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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第四章_立ち込める戦雲

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76_赤い川面

 アヤセは舟橋から小舟を切り離して川を下っていたが、何とか王国領側の岸まで漕ぎつける。小舟が川岸に乗り上げ、動かなくなったので泥地の川岸に降りるが、瞬く間に膝下まで埋まり、大慌てでブーツのポテンシャルで足場を設置して抜け出す。芦が群生するこの辺りは、ブーツの特殊効果「健脚」の効果が及ばない。ラタ森林地帯から南の川沿いは、このような泥地や池沼が点在する湿地帯であり、場所によっては、うかつに足を踏み入れた者を引きずり込み、二度と浮き上がらせない底なし沼も存在する危険地帯であった。

 十秒数えて足場を一個ずつ設置する。このように慎重に芦原を抜け出してようやく沈まない安全な地面に足をつけることができたのだった。

 

 (この辺りは普通に歩いていたら、地面にそのまま嵌まって死に戻る可能性もあるからな。そんな間抜けなことにならないよう気をつけよう)

 

 そのようなことを考えつつ、後ろを振り向き舟橋の方角に目を向ける。


 舟橋の破壊箇所は各十箇所、合計で三十箇所に及んだ。

焙烙玉も不発せず全て爆裂し、ポテンシャルを付与した泥炭も期待通りの燃え方をしている。ありとあらゆる可燃物を巻き込む紅蓮の炎は、空を焦がすように高く舞い上がり、木片や舟の残骸等を下流へ押し流す川面を赤く染めている。また、その火勢は留まるところを知らず、風を起こし、音、熱、臭いは、下流に流されているアヤセのところにも伝わってきた。


 これだけ徹底的に損害を与えれば、いくら名高い工兵連隊の技量をもってしても舟橋の修復はできまい。アヤセの任務は完遂したといえるだろう。


 (……これで自分の役割は果たせたかな?)

 (モチロンなの~。やっぱりご主人はスゴいの~)

 

 他の人にとって小鳥のさえずりしか聞こえなくても、チーちゃんの労いの言葉は、何よりの報酬だ。チーちゃんが自分のことのように喜ぶ様子を見て、アヤセは大きな達成感を得られた気がしたのだった。

 

 (さて、任務も終了したから後はどうしようか?)

 (マリーっちのところに戻るのもいいの~。他に敵をやっつけるのもおススメなの~!)


 功績値は先のジェムグン族長を討ち取ったことや、今の舟橋の破壊によって、合計で500程度獲得し、アヤセの順位は現在200番台まで上がっている。これから敗走する帝国兵を追撃して、撃破数を積み上げれば更に上位を狙えるかもしれない。


 (そうはいってもまぁ、順位に拘っていないからここまでにしよう)

 (じゃあ、マリーっちと合流するの~。ちょっと探してくるから待っててちょ~だいなの~)

 (王国軍の大筋の動きが分かればいいから、あまり遠くに行かないでね)

 (心配だからそんなに長い時間離れないの~。ご主人も迷子になっちゃヤなの~)

 

 主人泣かせなことを言い、チーちゃんは肩から飛び立つ。そしてアヤセの頭上を一回りしてバヤン川に沿って飛び去った。


 (さて、王国軍の行軍の邪魔にならないように、チーちゃんの報告を待ちながら川沿い拠点を目指して移動するか)


 戦況を確認してみたら、王国軍の士気は下がることなく100を維持している。マリーが深紅の連隊旗を前線で絶え間なく振り続け、味方を鼓舞して士気の維持に腐心している様子が窺える。一方で帝国軍の士気は29まで低下していた。


 (マリーさんの方は順調のようだな。これなら功績値も大分稼げただろう)


 戦場は既に掃討戦に移行していた。王国軍の右翼軍は籠城軍と協力してラタス攻囲軍を追撃しているし、中央軍と左翼軍はバヤン川沿いを逃げる敵を追い込むべく、積極的に湿地帯に軍を動かし先回りをしようと目論んでいる。ただしアヤセが先ほど身をもって知ったように、湿地帯は行軍に適さない場所であるから、その歩みは慎重なものになっていた。


 (まぁ、動きが遅いのは敵も同じこと、舟橋が無ければバヤン川を渡れず、川沿いを上流に向けて逃げるしかない。湿地帯から回り込んだ王国軍が逃走する帝国軍の先頭に追いついたらそれで終わりだ)


 バヤン川はラタス周辺では、川幅が優に一キロメートルを超える大河となるが、これは上流から下流にかけて幾筋もの支流が合流することによって水量を増やしているからである。

 上流に遡ればかつて、アヤセが帝国領から王国領に越境したような乾季において渡渉可能な地点が存在し、距離があるもののそこまで到達できれば帝国領への退却は一応可能である。

 アヤセが今いる川沿いは比較的ぬかるみに足をとられることなく、湿地帯の危険をそれほど考慮する必要が無い道のようになっているので、帝国軍はこの進路で上流部を目指しているようだった。

 

 (左翼軍の司令部がどこにいるか分からないが、おそらく前線兵士にバフを付与する関係上この進路を選択しているかもしれないな)


 チーちゃんの視覚共有でもまだマリー達を見つけられなかったが、この進路だと途中に帝国軍の舟橋の防御陣地(既に放棄しているだろうが)もあり、逃げる帝国軍と追う王国軍の間で戦闘が行われているだろうから、司令部もその周辺にあると推測して、アヤセは川沿いを進むことにする。


 実際に川沿いは、戦闘が継続して繰り広げられているようで、その様子は後方拠点に入るとはっきり分った。

 

 「負傷兵はこっちに運べ! そっとやれよ!」

 「矢弾が足りないぞ! どこにある?」

 「さっき第八師団の所属部隊が根こそぎ持っていったぞ!」

 「何だと! あいつら、独り占めなんかして何を考えているのだ!!」


 道々には前線の後方支援のため拠点が設けられており、負傷兵の救護や軍需物資の補給のため輜重隊が前線以上に忙殺されていたが、アヤセがたった今到着した拠点は、おそらく前線に一番近い場所なのかもしれない。送られてくる負傷兵の数や、拠点の端っこで発注される納品等のクエストの量が他と比べて多いのが特徴的だった。


 (戦況は、王国軍に有利だし、連隊旗の「鼓舞激励」の効果はここにも及んでいるはずなのにこの状況を見る限りだと、王国軍が苦戦しているように見えるがどうしたのだろうか?)


 アヤセは現地発注された回復薬、ポーション及び矢弾(いずれも帝国軍の対岸の拠点に忍び込んだ際にインベントリに回収した物。思わぬところで役立ったものだ)の納品クエストをこなしつつ疑問を抱くが、そんなことを考えていると、近くで怒鳴り声が聞こえてきた。


 「おい、回復薬と魔力回復薬を早く寄越せ! 俺達を前線に戻らせろ!」

 「そんなに怒っちゃダメだよ。でも、弱い君達より強い僕達の方が戦力になるから、早いとこ持っている物出してもらって、前線に戻らせて欲しいなー」

 「青星さんとツルガさん?」


 上から目線でアイテムをせびる弓士と周囲にわめき散らす魔法使いは、クラン「蒼き騎士団」の幹部である青星とツルガだった。

 

 「うん? あ! アヤセ……さん!?」

 「……っ! アヤセ氏!」


 アヤセに姿を認めた二人は、あからさまに嫌そうな顔をするが、二人で後ろを向きひそひそと話を始める。アヤセは人前で内緒話をする二人の態度にあまりいい思いをしなかったが、何も言わずこちらに向き直るのを待った。

 そんな二人はしばらく小声で話を続けていたが、アヤセに向き直り平静さを取り繕った態度で接してきた。


 「こんなところで奇遇だな。俺達は今、前線に戻るため補給を受けているところだ」

 「アヤセさんは何をしているの? まぁ、『あの』アイテムマスターが前線で戦えるとは思えないから、裏方でセコセコ頑張っているのだろうけど? それくらいしかできなさそうだしね!」

 「おいおい、青星! そんな言い方は無いだろう? アヤセ氏だって、まぐれで前回、高レベルのPKを倒しているし、それに今回だってたまたま後方にいたお陰で、敵の奇襲を見つけられたのだから、運だけは恵まれているのだろうよ。少しは認めてやれ」

 「あー、シャウトがうるさかったやつ? そうだね! 『運も実力のうち』って言うしね! でも、それだけじゃあ、本当に実力があるって言えないんじゃないの?」

 「……」


 「アイテムマスター」と職業をわざと強調して、周りに聞こえるように大声で話す青星は相変わらず爽やかな笑顔で失礼なことを言い、ツルガも尊大な態度を隠そうともしない。二人が先のPK討伐作戦でライデンを撃退したことや今回の奇襲の阻止に貢献したアヤセの活躍を面白く思っていないのは明らかだった。


 「仰るとおり、自分は今回のイベントでは前線に出ず『後方』で任務をこなしていました。途中でまかろんさん達にも助けられて、何とか死に戻らずに済んでここにいます」

 「えっ? まかろんちゃんって、アヤセさんと一緒にいたの?」

 「ええ。しかし、奇襲部隊が壊滅した後は、本隊と合流するということで、他の団員に強制的に連れていかれましたが……」

 「全く、相変わらずだな。団体行動を乱してまで何をしている?」


 (まかろんさんは、自分のシャウトの内容を信じ、奇襲部隊の脅威を察知して、わざわざクランの方針に反してまで駆けつけてくれたのか。それは知らなかった)


 あの時、ピラン達の加勢とまかろんのスキル【フィールドガード】が無かったら今頃アヤセとマリーがどうなっていたか分からない。彼女の理知的な決断と勇気ある行動が結果的にキーマンのマリーを死に戻らせることなく、その後の王国軍が躍進する要因となったのだ。


 「まかろんさんは、ある意味勝利の立役者と言えるかもしれません」

 「はぁ!? ないない、そんなこと無いよ!」

 

 アヤセのまかろんに対する評価に青星とツルガはせせら笑う。

 

 「実際にその場にいない人には分からないと思いますが、自分は本気で言っています」

 「ああ、そのことはもういい。しかし、あいつはどこで油を売っている? こんな大事な時に戻ってこないなんて。だから、新人教育なんて任せるべきでは無かったのだ」

 「彼女のことですから、どこかでまた臨機応変な対応をしているかもしれません。それで、皆さんはこの後方拠点で何をされているのでしょうか?」

 

 見れば、この場には青星とツルガだけでなく青と白と黄色の防具をまとっているクランの団員と思しきプレイヤーが少なからずおり、皆疲労の色を見せ地面に座り込んでいる。本来であれば彼らほどの実力者だったら掃討戦の先頭に立ち、破竹の勢いで功績値を荒稼ぎしているはずなのだが、何故これほど損耗して後方拠点において、僅かな量の回復薬を求めてNPC兵を相手に怒鳴り散らしているのかアヤセには理解できなかった。


 アヤセの指摘は二人にとって聞かれたくない事柄だったようで、再び嫌そうな顔をするが、ツルガがしぶしぶ説明をする。


 「……敵の殿(しんがり)だ。相手は舟橋の防御陣地を守っていた精鋭で、舟橋が原因不明の炎上爆発で吹き飛んだあと、陣地に火を放って後退を始めた。俺達はそれを追っているが、その中に混ざっているプレイヤーに手を焼いている状態だ」

 「そんな手強いプレイヤーがいるのですか?」

 「アヤセさんは後ろにいたから知らないだろうけど、トップクラン『ブラックローズ・ヴァルキリー』の幹部だよ。名前は確か、いわてつ……」

 「がんてつ、ですね」

 「そうそう、それ! ホントにしぶとくて困るよ! だけど、他にもあのクランの団員がいたけど、僕達だけで十人近くやっつけたんだよねー」

 

 青星は得意顔で自慢をするが、目の前にいるアヤセも、クラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」の団員をなるるんやクリード達を含め一人で十人以上倒している。しかし、当人がそのことに触れないので二人は知る由もない。

 

 「あいつたった一人のせいで、うちの団員の半分近くが死に戻るか戦闘困難になった。クソッ! 全くもって忌々しい!」

 「……」


 ツルガが心底悔しそうに悪態をつくが、アヤセはそれを右から左に聞き流す。思考は既に別のことに及んでいる。


 クラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」に在籍時、職業がアイテムマスターというだけで生産職を含めほとんどの団員達から軽んじられ、相手にされなかったアヤセであるが、岩鉄はポテンシャルについて評価しており、自身に対する接し方も他の者に比べ好意的だった。最もこれは、彼が忠誠を捧げるエルザ団長がアイテムマスターとポテンシャルの将来性に期待していたので、それに同調していたという面もあるが、事情を知らないアヤセにとっては、序列第三位の大幹部にポテンシャルのことで意見を求められ、更に述べた意見に対して賛同を示してくれた際は、自身の存在を認めてもらえたように思えて非常に誇らしく感じたものだった。


 (そうか、岩鉄さんはこの戦場にいたのか……。敗戦の後始末をする必要は一切無いのに殿を一手に引き受けるなんて、責任感の強い岩鉄さんらしいな)


 アヤセは、孤軍奮闘する岩鉄に思いをはせる。

士気の差をものともせず何度もクラン「蒼き騎士団」を撃退する様子から、岩鉄は王国軍の完全勝利の前に立ちはだかる大きな障壁なのは間違いない。

 しかし、排除しなければならない存在だと認識する一方で、岩鉄がどの様な気持ちで、現在絶望的な戦いを繰り広げているのだろうかとその心情を考えずにはいられなかった。



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