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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第四章_立ち込める戦雲

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66_因縁の対決②

 トップクラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」のクランハウスには、広めに設計された中庭が存在する。この場所は時々、生産職の団員がクランでの待遇を人知れず嘆く場となることもあるが、一般的な用途は、戦闘職の団員が新たに習得したスキルや、装備品の性能テストを行うことであった。


 なるるんやクリードもこれらの使い勝手を確認するため、幾度となく中庭でテストを繰り返してきたが、二人のやり方は他の者達のそれとは趣向が異なっていた。


 二人のやり方は、本人達が言うところの「実戦形式」、つまりPvPをセットしてテストをするという方法で行っていたのである。

 PvPでは、二人より役職の低い団員クラスの戦闘職が相手を務めることもあったが、なるるんとクリードは、質の悪いことにクランに所属する生産職を半ば強制的に引っ張り出すことを好んだ。



 そして、特に二人が標的にしていたのは、クランにただ一人しかいないアイテムマスターである。いくらクラン内で生産職の地位が低いとはいえ、PvPをしている際は、傍らで見ている団員達は明らかに実力差があり、一方的な展開になる戦いにあまりいい顔をしなかったのであるが、役立たずという共通認識を持たれているアイテムマスターだけは、痛めつければ痛めつけるほど喝采を浴びるという事情もあり、二人はこれを免罪符代わりに、嬉々としてPvPという名の私刑(リンチ)を加え続けた。


 タンクトップと短パンの無装備状態にさせたアイテムマスターに対し、ぶちかましたスキル【宝珠砕掌拳】がどれほど爽快だったか、なるるんは昨日のことのように鮮明に記憶している。

 スキルによって、相手を粉砕できたことは勿論だが、普段はボンクラ幹部など陰口叩かれている自分達が、この時だけは賞賛されたような気分になったのもそう感じさせる要因だった。

 

 昔の出来事が朦朧とした意識の中で回想されるが、それは突然中断される。


 「ぶっはっ!!」


 自身の顔面を、痛覚に近い冷たい感覚が走る。意識を取り戻したなるるんは、咳きこみつつ慌てて目を開けその原因を確かめようとする。


 「いつまで寝ている。早く起きろ」


 聞き慣れた声が耳に入ってくる。ようやく目を覚まし、意識を取り戻すなるるん。自身の身体を確かめてみると、顔を含む身体全体は風呂に入ったかのように全身ずぶ濡れであった。どうやら、アヤセによって、どこかから持ってきた水を浴びせられたようだ。


 なるるんは、自身が失神する前のことを思い出すが、アヤセに子供のようにあしらわれ、自分の力まで利用されて、一撃でグロッキーにさせられる失態を犯したことが未だに信じられなかった。


 「あの」アイテムマスターにあたしをここまで追い詰める力なんてあるわけない。カラバーシに付き合って、変なペースで歩いて体力を消耗していたから調子が狂ったんだ、と思いたかったが、やっぱり何かおかしい。もしかしたらこいつ、本当に強くなったんじゃないか……。認めたくはないがそう思わないと説明がつかない。そう言えばクリードの奴は何をしている? あたしがやられても、そのまま黙って見ていたのか?


 立ち上がりつつ、なるるんは思い巡らすが、それはアヤセの声により中断される。


 「クリードからお前達の目的は聞いた。時間もあまり無いから早いところ決着をつけるぞ」


 アヤセはそう言って、プリスの袖に巻き付けていた緑色の杖の残骸を放り投げる。既に鍔元には左手が添えられていた。


 「目的を聞いたって? クリードがゲロった!?」

 「ああ、詳しく教えてくれたぞ。『深紅の連隊旗』……。モンスターまで誘導できるなんて随分と便利なアイテムだな」

 「!」

 

 なるるんは激しく動揺する。アヤセが口にしたアイテム名は、今回の戦争イベントの勝敗を分ける重要な機密情報である。いくらクリードでも、それは十分に承知しているはずだからこんなに簡単に口を割るとは考えられなかった。


 「アンタ、どーやってクリードから聞き出したの?」

 

 焦りを見せるなるるんに対し、臨戦の構えを崩さないアヤセは冷ややかに応じる。


 「簡単なことだ。本人が話したくなるまで体に訊いたまでだ」

 「なっ、なんだって? もっと分かるように話せよっ!」

 「こんなことも分からないのか? 『緑光の魔導杖』はある意味有用な装備品だった。自分も追放前にあれで散々殴られたから、尚更その性能を実感することができたな」

 「あの緑色の杖……?」

 

 先ほど、アヤセが投げ捨てた残骸……。あれは、確かにクリードが所持していた「緑光の魔道杖」によく似ていた。

 

 「殴られたところで痛覚設定も無いし、状態異常『怪我』になることもない。ただ、HPが1になってもひたすら殴れることは、屈辱や精神的苦痛を与え続けるにはうってつけだ。あいつも何百回も打たれれば、やられた側の『痛み』を身に染みて理解できただろうよ」

 「!!」

 

 なるるんは、こともなげにアヤセの口から語られたことを耳にして、背筋に悪寒が走る。確かに緑色の杖はへし折れて残骸だけが残っていた。それは耐久値がゼロになり武器が破壊されたことを意味している。だが、武器の耐久値は、無理な武器受けや意図的なウエポンキル(武器壊し)によって大きく減るものであり、通常攻撃する分には、その減少は微々たるものに過ぎない。もし、クリードに打擲を加え続けた結果によって、武器が破壊されたのであれば、アヤセが言うようにその回数は、百や二百では済まないはずだ。


 「ア、アンタ一体何を……。それで、クリードは? クリードはどこっ!」

 「ああ、あいつはとっくの昔にログアウトして、今ではあそこで固まって転がっているぞ」

 

 アヤセは目前にいる敵から目を離さず、顎でクリードがいる場所を指し示す。なるるんはアヤセの動きを追うように視線をその方向にやる。

 

 確かにそこには、白のタンクトップと短パン姿で、全身ボロ雑巾のように汚れにまみれたクリードが草原に横たわっていた。その体は硬直し、涙と涎と鼻水の跡を顔に残し微動だにしない甚だ不気味な様子は、本人が既にログアウトをし、ゲームの世界から抜け出していることを物語っている。


 「バイタルログアウトになったのか、それとも途中で自主的に緊急ログアウトをしたかは分からないし知る必要もない。はっきり言えることは、こいつは戦闘の途中で勝負を投げ出し、逃避した臆病者だ。以前、無装備状態の生産職をサンドバッグにしていたくせに、自分がその立場になるとこのザマとはな。これがトップクランの戦闘職だと? とんだお笑い草だ!」


 クックッと喉の奥で嘲りの笑い声を上げるアヤセ。だがその眼は笑っておらず、射るような眼差しをなるるんに向け続けている。


 「……。お前も同じ目に遭わせてやろうと思ったが、クリードを痛めつけるのに時間をかけ過ぎた。時間も惜しいから、さっさと死に戻らせてやる。いくらお前が高レベルであっても、攻撃パターンもスキルも全て自分には、お見通しだから負ける気はしない。抵抗しても無駄だ」

 「……!」


 いくら状況を掴むのが苦手ななるるんでもここまでされたら、追い詰められているのは自身の側であるということは容易に想像できる。

 今まで、自分達がゴミ職業「アイテムマスター」として虐げてきた奴が、相手の心身に変調をきたす恐れがある、バイタルログアウトを強いることを躊躇しない、とてつもなく危険な奴だったという事実を、ここに至ってなるるんはようやく理解し、慄然とするのだった。


 アヤセは、基礎レベルや職業の不利を覆すほどの装備品とプレイヤースキルを持った手強い相手である。このままではクリードと同じように身も心もズタボロにされてしまう。どうすればこの状況を切り抜けられるか、なるるんはその方法を頭の中で必死に模索する。


 だが、転機は思わぬところからやってきた。


 「アヤセさーん!」


 なるるんの背後から女性の声が聞こえる。アヤセの顔を見ると、突然の第三者の登場に顔つきが変わり、困惑ともとれる表情を見せるのが見て取れた。


 「【スピードブースト+】!」


 今がチャンスだ! なるるんは、バックステップをしつつ、スキル【スピードブースト+】を発動する。声の主であるあの女は、アヤセの知り合いだ。切迫した状況下にのこのことやってくる緊張感の無さは、戦闘経験の浅い生産職なのだろう。これでも一応歴戦の戦闘職であるなるるんは機を見て即断し、アヤセとの距離を一ミリでも多く取るために行動に移した。


 「ハッハーッ☆ おせーよバーカ!! あの女はあたしがぶっ殺してやるから!」


 アヤセの反応は女の声に気を取られ、いささか遅れたように見える。あいつの弱点はあの女だ。そうと分かれば人質に取るという作戦も有効である。形勢逆転した状況下で、人質の女を目の前で剥いてやったら、アヤセの奴はさぞかし悔しそうな顔をするだろう。


 バックステップによる初動が思いのほか上手くいき、そんな愉悦を思い浮かべる余裕すら生まれたなるるんは、勝負の行方に楽観的な展望を抱く。


 だが、事はなるるんの想像通りに進まなかった。


 ズパアァン!


 聞き慣れた、小うるさい軽快な効果音が草原に鳴り響く。

 なるるんの顔面に、アヤセが投げつけた釘粘土が直撃する。更に特殊効果により鈍くなった動きを逃すまいと繰り出された追撃で複数個の釘粘土を食らい、なるるんの足は完全に止まった。


 「ヒッ……!!」


 間髪置かずプリスの袖が首に絡みつき、彼女の小柄な身体は易々と空中に持ち上げられた。そして、そのまま釣り上げられつつ、アヤセの手元まで引き寄せられ、足元でうつ伏せになるように地面に叩きつけられた。

 激しく地面に衝突し、そのショックから立ち直れないなるるんは、アヤセのなすがままに、首と足首をプリスの袖で雁字搦めにされ、更に腰部に体重をかけた足が乗せられた。


 「彼女を手にかけるだと? ふざけたことを抜かしやがって! 二度と舐めた口がきけないように背骨をへし折ってやる!!」


 スキル【換骨奪胎】で装備品を回収しつつ、首と足首に巻かれたプリスの袖がなるるんを、ゆっくりであるが、ギリギリと嫌な音を上げ着実に力強く本来曲がる方向とは逆に反らせ始める。

 

 「ひいぃっ! ごめんなさい、ごめんなさぁい!」

 

 なるるんは恐ろしさのあまり身を震わせて許しを請うが、アヤセは聞く耳を持たない。


 「その台詞は、自分達より実力の劣る生産職をクランハウスの中庭でいたぶっている時に相手から飽きるほど聞いているはずだ。お前達はその言葉を聞き入れたことがあったか? ……傷付けられる痛みを、お前も思い知れ!」


 まるでアヤセの積年の恨みが追加されたように、プリスの袖がなるるんの身体に力をかけていく。


 「助けてっ! お願い! 助けてください!」

 「……」 

 「ひぃぃい!」


 アヤセは、泣き喚いて命乞いをするなるるんを無視して、背中にどんどん負荷を加えていく。だが、一定の位置まで身体がのけぞった段階で、身体が硬直し、プリスの袖の力をもってしても全く動かなくなってしまった。


 「………。こいつも勝負から逃げ出したか」


 アヤセは、プリスの袖を解く。そして、ログアウトし、完全硬直体と言える格好になったなるるんを無感情に見下ろした。


 草原に無様な姿を晒して横たわるまかろんとクリード……。結果として、因縁の相手を完膚なきまで叩きのめすことができ、本来ならば今まで自身が受けてきた仕打ちに対し、見事に復讐を果たせたのは喜ぶべきことなのだろうが、アヤセに去来したのは、以前、シノブ達をぶちのめした際に感じたものと同じ疲労感だけだった。



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