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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
幕間_戦争イベントサイドストーリー

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83/107

82_マリーのケース

 「王国軍の勝利とマリー嬢の一位獲得を祝って乾杯!」

 「乾杯っ!!」


 ホレイショの乾杯の発声に応じて、多数のジョッキが空中でぶつかる。プレイヤー達は盛大に歓声をあげ、王国軍の勝利を口々に祝う。


 ここはラタス衛兵隊本部の食堂。マリー、ホレイショ、ピランとコーゾ他多数のプレイヤー達がこの場で戦争イベントの打ち上げを行っている。

 

 王国領に取り残された最後の帝国軍が降伏した後、マリーはランベール指揮下の近衛第二師団と共にラタスに入城した。


 戦争イベントも終了し、参加していたプレイヤーも三々五々の解散となったのだが、ここで新たな問題が発生する。

 ラタスは軍事施設の隙間に居住区が設けられているような要塞都市で、宿屋の数が足りず、イベントに参戦したプレイヤーの収容限界を超過してしまった。時刻も夕刻を過ぎており、宿取りにあぶれてこれからラタス以外の宿場町(直近のポワティエの宿場町でも一日かかる距離)へ移動するにしても時間的に困難な状況下で、教会に行列を作るファストトラベルも金銭的に利用が難しいプレイヤー達は宿無しで野宿の危機に置かれることになった。

 幸い王国軍が幕舎を提供することで野宿という最悪の事態は避けることができたものの、食事自前でおまけにHPやMPの回復効果が無い粗末な施設(要するに安全にログアウトできるだけの施設)で一夜を明かすのはあまり有益では無いことから、多くのプレイヤーが他の宿泊施設の確保に奔走したのだった。


 そのような中、マリーはラタス衛兵隊本部に宿泊することをモリス主計長から勧められた。アヤセから借りた「ラタス衛兵隊十字勲章」には「ラタス衛兵隊本部の施設を無料利用可(一部有料施設を除く)」という特殊効果が付与されており、衛兵の宿舎を宿泊施設として利用可能だったのである。ランベールの目に余るアプローチ(自分の帷幕にしきりに招こうとすること)にマリーは辟易していたので、モリス主計長の提案は渡りに舟であった。


 それにしても、勲章の効果は絶大だ。衛兵隊の隊員達は親切にしてくれるし、宿にあぶれていたホレイショやピラン、コーゾだけでなく、傭兵隊長にアヤセのシャウトの信頼性を必死に訴え、奇襲部隊の最後の攻撃を退けた面々全員を(苦笑いしつつも)受け入れてくれるし、食堂においてこうして打ち上げを開催することを認めてくれる等正に至れり尽くせりである。


 =「ラタス湿原地帯の戦い」結果発表=

(中略)

 ・功績値 

  順位  プレイヤー名  功績値

  1   匿名      3,986

  2   まかろん    1,845

  3   モナ公      603

     (以下略)

 

 「まかろん殿が二位というのも目出度いでござるが、マリー殿の功績値には驚いたでござるよ」

 「功績値は実質総合順位だから、マリーさんは正に『ナンバーワン・プレイヤー』ってことですよ! 俺、尊敬しちゃいます!」

 「やっぱり匿名のままですか? せっかく有名になれるチャンスなのに勿体ないなー」

 

 星見の台地でアヤセと共に戦ったプレイヤー達から次々と賛辞が送られるものの、マリーは戸惑いを見せる。


 「い、いえ尊敬だなんて……。それにあまり名前が公になるのは避けたいので匿名で通そうかと思います」

 「ま、マリーさんが名前の公開を控えるのだったら俺達も口外は厳禁だな。下手に名前が知られると変なヤツに目をつけられるかもしれないし」

 「そーそー、『蒼き騎士団』みたいのにね。……それにしても今回はランクに奴らの名前が出てこないよね。どうしたんだろ?」

 「そういえばそうだな。幹部達が好む『蒼』とか『青』の文字を見なくて済むからそれはそれでいいけどさ」

 「あの、『蒼き騎士団』と言えばお助けプレイで評判が良いクランですよね?」

 

 男性プレイヤーと女性プレイヤーのやり取りでクラン「蒼き騎士団」が好意的に見られていない気がしたマリーは疑問を感じて二人に尋ねる。


 「うーん、そうなんだけどな、王国にある程度前からいるプレイヤーの中にはそう見てない奴もいるんだ」

 「私達はこれでも第二次組なんだけど、王国には大体同じくらいの時期にあいつらと入ってきたの。あの時のあいつらは、プレイヤーの安全を守るって理由をつけて狩場を独占したり、ルーキーの手助けとか言って冒険者ギルドの割の良い依頼を根こそぎ受注したり、戦争イベントで好き勝手動いたせいで傭兵隊を混乱させて他のプレイヤー達を危険な目に遭わせていたりしたから、古参の私達が割を食わされていたってワケ。ちなみに、これらのことは今でもやっているから腹が立つわね」

 「あいつらの恩恵を受けている第三次組や第四次組の人数が多いから、一見人気があるように見えるけどな」

 「ま、あれでも『王国最強』だからね。戦争イベントの上位常連なのよ。でも、今回は撃破数にはランクに載っているのに、功績値は全員ランク外なので不思議に思っていたのよね」

 「理由は死に戻って功績値が十分の一になったからだろ? だが、そう簡単にあいつらが死に戻るなんて考えられないな。何でだろうな?」


 二人は、少しの間その理由を見出そうとしていたが、あっさり諦めた。


 「別にあいつらのことなんかどーでもいいな。それより俺達の勝利を祝うぞ!」

 「そうね! マリーさんに乾杯ね! 今更だけど自己紹介していなかったわね。私、アイリーン、双剣戦士よ。そしてこっちはダイモン、銃士なんだけど散弾銃で近接戦をする変わり者」

 「そんな言い方ないだろ! まぁ、俺はダイモンだ。よろしくな。それで、さっきマリーさんに話しかけてきた、語尾がござるの奴は、ボクデン、尊敬するって言っていた奴がラッテ、匿名にするかを聞いてきた奴がキースだ。俺達は星見の台地で一緒になって、その後ちょくちょくパーティーを組んだりしているんだ」


 ダイモンの紹介を受け、ボクデン、ラッテ、キースがそれぞれ挨拶をする。マリーは改めて全員に挨拶を返した。


 「ま、あいつらがマリーさんの結果を知ったら、何かするかもしれないから気を付けてな」

 「はい、教えてくれてありがとうございます。気を付けたいと思います」


 クラン「蒼き騎士団」のことは、アヤセからも星見の台地の戦闘を通じてクラン幹部の青星に違和感を持ったこと等を聞いていたが、アイリーン達の話を改めて聞いて今後の活動に支障を出さないために、関りを極力持たない方がいいかもしれないとマリーは思ったのだった。

 

 その後宴会は、先のPK討伐作戦に参加した衛兵や工房の職人、事務官等非番の衛兵隊の多種多様な者達が混ざり次第に賑わいを増していく。ラタス救援の尽力に対して感謝をやや大げさに述べられたり、マリーの生産職として非凡な才能を見抜いた職人達から質問責めされたりと応対に追われたが、色々と情報交換もできたので有意義な時間を過ごせているとマリーは感じる。


 「ところでさぁ、マリーさんってアヤセさんと付き合っているの?」

 

 唐突なアイリーンの質問に、ビールを飲んでいたマリーは激しくむせる。


 「な、なにを……」

 「だってさ、アヤセさんからホイホイと貴重な連隊旗と勲章まで預けられちゃうような関係でしょ? そう思うじゃない」


 アイリーンの質問に対し、コーゾやピランのほか、先ほど宴会に加わったアメリーという衛兵隊事務官までも聞き耳を立てている様子が窺える。マリーはアヤセを巡るライバルがここにもいたことを改めて実感する。


 「い、いえ。でも私達は信頼のおける『パートナー』として一緒に仕事をしています」

 「そういうことを聞きたいんじゃないけど、まぁ、いいわ。付き合っていないのなら私も立候補しようかな?」

 「えっ!? 私『も』?」


 マリーの狼狽ぶりにアイリーンは大きな声で笑った。


 「ウソウソ! マリーさんって反応がウブでカワイイわね! でも、彼って新規の有望株だから目を付けている女の子って結構多いんじゃない? 星見の台地で一緒に戦った女子プレイヤーの間でもそんな声が聞こえてきたしね」

 「ええ、それは感じています……」

 「コーゾとピランはともかく、まかろんさんにアメリーさん……。私が知っている限りでこれだけの強力な顏ぶれなんだから、急いだほうがいいわよ?」

 「そ、そうですね」

 

 勿論ライバルは、アイリーンが知る以上に多いのは承知している(先日もポワティエの宿場町で飲んだ際に、ホレイショからノエルの話も聞いていた)。意気消沈したマリーはそっとため息をつき、前途多難な先行きを嘆いた。


 「ま、大丈夫よ! 私はマリーさんとアヤセさんってお似合いだと思うから!」

 「聞き捨てなりませんね! それってどういうことですか!?」

 「そーですよー!」

 「兄貴は渡さねぇぞ!」


 酔っ払ったアメリー、コーゾ、ピランがアイリーンに食ってかかる。彼女はワインボトルを片手に三人のグラスを満たして上手くいなしながら、マリーにウィンクをしてみせた。


 マリーとアイリーンの会話が発端という訳では無かったが、宴会の話題は次第に一人の人物に関するもので占められるようになる。それはここにいる参加者全員が知っている人物であった。


 「……しかし、今回も奇襲部隊の接近を知らせたり、敵将を討ち取ったりとか大活躍だったな。舟橋の大炎上もおそらくそうだろ? 撃破数が少ないのかランキングに一切載らないのが惜しいねぇ」

 「そうだな。相棒の戦いぶりにはいつも感心させられるぜ」


 ホレイショとダイモンがアヤセの戦闘における活躍ぶりについて話を始めると、ラッテやキースもそれに加わった。


 「でも、アヤセさんって職業が『あの』アイテムマスターなんですよね? どうしてあんなに強いのですか?」

 「理由はいくつもあるが、まずは深緑装備だ。驚異的な防御力に、状態異常『怪我』をも時間回復させる性能が秀逸だし、それに加えて、あのプリスときている。あれのお陰で相棒に腕が四本あるのと同じになるのだからな」

 「あの深緑装備ってハンドメイド品ですよね? そうなると生産者は……」

 

 全員の視線がマリーに向く。彼女は何食わぬ顔を見せようとしているが、目が泳いでしまっており、焦っているのが丸分かりであった。


 「拙者、マリー殿に仕立てをお願いしたいでござるよ」

 「気持ちは分かるが、止めておけ。俺達が持ち込む素材やルピアじゃ出来上がりが中途半端な物になっちまう。それはマリー嬢にも失礼ってもんだぜ」

 「無念だが、是非もなしでござる」

 「す、済みません。今は少し仕立てを止めて休養したいと思っています。もう少ししたらオンラインショップに出品しますので、その際は是非お買い求めください」

 「出品しているのでも俺達の財布じゃ買えるかどうかは分らんよな……。おっと、それで話を戻すが、他に強さの秘密はあるのかい?」

 「お次は、得物の『無銘の刀+(消刻)』だな。この武器に付与されたポテンシャルと相棒のプレイヤースキルとの相性が抜群に良い。正に相棒専用武器といっても言い過ぎじゃねぇぜ」

 「確かにプレイヤースキルは異常に高いよな。星見の台地でブラインドスキルを即席で二つもキメたのはマジビビったぜ。自分のスキルを真似されたライデンの顔を見たら、少し同情しちまったな」

 「あと、抜刀の技もカッコいーですよね!」

 「拙者、大学では体育学部でござったので、履修した授業で体験したことがあるのでござるが、アヤセ殿は居合道の経験者だと思うでござる。ちなみに下げ緒の結び方からして夢想神伝流でござろう。段位も相応に高そうでござる」

 「武道経験者ですか。何となくそんな気がしていましたけど、実際言われると納得がいきますね」

 「本人は『刀と深緑装備のお陰』って言っているが……。それもあるだろうが、やっぱりそれだけじゃ無かったってことだ。何せあの斬撃は全て通常攻撃だからな」

 「何だって!? あれはスキルじゃないのかい?」

 「確かにスキル発動時に必ず出るエフェクトは、一切出ていなかったでござるよ」

 「スゲー、やっぱアヤセさんスゲー!」

 「ま、他にも戦闘面では、銃や弓矢のみならず泥とか水とか釘粘土とか焙烙玉とかオリーブ油とか相棒にかかれば何でも武器になっちまう。あんな戦い方はアイテムマスターでなければできねぇぜ」

 「アヤセさんの本当の強さは戦闘技術だけでなく、『アイテムマスター』としての能力の高さにあるのですよ! 良性ポテンシャルを付与してくれることは生産職にとって、これ以上無いメリットなのですから!」


 興奮したアメリーが横から話に割り込んでくる。そして酔って真っ赤になった顔を更に赤くして小さくつぶやいた。


 「それでいて、強くて優しいところが素敵ですよね」

 「……相棒も罪作りな奴だな。最もアメリー嬢が言うことも正しい。俺やコーゾやピランは装備品にポテンシャルを付与してもらったが、装備品の性能が見違えるほど良くなったぜ」

 「えっ、そうなのかい? 俺にも良性ポテンシャルを付与してもらえないかな?」

 「もう既に相棒とポテンシャル付与を契約している生産職もいる。頼むのもいいが、それなりの礼節を持って……、な?」

 「あ、ああ、分かっているよ。礼も用意しないといけないってことだろ?」

 「スゲー、やっぱアヤセさんスゲー!」

 「付け加えると採取能力も高いですよー。あと、錬金もすごいですー。よくダメージを受けた後に飲んでいるHP回復薬は、全部自分で採取した薬草で作ったって言っていましたよー。僕には魔力回復薬を分けてくれましたー」

 「あっ、コーゾお前だけずりぃぞ! 俺にもよこしやがれ!」

 「良いことを聞きました。今度衛兵隊にも卸してもらわないと……」


 アヤセの話題で盛り上がるホレイショ達の話を傍目に聞きつつ、マリーはこっそりステータス画面を開きメールの受信がないか確認する。その様子を見て、アイリーンがマリーを気遣って声をかけた。


 「あら、アヤセさんからメールが来ない?」

 「はい……。まだ返信が無くて……」


 マリーの返事は冴えない。メールを送信してから随分時間が経つが当人から返信が一向に返ってこないことに彼女は心配を募らせる。


 「この時間になっても返信が来ねぇのは気になるな」

 「いや、でもアヤセさんのことだからまた居残りで仕事しているんじゃないかな?」

 「そーそー、PK討伐作戦のときみたいにね。やっぱ勲章を貰う人はやることが違うからねー」

 「そこが、アヤセさんのいいところなのです! 私達衛兵隊の十字勲章を受章して当然ですっ!」


 マリーはイベント終了後、アヤセに自身がラタスの衛兵隊本部にいることをメールで知らせていたが、それに関するレスポンスが無い。最も、アヤセの返信が遅いのはいつものことなので、本人が何かしらの寄り道をしている可能性があったが、やはりマリーは懸念を払拭することができなかった。


 「ま、兄貴のことだから、ひょんなタイミングで返信が来るかもしれないすよ」

 「そうですね。もう少し待ちましょう」

 「あー、アヤセさんからの返信を待つ間、少し大事な話をさせてもらいたいのだが」


 突如ダイモンが立ち上がり、注目を促す。全員の目が彼に向くと大きく咳払いをして話を切り出した。


 「えー、先ずは、俺達が一つの場所に集い、こうして打ち上げができるのは、場所を提要してくれた衛兵隊の皆さん、そして勲章を持っているマリーさんのお陰なのでお礼を述べたい。本当にありがとう」


 マリーを除いたプレイヤー全員が頭を下げ謝意を示す。これを受け宴会に参加していた衛兵達が杯を掲げ返礼をする。


 「人の出会いは大事にしたい。俺達が出会ったのも何かの縁だし、今後もこうした集まりを実施したいと思っている。まぁ、簡単に言うと、都合の良い時に皆で集まって飲み会とかをする会を結成したいということだ」

 「いいわ、賛成、賛成っ!」

 「よっ、いいぞーっ!」


 アイリーンとキースが賛意を表明し、これに続き他の者も同様に賛同を示した。

 

 「……実を言うとマリーさんとホレイショさん以外の皆の同意は既にもらっているのだが、星見の台地で東側斜面を守っていた連中が言い出しっぺで結成する会だ。名前も決めている。東斜面での出会いがきっかけだから、『東斜会(とうしゃかい)』という名前だ」

 「これは揉めたんだけど、結局原点を表わすのが一番良いってことで、これに決まったのよね」

 「それで、戦争イベントで親睦を深めることができたし、マリーさんやホレイショさん、それに衛兵の皆さんも『東斜会』に入らないか? 人数が多い方が楽しそうだからな」

 

 勧誘を受けたマリーとホレイショ、アメリーをはじめとする衛兵達が顔を見合わせる。初めに衛兵を代表してアメリーが回答する。


 「せっかくのお誘いは有難いのですが、私達衛兵が特定の冒険者の方々に肩入れをしていると誤解を与えないために、東斜会の入会は遠慮させていただきます。ごめんなさい」

 「そうか。そう言う理由なら残念だけど仕方がないな。それで、マリーさんとホレイショさんはどうだい?」

 「俺は面白そうだから入らせてもらおうと思うが、マリー嬢はどうする?」

 「私も入会したいですけど、他にも声をかけないといけない人がいると思うのですが……」


 マリーの不安を聞き、ダイモン達は笑みを浮かべながらお互いに目配せする。どうやら彼女が言わんとしていることは承知済みのようだ。


 「分かっているよ。肝心な人を忘れる訳は無いだろ? アヤセさんには是非、この東斜会の会長をお願いするつもりだ」

 「アヤセさんがいなかったら、東斜会の話自体出なかったでしょうからね」

 「そういうことだ。悪いがマリーさん、追加でメールを入れといてくれないか?」

 「分かりました! メールしますね!」

 「本当はまかろんさんも誘いたいが、既にクラン『蒼き騎士団』に入っているからなー」

 「気にしねーで今度声をかけてみようや」

 「そーですよー。案外オッケーしてくれるかもしれませんよー」

 「確かにまかろん嬢だったら快諾してくれるかもだぜ。それで今日は、戦勝祝いの他に東斜会の結成式も加わって目出度いことが重なったな。これは飲み直しが必要じゃねぇか?」

 「そうよ! もう一回乾杯しましょ!!」


 アイリーンの提案に異論が出ることなく、即座に全員分のジョッキが掲げられ、東斜会の結成を祝う言葉と共にぶつかり合う。宴会はまだまだ盛り上がりを見せそうだった。


 ==========


 「アヤセさんからメールの返信が来ました!!」


 二度目の乾杯をしたしばらく後、マリーのステータス画面からメールの受信音が鳴り響く。席から立ち上がり、弾むような声を上げたマリーに全員の期待を込めた視線が集まった。


 「兄貴からなんて返事があったんすか?」

 「マリーさん、早く教えてください!」


 ピランとアメリーが急かし、マリーは慌ててメールを確認する。


 「ちょっと待ってください。今文面を読みます。……マリーさん、本日はお疲れ様でした。あなたが振るった『深紅の連隊旗』が王国軍勝利の原動力になったのは言うまでもありません。あなたは正に『戦場の女神』として歴史に名を残すことになったのです。戦場で見せた美しくも気高いあなたの姿を王国軍兵士達は決して忘れることは無いでしょう。……やだっ! もぉー、こんなこと書いて!」

 

 コーゾ、ピラン、アメリーが白い目でマリーを見るが、それ以外の者達は苦笑いをして話の続きを待つ。


 「……自分は、戦闘中に死に戻り、現在ポワティエの宿場町にいます。ですので、ラタスの打ち上げには残念ながら参加できません。…………え!?」

 「お、お、おい、相棒が死に戻っただと!?」

 「……あと、東斜会の件、自分のような人間にこのような話を向けてくださいまして感謝いたします。しかし、自分は代表を務める器量が不足していること、大勢の中でワイワイやるのが苦手なので、申し訳ございませんが入会を辞退させていただきます。戦闘で大分消耗して疲れましたので、この後ログアウトします。返信は少し時間がかかること御承知おきください。それではまた王都でお会いできることを楽しみにしています。皆様にもよろしくお伝えください。……………以上です」

 「………………………」

 

 食堂は沈黙に包まれる。マリーだけでなく誰も言葉を発しない。

 アヤセが死に戻った事実と東斜会の会長のみならず入会すら辞退したことを皆が受け入れるのには長い時間が必要だった。




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