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06_鍛冶師との出会い

(やった……、のか?)


 アヤセは、フィールドボス「タダミチの生霊」を撃破した。ボスエリアが解除され、やっとその実感が湧いてくる。


 まさかアイテムマスターで戦闘に向かないと言われていた自分が、フィールドボスをソロで撃破できるなんて思ってもみなかった。ここまでやれたことが言葉で言い表せない程感慨深い。また、基礎レベルも2上がり、22になっていた。


 (全部これのお陰だ)


 右手に持った刀を顔の前に持っていき、改めてそう思う。よくよく考えたら、この刀の初太刀の攻撃だけに限れば、おそらくトップレベルのアタッカーが通常攻撃で出せるダメージに匹敵するだろう。納刀しつつ、とんでもない拾い物をしてしまったと思う。


 (そういえば、他にもボスの撃破報酬があったな。一応確認しておくか)


=撃破報酬=

1.初撃破

・スキルスクロール×2

・玉鋼(★6)×20

・絹反物(★7)×10

・ラシャ生地(★6)×15

・タマモの思念

・スキルポイント×10

・90,000ルピア

・カナエのペンダント(アイテム)

  

2.撃破報酬

・般若の面(装備品:防具_頭)

・フリントロック式ピストル(装備品:武器)

・銅鉱石(★3)×15

・コットン生地(★4)×20

・種イモ(★2)×5

・7,000ルピア

 

 (やっぱり、初撃破の報酬が破格だな。しかし、あのユニークボスは今まで誰も討伐していなかったのか? 王国周辺の攻略は、もうだいぶ進んでいると聞いていたけど、本当に運が良かったな。用途や効果の見当がつかない物もあるが、検証はおいおいやっていくとして、確認はここまでにしておくか)


 一応フィールドボスには勝ったが、今は真夜中の人気がない川原に一人でいることには変わりない。夜はモンスターも強力になり、戦闘で消耗している状況では、一刻も早く集落等の安全地帯にたどり着きたい。

 とりあえず街道筋を目指し、川原を横断していく。満月の月光に照らされた周囲は、至って静かだ。そして、川原端の自然堤防の土手を上った際に、近くに明かりが灯っている場所を見つけた。


 (あの明かりは何だろうか? 街道から外れた場所にあるが、民家だろうか。また、フィールドボスとかだと、今度はさすがに戦えないだろうから近寄らない方がいいかな?)


 戦闘を懸念して、接近を迷ったが、考えを改め結局その場所へ行ってみることにする。


 (どうも、あの明かりがモンスターやPKのいる場所とは思えないな。……根拠はないけど)


 ==========


 明かりは、建物から漏れたものだった。

 この建物は、周囲を低い生垣で囲われており、敷地には、平屋の母屋と何かの作業場のような建物、それと納屋があり、その様子は日本家屋を連想させた。その中で明かりは作業場に灯っている。

 アヤセは、明かりを追って作業場に向かう。作業場に近づくにつれ、そこから金属を叩く音が聞こえてくる。どうやらここは鍛冶場のようだった。鍛冶場の押し上げ式雨戸は開かれており、中を覗き見ることができたので、アヤセは中の様子を窺ってみることにする。


 鍛冶場には、白装束を着た老人と若者の二人の男性がいた。そのうち、老人が刀の根元にたがねを槌で打ち付けており、若者が刀を支えつつ、真剣な眼差しでその様子を見ている。おそらく、刀の銘を切っているのだろう。昔、似たような動画を見た覚えがあるアヤセはそう推測する。

 アヤセは、邪魔をしないよう、窓から離れじっとそれが終わるのを待つ。

それからしばらく待つと、音が止んだ。


 「客人だ。タダスケ、見てまいれ」

 

 作業場から戸口に向け足音が近付いてくる。戸口が開けられ、若者が外にいるアヤセを見る。


 「ひやぁっ!?」


 若者はその場に尻もちをついた。その場で、ひどく怯え震えている。


 (あっ! しまった。白装束を装備したままだった)


 先ほどの戦闘から、ポテンシャル「戦慄」が付与された装備のままだったことに気付く。


 (ポテンシャル「戦慄」の効果って、予想した通りだったな。これは、街中や人がいる場所では、装備は絶対控えた方がよさそうだ)


 急いで防具を初期装備に変更する。そして何食わぬ顔で若者に声をかけた。

 

 「あの、大丈夫ですか?」

 「え? あ、ああ、失礼しました」


 若者も「戦慄」の効果が及ばなくなったのか、気を取り直して応じる。


 (社会人の礼儀として、挨拶は必要だな)


 「作業中に申し訳ありません。自分は、旅の者でアヤセといいます。王都に向かう途中、こちらで明かりが灯っているのを見かけたもので、夜分失礼とは思いましたが、寄らせていただきました」

 「それは、それは、こんな真夜中にここまで来られるのに、難儀なさったでしょう。師匠、旅の方です」


 若者は、アヤセに応じ、奥にいる師匠に来客を告げる。


 「そうか。旅の方か。よくいらした」

 

 老人は、そう言い奥から出てきた。年は六十から七十歳くらい、白髪でかつ長い髭の持ち主だった。また、普段から槌を振るっているようで、体つきもがっしりしたいかにも鍛冶屋という風貌だ。一方、師匠にタダスケと呼ばれていた若者は、十五、六歳くらいの少年で、老人とは対比的に細い体をしていた。

 

 「儂の名はゲンベエ。主に刀を打っておる鍛冶師だ。そして、こやつが弟子のタダスケ。こんな夜中に、良くここまで来れたな。作業も一段落ついたし、何もないところだが、母屋で茶くらいは出せるぞ。ついてきなさい」


 老人の案内に従い、母屋に移動する。タダスケは、作業場の跡片付けをしているようだった。


 「作業中にお主は声をかけてこなかったな?」


 母屋で下足の上、板の間で腰を下ろした老人は、そう話を切り出す。


 「はい、集中して作業をしなければならないときに、邪魔が入っては迷惑だろうと思いまして、終わるのを待っていました」

 「それは感心なことだな。近頃の冒険者は、無神経にもずかずかと人の家に踏み込んできて、遠慮なく声をかけてくる者が多くて辟易しておったわい」


 一部のマナーの悪いプレイヤーがNPCに傍若無人な振る舞いをするという話を聞いたことがある。あまりに酷いとNPCのプレイヤー全体に対する信用も落ち、評価も下がるようなので、いくらゲームでも節度は守ってもらいたいものだとアヤセは思う。


 「いつも夜に作業をされているのですか?」

 「普段は、こんな真夜中まで鍛冶場に火を入れてはおらん。今日は特別に作業をしていたまでだ。ところで、お主、見事やり遂げたようだな」

 「やり遂げた……。何のことですか?」

 

 アヤセは、老人から不意に向けられた話の意味が理解できなかった。いつの間にかタダスケも母屋に戻り、お茶を用意して板の間に来ている。


 「お主は見事、憎き生霊をあの場所より滅しおったな。これも彼奴の本体がおる帝国への反骨の精神がもたらした結果かもしれん」

 

 ゲンベエは、話を続ける。死闘を繰り広げたフィールドボスが関係しているようだが、アヤセには理解不能だ。


 「それと相談なのだが、お主の持っておる、ペンダント、それを儂に見せてもらえないか」


 そう言われてアヤセは、インベントリを確かめる。老人の言っているペンダントはおそらくこれのことだ。


 =アイテム=

 カナエのペンダント


 これは、先ほど倒したフィールドボス・タダミチの生霊の撃破報酬のうちの一つである。説明文を見ても「カナエが生前に身に着けていたペンダント」のみ記されていて、用途も不明で、更にポテンシャルの付与もできないことから、使い途に悩んでいたアイテムだった。


 ここで、アヤセは一つの可能性に気付く。おそらくこれは、何かのイベントが始まっているのではないかと。王国で発生する、タダミチの生霊の討伐イベントだが、途中の過程をすっ飛ばしてしまい、話の内容が掴めなくなっており、そして、アイテム「カナエのペンダント」がイベントトリガーであり、引き続きイベントが進行しているのではないかと推測した。

 

 (何も分からず、イベントを進行させるのもモヤモヤするが、ゲンベエ師匠にとって、このペンダントはとても大事な物らしいな)


 「ゲンベエさんが言われたペンダントは、これのことでしょうか?」


 アヤセはペンダントをインベントリから取り出す。これを見たゲンベエとタダスケは、目を見張った。


 「師匠、こ、これは……」

 「あ、ああ!これは、あ奴が五歳の時に儂が贈ったもので間違いない! カナエの物だ!」

 「アヤセさん、それを拝見させていただけますか?」


 アヤセは、ペンダントを手渡す。タダスケはそれをゲンベエ師匠の下へ持って行く。

ペンダントを手に取り、しばらくの間それを凝視していたゲンベエ師匠であるが、やがて目を見開いたまま、大粒の涙をボロボロと流した。


 「やっと、やっと戻ってきたな……、カナエよ。やっと儂のもとに帰ってきてくれたな! カナエよ!」


 タダスケもゲンベエ師匠と一緒に涙を流している。ゲンベエ師匠の慟哭は、いつまでも続いた。



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