63_開戦
「アヤセよ、またこの鍛冶場を訪れるが良い。……マリーとホレイショもな」
「ええ。今後もオサキさんの護衛でこちらに伺わせていただくことになると思います。それまでに王都で石材を探してみます」
「そうだな、その件も頼んだぞ。それと、これは、かの生霊を滅した礼だ」
=個人アナウンス=
ゲンベエ師匠から以下のアイテム等が贈呈されました。インベントリに収納されます
・銑鉄のレシピ
・2,000ルピア
また、クエストを達成したことにより、経験値200を獲得しました
「今回の件ではお主たちには、本当に世話になった。これも受け取れ」
=個人アナウンス=
ゲンベエ師匠から以下のアイテム等が贈呈されました。インベントリに収納されます
・シャウトメガホン(フィールド)
・白パン×30
・オリーブオイルのレシピ
・両刃鋸+(生産道具:木工)
・16,000ルピア
・スキルポイント×15
「白パン……、白パンがこんなに……!」
「こいつは破格な報酬だぜ」
(どうやら、マリーさんもホレイショも報酬を受け取れたみたいだな。……大きな声では言えないが、報酬を皆で受け取るというのも、ここに大勢で押し掛けた理由の一つだ)
イベントの報酬はアヤセが見込んだ通り、まずまずのものだった。マリーもホレイショも反応からそれなりの物を受け取っているようなので、昨晩のように後でそれぞれ欲しい物を交換するのもいいだろう。
「皆様、今回は本当にお世話になりました。それで引き続きですが、王都までどうぞよろしくお願いいたします」
「おう、お任せください庵主様。それじゃ出発しますぜ」
ホレイショがオサキに応じ、馬に鞭をくれた馬車がゆっくりと動き出す。
「皆、オサキ様のことを頼んだぞ」
オサキはゲンベエ師匠の姿が見えなくなるまで、手を振り続け、そして、タダスケと共に師匠もまた、その場でオサキが見えなくなるまで立ち尽くしていた。
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ポワティエの宿場町への途上で、アヤセとホレイショは御者台に並んで座り、報酬について会話を交わす。
「ところで相棒、報酬はどうだった?」
「上々と言ったところだな。師匠とオサキさんとの再会は、やはり重要なイベントだったようだ。それで、自分の報酬の中に『両刃鋸+』という大工道具と思しき物があったのだけど、良かったら交換しないか?」
「本当か? じゃあ、『焙烙玉のレシピ』ってのがあるが、これでどうだ? 作成には、結構アイテムが必要みたいで俺が揃えるのには手間がかかりそうだぜ。アイテムマスターのお前さんならクエストとかで色々アイテムに触れる機会があるから、必要アイテムを揃えられるんじゃないか?」
「焙烙玉って確か手投げ弾みたいな物だったかな? もし、作成できれば中々強力そうだ。じゃあ、それと交換ということで」
「ほいきた。マリー嬢は、良い縫針が手に入ったって言っていたし、俺は俺で報酬の他にカットラスも購入できた。相棒には今回の件で世話になりっぱなしだぜ」
「まぁ、マリーさんの勘違いが正に『怪我の功名』になったな。最も、ゲンベエ師匠とオサキさんの再会に付き合ってもらったから、報酬をもらう権利は二人にもある。自分も自分で図らずも『無銘の刀』の強化ができたから、万々歳というところだ」
「『無銘の刀+』か。あれはもう何というか、お前さん専用の装備品って感じだな。それにしても、元の持ち主のダダミチって奴は、今でも帝国で生きているのかね?」
「このままイベントを続けていったら、きっとどこかで遭遇するだろう。その時までに王国や帝国のみならず、大陸の趨勢がどうなっているのか非常に気になるところだ」
「そうだな。戦争なんて起こって欲しくないが、帝国がどう動くか……。ポートキングストンではやられっぱなしだったが、もし王国に攻め込んできたら、次こそは、簡単にはやられねぇぜ!」
「……」
帝国は近頃、王国との国境地帯に兵を結集させており、侵攻の構えを隠そうともしない。王国にいるプレイヤーの間でも、近いうちに戦端が開かれるという見解が大方を占めており、最近は国中で不穏な空気が漂いつつあり、中には既に避難を始めた者もいるようだった。
「相棒は戦争イベントに参戦したことがあるか? 俺は前回、巻き込まれはしたが、実際に参加した訳じゃないから、よく知らねぇんだ」
「自分も参加したことがないが、以前、所属していたクランでイベントに参加した者がいたから話を聞いたことがある。それによると、まず、戦争イベントは参戦しているどの陣営に属して戦うかを決める。ちなみに籍を置く国が参戦している場合は、その陣営にしか属せない。自分達の場合は、帝国と王国が対峙する場合は、必ず王国側で戦うことになるということだ」
「ま、籍を置いているのなら、所属する陣営が強制的に決まるのは当然だよな」
「それで、戦闘の種類は、『野戦』と『攻城・籠城戦』に大別される。最も、最近開催されるイベントは、ほぼ『野戦』らしい」
「そうか、広い場所での会戦がメインということか」
「戦闘の展開は、まず第一戦でプレイヤーと敵軍NPC兵士との戦闘を20分間行い、第二戦目で両軍のプレイヤーとNPCが全員入り乱れて戦闘を更に30分継続、戦況次第で優勢な陣営側のプレイヤーが敵の総大将等を相手にしてレイドボス戦を行う第三戦で構成されている。ちなみに時間は全て現実時間だ」
「初っ端は、プレイヤーと敵NPC兵士との戦いか。帝国軍の場合、これにモンスターも含まれるのだろうな」
「おそらく。それで、第一戦でどれだけ敵兵の頭数を減らせるかが、勝負の分かれ目になると言っていたな。実際、倒した敵の数によって士気に影響が出るのだから、確かに軽視はできないだろう」
「士気だと?」
「士気は、両軍最高100ずつ割り振られる。軍の損害や計略の成否、大将の討ち死にや兵糧奪取等で増減して、差がつくほど高い方が有利になるシステムになっている。基礎レベルの10や20の差なんて簡単に覆すことができるから、決して馬鹿にはできない」
「士気のコントロールが戦争イベントでは非常に重要ということだな」
「ああ、その通りだ。いくら帝国のトッププレイヤー達でも士気が低い状況下では、その実力を発揮できない。士気の数値で優位に立てば基礎レベルに不安がある自分達王国側のプレイヤーにも十分勝機が生まれるという訳だ」
「そうか。それで戦闘が始まった後は、俺達は一兵卒として戦うんだろうが、その際はどう立ち回ればいい?」
「戦場では、プレイヤーはまとめて『傭兵隊』に編入され、NPC指揮官の大まかな指示で動く。コツは、敵軍の強いプレイヤーとは極力戦わず、基礎レベルが劣るNPCの敵兵を狙って銃や弓矢や魔法といった間接攻撃で倒していくことだそうだ。しぶとく生き残って、飛び道具で一兵でも多く倒す……。戦闘の基本といえば基本だが、それを徹底する心構えが必要だということだろうな」
「なるほど。その戦い方なら、俺みたいなサブジョブ戦闘職でも少しは戦えるかもしれねぇな」
ホレイショは、アヤセの話を聞いてしきりに頷く。彼は、王国を守るため、戦争イベントに積極的に参加して帝国と戦うことを考えているようである。その強い意気込みは、アヤセの話を余念なく聞いて、頭の中でシミュレーションをしている様子からも垣間見えた。
「色々教えてくれてありがとよ。大いに参考になったぜ」
「最も戦争なんて起こさず『戦わずして勝つ』って方法があれば、それに越したことはないのだが……。それは、まぁ、難しいのだろうけど」
アヤセは、視線を周囲の風景に向ける。
ゲンベエ師匠の鍛冶場を出発し、一行は街道筋に入り、一路ポワティエの宿場町を目指して馬車を進めている。街道は、徒歩の旅人や商人の荷馬車が賑やかに行き交い、周辺の農地では農民達が忙しそうだが、何かに警戒する必要も一切無く、収穫のことを思い描きながら作業に没頭している。農民の子供達が大きな笑い声を上げて遊びに夢中になっている中、爽やかな風が農地と街道を吹き抜ける初夏の昼下がりの風景は、平和そのものだ。
(この平和な風景は、帝国が侵攻してきたらあっという間に崩れ去ってしまうだろう。そんな暴挙は許すわけにはいかない。自分もできる限りのことをするつもりだ)
アヤセもホレイショと同様、決意を新たにする。
その後、それぞれもの思いに耽る二人は言葉数がめっきり減り、静かになった御者台にゆっくりと時間が流れる。やがて馬車は、ポワティエの宿場町に到着した。
「……? 何か宿場が騒がしいな」
ホレイショが異変を感じ取り、独り言を漏らす。
彼が言うように、宿場町は往きで寄った際とは様相が大きく異なっていた。
違和感を持った原因はいくつもあったが、最もそう感じさせるのは、町に溢れる兵士の多さである。これだけ多くの兵が、今晩の宿を取ることになったら、アヤセ達が宿を押さえるのも難しくなりそうだ。
更に目を引いたのは、募兵の高札が至るところに掲げられていることだ。募兵担当下士官がしきりに高札の前でがなり、王国軍への参入をプレイヤー、NPC問わず、誰彼構わずに勧めている。
「何だかエラい騒ぎだな」
「まさか……。始まってしまったか!」
高札の前に立つ募兵担当下士官は、一枚の用紙に目をやりながら、募兵を呼びかける口上を何度も繰り返し述べる。
「緊急伝令! 詔勅である! 心して聞け! ……帝国軍ガバヤン川ヲ渡リ、ラタスニ侵攻セリ! 王国軍ハコレヲ迎撃セント王都ヨリ軍ヲ発ス! 就イテハ王国軍ノ一員トシテ軍務ニ就ク者ヲ募レリ! 特ニ冒険者ハ経験問ワズ歓迎スルモノナリ。繰リ返ス。軍務ニ就ク者ヲ募レリ!」
「おい、これはどうしたんだ!?」
「聞いてのとおりだ。帝国軍が王国に侵攻したんだ!」
「!」
予想以上に早かった帝国軍の侵攻にホレイショは驚愕する。
「王国ノ興廃、コノ一戦ニアリ! 王国ト共ニアラントスル勇士ハ、我ラト共ニ戦場ニ赴カン! 帝国ノ侵略者ヲ屠リ、祖国ヲ防衛スル勇士ノ心意気ガ王国ト共ニ有ルコトヲ示セ! ナホ、活躍目覚マシイ者ニハ、相応ノ恩賞ヲモッテ報イルモノナリ! ……国王陛下万歳!」
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【緊急告知!】戦争イベントのお知らせ
帝国が王国領に侵攻しました。これに伴い、戦争イベントが開催されます
日時:〇月×日(△)20:00~
戦場:東部王国領ラタス湿原地帯
勢力:帝国軍VS王国軍(総兵力は非公開)
※その他詳細は、専用ページを御覧ください
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勇壮な言葉で周囲の者達に王国軍への入隊を勧誘する募兵担当下士官。その言葉に触発され、プレイヤーのみならず多くのNPCも歓声を上げ、王国軍への志願を申し出る者が続出している。喧噪に包まれているのはいつもの宿場町と変わりが無いかもしれないが、その性質は全く異なっていた。
「……」
ホレイショは黙り込み、荷台にいるマリーやオサキは不安そうな顔を見せている。
馬車は熱狂に包まれる群衆に邪魔され道を進むのも難しくなっていた。
「なあ、相棒……」
ホレイショがおもむろに口を開く。
「庵主様を送っている途中で済まねぇが、俺は募兵に応じようと思う。帝国の奴らに一泡吹かせるのにいい機会になりそうだぜ!」
「……」
熱狂に感化されたのか、ホレイショが突然王国軍への志願を表明する。
「……気にするな。それがホレイショの選択なら、そうすればいい。自分もオサキさんを送り届けたら、志願してラタスに向かうつもりだ」
ギー隊長に、アメリー、モリス主計長をはじめとする衛兵隊の面々……。ラタスにいる知り合い達は、果たして無事だろうか? 彼らの身が案じられる。
「ああ。ありがとうよ。お前さんのこと、待っているぜ!」
素早い動作でホレイショは馬車を飛び降り、群衆の中に姿を消す。その様子を見ていたマリーはアヤセに不安げに声をかけた。
「アヤセさん。これは一体どうしたのでしょうか?」
「帝国と王国が開戦しました。ホレイショは王国軍への志願を決めたようです。……今夜はポワティエで一晩明かすのは難しいでしょう。ここは急いで王都に向かった方がよさそうです。そうしないと街道は軍隊で埋もれて通行ができなくなってしまいますから」
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ホレイショが突然離脱したものの、一行はポワティエの宿場町を出て、一路王都を目指して馬車を進める。
しかし、アヤセが馬車の制御に不慣れだったことと、王都からラタスに向け行軍を急ぐ軍隊に道を譲ったりしていたため、歩みは遅れに遅れ、結局王都にたどり着いた頃には、夜もどっぷりと更けてしまっていた。
本来だったら、閉門時刻はとっくに過ぎており、通行には特別通行料を支払わないと王都の西城門はくぐれないのだが、今晩は城門も開かれたままで、とがめられることなく門衛の前を素通りできた。その理由は西城門前広場において王国軍の輜重隊が先発した部隊を追うべく準備を進めており、軍需物資を積み終えた荷駄や荷車がひっきりなしに出発するため、門は常に開け放っておく必要があったからである。
こうしたことから、王都もポワティエの宿場町ほどではないにしろ、物々しい雰囲気が支配している。
篝火に照らされながら作業に忙殺される大勢の軍属の人夫達や輜重隊の荷車の間をすり抜け、何とかアヤセ達は広場の区域を抜ける。ここを通過すれば兵士や人夫の数が減って往来の行き来も楽になるかと思っていたが、先行きに不安を感じて夜も眠れないNPCの住民達はもとより、戦争イベントへの参加に二の足を踏む生産職や低レベルプレイヤー達も酒場に集まったり、ふらふらと町に繰り出していたりしており、そのような中を進み、オサキの住む東地区のバンボーまで馬車を進めるには非常に骨が折れた。
「あっ、オサキ様ー!」
「おい、戻って来たぞ!」
バンボーの入り口には、オチヨやタツゴローをはじめとする、多数の住民がオサキの帰りを待っていた。
「よくぞ御無事で!」
身なりの良い中年男性がオサキの帰着を喜んで迎え入れる。どうやらこの男性がバンボーの顔役であるリセイのようだった。
「皆様、ただいま戻りました。道中アヤセさん達が護衛をしてくださいましたお陰で、こうして無事に帰って来ることができました」
「アヤセさん、お帰りなさい。オサキ様をお守りくださいましてありがとうございます。……あれ、ホレイショさんは? 一緒だと聞いていましたけど」
オチヨは、ホレイショがこの場にいないことに気付き、アヤセに尋ねる。
「ホレイショは、王国軍に志願しました。今頃、ラタスに向かっていると思います」
「えっ!? 戦争に行っちゃったのですか?」
オチヨはショックを受け立ち眩みをおこしたようにその場でふらつく。アヤセは咄嗟に彼女の腕を取り、倒れないように体を支えた。
「大丈夫ですか?」
「す、済みません。大丈夫です。少しびっくりしただけですから」
「ホレイショも冒険者ですから、例に漏れず命を落とすことはありません。戦争の勝敗がどうあれ、必ずオチヨさんのもとに戻ってきますから、安心してください」
オチヨを立たせながらアヤセは励ましの言葉をかける。しかし、自身の言っていることは気休めにもならないことは本人も承知している。仮に王国軍が戦争イベントで敗れた場合、ホレイショが無事に戻ってきても、余勢を駆って王都に押し寄せる帝国軍によってオチヨ達が命の危機に晒される恐れもあるからだ。
「しかし、気になるのは戦争の行方だ」
タツゴローが珍しく不安を口にする。
「王都の守備隊を随分動員している模様で、各地区の責任者宛てに、この機に乗じて治安を乱す者が出ぬよう、警戒を厳にすべしとお達しが来ています。王国も今回の戦が重大な局面になると考えているようですな」
オサキに状況を説明しているリセイにアヤセは戦況を尋ねてみる。
「ちなみに、帝国軍はどのくらいの数で攻めてきているのでしょうか?」
「ああ、そうだな、聞いた限りだと、十四、五万ほどらしい。これだけの軍を動員することは、今まで無かったのだが、いよいよ帝国も王国侵攻に本腰を入れてきたようだ」
(確かに兵力は多いには多いだろうが、ラタスにも五万ほど駐留兵がいるから、城塞の防御能力をもってすれば凌げないことはない。そうなると、やはり、王都の兵を引き寄せて野戦で叩くことが帝国軍の目論見なのだろうな)
帝国軍第三軍の狙いは、アヤセが少し考えてその意図が分かるくらい明白である。ここで王国が取ってはいけない手は、兵力の小出しであろう。
(ラタスの牽制のため、攻囲軍で四、五万くらい割くとして、野戦で待ち構えるのは十万程度か。できれば王国軍は、帝国軍より多い兵力で対抗する必要があるが、そうなると、王都近辺にいる部隊のみならず、王都の守備隊も動員しなければならなかったのだろう。……どうやら王国軍の指揮官は、北のポートキングストンにいる帝国軍は動かないと判断したようだ)
先ほどのリセイの話のとおり、後方攪乱に対する備えが手薄になることが懸念されるくらい王都の守備隊が多数引き抜かれている状況から察するに、王国軍は王都とその近辺の出せる兵を出しきって帝国軍に当たるようだった。これで兵力差の懸念は解消されたかもしれないが、まだまだ予断を許さない状況であるということには変わりない。
(戦争イベントでは、第一戦でどれだけ敵のNPC兵を減らせるかにかかっているから、一人でも多くのプレイヤーが参加して、帝国軍に対抗する必要がある。それこそ、猫の手も借りたくなるくらい戦場は慌ただしくなるぞ)
「何はともあれ、オサキ様が無事に戻られたので一安心と言ったところだ。オサキ様も長旅でお疲れでしょうから、今晩は早くお休みになられますよう。さあ、皆も自分の家に戻りなさい。それと、門衛長、今晩から夜間はバンボーへの出入りを一切禁止とする。できるだけ夜の当直人数も増やして不測の事態に対応できるよう備えておきなさい」
夜も更けてきたため、リセイが門に集まった住民達に解散を促す。また、治安対策として早速、夜間通行禁止令を出すようだった。
「アヤセさん、私達もそろそろ……」
マリーがアヤセを促す。彼女やテイムモンスター達は休み無くポワティエの宿場町から王都まで長時間馬車に揺られたことによって、疲労の色が顔に表れていた。
「そうですね。自分達もお暇しましょう。マリーさんもお疲れ様でした。帰りは家までお送りします」
「二人とも、オサキ様を無事に送り届けてくれて大義だった。ところで、アヤセだったか? お主は王国軍に志願するのか?」
「はい、そのつもりです。明日、準備を整えた上で王都を発とうと思います」
この後、マリーを家まで送り、借りていた馬車を冒険者ギルドに返却しなければならないし、他にもするべき準備があるから、いくら夜通し荷馬車が行き来して、城門が制限無しに出入り可能な状態であったとしても、出発は翌朝以降になってしまうだろう。
そんなアヤセをオサキが身を案じるように声をかける。
「そうですか……。戦場では何が起こるか分かりません。準備は入念になさるべきかと。私にできることがあれば何でも仰ってください」
「ありがとうございます。実を言いますと、必要な物が何品か有りまして……」
「そうなのですね。入り用なのはどの様な品でしょうか?」
オサキは隣にいるリセイに目を向ける。
「オサキ様を無事に送り届けてくれたお主の為だ。紙を渡すからそれに記せ。ただ、物によるし、代金も貰うぞ」
「勿論、代金は支払います。物自体も可能な限り御用意いただければそれで十分です」
「分かった。明朝ここの番所まで取りに来なさい。それまでに用意しておこう」
リセイは、アヤセの必要な物を用意することを約束する。欲しい物を一箇所で集められることは、時間が惜しいアヤセにとって大変ありがたかった。
その後、必要物品のリストを書き上げ、リセイに手渡した後、アヤセとマリーはオサキ達と別れ、馬車を返却し、マリーが家路につくのをアヤセが送るかたちになる。その途上でマリーは意を決したように話を切り出した。
「アヤセさん、私も王国軍に志願しようと思います。明日は私も連れて行ってください」
「……」
マリーの申し出はアヤセも予想していた。生産職のマリーはおそらく前線に出て帝国兵と戦ってもほとんど歯が立たないだろう。しかし、本人の意思は固く、アヤセは無理に説得をしても彼女は納得しないだろうと判断する。
ただし、マリーの身の安全を守るため、釘を刺すのも忘れなかった。
「王国軍はプレイヤーの参戦を一人でも多く望んでいるはずです。ですが、マリーさんは戦闘には参加しない方がいいでしょう。ラビちゃん達も今回ばかりは留守番してもらいます」
「……」
「前線の近くには補給処となる後方拠点が設けられていますから、そこで裁縫師が求められる場面も大いにあるはずです。イベントに参加するプレイヤーは自分自身にできることを最大限やり尽くさなければなりません。それで良ければ、お連れします」
「……分かりました。それで構いません」
おそらくアヤセは、前線で戦うつもりなのだろう。途中で後方に残され、別れ別れになることにマリーは心細さを感じたが、アヤセがこれ以上のことを許容しないと察して、言い付けに従うのだった。
第四章も戦争イベントが始まりいよいよ佳境に入っていきます。
王国軍は帝国軍を撃退することができるのでしょうか?
そしてアヤセを待ち受ける試練とは?次回以降もどうぞお楽しみに!
なお、話数について、当初第四章は26話とお知らせしましたが、28話に構成を変更しました。
引き続きよろしくお願いいたします。
また、感想も随時受け付けています。今後の参考のために気付いたこと等ありましたら、何でも構いませんのでお気軽にお寄せくださいますと幸いです。




