84_エルザのケース
エルザはクラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」の集会場で一人上座の自席に座り、テーブルに置かれた装備品とステータス画面から呼び出した画像に目をやっている。それを鋭い眼で凝視する様子は、彼女を気遣う団員が声をかけるのを躊躇させるほどだった。
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【防具・脚】黒薔薇記章のホットパンツ(幹部用) 品質5 価値5 生産者:-
耐久値 250 重量9 物 13 魔 12
装備条件:STR25以上
特殊効果:・ハンドメイド品(転売ロックON)
ポテンシャル(1)…【付与済】やせ我慢(低温地帯で装備時持続
ダメージ付与(3秒でHP-5)
ポテンシャル( )…軽装化(貧)(AGI5%up、INT50%down、
VID40%down)
ポテンシャル( )…子供は風邪の子(ランダムのタイミングで
状態異常「発熱」付与)
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【防具・外体】 黒薔薇記章のローブ(幹部用) 品質5 価値5 生産者:-
耐久値 275 重量16 物 5 魔 14
装備条件:INT30以上
特殊効果:・ハンドメイド品(転売ロックON)
ポテンシャル(1)…【付与済】洗濯拒否(NPCから避けられる、
NPC商店における買値50%up、売値80%down)
ポテンシャル( )…夜光塗料(夜間蛍光色に発光し、敵に発見
されやすくなり、モンスターが寄ってくる)
ポテンシャル( )…溶解性付与(水で溶ける)
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これらの装備品は、先般の王国軍と帝国軍が衝突した戦争イベント「ラタス湿原地帯の戦い」の終了後にオンラインショップに出品された物である。価格は各五十万ルピアで合計百万ルピア。クランが保有する財産と比べると大した額ではないが、安い買い物ではないのも確かだ。出品時には、全てのポテンシャルが閲覧できる画像が添付されており、その内容の酷さが一目で分かるようになっていた。
オンラインショップの特性上、出品者が誰なのかエルザ達には分からない。だが、トップクラン【ブラックローズ・ヴァルキリー】の備品と一目で分かる装備品にマイナス効果のポテンシャルまで付与した上、高値まで付けてオンラインショップという多くのプレイヤーが目にする場所でまるで晒すように出品を行っていることから、出品者の意図は、エルザのクランに対する挑戦の意思表示であることは明白だった。
オンラインショップに出品された装備品は、なるるんとクリードの物であることは判明している。二人は戦後一切ログインをしておらず、当時の状況を証言できる者がいないので、どの様な経緯で装備品を奪われたか不明だが、クランの中では「深紅の連隊旗」を奪われたカラバーシが死に戻る直前まで二人と行動を共にしていたことを鑑みて、連隊旗を奪った者がついでになるるんとクリードの装備品も何らかの方法で奪取したのではないかという考えが多数を占めていた。
またクランでは、帝国軍奇襲部隊を撃退するため逆利用された「深紅の連隊旗」を掲げ、王国軍を勝利に導いたのが、小柄な「少年」プレイヤーであることを、掲示板等の情報分析によって割り出している。
最もこの情報だけでは、オンラインショップの出品者と「深紅の連隊旗」を掲げた旗手の少年が同一人物であるいう証明にはならない。だが、何かしらの関連があると考えるのはあながち的外れとも言い難く、少年旗手の線を追うことは、オンラインショップの出品者をあぶり出すのに有効な手立てと言え、エルザもこの見解に賛同を示し、今後の方針とすることに異論は無かった。
先ほどまで開催されていた幹部会議において以上のとおり方針が決まったのだが、オンラインショップ出品者の対応を巡り、副長のアイオスは強硬な主張を最後まで繰り返した。
エルザも悪性ポテンシャルしかないクラン純正品をオンラインショップで衆目に晒されたことで生産職の総括責任者のプライドを大いに傷つけられたアイオスの立場は理解できる。しかし、だからと言って、クランの人手を総動員したり、金に糸目をつけず、それこそ草の根を分けてまで出品者を妄執的に探し出したりすることまでは同意しかねた。
オンラインショップの出品者は王国軍側で戦争イベントに参加しているので、もしかしたら帝国の支配を強く忌避する者かもしれない。仮にそうだとしたら今後の対王国の戦争イベントが開催された場合、再び対峙する確率は高い。例え正体を明かさずクランに挑戦するような者であっても、トップクランとしてイベントで堂々とそれに受けて立てばいい話で、有限の労力は、こんなことに傾けるよりクランの更なる発展のため費やした方が効率的であるのは誰が見ても明らかだ。
それにポテンシャルについて、一つのアイテム類につき最大三つまで設定され、それは生産時に決定されることは、今まで検証を重ねてきた中で結論が出ている。また、ポテンシャルの決定はどの様に成されるかははっきりと分らないが、生産者の実力が影響を与えていることは仮説の域を出ないものの認識されている。三つとも全て悪性ポテンシャルが設定されるのは、その腕が疑われも仕方がない。犯人捜しをするよりも生産職の腕を上げるため何ができるかを考えたほうがより生産的であろう。
エルザは目を瞑り大きく深呼吸する。アイオス副長……。クラン【ブラックローズ・ヴァルキリー】がトップクランになり得たのは、彼の手腕によるものだということは疑問の余地が無い。今回の帝国軍からの慰問で贈呈された、ポテンシャル付の泥炭だってそうだ。これがあれば、かねての懸案事項であった「樹氷回廊」九合目のボスを打倒できる。我々が攻略のトップに返り咲くことができるのだ。このことはアイオスの功績として評価され、戦争イベントでなるるん達に連隊旗を預けた失策も帳消しになるだろう。
しかし、最近になり彼のやり方が果たして正しいのか、そしてこのままで良いのかとエルザは迷うことが多くなった。
先日もアイオスのためエルザは大きな決断をした。それはクランがこれからも発展するため、大きな、大きな犠牲を払う決断だった。果たしてクラン設立時からの同志だった岩鉄を切り捨てた決断は正しかったのか……。自信を持ってそうだと言い切れない自身の心情についても彼女は気付いていた。
ストーリーの構成上やむなくカットしたものの、本編の補足に有用と思われるエピソードを今回幕間としてお届けしました。
サイドストーリーは、ストーリーの本筋をあまり考慮せずに書くことができるので、四話とも自由に書かせていただいたと思います。
ここまでお読みいただきました皆様には、厚くお礼申し上げます。
本当にありがとうございます。
第四章はやや長めになりましたので、次章はもう少し短めに構成を組みたいと思っています。
時々各話の修正(主にてにおはの修正)をしたりしつつ、コツコツと書き溜めているものを少しでも早く皆様にお届けしたいと思っていますので、もうしばらくお時間をいただければと思います。
また、今後の参考にさせていただきたいので、感想などお寄せいただけると非常に嬉しいです(返信はしておりませんが、先日初めて感想をいただきまして、夜中に鼻血が出そうなくらい興奮してしまいました(笑)感想、ありがとうございます!)




