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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
幕間_戦争イベントサイドストーリー

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81_まかろんのケース

 まかろんはアヤセのシャウトにより奇襲部隊の来襲を知り、クランの方針を無視して前線から引き返してアヤセとマリーの危機を間一髪で救った。その奇襲部隊を撃退した後、再度本隊に合流するためプレイヤーや王国軍のNPC兵士達から情報を集めたものの、正確な位置を把握できず結局北のラタスまで来てしまった。


 最も彼女は本隊への合流に乗り気ではなかった。クラン「蒼き騎士団」が敵の中央軍を突破して以降、普通に戦っていればどこかの陣地をまた突破したりして、その情報が司令部等に入って来るはずだが、そういった動向が一切見られないことから、まかろんはクランが戦争イベントで功績値を稼ぐこと以外の、彼女流の言い方で言えば「碌でもない」ことをしていると予想していた。


 ラタスを一重二十重に取り囲んでいた帝国軍の攻囲軍は、王国軍の第十六騎兵連隊をはじめとする機動部隊からの奇襲を受け、縦横無尽に陣形を食い破られ、反撃を断念して北のラタ大橋へ向けて逃げ出した。これを受けラタス籠城軍は、城外の王国軍に呼応して全軍出撃して敵の追撃に移っている。主力が出払ったラタスは、跳ね橋が下がり、城門も開け放たれ出入りが自由なかたちになっていたが、主戦場が他の場所に移った今はイベントに参加しているプレイヤー達の姿はほとんど見られない。

 

 「ラタスに……、来ちゃいましたね」

 「これだけ探してもいないなんて、皆一体どこにいるんスか?」

 

 まかろんに随行している男女のプレイヤーが、疲労を滲ませ本隊と合流できないことを嘆く。この二人の名は、女性プレイヤーはスミカといい、男性プレイヤーは(けい)という。クラン「蒼き騎士団」は最小行動単位を三人一組に定めており、まかろんは教育係を兼ね第四次組の新入団員二人を引率して班を組んでいる。


 「星見の台地」で自身を見捨てて敵前逃亡を図った青星をまかろんが殴りつけたことは、クランの幹部会にかけられるほどの大問題となった。これにより、まかろんは幹部の序列を大きく下げられ、更に新入団員の教育係という役割を押し付けられる処分を下されたのである(クランのトップ達は仲間を見捨てて自身の保身を図った青星よりも、衆目で仲間割れを疑われるような行為に至ったまかろんの方が、クランの規律を乱したと判断してより重い処分を下したようだ)。

 

 本来新入団員の面倒を見るのは、古参団員が主体で行い、幹部達は基礎レベルや技能レベルの向上等自身の利益になるようなことを優先させるのが常であって、まかろんに下された処分は幹部としての特権を奪う行為に等しかった。

 だが、彼女は処分に対して不平を漏らすことなく自身の役割をこなすことを第一にしていたため、それに感銘を受けたスミカや京だけでなく他の新入団員からも敬意をかち取っていた。最もまかろん本人はアヤセが語った「果たすべき役割」を彼女なりに考えて、行動に移しているだけに過ぎないと思っているのだが、こうした姿勢が彼女の謙虚さの表れだと受け取られ、更に尊敬を集める理由となっていた。

 

 まかろん達は、城門をくぐりラタスに入城する。早くも都市は平穏を取り戻し城内に至ってはNPC達が日常生活を送り始めており、一般店舗も通常営業に戻っている。その変わりようは、戦争慣れしている前線都市としてのたくましさを感じさせるものだった。


 「ラタスに入城しましたけどこの後どうするのですか?」


 スミカがまかろんに質問する。


 「…とりあえず、王国軍か衛兵隊の詰所に寄って戦況を聞く。その後はそれ次第。無理に動く必要はない」

 「そんなこと言ってると、今度は『任務に不真面目』って見なされて幹部から降格しちまうスよ。あーあ、そもそも何で班長はアヤセなんて奴を助けようとしたんスか? たかがアイテムマスターに何でそこまでしないといけなかったんスか?」

 「京っ!」

 「…それでもいい。虚栄に捉われて良くないことをするくらいなら降格した方がまし。そうしたらあなた達も別の班に編入される。あたしといるより扱いはもっと良くなる」

 「嫌です。私は班長の班にいたいです」

 「俺もそうス。誰も班長が降格なんてして欲しいと思ってないスよ」

 「…あなた達はきっと損するタイプ。だけど、同じ班にいるならあたしが責任を持ってフォローする。それがあたしの『果たすべき役割』だから」

 「班長……」

 「…だけど、京」

 「はい、何スか? ……グエッ!?」


 突然、まかろんは京の胸ぐらを素早く掴んで、冷たく言い放つ。


 「…アヤセ氏はあたしにとって、尊敬すべきひと。今度悪く言ったら絶対に許さない! それにアヤセ氏は第三次組! あなた達より先輩!」

 「は、はい、ごめんなさいス」

 

 京は萎縮して彼女に詫びるしかない。まかろんは、胸ぐらを掴んでいた手を乱暴に振り払って一人で先を進みだした。


 「大丈夫? でも、今は班長を怒らせたアンタが悪いわよ」

 「何で?」

 「班長がよく言う『果たすべき役割』って言葉、あれ、アヤセ……先輩って言った方が良さそうね、そのアヤセ先輩が言っていたことらしいから」

 「マジ!?」

 「青星さんが殴られて問題になった『星見の台地』で班長がPKにやられそうになったのをアヤセ先輩に助けてもらったそうだし、影響を受けているのは確かね。……今の私達がこうして班長と同じ班にいられるのも、言ってみればアヤセ先輩のお陰ってことになるわ」

 「あのぉー」


 おもむろに四人組の女性プレイヤーが声をかけてきたので、スミカがこれに応じる。


 「どうしましたか?」

 「あの、クラン『蒼き騎士団』の団員の方ですよね?」

 「あっ、そーっス! よく分かったスね!」

 「恰好を見れば分かります……」

 「アンタは黙ってなさい。それで、何か私達に用でしょうか?」

 「はい、私達はクラン『蒼き騎士団』にこれから物資を差し入れるところだったんですけど。それで、青星さんを紹介して欲しいので、私達をそこまで連れて行ってくれません?」

 「……」

 「ちょっと待って。あの人って……」


 女性プレイヤー達はまかろんの姿を認めて、ひそひそと話を始める。

 

 「よく見たら、青星さんを殴った人じゃないですかー? こんな人達と一緒にいたら青星さんに嫌がられるわ! あー、声かけて損したっ! 」

 「……っ! アンタ達ねー!」

 

 スミカが反論しようとするが、まかろんは片手を横に広げてそれを制する。一方、女性プレイヤー達は無言で前に出て来た彼女にあからさまな警戒と軽蔑の表情を向ける。


 「…物資を届けるって言ったけど、どこに何のために届けるの?」

 「えっ!? 団員のくせに知らないのですかぁ?」

 「多分、クランからハブられているんでしょ? 青星さんにあんなことするくらいだから」

 

 そう言いながら女性プレイヤー達はクスクス笑う。さすがにこの態度にはスミカだけでなく京も顔色を変え不快感を顕わにしたが、まかろんは一切動じない。


 「…あたし達は別行動をしている。途中でクランがどこかに動いて分からなくなった」

 「あ、ホントに知らないんだ。クランの皆さんは南の川沿いの湿原で敵のプレイヤー達と戦っていますよ。回復薬とかポーションが足りないから、それを届けるんです。相手はトップクランで大変らしいから、差し入れしたら青星さん達きっと喜ぶだろうなー!」

 「…そう。ありがとう。青星達はきっと喜ぶ」


 まかろんは礼を言いつつその場から立ち去る。ただ、その方角は城外に出て南の湿原地帯を目指すのではなく、城内に向かっていた。


 「あれぇ? 皆さんのところに行かないんですかー?」

 「どうせサボるつもりよ。クランもあんな団員がいて大変よね」

 

 女性プレイヤー達がまかろんを嘲笑うのを傍目に見ていたスミカ達が追いかけつつ、憤慨した様子を見せる。


 「あの人達、何も分かっていないくせにあんな言い方して!」

 「…それはいい。だけど思った通りだった」

 「何のことスか?」

 「…団長や青星達が戦争イベントそっちのけで、トップクランの団員達を倒そうということ」

 「トップクランが相手だったら、さすがに皆さん全員でかかっても苦戦しそうス」

 「…そう。簡単にはいかない。そしてそれは非効率で無駄なこと」

 「え? でも倒したトップクランの団員が有名人だったら、クランの名前がプレイヤーの間で有名になるスよ」

 「…もうすぐ敵の士気が0になるから、プレイヤーを相手にするより、帝国軍のNPC兵を倒すなり捕虜にすることが最優先。クランが有名になるなんて今後の戦いではほとんど無意味」

 「それじゃあ、クランには合流しないのですか?」

 「…しない。王国軍が今後も有利に戦えるようにするために、あたしはあたしの『果たすべき役割』を果たす。……あの人だったらそうするはず。不満なら今から解散。後は好きにして」

 「私は! 班長について行きます!」

 「今更解散なんてひどいス。俺もついて行きまッス!」


 新入団員にとってクランの方針に背くことは、今後の自身の立場も悪くなることも十分考えられたが、二人の反応は、そのようなことはお構いなしというばかりの即答ぶりだった。それに対しまかろんは、優しく微笑んだように見えた。


 「…そう。二人ともお金ある?」

 「へっ!? 少しだけスが……」

 「…ここで魔力回復薬を買えるだけ買う。今持っているものと合わせれば何とかなるはず」

 「魔力回復薬ですか? ……もしかして班長、はじめから買い物するつもりでラタスに来たのですか?」

 「それで班長は何をするつもりスか?」

 「…説明は後で。二人にもあたしのお金を渡すから、とにかく手分けをしてできるだけ買い込む。終わったら北門に集合」


 そう言うとまかろんは、スミカと京にルピアを送り、二人を置いて回復薬を求めるべくラタス城内を駆け出した。


 ==========


 敵の士気が遂に0になった。帝国軍は全ての戦闘行動を放棄して総退却を開始する。これに対し王国軍は間違いなく全軍をあげて追撃をするだろう。プレイヤーもそれに加わり功績値を稼ぐチャンスだ。


 「ハアハア、もう敵兵が集まっているッス」

 「…進路を確保する。スミカ、お願い!」

 「はい! 【ファイアランス+】!!」


 スミカが、繰り出した炎の槍は一直線に帝国兵の密集した人だかりに飛び込み、通過した跡に隙間を作り出す。まかろん達はその隙間が埋まる前に滑り込み、同じように進路上にいる敵兵に対し炎の槍を打ち込みどんどん前を進んで行く。士気がゼロになった今、武器を打ち捨てた帝国兵は目の前にまかろん達がいても反撃を試みることもなく、壊れた機械人形のように帝国領に向け一目散に走るのみである。


 まかろん達が魔法で帝国兵をかき分け目指していた場所……。そこはラタ森林地帯を横断する街道に架けられたラタ大橋の入り口だった。


 「橋の入り口に着いたスけど、どうするんスか?」

 「…こうする。【フィールドガード】!!」

 

 光状のドームが瞬時に三人を中心に展開され、逃げるため橋に殺到していた敵兵を次々と弾き飛ばした。


 「…これを橋の入り口前でかけ続ける」

 「で、でも、スキル【フィールドガード】にはダメージ判定が無いから敵兵を倒せませんし、これに一体何の意味があるのですか?」

 「…進路妨害。逃げ道を塞げば王国軍はより多くの敵を捕捉できる」

 「こんなやり方じゃ、功績値溜まんねぇスよ!? それでいいんスか?」

 「これがあたしのできる役割。アヤセ氏だったらこうするはず!」

 「そ、そんな無茶っスよ!」

 「京っ! アンタも覚悟を決めなさい! 班長、私は班長に魔力回復薬を渡しつつ、魔法で敵の数を減らします!」

 「…うん、お願い。でも、攻撃魔法よりも速度減退みたいなデバブ系の方が助かる」

 「ああっ、もおっ! 俺も魔力回復薬を渡す役と、手が空いたら足止め系のスキルを発動するっス!」


 三人はまかろんが発動するドームの中に収まり、いい位置取りをすべくスキル発動と移動を繰り返していく。やがて当初の目標としてきた場所まで到達すると、その場から動くことなく、魔力回復薬での回復とスキル発動による進路妨害をひたすらとこなし始めた。


 ラタ大橋は、武装した歩兵でも十人くらいは横一列で通れるだけの幅がある。しかし、まかろんが発動するスキル【フィールドガード】により、その通行は完全な遮断には至らないものの、一人か二人がやっと通れるくらいまで狭まり、橋の入り口付近は人の流れが停滞する。この小さな停滞は、初めは橋の近辺だけだったが時間が経つにつれその範囲をどんどん広げ、やがて末端まで影響が現れ始めた。


 ==========


 「回復薬が無くなりそうです!」

 

 どれだけの時間が経過したのだろうか。スキルを発動しては魔力回復薬を服用し、何度も同じことを繰り返してきた。だが、それも限界が訪れようとしている。


 スミカが悲鳴のような声を上げ、まかろんにストックが尽きかけていることを告げる。ラタスで購入した分も、傭兵隊から離脱する時にアヤセから分けてもらった分ももう使い切ってしまった。いくら攻撃をしてこないとはいえ、万単位の敵兵がこちらに向かってくる姿は迫力がある。この雑踏に巻き込まれたら、無傷では済むまい。死に戻りも覚悟しなければならないだろう。


 「…ごめん」

 「分かっています。死に戻るのが嫌だったら初めからついてきません」

 「そーッス」


 終わりが近付き表情が暗くなるまかろんに、覚悟を見せるスミカと京。この二人は戦争イベントが終わった後は、不当な扱いを受けることが無いようにしなければならない。まかろんはそう感じた瞬間、戦場に変化が起こった。


 「あれ、帝国兵の動きが止まったスよ……?」


 今まで逃げるため遮二無二橋を渡ろうと走っていた帝国兵達が急にピタリと止まり、全員その場に棒立ちになる。まかろん達はその変化に戸惑いつつ、辺りを見渡して状況を確認する。


 「班長、あれを!」

  

 スミカが何かを見つけて、自分達の正面を指さす。指さした先のはるか遠くで膨大な数の王国軍の軍旗がはためき、帝国軍を包囲する陣形を作り出していた。


 「帝国軍が王国軍に降伏したんスか?」

 「…多分そう」

 「ウソッ!? やったわー!」


 スミカと京は抱き合って喜びを爆発させる。その様子を見てまかろんは、自身の試みが上手くいったことを実感し、二人に見えないように片手で小さくガッツポーズを作りだしたのだった。



 ―――「ラタス湿原地帯の戦い」における帝国軍の降伏兵は約四万人であったが、おおよそ半分はラタ大橋を渡りきれずに王国軍に捕捉され、降伏したものである。もし、まかろんのスキルと勇気、そして「果たすべき役割」に対する使命感が無ければその結果は大きく変わっていたに違いない。この進路妨害と連隊旗旗手のマリーを守った彼女の功績を知る者は決して多くはない。しかし、趨勢を転換させるに至り、今後の帝国軍との戦いに大きな影響を与える活躍であったことは間違いなく、その評価は人知れず功績値に反映されていたのだった。




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