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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第四章_立ち込める戦雲

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68_フィールドシャウト!


 「第一戦終了後の戦況報告が出ました!」


 走りながらログを確認していたアヤセが、状況をマリーに知らせる。


 =「ラタス湿原地帯の戦い」参戦者アナウンス=

 第一戦終了 戦況報告

 〇士気(開戦時/現在)

  王国軍 100/95

  帝国軍 80/73


 〇参戦プレイヤー数(全数)

  王国軍 2,362(平均基礎レベル27)

  帝国軍  212(平均基礎レベル62)


 〇NPC残兵数/損害数

  王国軍 106,680/23,320

  帝国軍  64,654/45,346


 〇特記事項

  ・帝国軍全軍後退を開始

  ・第二戦の開始は5分後


 「戦況報告を見る限りだと、思っていた以上に王国軍は健闘をしていますね」

 「そうなのですか? 戦争イベントは初めてですので、数字だけで見ても私にはよく分かりませんが、それは良いことなのでしょうね」


 アヤセが言う通り、王国軍は奮闘しているといえる。その理由は二点ほどあり、一つは、士気の差を大きく広げたことである。攻撃側(攻め込んだ側)は、初期の士気値は低めになるが、帝国軍の士気を着実に削り、22の差をつけたことは、基礎レベルをおおよそ20カバーできることを意味している。これにより王国軍の参戦プレイヤーの平均基礎レベルは49相当になり、帝国軍側のプレイヤーとのレベル差はまだあるものの、そう簡単には死に戻らなくなるだろうし、更に士気差による基礎レベルの上乗せはNPC兵士も対象になるので、王国軍に参戦しているプレイヤーは、第二戦でその効果をはっきりと実感できるだろう。


 二つ目は参戦プレイヤーの人数である。戦争イベントにおける全参戦プレイヤー数は、平均一万人程度であるので、今回のイベントの参戦者数はそれより少なめではあるが、元々基礎レベルの低い第三次組や第四次組のプレイヤーが参加者の大半を占める王国軍では、これでも集まった方と言える。帝国軍にはトップクランに所属する高レベルのプレイヤーが多数参戦することが知れ渡っており、イベントに参戦したところで、高レベルプレイヤーによって簡単に死に戻らされる可能性が高いので、イベントへの参加自体を諦めてしまうことが最近の傾向としてあったのだが、それに反して二千人以上が自発的に帝国と戦うことを選択した意義は大きい。このことは帝国の王国支配を望まないプレイヤーが意外にも多いことを物語っている。一方で帝国軍の参戦プレイヤー数が不自然に少ないのが気になるところだが、敵が少なければ少ないほど好都合であることには変わりないので、今回は幸運として喜ぶべきことであろう。損害数に含まれるNPC兵は、六割程度が負傷兵の扱いで生存し、第二戦で復帰するので帝国軍はおおよそ九万人程度残っている計算になるが、それでも王国軍がNPCの残兵数を温存できたことは先ほどの点同様、第二戦で大いに活きてくる。


 王国軍は、プレイヤーは敵兵を多く倒し、NPC兵士は敵プレイヤーの猛攻を凌ぐという、それぞれの役割を果たし、帝国軍との間で各種の差を広げることに成功した。しかし、喜んでばかりはいられない。一見有利に見える戦況は、敵の思惑どおり事が進んでいる証拠でもあるからだ。


 「最も、この状況は必ずしも好ましいものではありません。奇襲が成功したら帝国軍は反撃に転ずるでしょう。そうなったら、戦況はあっという間に逆転してしまいます」

 「確かに、帝国軍が後退を始めたって書いてありますね。しかも第二戦は五分後なんて、私達が間に合うかちょっと厳しいです……」

 「この時間は、リアルタイムの五分なので、ゲーム時間だとおおよそ一時間半くらいですが、猶予はありません」


 アヤセとマリーは、帝国軍の奇襲部隊が王国軍左翼の後方に迫っていることを伝えたかったのだが、まだそれに至っていない。大勢のNPC兵士が作り出す陣形が目視でき、勇壮な行進太鼓に鬨の声、銃器の発砲音や武器を激しく打ち合う音が遠くから聞こえてくる。目下王国軍は帝国軍を追うことに集中し、背後のことを気にかける者はいない。何とか第二戦が始まるまでに、危険を警告することができないと、手遅れになってしまうのだが、残された時間と距離を比較すると、それが極めて困難なことであると実感させられた。


 「……! アヤセさん、あそこを見てください!」


 後ろを振り向いたマリーがアヤセに注意を促す。アヤセが目をやると、二人が走ってきた方向から土埃が高く舞い上がるのが見えた。


 「ええ、帝国軍です!」


 帝国軍が機動力にとにかく重点を置き、敵の陣容を何としても食い破ろうと王国軍に迫る勢いは、ありありと伝わってくる。今はまだ遙か後方で土埃が上がっている程度だが、次第に大きくなる騒音は不安を掻き立てる。敵の騎兵やモンスターで混成された部隊の規模はこの音だけでも容易に想像がつく。


 「さすがに、五千も数を揃えると地響きがよく伝わってきますね」

 「すごい音……。これじゃあ、すぐにでも追い付かれちゃいます」


 マリーは憂慮を顔に顕すが、王国軍は帝国軍の接近にまだ気付いていない。


 「やっぱり、旗と勲章は返します。私のことは構わず、アヤセさんは先に行くべきじゃないでしょうか?」

 

 マリーは、歩みの遅い自身を切り捨てて、アヤセだけでも先行するように促す。しかしアヤセはそれに同意を示さなかった。

 

 「いいえ、自分はマリーさんと一緒にいるべきだと思います。絶対に離れるつもりはありません」

 「アヤセさん、そんなに私のことを……」

 「それに、ここまで来ればなんとかなるかもしれません」


 頬を赤らめるマリーであるが、アヤセは相変わらずそれに気付くことなく、インベントリからアイテムを取り出す。

 

 「……。それはシャウトメガホンですね?」

 「はい、これは周囲のフィールドにいる全キャラクターに自分の知らせたいことを発信できるアイテムです。早速、ゲンベエ師匠から貰った物が役に立ちそうです」


 (使い方や効果は、青星さんが星見の台地で扱うのを見たから何となく想像できる。質があまり高くないメガホンでは、発信できる秒数が限られるから簡潔に周知しないとな)


 アヤセは、王国軍の誰かが自身のシャウトを聞いてくれることを願いつつ、拡声器に似た形状のメガホンのスイッチを入れた。


 =フィールドシャウト=

 フィールドシャウト、どうぞ


 「王国軍宛て伝令! 左翼八時方向より帝国軍奇襲部隊が接近! 掲げる連隊旗を基準に迎撃態勢を至急取られたし!!」


 シャウトの発信効果は一定の範囲内にいる全員に及ぶため、内容はそこにいるNPCを含めた全員に伝わる。つまり、アヤセのシャウトは敵味方関係なく受信しており、その内容から敵も奇襲が察知されている事実を知ることになった。だが、これによって帝国軍が襲撃を中止することは絶対に無い。


 「迎撃態勢が整う前に、帝国軍が王国軍に突撃すれば、後は混乱した王国軍を駆逐する一方的な展開になるでしょう。両軍とも正に時間との戦いと言えます」


 背後を取られた王国軍が陣形を再編成し、帝国軍奇襲部隊を迎撃できるのか、それとも間に合わず帝国軍が王国軍を蹂躙するのか。予断を許さない切迫した事態であるが、そこにはアヤセ達が果たせる役割がある。


 「チーちゃんに確かめてもらいましたが、敵は最短距離をがむしゃらに進んできます。自分達の役割は、王国軍にできるだけ近づきつつ、連隊旗の特殊効果をとにかく振りまいて、味方の兵達を最適な迎撃位置に誘導することです」

 

 連隊旗を掲げるマリーを目印にして、王国軍がなるべく早く迎撃態勢を整えられるようにすることが二人の役割だとアヤセは考えていた。


 「そんなことを……。重要な役割ですね」

 「責任が重大で難しい役割であることは間違いありません。しかし、今置かれている状況からこれを果たすことができるのは自分達だけなのです。……後はシャウトが無事に伝わって、王国軍が適切な行動に移してくれることを信じて、最善を尽くしましょう」


 ==========


 (シャウトは届いているはずなのに、動きが見られない。このままでは間に合わないぞ!)


 ケピ帽で王国軍の動きが検知できないことにアヤセは苛立ちを覚える。

 更に後方から、帝国軍の馬蹄をはじめとするけたたましい音が目前まで迫っている。敵軍の動向は、チーちゃんを付近に飛ばせて、スキル【視覚共有】で探っているが、このペースだと間もなく肉眼でも見ることができるはずだ。


 (シャウトが駄目なら、直接伝えるしかない! 急がないと)


 アヤセは失望と焦燥を抱きつつも、最後まで諦めずに敵襲を知らせようと友軍との距離を少しでも詰めるため走った。


 「アヤセさん、王国軍は私達に気づいたのでしょうか?」

 「この状態だと、何とも言えません。ですが、マリーさんは、『御旗の威光』で目標地点を示し続けてください。それと、併せて『鼓舞激励』をいつでも発動できるように準備をお願いします。自分は魔力回復薬を大量に持っています。発動の際は、MPの残量を気にせずどんどん旗を振ってください!」

 「はいっ! 任せてください!」

 「……」

 

 (結局マリーさんの「御旗の威光」と「鼓舞激励」は、味方に気付かれずに無駄に終わるかもしれない。そして、場合によっては、自分達も敵に呑み込まれてあっけなく死に戻ることになるだろう)


 自分の選択が誤っていたことにより、マリーを巻き込んでしまうことになるかもしれない……。アヤセの判断を信じ、はつらつとそれに応じる彼女を見て、罪悪感がアヤセの心にのしかかる。


 「……」

 「アヤセさん」

 

 口数が少なくなったアヤセにマリーは優しく声をかける。


 「……何か?」

 「私のことで気に病んでいませんよね?」

 「……」

 「アヤセさんについて行きたいっていたのは私ですから、責任は自分自身にあります。それに、私、アヤセさんと一緒なら怖くありません。大丈夫です。きっと私達に気づいてくれるはずです! 頑張りましょう!」

 「マリーさん……。ありがとうございます」

 

 自分は一人ではなく、マリーという心強い味方がいる。彼女の言っていたことではないが、二人一緒であればどんな苦境にだって立ち向かえる。失いかけた自信を取り戻せたような気がして、アヤセは、マリーの気遣いに感謝するのだった。



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