85_プロローグ
―――当法廷は、被告人の反逆罪を認定するものなり。依って、伯爵の所領及び全ての財産を没収し、親族は身分はく奪の上、庶人に落とすこと判決とする。なお、上告は一切認めない―――
「絶望」とはこのようなことをいうのだろうか。あの時は、耳を疑うような無情な判決に頭の中が真っ白になり、できることといえば呆然と立ち尽くすことだけだった。
両親の不慮の事故、臨時招集された特別法廷、異例の早さで下された評決……。愛する父母の死を悲しむ時間もなく、ただ戸惑っているうちに少女は全てを奪われ、何もかも失った。
あれから七年の月日が経った。すべてを失った日から今日に至るまでの苦労は言い表せない。両親に恩義がある者達が監視の目を盗み、差し伸べてくれた援助を受けたり、閑職ギルドに職を求めたりして、ようやく家族三人何とか食いつないできたが、最近になり、援助をしてくれる者達が一人また一人と減り始めていた。この事は物質的な援助を得られないことよりも、人との繋がりが途絶えてしまうことの方が辛かった。
これは年月の経過だけが原因では無く、自分達の存在を疎ましく思っている者達にじわじわと追い詰められている結果であることは明白である。このままでは祖父や自身が得た職も失い、生活の基盤を奪われ、行く末は野垂れ死にをしてしまうだろう。そしてそれは相手が最も望んでいることなのだ。
このままでは……。
焦りのみが先を行き、事態を打開できないまま家族はじりじりと身も心も憔悴していく。
八方塞がりの状況から抜け出すためには、この際なりふり構っていられない。使える手段はどの様なものでも試みなければならない。
「しかし、相手の都合を考えぬことは……」
「でも、今がまたとない好機です。『あの』アイテムマスターは信用のおける方です。私達の窮状をお伝えすれば、理解を示してきっと手を貸してくれます。……例え事後の報告であっても、誠意を尽くせば」
「………………」
当初、二の足を踏んでいた者も黙り込み、再び異を唱えることは無かった。
話し合いは、それほど時間をかけず結論が出た。結論が出た以上、早急に行動に移したほうが良い。勿論、それは二人とも理解している。
「では、この私信を彼に託し、ラタスに赴かせよう。この依頼の真意を知った後、彼が引き続き我らの味方であることを願おうぞ」
老人の言葉に女性は無言で力強く頷いた。
ひっそりこっそり第五章をお届けします。
気付いたら前回投稿から一年近く経っており自分の計画性の無さに恥ずかしくなりました……。
本章は十一話お届けする予定です。
ちなみに毎日一話、午前一時に掲載を行います(事情により掲載できない場合は翌日以降に持ち越し)。
時間つぶしに御一読いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。




