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07_王都到着

 ゲンベエ師匠の鍛冶場を発ってから、二日が経過した。


 アヤセは、王国内の街道を歩いている。

 時刻は昼前。日中の王都到着を目標に現在歩みを進めている。

 当日は、ゲンベエ師匠の鍛冶場に泊めてもらえた。思いもよらない宿泊場所を提供してもらうことができ、お陰で安全にログアウトができたので、非常に助かった。


 あの夜、カナエのペンダントを手に取り男泣きしたゲンベエ師匠は、出立の際にアヤセに礼品を渡した。


 =個人アナウンス=

 ゲンベエ師匠から以下のアイテム等が贈呈されました。インベントリに収納されます。

 ・裁ちばさみ++(生産道具:服飾)

 ・玄翁+(採取道具:鉱石)

 ・白パン(食料品)×15

 ・10,000ルピア

 ・スキルポイント×10


 「アヤセよ、礼を言うぞ。これらはうちで作ったものだ。取っておけ。それと、またいつでもここを訪ねて来い。王都まで気を付けて行けよ」


 アヤセは、そう言って送り出してくれたゲンベエ師匠のことを思い返す。あの時は大の男が唐突に涙を流すのを目の当たりにして驚いたが、ペンダントを手に取った師匠は、その時に何か特別な想いが去来したのだろう。果たして過去師匠に何があったのだろうか。イベントのストーリーが全く分からないのが惜しまれる。王都に落ち着いたらイベントについて調べて回ろうと思うのだった。


 王都も近くなったのか、周辺にプレイヤーの数が増え始めていた。最近はアヤセのように帝国から王国へ移り住む者が増えているようで、王都もまた、賑わいを見せているとのことだった。その証という訳ではないが、街道沿いで採取に勤しんでいるプレイヤーがいたりモンスターと戦うパーティーの姿も多く見られた。


 時刻は昼を過ぎた頃であるし、満腹度も40%をきったので、昼食にする。街道を少し外れたところに木があったので、木陰に腰を下ろした。

 インベントリからゲンベエ師匠より貰った白パンを取り出す。街道沿いは広い草原が広がっており、晴れ渡る空と時折吹くそよ風が心地いい。白パンの風味も良く、まるでピクニックに来ている気分だ。


 (しかし、風の感触といい、食べ物の味といい、本当にリアルだな。ゲームの世界であることを忘れてしまいそうだ)


 ゲームの完成度に改めて感心する。最も、モンスターのリアルさは、そこまで凝らないで欲しいところであるが……。


 食事も終わり、王都へ向け出発しようと周りを後片付けしていたが、突然、木の向こう側で大きな物音がした。モンスターかと思い、刀の鍔元に手をやり音のする方へ行ってみると、そこでは既に戦闘が始まっていた。

 敵は、プレーリードッグが一匹。レベル16のモンスターでこの辺りだと強敵の部類に属する。名前から北米大陸の草原地帯に生息するげっ歯類の動物を想像してしまうが、このゲームでは、文字通り草原の野犬のことを指す。

 プレーリードッグに対抗するのは、一人のプレイヤーで、女性のようだった。種族は身長の低さからハーフリンクと思われる。うなじ辺りで束ねている銀髪は背中まであり、可憐な印象を与える少女であった。


(あれは、テイムモンスター? それとも召喚獣か?)


 少女には、ウサギと猫と亀のようなモンスター? が付き従っていて、敵と戦っている。モンスターを使役する職業は、テイマーという職業と、魔法によって召喚獣を呼び出すサモナーという職業が存在する。いずれもお気に入りのモンスターをお供にして戦えるため、人気のある職業であった。


 少女は、ロッドを振り回し敵にダメージを与えようと躍起になっているが、上手くいかない。攻撃を躱されては、敵から反撃を食らいダメージを蓄積させていく。モンスター? の攻撃も当たってはいるものの、ダメージは微少のようだった。亀に至っては、動きが全く追い付いていない。


 (これは、どうするか?)


 先のクランからの追放や、PKに遭った経験から、アヤセにはプレイヤーとの交流を極力避けたいという気持ちがあったため、当初、助太刀の申し出をためらっていた。しかし、この状況を放ってくことはできないと思い、声をかけることにする。


 「加勢します。参戦要請を出してください」

 「えっ? は、はい! お願いします!」


 少女は、突然の申し出に驚いていたが、すぐにそれを受け入れる。


 =個人アナウンス=

 マリーさんから参戦要請が来ています。承諾しますか?


 要請を承諾し、戦闘に参加できるようになる。アヤセは承諾を回答する前から刀の鍔元に手をかけ走り出している。ポテンシャル「鞘の内」により、加速されたアヤセは、瞬時に目前に迫り、刀を横に抜き付け、マリーに肉薄しようとしていた敵の顔面を両断する。この一撃で敵は斃れた。最後に血振りして納刀する。全ては一瞬で片付いた。


 「す、すごい。あっという間に倒しちゃった……」


 少女が驚きの表情を浮かべつつ、アヤセにお礼を言う。


 「あ、あの、助けてくれてありがとうございます。私、マリーって言います」

 「急に割り込んでしまい、失礼しました。自分はアヤセです」


 二人はそれぞれ名乗り合う。マリーは、柔らかな表情と銀髪が特徴的で、美少女だと言えば誰もが納得する顔立ちをしていた。服装は、茶色の皮のエプロンに白いシャツ、黒のパンツにシューズタイプの履物といったいでたちをしている。見た目は、モンスターを使役するテイマーやサモナーといった戦闘職ではなく、生産職のように見えた。


 「アヤセさんって、お強いのですね。職業は剣戦士さんですか?」

 「いいえ、違います。自分の職業はアイテムマスターです」

 「えっ? アイテムマスターって『あの』!? ……あっ、ご、ごめんなさい。でも、プレーリードッグをあんな簡単に倒していましたよね?」

 「ああ、それはこの刀のお陰ですよ。これの性能が良いので、自分の実力以上の攻撃ができるのです」

 「そうなのですか。でも、表現が正しいのか分かりませんけど、刀の使い方がとても綺麗でしたよ」

 「そうでしょうか? 実際に武道の経験がありますから、それがゲームで活かされているのかもしれませんね。それで、マリーさんも御無事のようですし、自分はここで失礼させていただきます」


 成り行きでマリーの戦闘に参戦したアヤセであるが、やはり積極的にプレイヤーと関わるつもりは無かった。本来の目的地である王都に向かうため、マリーとの話を切上げようとする。


 「あ、待ってください。何かお礼を……」

 「経験値とドロップアイテムをいただいていますから、お礼は結構です」

 「それは、戦闘に参加した人全員に貰えますし……」


 しばらく押し問答する二人であるが、不意に重低音が響き渡る。その音が聞こえた瞬間、マリーは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。ゲームでも空腹になるとおなかが鳴る仕様になっているようだった。


 「朝から何も食べていなくて……。満腹度が18%になってしまいました……」

 

 マリーは恥ずかしそうにうつむいたまま話す。


 「18%!? え、えーと、食料はお持ちでしょうか?」


 マリーは首を横に振る。

 それを見てアヤセは黙ってインベントリから白パンを取り出す。


 「!」


 白パンを一点に見つめ、動きが止まるマリー。


 「満腹度が30%を割るとHPが減ってステータスも下がります。どうぞ食べてください」

 「……いりません。食いしん坊キャラみたいに思われるのなんて嫌です」

 「何を言っているのですか。キャラとかの問題ではなくて、食べないと戦闘どころか歩くことさえできなくなりますよ」

 「いりません。食べたくないです」


 再びマリーのおなかが低い音を響き渡らせる。


 「いりません。欲しくないです! 例えバターの芳醇な香りが食欲をそそり時間が経っても柔らかさが変らない職人の仕事がきらりと光るもちもちフワフワな珠玉の白パンであっても、私は、私は、絶対に誘惑に負けません!」

 「あなたは一体何と勝負しているのですか? さあ、早く食べないと本当に死に戻ることになりますよ」

 

 マリーは急に意固地になり、アヤセが差し出したパンを拒んでいる。言葉とは裏腹に、よだれを垂さん勢いで白パンを見つめている目が少し怖い……。何故、こんなに頑なになるのだろうか?傍らでモンスター達も心配そうに見ている。


 「ダメよ、ダメよマリー。初対面の男の人からタダで食べ物なんかもらっちゃ。『この娘って食べ物で釣れるんだー、チョロイね(笑)』って思われて幻滅されちゃうのよ。せっかく親切にしてくれた少しかっこいいかなって思った男の人にそう思われてもいいの? 嫌よね? そうよ、分かってくれた? 偉いわねーさすが私。だから我慢よ。ガマンするのマリー!」


 (早口でブツブツと何か言っているけど、内容はほとんど理解不能だ。もしかしたら、あまりの空腹状態に思考が乱れ始めているのかもしれない。そうだとしたら、早く何とかしないと!)


 「マリーさん、突然ですが、トレードして欲しいものがあります」

 「な、何ですか急に? 何をトレードするのですか?」

 「プレーリードッグの牙が欲しいのです。お持ちですよね?」

 「はい……? さっきのドロップであったと思いますが」

 「たった今、このアイテムがどうしても必要になりました。すぐに譲ってください」


 =個人アナウンス=

 マリーさんへトレードを申し出ます。条件を提示してください。


 アヤセは交換条件に白パン五個を提示する。ちなみに「プレーリードッグの牙」は名前から察せられるとおり、先ほど倒したモンスターのドロップアイテムである。


 「白パン!? 物の価値が釣り合っていませんよ!」

 「マリーさん、これは『取引』です。自分は今すぐ、どうしてもプレーリードッグの牙が欲しい。それには白パン五個なんて安いものです。自分を助けると思って、ここはこのトレードに応じてください。お願いします」

 「でも、アヤセさんに助けてもらえなければ、ドロップも手に入っていませんし、必要でしたらプレゼントしますのに」

 「そこは、マリーさんと同じで、自分も無償の提供を受けて『貸し』を作りたくないのです。マリーさんが白パンを受け取ってくれない理由は、多分、タダで物の提供を受けることに抵抗があるのではないかと感じました。ですから、今回のように、トレードを利用したりして、お互いに足りない部分を提供し合えれば、貸し借りもありませんし、苦境に対し一緒に立ち向かえると思ますが、いかがでしょうか?」


 (マリーさんにもマリーさんなりにプライドがあるのだろう。無償で食べ物を提供することは、見方によっては、「恵んでやる」という風にも見えるし、現実世界でも人によっては抵抗を感じるかもしれないな。貰うのではなく、取引で手に入れたのなら、引け目も感じにくいだろうし。最も、モンスターの牙は錬金の素材になるから、こちらにとっても全くメリットが無い訳でもないが)


 マリーは、少しの間、考え込んでいたが結論を出した。


 「分かりました。私の気持ちも考えてくれてありがとうございます。…確かにお互いの足りない部分を補い合うってとても素敵ですね」


 その後、顔を赤らめ小声で言葉を続ける。


 「まるで恋人同士みたい……」

 「?」

 「あっ、いえ別に!私もアヤセさんみたいな、強くて思いやりのある人に『苦境を一緒に乗り越えたい』と言ってもらえて、とても嬉しいです。ここで出会ったのもきっと運命ですよね! ……ふつつか者ですがよろしくお願いします。あっ! でも始めは友達からですよ!」

 「ああ、フレンドですね? 是非お願いします。ですが、始めはトレードからにしましょう」

 

 (まぁ、悪い人じゃなさそうだし、フレンドは多い方がいいだろう)


 こうして、お互いの認識にズレがあったものの、二人はトレードと、ついでにフレンド登録を無事に済ませたのだった。


 白パンを受取ったマリーが、幸せそうな顔をして、それを全て平らげるのにさほど時間を要さなかったが、途中で様々な話を聞くことができた。

 マリーからは、自身はβ版からの古参で、王都に拠点にしていること、職業は、裁縫師であること、基礎レベル35なので、サブジョブ(注:基礎レベル30以上で、メインの職業とは別にもう一つ補助的に職業を選択できること。ステータス上昇に影響を与え、選択した職業専用のスキルを習得できたり、取得に必要なスキルポイントが割引される等の恩恵が得られる)をテイマーにしたこと、テイムモンスターは、ウサギのラビちゃん、猫のスーちゃん、亀のターちゃんの三匹であること等が語られた。

 特にアヤセが興味を引かれたのは、マリーがβ版以来からの古参プレイヤーありながら、ブランクが無いのにも関わらず基礎レベルが低すぎる点だった。今まで出会ったβ版からの古参プレイヤーの基礎レベルは、生産職でも60は下らなかったのだが、何故、マリーはそこまで基礎レベルが低いのか、アヤセには理由が分からなかった。


 「自室で服飾品を作っていることが多いですね。今日は欲しい素材があったので、久しぶりに外に出ましたが、たまたまプレーリードッグと戦闘になって、アヤセさんに助けてもらいました。作った品物を買い取ってくれるクランとは付き合いがありますが、所属はしていません」


 (作業に没頭して、部屋に閉じ籠もっていたから基礎レベルが上がらなかったのか。経験値は、モンスターを倒すだけでなく、生産活動でも得られるけど、それだけで35まで上がるものなのか? クランのレベリングに参加せず、自力で稼ぎ出した経験値だけでこの基礎レベルに到達しているならば、寧ろ凄いことなのかもしれない)


 Tewのプレイヤーは様々な目的を持ってゲームをプレイしている。クラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」のエルザ団長のように常に攻略組のトップを目指す者、ゲームでの擬似生活やNPCとの交流を楽しむ者、(行為自体は感心しないが)PKで歪んだ愉悦に耽る者等がいるが、中には美味しい食べ物をアレルギーや肥満を心配することなく、ひたすら食べ歩くことを目的にしたり、採取や釣り、製作といったゲームの本筋からやや逸れて趣味に没入する者も少なからず存在する。特に製作の作業工程は、手間暇かけて凝れば凝るほど対象物の性能、品質及び価値に影響が出ると言われ、ゲームのリアル性が評価される理由にもなっている。勿論オートでの製作もできるので、知識や経験が無い者でも生産職を楽しめるのだが、実際に現実世界でも第一線で活躍する有名なアーティストやクリエイターが自己研鑽を目的として、生産職に就いてプレイしているとの噂もあるくらいだ。


 (マリーさんは、裁縫師として実力が高そうだな。現実でも、ファッション関係の仕事に就いていたりするのだろうか?)


 そのようなことを考えながら、話は続いていく。


 「ちなみに、欲しい素材は手に入ったのですか?」

 「それが、モンスターに邪魔されて、思うように採れなくて……」


 やはり、マリーも生産職の御多分に洩れず、戦闘は苦手なようだ。アヤセも「無銘の刀(消刻)」が手に入るまでは、レベルの低いモンスターとすら碌に戦えず苦労の連続だった。


 (フレンド登録しておいて何だけど、プレイヤーに深く関わりを持つのは、まだ抵抗が残るな……。それに王都へは今日中に着きたいところだ。でも、マリーさんのあの戦いぶりでは、今度プレーリードッグに出くわしたら、レベル差も関係なく、間違いなく死に戻ることになるだろう。そうと分かっていて、放っておくことはやはりできない)


 「それで、素材は何を探しているのでしょうか?」

 「今欲しいのは、『野生の綿花』ですね。この辺りに採取ポイントがあります。あと、種類は何でもいいのですが、モンスターの毛皮もできれば欲しいです」

 「相談なのですが、自分とまた『取引』しませんか?」

 「取引ですか? どういったものでしょうか?」

 「自分は、今日中に王都に到着したいと思っています。王都に住んでいるマリーさんでしたら、ここから王都までの道を知っていると思いますので、道案内をお願いしたいのです」

 「街道を東に行けば王都ですけど……。道案内は必要ですか?」

 「ええ、マリーさんと『取引』したいので、是非お願いします」

 「あっ、何となく分かりました! それで、アヤセさんは私に何を提供してくれるのですか?」

 「時間が許す限りマリーさんの採取の手伝いと、護衛を請け負います。ちなみに、自分は『採取』と『農業』の技能レベルが、それぞれ6と4なので、場所次第ですが植物系素材は、★3から5くらいのものを採取できますよ」

 「本当ですか? それでしたら、この取引、私からも是非お願いします!」


 =個人アナウンス=

 マリーさんより、パーティーへの招待が来ています。


 アヤセは、招待を承諾した。

 二人は、顔を見合わせ、笑顔を交わす。


「取引成立ですね。それで、いつから採取を始めますか?」

「もちろん、今からです!」


 ========== 


 採取は思った以上に捗った。草原を歩きつつ目に付いた素材を採取して、途中で出没するモンスターをアヤセが難なく駆除していく。やはり、パーティーを組むと効率的だ。


 アヤセは、自己申告したとおり植物系★3の素材をコンスタントに採取した。この「★」は、素材のグレードのようなもので、10段階表示で数字が高いほど質も上がり、生産を行った際に、完成品がより高品質で高価値になる。「★」の数が高い素材を入手するには、プレイヤーの技能レベル「採取」と素材の対象となる技能レベルが影響する(例えば植物系素材を採取する際は「農業」が影響する)ほか、エリア毎に設けられている制限も考慮しなければならない。素材のグレードは、居留地域から離れた場所ほど上がる傾向があるため、王都からほど近いこの周辺では、★3くらいがどうやら上限だと思われる。


 一方マリーは、必要な技能レベルがそれほど高い訳では無いようで、★1の素材を採取している。本人は採取が苦手なようだが、代わりにテイムモンスター達が★2から3の素材を採取して回っていた。意外だったのは、亀のターちゃんの、戦闘時の鈍重な動きから打って変わり、軽快なフットワークで集めた素材が、三匹の中で質・量共に一番優れていたことだ。


 素材「野生の綿花」と各モンスターの「毛皮」は、アヤセの獲得分もプレゼントしたため、マリーが望む以上の量を得ることができた。今は、素材集めを終え、王都に向けて二人とテイムモンスター達は歩いている。


 「素材を採取するテイムモンスターは初めて見ました」

 「本職のテイマーの人達は、やっぱり戦闘向きの子達を選ぶみたいですね。でも、私は、素材を多く集めたいので、採取ができる子達を選びました。今では、私より良い素材を集めてくれますよ」


 そう言って、ウサギ型のモンスター、ラビちゃんを抱きかかえ、背中を撫でる。その様子を見ると、マリーがテイムモンスター達に愛情を惜しみなく注いでいることが窺える。


 「マリーさんにとって、このモンスター達は切っても切り離せない存在なのですね」

 「もちろんです! みんな大切な友達です」

 「マリーさんを見ていると、自分もテイムモンスターが欲しくなりました。サブジョブはテイマーにしようかな?」

 「スキルポイントに余裕があれば、初級のテイム術が取得できますから、無理にテイマーになる必要は無いかもしれませんよ。他にも職業は沢山ありますし」

 「そうですね。最も自分自身の基礎レベルが30になるまで、まだまだ先が長いですから、これから時間をかけて考えてみます。それで、テイムモンスターを獲得するには、やはり捕獲することが多いのですか?」

 「捕獲している人がほとんどだと思いますが、私の場合は、テイマーギルドで卵を買いましたよ」 

 「卵ですか……。ラビちゃんとスーちゃんは、ほ乳類のような気が……」

 「そ、それは、そうなんですが、ギルドでは、ゴーストの卵とかも売っていたので、『モンスター』で一括りしているのかもしれませんね」

 「ま、まぁ、確かに、マリーさんが先ほど食べていたパンを分け与えた時も平気で食べていましたし、大雑把に「モンスター」で括っているかもしれませんね……。そう言えば、『思念』と名前のつくアイテムを手に入れたのですが、これもテイマー関係のアイテムでしょうか?」

 「『思念』は召喚獣ですね。職業はサモナーです。テイムモンスターの卵みたいなものですよ」

  

 (入手した「タマモの思念」はサモナーに関連するアイテムだったのか。初撃破報酬だから、価値はそれなりだと思うが。サモナーのスキルを取得するのも良いかもしれないな)


 「召喚獣の思念を手に入れるのは、モンスターをテイムするより難しいそうですね。私もギルドでそれを聞いてテイマーを選ぶことにしました。それで、思念はどこで手に入れたのですか?」

 「実は先日、運悪くユニークボスに遭遇しまして……」


 二人の会話は弾む。NPCとの会話も有益な時間を過ごせると思うが、やはりプレイヤーとの情報交換は、新鮮な情報も入って来るし、刺激を受ける。マリーとフレンドになって良かったとアヤセは思った。


 「アヤセさんと話していると王都に戻ってくるのも、いつもより早く感じますね。ほら、見えてきましたよ」


 マリーは、街道の先を指さす。指さした先には、夕焼けに映える高い城壁と等間隔に並ぶ監視塔がそびえている。城壁の周りには幅の広い堀が広がっており、遠くから見ると城壁と監視塔が堀に浮かんでいるようにも見える。

 

 (あれが王都か。遂にここまで来たんだ……)


 アヤセの旅の終着地で、そして新たな生活の始まりの地である王都。何度にも及ぶ失敗と挫折、強敵との死闘、一期一会の貴重な出会い……。長い旅路を経て、ようやくアヤセはたどり着いたのだ。



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