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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
幕間_戦争イベントサイドストーリー

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83_ノエルのケース

 ノエルは先日、アヤセとホレイショの飲みの席に同席し、そのまま酔っ払ってタイムオーバーの強制ログアウトになった後、インターバルペナルティによるログイン制限のため戦争イベントの参加受付の締切りに間に合わず、王都に留まっていた。


 イベントに参加できなかった悔しさと、ここ数日アヤセと一切連絡が取れないことが理由で鬱屈した日々を過ごしている彼女であるが、唯一の気晴らしは、つい先日知り合ったNPCのオチヨの店に出向き、お喋りをすることであった。


 「あら、ノエルさんいらっしゃい。今日もご機嫌斜めですね」

 「べ~つに~、機嫌は悪くないですぅ~。お魚釣ってきましたよ~」

 「わぁ、今日は鯖ですね! 塩焼きとかも良いですけど、品質も価値も高いからお刺身も美味しいと思います。いつもありがとうございます」

 「こっちもいつも料理してもらっているし、このくらいのお魚だったら、いくらでも釣れますからヨユ~です~」


 ノエルの装備品「純白のフリルブラウス」にはポテンシャル「光り物の加護」が付与されており、その効果は「青魚系の釣果率UP(特大)」という釣りを行う際に破格の恩恵をもたらすものである。この装備品はラタ森林地帯でPKに襲われた際に、助けに入ったアヤセにより贈られたもので彼女にとって代えがたい宝物であった。

 実際にポテンシャルの効果は絶大で、海面に糸を垂らせば面白いように鰯や鯵や鯖等の青魚が入れ食いで針にかかり驚異的な釣果が出ることから、彼女が主な釣り場としている王都の波止場界隈ではちょっとした有名人として名前が知られているくらいだった。


 「ブラウスのポテンシャルでしたっけ? こんなに良い魚でしたら卸して欲しいという店はたくさんあるでしょうね」

 「一匹一匹はあまり高くないですけど、たくさん釣れるので王都で暮らしていけるくらいのお金はもらえるから、助かってますね~。それに、波止場で釣りをしている時に先輩を見つけられましたから、ブラウスがノエルと先輩を引き合わせてくれたと思ってます~」

 「またその話ですか?」

 

 ノエルは波止場で釣りをしている際、偶然「港のカフェ」から出てきたアヤセとホレイショを見かけ、その後アヤセを尾行して紆余曲折を経てバンボーで再会を果たした。

 運命の導きだと思っているのはノエルだけだが、結果としてブラウスのポテンシャルがアヤセとノエルの再会のきっかけになっていることについては、オチヨも奇妙な縁だと感じていた。


 「こんな素敵な出会いは、何度だって話したくなりますよぉ~! それだけブラウスはノエルにとって大事なものなのですから!」

 「はいはい、そーですねー」

 「あ、なんか適当に流そうとしてないですか? オチヨちゃんひどいです!」

 「まぁまぁ、同じ話を何回も聞かされたらそう言いたくなりますよ。……私だってホレイショさんに会いたいのに、なんでノエルさんだけ良いことばかりあるんだろ?」

 

 オチヨは拗ねた素振りをして見せるが、それは演技だったようですぐににやけ顔になる。その顔は、何か秘密をノエルに隠しているようなたくらみ顔をしていた。


 「んん~? なんか隠してるでしょ?」

 「フフッ! ノエルさん、アヤセさんに会いたくないですか?」

 「モチロンですっ! 今すぐにだって会いたいですぅ~!」

 

 オチヨの唐突な問いにノエルは即答する。その様子を見てオチヨはニヤニヤ笑いを抑えることができない。

 

 「ちょっとぉ、なんで笑ってるんですか~!」

 「あっ、ごめんなさーい。少しからかってみたくなって。実はアヤセさん、お店に来ていますよ」

 「えっ!?」

 「なんでも戦っている最中に到達点回帰をしちゃったらしくて、皆さんより早く王都に戻ってきたそうです。今奥の座敷席にいますよ」

 

 オチヨの話を聞いたノエルの顔がぱっと輝く。オチヨはノエルの変わりように苦笑するが、彼女に釘を刺すことを忘れなかった。


 「でも今はやめた方がいいですよ。アヤセさんはお客さんと話されていますから」

 「お客さん?」

 「はい、冒険者の人です。鬼人種って言うのですか? 私、初めて会いました。見た目は大柄で怖そうですが、優しい人ですよ」

 「へ~」

 「お二人とも深刻な顔をしていましたから、結構大事なお話をされていると思います。だから、終わるまでここで待っていましょうね」

 「え~。そうなんですか~」

 

 そう言いながらオチヨは日本酒と料理をノエルの座るカウンター席に並べる。席で一人アヤセ達の話が終わるのを待つノエルは、むくれた顔をして箸を手に取った。


 ==========


 「しかし、ホーリーミサンガだけでなく、あれほどの大金まで……」

 「岩鉄さんの今までのクランへの貢献を考えると、百万ルピアでも退職金としては足りないかもしれません。それにしてもこれほど早く買い取られるとは思いませんでした。アイオス副長の狼狽が手に取るように分かりましたね」

 「全く貴様という奴は! 実を言うとルピアもだがホーリーミサンガが手元に戻ってきたことが有難い。これは団長から贈られた物なのだ」

 「……」

 「む、女々しい言い方だったな。これには実用的な面があって、光属性の攻撃効果が付与されるから、アンデッド退治のクエストが劇的に楽になるはずだ」

 「それは何よりです」

 「貴様には世話になった。俺もしばらく王国に留まるつもりだから、イベントやクエストで顔を合わせることもあるだろう。その時はよろしく頼む」

 「こちらこそよろしくお願いします。……またお会いしましょう」

 「岩鉄さん、ありがとうございましたー」

 「ああ、オチヨさん馳走になった」

 

 自身のすぐ近くで交わされる会話の声でノエルは目を覚ます。どうやらカウンター席で飲みながらうたた寝をしてしまったようだ。

 

 「あら、ノエルさん起きましたか? 今日は体が固くなりませんでしたね」

  

 クスクス笑いながらオチヨはノエルに水を差し出す。


 「固くなったのは、初めての時だけじゃないですか~。それより、どれくらい寝ていましたか?」

 「そうですねー。多分三十分くらいでしょうか?」

 「結構寝ちゃいましたね~。それで、先輩のお話は終わりましたか?」

 「さっき終わりましたよ。お客様を送って、また座敷席に戻られました」

 「じゃあ、もう行ってもいいですよね?」

 「『後片付け』をしていると思いますが、もう大丈夫だと思いますよ?」

 

 オチヨの最期の言葉まで聞かず、ノエルは目を輝かせて奥の座敷席に駆け込んだ。


 「先輩っ!!」

 「あっ、ノエル?」

 「王都に戻っていたら言ってくださいよぉ。ノエル、寂しかったんですから~! ……って、この服は?」

 

 ノエルが座敷席の周りに目を向けると、黒いバラが刺繍された記章を付けた防具類が散乱しており、アヤセはそれをインベントリに一着ずつ収納しているところだった。


 「今日は座敷席も空いていたから、二人の防具を広げてポテンシャルを確認したが、全部悪性ポテンシャルが設定された装備品が二つしかなかったのが残念だったな」

 「え~っと、何のことですか~?」

 「え? ああ、こちらのことだから気にしないでくれ」

 「そんなこと言われたら気になっちゃいますよ~」

 「……まぁ、簡単に言うと頑張った人が少しでも報われればいいなと思って、自分の所持品で役立つ物がないか部屋に防具を広げていたという次第だ」

 「よく分かんないですけど、先輩また人助けしたんですね?」

 「人助け? うーん、考えようによってはそうなるのだろうか?」

 「いいじゃないですか! ノエルにそうしてくれたように他の人も助けているんですね! そんな先輩、ステキだと思います~。あ、それで、ノエルお魚釣ってお店に持って来たんですよ。先輩も一緒にどぉですか?」

 「ブラウスのポテンシャルは、相変わらず調子が良さそうだな」

 「はいっ! 先輩への愛の力で絶好調です~!」

 「残念ながらポテンシャルに愛の力は影響しない」

 「そんなこと言わないでくださいよ~! あ、オチヨちゃ~ん、こっちにお酒と鯖のお料理お願いします~」

 「しかし、本業は魔法使いなのに釣りばかりして面白いのか?」

 「たくさんお魚が釣れますし、波止場で仲良くなった人もいるから楽しいですよ~。先輩は釣りをしないんですかぁ?」

 「小学生の頃までは田舎の川で遊んだりしたが……。ホレイショも今度釣りをしたいと言っていたし、久しぶりに自分もやってみようかな?」

 「それじゃあ、今度ホレイショ先輩も誘って一緒に釣りをしましょう! 約束ですからね! さぁ~、お料理が来るまでお部屋も片付けちゃいますよ!」

 

 そう言いながらノエルはウキウキとアヤセが散らかした座敷席の片付けを始める。


 「こんなに散らかすなんて、先輩も世話が焼けますねぇ~」

 「……散らかすについては、それはそれで構わない。本当に大事なのは片付ける能力だ」

 「そんな屁理屈ばっかり言っているとモテませんよぉ」

 「はいはい、そうですね」

 「もぉ~、オチヨちゃんみたいなこと言って! カワイイ後輩のアドバイスをスルーするなんて、先輩って冷たいです~! 人の話を聞かないから戦争イベントでも死に戻っちゃうんですっ!」

 「オチヨさん、膳は自分が運びます」

 「あっ、ちょっと~」


 アヤセはノエルの言葉を聞き流して、全ての装備品をインベントリに回収し、オチヨの手伝いのため座敷席を離れる。ノエルはアヤセの態度にむくれてみせるが、それも長くもたずすぐに元の表情に戻り、そして小さな声でつぶやいた。


 「でも……、お帰りなさい。そして、お疲れさまです」

 「ありがとうノエル。ただいま」

 「ひゃあ!! 聞こえていたのですか~!」

 「ああ。独り言を言って何だと思っていたが、まぁ、御礼は言っておくよ」

 

 オチヨと一緒に膳を運びながら、アヤセはノエルに声をかける。その顔は、ニヤニヤ笑いのオチヨと同様に、微かな笑みを浮かべていた。


 「先輩ったら、本当にイジワルです~。でも、今日はノエルの機嫌が良いから許しちゃいます! それで、お片付けも終わりましたし、これからは、戦争イベントの出来事をノエルにたくさんお話してくださいね~!」


 この後、久しぶりに「運命のひと」と再会できた喜びで浮かれた彼女は調子に乗って飲み過ぎ、すんでのところで二度目のバイタルログアウトになるところだったのだが、アヤセとオチヨの必死の努力の甲斐あって何とか回避できたのであった。




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