表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第五章_伯爵の遺児

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/107

86_マルグリットの秘密

 一日の仕事を終えて帰宅し、一通りの家事を済ませたあと、アヤセはゲームにログインする。ログイン直後には日課として行う作業がいくつかあり、早速アヤセはそれに取り掛かかった。


 (ようやく収穫か。やっぱり自分で育てた野菜は愛着が湧くな)


 ====================

 【アイテム・素材(食料品)】ジャロイモ 品質2 価値1 重量0.2 生産者:アヤセ

  ポテンシャル( )…生食上等(食料品として摂取した際、満腹度回復UP)

  ポテンシャル( )…そうか病(種イモにした場合★2down)

  ポテンシャル( )…芽付き(料理素材での使用時、完成品に状態異常「毒」付与)

 ====================


 ====================

 【アイテム・素材(食料品)】トメイト 品質1 価値1 重量0.1 生産者:アヤセ

  ポテンシャル( )…完熟(色が濃くなる)

  ポテンシャル( )…新鮮食材(料理素材に使用時完成品の品質1up)

  ポテンシャル( )…虫食い(品質及び価値1down)

 ====================


 ====================

 【アイテム・素材(食料品)】ヤング・ダーイズ 品質1 価値1 重量0.1 生産者:アヤセ

  ポテンシャル( )…さび病(品質3down)

  ポテンシャル( )…腐敗(食料品として摂取不可、一日経過後自動廃棄)

  ポテンシャル( )…堅い実(価値1down)

 ====================


 菜園で収穫された野菜を手に取りアヤセは感慨にふける。ログイン後に借用している菜園の手入れを行うことが、このところのルーティンになっていたがこの度、世話の甲斐もあり初収穫を迎えるに至ったのだった。

  

 (初収穫は嬉しいが、自分の「農業」の技能レベルは4あるにも関わらず、品質と価値が低めな上にポテンシャルもいまいちだ。理由は色々あるのだろうが、これからも栽培を続けて「熟練度」を上げなければ良い作物の収穫は望めないだろう。今後の課題は山積みだな)


 基礎レベル、ステータス、技能レベルがほぼ同じ戦闘職のプレイヤーが同じスキルを発動した際、その威力や効果範囲、リロードタイム等に差が生じることがあり、これと同様に、生産職のプレイヤー間でも同条件で同一の生産物を作製したにも関わらず、軽視できない程の性能差が生じるケースが頻出し、その原因を巡りプレイヤー間で絶えず議論が繰り広げられてきた(これについては、当初プレイヤースキルが影響を与えているという見解が優勢だったが、それだけでは説明できない事象が多々あり、別の要因が絡んでいるという認識は早い段階で共有されていたものの、要因自体は諸説が入り乱れかつ、どれも決定打に欠けるものだった)。


 そのような中、スキル発動や生産を行った場合、プレイヤー個人の実績が蓄積され、それが効果の判定に影響を与えるステータス上では確認できないマスクデータが存在するのではないかという仮説が立てられた。これに関する仮説上のマスクデータは、プレイヤーの間では「熟練度」と仮名が与えられ、有志による検証が長い間進められてきた結果、運営は公式に認めていないものの、その存在は信憑性が高いものとして認識されている。ちなみにアヤセも錬金によるアイテム作製やポテンシャル付与の経験を通じて、「熟練度」の存在は前々から実感していた。


 今回、アヤセが収穫した農作物は、フィールドボス「タダミチの生霊」のドロップアイテム「種イモ(★2)」に、農業ギルドで購入した苗、それとマリーやホレイショと交換した種からそれぞれ作付けしたジャロイモ(注:ジャガイモに似た野菜)、トメイト(注:トマトに似た、というよりトマトそのもの)、ヤング・ダーイズ(注:枝豆そのもの)である。それぞれの収穫は、ジャロイモは二十五、トメイトは八、ヤング・ダーイズは三十と、どれも作付けの倍以上だったので量的にはまずまずだった。


 (それぞれ名前は分からないが、茄子や胡瓜も栽培したいし、チーちゃんのために果物の苗木を植樹するのも良いかもしれない。それに作付けを増やせば収穫量が期待できるのだが、菜園の面積からこれ以上は難しそうだ。もっと広い農地が欲しいが、農業ギルド会員でないのでこれ以上は望めないのが残念だ)


 マイホームの中には広い菜園や農地そのものが付属する物件もあるそうだが、販売価格がべらぼうに高いので到底手に届きそうにない。しばらくは菜園で細々と栽培を行う他はなさそうだった。


 その後、収穫したジャロイモから転用した種イモと余っていたトメイトの苗の作付けをそれぞれ行い、水やり等の手入れの後、作業を終えた。


 ========== 


 次にアヤセが向かった先は、サモナーギルドである。


 「失礼ですが、アヤセ様でいらっしゃいますか?」

 

 ギルドの廊下で、一人の若い男性職員に声をかけられる。


 「はい、自分がアヤセですが」


 アヤセに声をかけてきたギルド職員は、何度もサモナーギルドに足を運んでいるが初めて見る顔だ。尖った長い耳と美形な顔立ち、明るい色合いの肌からハイエルフ種だと思われる。この種族のNPCは主に大陸西部の教国で暮らしており、滅多に国外に出ることは無く、アヤセも実際に会うのが初めてであった。


 「私、当ギルド職員のガブリエルと申します。この度、ポートキングストンより転任して参りました。以後、お見知りおきを」


 新任ギルド職員ことガブリエルは、気取った仕草でお辞儀をする。この男が何故自分のことを知っているのかアヤセは不思議に思ったのだが、ひとまず返礼をすることにした。


 「御挨拶恐れ入ります。それにしても、ポートキングストンからいらしたのですか。今あちらは何かと大変ではないでしょうか?」

 「ええ、それはもう……。現地は帝国の侵攻から未だに立ち直っていませんし、ポートキングストンだけでなく、旧公国領全体で混乱が続いています」


 眉目秀麗なガブリエルは顔をしかめる。


 「帝国軍の常軌を逸した略奪行為のせいで、ポートキングストンは国庫から庶民の財布の中身まで全てスッカラカンです。私はギルド職員なので関係ありませんが、あんな娯楽も無くて、食料だって簡単に買えないところになんて勤めたくありませんよ。だからこうして王都に転任してきたのです」

 「……」


 ホレイショが聞いたら怒り出しそうな現地の惨状を、まるで他人事のように語るガブリエルの言い草から、この男のことを好意的に見ることはできないが、想像力の限界はすぐさま理解することができた。


 冒険者ギルドをはじめとする各職ギルドは、場所により規模の大小はあるものの、大陸全土の至るところに配置されており、国を超えた強固なネットワークを構築している。良くも悪くも大陸の動静に多大な影響を及ぼす「冒険者」という別名で呼ばれるプレイヤーを事実上独占管理している組織への干渉は、不文律で禁止されているようで、実際に帝国の侵略に遭ったポートキングストンにおいても、各職ギルド支部の建物やそこに勤務するNPC職員の生命と財産に一切被害が及ばなかった。

 実情は、戦争でいちいちギルドが機能しなくなったらプレイヤーが不便を被るので、仕様で軍隊がギルドをスルーするようになっているのだろうが、とにかく国家間の争いにギルドは全く無縁なのである。


 おそらく周囲が地獄の様相を呈していても、余計なことをしない限り自身の身の安全が絶対に保証されると分かっていたら、ほとんどの者は内にこもって現実から目を背け、自分の特権を享受するだけに留めるだろう。ガブリエルもその一人に違いなかった。


 「お話しを聞く限り、ポートキングストンの食料事情はかなり厳しいようですね」

 「ええ。食料を配給制にして何とか凌いでいるみたいですが、あと二月もしないうちにそれも尽きるだろうと言われています。もし、食べる物が無くなったらどうなるのでしょうね?」

 

 食料が尽きた後はどうなるか? そんなことは分かりきっている。年を越せずに餓死する者が万単位で出るということだ。


 「それは酷い。何とかならないかな……」


 想像しただけでも暗鬱な気持ちになる現状に、打開策がないか考え込むが、ガブリエルはそんなアヤセの憂慮もどこ吹く風とばかりに脳天気に答える。


 「私達の力じゃどうにもなりませんよ。後は帝国とかに頑張ってもらうしかありません。それに公国にはキングストン公や公女様もまだ生きているみたいですから、その人達が国民のために働けばいいんじゃないですか?」


 (確か、ホレイショの話では、キングストン公と公女は幽閉されているらしいから、そもそも帝国軍の専横を止められる立場かどうか大いに疑問だな。今更、この男の物言いについて何も言うまいが、個人の力では限界があるというのは、ある意味正しいかもしれない)


 ガブリエルの口のきき方を不快に感じるが、実際にこの男に事態を打開できる権限も実力も無いから、何か言ったところで得るものは全く無い。ただポートキングストンの置かれている状況は後ほどホレイショにも伝えておいた方がいいとアヤセは思った。


 「あ、それよりこんな話をするために、アヤセ様を呼び止めた訳では無いのです。続きはこちらのブースでお話をさせていただきたいのですが?」

 

 ガブリエルは、自身に関心が無い話をさっさと切り上げ、話を本題に戻そうとする。アヤセもこの話題についてこれ以上の収穫は無いだろうと思い、彼に従うことにした。


 (何か自分の背中に嫌な視線を感じるのだが……。ガブリエルは、中身はともかく容姿が良いから早速ファンがついたか)


 アヤセの背中に突き刺すような羨望と嫉妬と憎悪が入り混じった視線を向けるのは、ガブリエルの追っかけをしていると思しき多数の女性プレイヤー達である。その視線は、以前アヤセが女性職員のマルグリットと話している際、彼女目当てに群がっていた男性プレイヤー達から向けられたものと全く同じだった。


 (やれやれ、男女問わず美形NPCは追っかけの対象になるのか。それにしてもここに入り浸っている連中は他にやることが無いのかね……)


 心の中でため息をつきつつ、アヤセは、ガブリエルに導かれ個別カウンター席に案内される。


 「何か済みませんね。私の話を聞きたいっていう女性冒険者の方が大勢いまして、その対応に追われていますから、時間を多く取れませんので手短に用件をお伝えしますね」

 「構いません。それにしてもギルドへの勧誘活動はまだ続いているのですか?」


 以前、サモナーギルドでは、ライバル関係にあるテイマーギルドとの会員争奪に劣勢を強いられている現状を巻き返すため、職員を総動員して熱心な勧誘活動を展開していた。

 アヤセの知り合いの職員であるマルグリットもギルドの方針に従い、プレイヤーの勧誘を行っていたが、それに付け込んだ一部の男性プレイヤーからギルドへの加入を条件にセクハラまがいの要求をされ、深刻な心労を抱える事態に陥っていたのである。


 それを受けアヤセは、マルグリットの心情を慮ると同時に、職員が勧誘活動に傾注しているせいでギルド会員が本来提供されるべきサービスの質が低下しているという苦情と、NPCに対するセクハラ行為が発生している旨を運営に申し立てていたが、マルグリットは引き続き男性プレイヤー達からしつこく言い寄られていないか改めて心配になった。


 「勧誘? ああ、行うには行いますが、本来の会員の方の対応が第一となりしまして、勧誘自体は任意となりました。彼女達はこれから当ギルドに加入するための準備をしていますので、そのお手伝いをさせていただいています」

 「準備、でしょうか?」

 「ええ、当ギルドの仕組みや、契約の器の値段を御案内したり、サモナーのメリットとテイマーのデメリットを説明したりしています。内容が中々複雑ですので、何度か説明をさせていただいて御理解いただく必要があると思っています。場合によっては個人的に食事等にお付き合いさせていただくこともあるのですよ」


 (取り敢えず勧誘が無くなったようで良かった。これでマルグリットさんの負担も幾分か軽減されるはずだ。それにしてもガブリエルの奴、それらしいことを言っているが、やっていることはほとんど勧誘だな。こいつにとっては、ギルド会員にサービスを提供するより、何かと理由をつけて女性とおしゃべりをする方が大事らしい。仕事に対する姿勢がマルグリットさんとは大違いだ)


 話を聞いていくうちに、ガブリエルに対する心証がどんどん悪くなっていく。アヤセもこのような不真面目で無能な職員と話を続けるのは、時間の無駄と感じ始めていたのでさっさと用件を済ませることにした。

 

 「『準備』とやらがそんなに重要と言われるのでしたら、それに専念できるよう、お互いにやることを済ませてしまいましょう。それで、自分に話とは?」

 「それは助かります。用件は、マルグリットからアヤセ様宛てに、この書類をお渡しするよう言付かっています。中身をその場でご覧いただくようにも言われていますで、ご確認をお願いします」

 

 ガブリエルはそう言いながらアヤセの前に一通の封筒を差し出し、アヤセはそれを受け取った。

受け取った封筒の中身は、用紙の束だった。どうやら全てギルドの依頼書らしい。


 ====================

 【クエスト(サモナーギルド)】

  召喚獣の報告(2)

  内容:親密度20以上の召喚獣をギルド職員に報告

  報酬:貢献度+5、500ルピア、経験値100

 ====================


 ====================

 【クエスト(サモナーギルド)】

  召喚獣 (ユニーク)獲得(1)

  内容:召喚獣(★2以上のユニーク)の召喚をギルド職員に報告

  報酬:貢献度+10、500ルピア、経験値70

 ====================


 他の依頼書も目を通してみたが、似たようなクエストが大方を占めている。これならほとんどのクエストはクリアできそうだった。


 「中身は、依頼書ですか?」

 「どうもそうみたいです。内容を見る限り、条件を満たしているクエストもいくつかあるのですが、この場で受注と報告は可能でしょうか?」

 「ええ、そのくらいなら時間もかかりませんので結構です。後の方にも影響は無いでしょうから」

 

 ガブリエルの頭の中は、次に接客する女性客のことで一杯だったようだが、アヤセは、手早く達成可能なクエストの依頼書を取り出し、受注・報告を行う。合計で十件ほどの報告を行うことができた。


 「おや、貢献度のランクが『3』に上がりましたね。おめでとうございます。これからも当ギルドをよろしくお願いいたします」


 至って興味なさげにガブリエルが、ランクが上がったことを告げる。だが、ようやくアヤセは、マルグリットが何故この男に依頼書を預けてまで自身にクエストを回してくれたのかその理由が理解できた。


 (きっとマルグリットさんは、自分の貢献度のランクがもう少しで上がることを知っていたんだ。だから本人が不在の時でもクエストを受けられるように、比較的簡単で貢献度が上がりやすいクエストをピックアップしてくれていたのだろう)


本当に会員のことを考えてくれている彼女には感謝しかない。今度会った際はこの点をお礼しなければならないとアヤセは思った。


 「ところで、マルグリットさんの姿が見えませんが、どうなさったのでしょうか?」


 まさかとは思うが、マルグリットは目の前にいるガブリエルと交代で他の支部に異動してしまったという可能性も否定できない。嫌な憶測が脳裏をよぎる。


 「マルグリットは本日非番です。本人不在時にアヤセ様がお越しになった場合に備え、私がこの封筒を預かっておりました」

 「それは本当に良かった。どこかに異動したのかと思って心配しました」


 今後、目の前のハイエルフが自分達の対応を行うと思ったら不安で仕方がなかったが、マルグリットが引き続き残ってくれることは有り難い。ガブリエルの説明を聞きアヤセは、胸をなで下ろした。


 「彼女は異動なんてしませんよ。何せあんなご身分ですからねぇ……」

 

ガブリエルが急に得意顔になり、何かを仄めかしてくる。どうやらマルグリットについて、噂のタネになりそうなことを知っているようである。


 「……」


 だが、アヤセはそのような話に興味が無く、反応を示さず無言を貫く。ガブリエルはアヤセの態度につまらなそうな表情を見せたが、すぐにまた得意そうな顔に戻り本人から水を向けてきた。


 「御存じでしょうか、彼女の秘密を。私もこの話を初めて聞かされた時はびっくりしましたよ。いやぁ、何せ……。おっと、話し過ぎましたね」

 「……」


 明らかにガブリエルは、自分が知っている情報を小出しにして、相手の反応を窺って楽しんでいる。こんな相手の話に乗る気は一切無い。


 「彼女のこと、気になりませんか? お心づけを少しばかりくださいましたら、アヤセ様にだけ特別にお教えいたしますよ。いかがでしょうか?」

 「どうしても知りたかったら本人に聞けばいいことです。話したくなければ話さないでしょうし、話せるようなことなら話してくれるでしょう。だからこの場で聞くことは何もありません」


 人の噂話はあてにならない。自分の目と耳で確かめることが重要だ。アヤセは、ガブリエルが持ち掛けてきた下世話な申し出を冷ややかに一蹴した。


 「それと、念のため言っておきますが、彼女はあなたと違って有能で自分達ギルド会員にとって、非常に頼りになる存在です。もし、誰かの小遣い稼ぎのせいで彼女の仕事に支障が出るようなことがあった場合は、ギルドマスターや『もっと上』へ苦情を申し立てますので、その心づもりでいてください」


 アヤセはそう釘を刺すと、ガブリエルの反応を一切顧みることなく席を立った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ