクエストが追加されるだけである(ギルドへの足が遠のいてしまったのも、終わりのない仕事に関する一種の絶望感が頭をよぎるようになってしまったからである。きっとアヤセの先輩達もそのような気持ちになって心が折れてしまったに違いない)。

 報告の塩漬けも脳裏によぎったが、受けた仕事の顛末は報告すべきだろうし、何よりダミアン老人が首を長くして結果を待っているだろうからと思い直し、ギルド街の端に所在する小さく目立たない建物の扉を開けた。


 「アヤセ青年か。待っておったぞ!」

 「こんにちは、ダミアンさん。クエストの報告に上がりました」

 「そうか、あの鬼人種が来て以来か。話は無事に済んだかの?」

 「はい、お陰様で無事に済みました」

 「それは何よりじゃ。それにしても、このところ顔を見せないから心配しておったぞ。もっと早く来ると思っておったが? まぁよい。こっちに来て話を聞かせてもらおうかの」

 

 老人の軽い皮肉に対し心の中で苦笑したアヤセは、勧めに従い席にかけ一通りクエストの報告を行う。その間ダミアン老人は、アヤセの話を黙って熱心に聞き入っていた。


 「ほう、人狩りの討伐にまで駆り出されたのか……。ギーめ、人使いが荒いのう」

 「今思い返してみれば、どうしてこうなったのか分かりません。ほとんど成り行きでしたので」

 「今回の依頼については、手紙の配達と衛兵の装備品へのポテンシャル付与程度の想定だったのじゃが、追加で仕事をこなしたアヤセ青年には儂からも報酬を上乗せせねばならぬのう」


 =個人アナウンス=

 ギルドマスターのダミアンから以下のアイテム等が贈呈されました。インベントリに収納されます。

 ・8,000ルピア


 また、クエストを達成したことにより、経験値500を獲得しました。


 ギルドマスターのダミアンから以下のアイテム等が贈呈されました。インベントリに収納されます。

 ・9,000ルピア


 また、クエストを達成したことにより、経験値1,400を獲得しました。


 なお、クエストの達成結果が優秀だったため、以下の報酬が加増されました。

 ・15,000ルピア

 ・経験値2,000


 「それで、ラタスまでの道中、何か気になることはなかったかの?」

 「気になったことでしょうか? いえ、特には」

 「そうか……、そうならそれで良い。無事に戻ってこられて何よりじゃ。本当に何よりじゃ」

 「……? それより、追加報酬、ありがとうございます。ちなみに、今しがた受け取った経験値で基礎レベルが33に上がりました。久しぶりにスキルも習得できました」


 ====================

  【装備強化】(アイテムマスター専用スキル)

   装備品及び使用アイテムの効果×1.20

 ====================



 「【装備強化】か。これは常時発動のパッシブスキルで、装備品の効果が更に活かされるスキルじゃから、是非とも取得したらよい。必要なポイントも1とお得じゃ」


 アイテムマスターには「装備した武器、防具の装備効果や、アイテムの使用効果に対し一定ボーナスが加算」されるという職業特性がある。ただし、その加算率が1.045と効果が実感しにくいものであり、アイテムマスターの最大の欠陥である貧弱なステータス値を補うものとは言い難い。

 今回アヤセが習得したスキル【装備強化】は、加算率が1.20に上がるもので、装備品等の性能値が単純に元値から二割増しになる。加算率の増加は、元となる装備品の性能が高いほどその真価が発揮されるので、深緑装備のような高性能の装備品を有するアヤセにとって魅力的なスキルに違いなかった。

 

 (確認してみたら、大体従前の元値より「無銘の刀+」で各攻撃力が8から13、深緑装備は全部合わせて物理と魔法の防御力がそれぞれ44上がるようだな。それに、何よりも耐久値や特殊効果、ポテンシャルで具体的に数値化されているものも強化されるのが最大の利点だ。必要なスキルポイントも1で済むなら絶対に取得すべきだろう)


 メリットが期待できるスキルは大歓迎だ。早速、アヤセはスキルポイントを消費してスキル【装備強化】を取得した。


 「スキルの取得が済んだかのう。装備品の性能を活かしてこそアイテムマスターじゃ。きっとこのスキルはアヤセ青年の役に立つだろうて。それと、貢献度のランクが『4』になったぞ」

 「ああ、やっぱり……」


 予想していたとおりギルドランクがまた一つ上がってしまった。できればクエストの追加が無いようにとアヤセは心の中で祈る。


 「ランクアップに伴い、受注できるクエストが九十二件増えたぞ。これでアヤセ青年が受注できるクエストは合計で五百二十九件じゃ。順調にランクも上がっておって儂も嬉しいぞ」

 「……」


 クエストの消化に努めれば努めるほど、件数が上積みされる悪循環から抜け出せない。アヤセは前途に立ちこめる暗雲を悲嘆して絶句する。


 「そんな嫌そうな顔をするでないと、前から言っておるじゃろう。ランクが上がれば役得もある。ランク『4』になったので、限定商品が購入できるぞ」

 「限定商品でしょうか?」

 「そう、限定商品じゃ」


 ====================

  価格 10,000ルピア 

  【アイテム・能力向上品】インベントリ拡張の秘薬(大) 品質- 価値- 

    種類枠 100UP 積載量 1,000UP

 ====================


 「ポテンシャルを付与することにより、そのアイテム等は限定品扱いになり、インベントリの特に種類枠を圧迫することになる。アイテムマスターのインベントリの拡張は避けても通れない道になるはずじゃ」


 ダミアン老人の言うことは正にその通りである。

 アヤセは「軽騎兵のサーベルタッシュ」の特殊効果とポテンシャルによって、文字通りけた外れのインベントリ枠を確保している。だがそれにも関わらず最近になり、インベントリの容量不足が見過ごせない問題になりつつあった。


 そうなるに至った理由は簡単で、「アイテムの持過ぎ」が原因なのだが、例えば星見の台地の攻防戦で大量にばら撒き、その性能を敵味方問わず強烈に印象付けた釘粘土も、本来はスタック可能アイテムとして種類枠1で複数個所持可能であったのだが、ポテンシャルを付与したことによって、一個の釘粘土につき種類枠を一つ使用するようになり、それだけで当該枠を800も使用することになってしまった(ポテンシャル付与済みの釘粘土の個人での大量運用は、現時点ではおそらくアヤセしか行えないと思われるが、そのことに気付いた者は本人も含めて皆無である)。


 「このアイテムは、大変貴重で、商人ギルドと農業ギルド、それにアイテムマスターギルドの会員で、貢献度が高い者にしか販売せぬ。儂はこれに値段以上の価値があると思うておる」

 「同感です。インベントリの拡張はアイテムマスターの生命線だと思います。是非とも譲っていただきたいのですが、購入は何個まで可能でしょうか?」

 「現在の在庫は三個じゃ。少し高めじゃが、先ほどの報酬もあるし、購入は問題無いと思うがの?」

 「そうですね。それでは、三個全部ください」

 「承知じゃ。今後も貢献度ランクが上がった際には入荷されるので、今後もランク向上に精進するのじゃ」


 秘薬を購入限度個数の三個購入し、早速使用する。スキル【装備強化】により、加算率1.20のボーナスが付加されるので種類枠は360、積載量は3,600それぞれ増加する。これでアヤセのインベントリの上限は、種類枠1,800、積載量9,600になった。


 なお、インベントリの拡張が終わったあと、アヤセはいつものように「発見」系のクエストで達成条件を満たしているものを消化した(この作業の結果、クエストの残り件数は五百十八件となった。あまり件数が減らなかったのが残念だ)。


 報告も一通り終わり、仕事が一段落ついたのでダミアン老人との話は雑談へと移る。内容は、ラタスでの出来事に、先般の王国西部における帝国軍との衝突や撃退後の動向(ギー隊長をはじめとする衛兵隊の者達が無事であることは、マリーから聞いていたので併せて報告した)、それに先ほどガブリエルから聞いたポートキングストンにおける食糧危機等、アヤセが見聞きした内容が主だったが、ダミアン老人は見識豊かに一つ一つ分析や解説を行い、アヤセの疑問点に対し的確な意見を述べ必要に応じて助言を与えたりした。こう言っては失礼かもしれないが、アイテムマスターギルドのギルドマスターという花形とはとても言えない職にありながら、こうも世情に明るい様は少々意外に感じる。


 「ダミアンさんの知見の広さはさすがですね。どこでこんな貴重な情報を入手されるのでしょうか?」

 「なに、『昔取った杵柄』というやつじゃ。市井には、昔からの馴染みがまあまあおっての。その者達と連絡を取り合って情報を得ているのじゃ」

 「ギー隊長もそのうちの一人なのですね」

 「左様じゃ。ギーは倅の嫁の弟での。付き合いも長い方に入るじゃろう」

 「隊長からもその話は伺いました。ところで、御夫妻とは王都で一緒に暮らされているのですか?」

 「……」


 話の流れでダミアン老人の家族について質問するが、ダミアン老人は表情を曇らせ黙り込む。どうやら本人が言いたくないことを尋ねてしまったようだ。


 「済みません。立ち入ったことを聞いてしまったようですね」

 「いや、構わぬ。……息子夫婦はもうこの世にはおらぬ。全く、親を残して先に逝くなど親不孝もいいところじゃわい!」

 「……」 

 「おっと、年寄りのいらぬ愚痴を聞かせてアヤセ青年を困らせてしまったようじゃ」

 「いえ、こちらこそ……」


 自身の子供の早世を嘆くダミアン老人にかける言葉が見つからないアヤセ。夫婦揃っての他界という事実や老人の態度から何やら事情がありそうだが、さすがに気軽に聞ける話題はない。


 「儂が、こうして情報を集めて回っているのも倅達のことがきっかけなのじゃが、その話は追々させて貰おう。そろそろ孫達も帰って来る。アヤセ青年に会いたがっていたから、もう少し帰りを待ってくれぬか?」


 ダミアン老人の身の上話は後に持ち越しになったが、また他に気になる話が出てきた。

 老人には、孫が少なくても二人以上いるらしい。おそらく他界した息子夫婦の子供達なのだろうが、何故自身に会いたがっているのかアヤセには見当がつかなかった。


 「あの、お孫さん達は自分のことを御存知のようですが、自分はお会いしたことはあるのでしょうか? どうも心当たりが無いもので」

 「何を言うておる。アヤセ青年もよく知っているだろうて。孫が聞いたらがっかりするぞ」

 「はぁ……」


 そんな会話を交わして、数分経った後、ギルド入り口の扉が開き誰かが入ってくる。どうやらダミアン老人の孫達が帰ってきたようだった。


 「ただいま帰りました。あら、お客様がいらしているの?」

 「おお、戻ったか。メグよ、お前のお客でもあるぞ。アヤセ青年、紹介しよう。儂の孫達じゃ」


 アヤセは挨拶をしようと立ち上がり、相手に体を向ける。ダミアン老人の孫は二人の姉弟であり、そのうち姉に目を向けた際、アヤセは驚きによって思わず声をあげてしまった。


 「マルグリットさん!?」


 サモナーギルドでは、ヴェールをまとった占い師のような恰好をしている彼女であるが、今は私服なのか王都の女性NPCが一般的に着用している服装をしていた。


 マルグリットはアヤセが驚く様子を見て、いたずらっぽく笑う。


 「アヤセ様、いらっしゃいませ。祖父がお世話になっております。ギルドマスター・ダミアンの孫でマルグリットと申します♪」

 「アイテムマスターのアヤセです……って、そうではなくて、ダミアンさんのお孫さんとはマルグリットさんだったのですね! これは驚きました」

 「フフッ、アヤセ様とは、サモナーギルドだけでなくアイテムマスターギルドでもお会いするなんてご縁がありますね。祖父から依頼を沢山受けていただいていると伺っています。いつもありがとうございます。私からもお礼を言わせてください」

 

 そう言いながらマルグリットは、再度にっこりと笑った。


 (これがマルグリットさんの言う「秘密」なのだろうか?)


 以前、マルグリットにアイテムマスターギルドでの依頼を受注していることを話したが、その際に、引き続き依頼を受け続ければ本人が秘密にしていることを教えると言われたことがあった(注:24_ベン場長参照)。

 その時アヤセは、彼女の秘密とアイテムマスターギルドの依頼の関連性を不思議に思ったのだが、ギルドマスターのダミアン老人との血縁関係を知り合点がいったのだった。

 

 ========== 


 ダミアン老人と二人の孫は、アイテムマスターギルドの二階で暮らしていた。二階の間取りは、広さが一階と同じ八畳程度でそれ以外に簡素な調理台が置かれているだけである。


 アヤセは、ダミアン老人に夕食に誘われ、彼らのプライベートな空間に招かれた。三人の生活は、居住空間の広さはもとより、ベッドすらなく、家具調度品が極端に少ない様子から中々慎ましいもの、……身も蓋もない言い方だと貧乏暮らしといえる。

 だが、決して裕福な生活とは言えないながらも、家族が身を寄せ合って仲良く平和に暮らしていることは、夕食を協力して用意している様子を見るだけで伝わってきた。

 

 「兄ちゃん、このフライ、スゲーウメーよ!」

 

 そう言いながら、少年はラタス付近の湿地帯に生息していた、蛙のモンスターのドロップアイテム『湿原大ガエルのもも肉』を調理したフライを頬張る。食べ盛りの少年にとって、肉料理は何よりの御馳走のようだ。


 この少年の名前はルネ。ダミアン老人の孫でマルグリットの弟にあたる。年齢は十歳で、姉とは十一歳離れているらしい(本人は言いたくなかったようだが、ルネの年齢が分かったことでマルグリットの年齢まで意図せず知ることになってしまった……)。少年は王都の学校に通う傍ら、時々家計の足しにするためギルド街の各職ギルドの雑用を手伝っているとのことだった。


 (蛙の肉は鶏肉に似ているって聞いたことがあるが本当だったな。はじめは抵抗があるが、食べてみたらこれはこれで素晴らしい食材だと思ってしまった。戦闘中は、あの大きさの蛙が気持ち悪くて仕方がなかったけど、倒しておいて正解だった)


 そう思いつつ、アヤセもフォークでフライを一つ取り、口に運ぶ。


 「気にいって良かったよ。食材はまだ残っているから、今度また姉さんに作ってもらうといい」

 「ホント? ヤッター! ありがとよ、兄ちゃん!」

 

 またフライが食卓に上ることが約束され、ルネは喜びをあらわす。その顔は、少年らしい底抜けで明るい笑顔だった。


 「夕食に招いたのは儂らなのに、食材まで貰ってしまって済まぬのう」

 「アヤセ様から、蛙の肉だけでなく、野菜やパンや水までいただいた上に、支度までお手伝くださいまして、本当に申し訳ございません」


 (一人暮らしの者が食材を余らせるのは、現実世界でもゲームでも同じだということだ)


 アヤセは心の中で苦笑する。


 三人が夕食を用意する間、手持ち無沙汰になったアヤセも料理を手伝い、その際にやや寂しい食卓に何品か添えるため、インベントリに収納してあった食材や食料品を供出した。余り物であったが、ダミアン老人達が喜んで受け取ってくれたので、使い途が見つかって良かったとアヤセは思ったのだった。


 「クエストの報酬やモンスターのドロップ品ですので、お構いなく。ちなみに野菜は自分の菜園で今日、初収穫しました」

 「ほう。初収穫かの。初めてにしては中々の出来映えではないか?」

 「自分の『農業』の技能レベルが4ある割に出来が水準より低いので、自分自身では満足していません」

 「そこは、経験じゃ。数をこなせばすぐにでも結果が出よう」

 

 ダミアン老人の言葉を聞き、アヤセは「熟練度」の存在に確信を深めると同時に、まだまだ自分には修練が必要だと感じた。


 「アヤセ様の『料理』の技能レベルどのくらいなのでしょうか?」

 「『料理』の技能レベルは3ですね。並程度といったところでしょうか?」

 「それ、まあまあだよ。冒険者ギルドにいる戦闘職なんて0の人もいるし。オイラだって1しかないよ」

 「アヤセ様は多才な技能をお持ちなのですね」


 マルグリットはまじまじとアヤセを見つつ、感心した様子で言葉を漏らす。

 

 「アイテムマスターは、初期設定で全技能レベルが最低でも3割り振られています。ただ、問題はステータス値が壊滅的であるので、技能を活かしきれないということと、技能レベルが他の職業より上がりにくいということです。後者は自分の体感上の話ですけど」


 いくら技能レベルの初期設定が他に比べて高めになっていても、下地となるステータスが低ければ器用貧乏にすらなれない。アイテムマスターの職業としての欠陥はこんなところでも分かるようになっている。


 「それにしても、マルグリットさんの料理の腕前はお見事ですね。レシピも色々と教えていただきましたので、今度自分も料理に挑戦してみようと思います。今まで料理に挑戦してみましたが、成功したのはジャロイモを茹でた、茹で芋くらいでしたので……」

 

 マルグリットの料理の技能レベルは本人の話によると6であり、玄人裸足の域に達している。家庭の食卓を限られた食材でやりくりする中で、自然と技能が磨かれていったのかどうか分からないが、アヤセは食事の支度を手伝う中で彼女から手ほどきを受け、ついでに何品か料理レシピを譲り受けていた。


 「お料理は、毎日するのが上達のコツですよ。それに、いつもの祖父やルネの手伝いだけではこうも上手くいきません。アヤセ様のお手伝いがあったからこそ、こんなに素敵な料理を作ることができたのです」

 「うん、オイラもそう思う」

 「はっきりとした物言いで少し複雑な気分だがの、結果はその通りじゃ」


 ダミアン老人とルネ少年は、二人で笑いながら大皿に盛られた料理を次々と取っていく。


 「ちょっと、二人とも食べ過ぎよ! アヤセ様の分が無くなるじゃない!」

 「早い者勝ちじゃ。ほれ、アヤセ青年も早く取らぬと無くなるぞ」

 「そーそー、無くなっちゃうよ!」

 「おじいちゃん! ルネ! いい加減にしなさいっ!」


 騒がしい三人であるが、一人暮らしのアヤセにとって、誰かと食卓を囲むのは飲み会等を除いて随分久しぶりで、実家で暮らしていた頃を懐かしく感じる。まさかゲームでNPCと団らんを過ごすことになるとは、思ってもみなかった。


 「うん? アヤセ青年よ、どうしたのじゃ?」

 「兄ちゃん、腹でも痛いの?」


 賑やかに掛け合いをする三人を黙って眺めるアヤセを気にかけ、ダミアン老人とルネ少年が声をかける。


 「これも『一期一会』か……」


 二人は、噛みしめるように独り言をつぶやいたアヤセを不思議そうな顔をして見る。その一方、マルグリットは、アヤセの言葉を聞いてにっこりと優しく微笑むのだった。


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