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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第四章_立ち込める戦雲

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56_二度目の「再会」


 アヤセが逃げ込むようにオチヨの店に入ったのは、ホレイショとの約束の時刻より三十分ほど早かった。

 留守だったオチヨに代わり、彼女の父親である寡黙な店主に案内され、前回と同じ座敷席に通される。ホレイショが到着するまで、五分と待たなかった。


 「おや、待ち合わせは六時で良かったよな? 早いな」

 「そちらこそ早いな。自分は色々あって到着が早くなってしまったんだ」

 

 店主に酒と料理をお任せで注文し、先に運ばれた酒を口にしつつ、アヤセは先ほどのノエルとの再会についてホレイショに話して聞かせる。


 「ははっ! お前さんモテモテだな。その()は、美人だったんだろ? どうして置き去りにしたんだ? 勿体ねぇ。それに、もう少し気の利いた言い方ってものもあるだろうに」


 ホレイショは経緯を聞き、大笑いしつつ感想を述べる。


 「……女性の扱いが下手くそなのは、チーちゃんによく言われているから自覚している。確かに、ノエルさんのような可愛らしい女性に好意を持たれるのは悪い気がしないが、いかんせん彼女の場合は、出会った状況がショッキングだったし、本人の持っている『白馬の王子様』に対する願望や思い込みの強さもあって、危機を救った自分を恋愛対象と錯覚してしまったのだろう。いわゆる『吊り橋効果』(注:不安や恐怖を強く感じている際に出会った人に対し、恋愛感情を抱きやすくなる効果のこと)というやつだ」

 「前から思っていたんだが、お前さん少し人間関係を理屈で考えすぎていないか? 人間は良くも悪くも感情を持っているから、彼女の持っている感情だってお前さんが考えているものとは、おそらく違うだろうぜ」

 「一方的に相手を理想化した上でそれを押しつけ、意にそぐわないことが少しでもあると勝手に失望して、場合によっては相手を傷つける面倒なタイプかもしれない。……自分はそういう思考を持った人間を間近に見たことがある。そんなのは極力避けたいのが本音だ」

 「……」


 ホレイショは、たった今アヤセが時折見せる暗い表情をして、心情を垣間見せたことを思案する。アヤセは、以前、本人が語るような人物と関わった経験があるのだろうか? 妙なところで理屈が先行し、人との付き合いを苦手として避けたがる傾向は、過去に起因しているのかもしれない。


 「……今のはそれこそ自分の思い込みだ。済まない、忘れてくれ」

 「そうだな。人を簡単に型に嵌めて判断しない方がいいかもだぜ。それにしても、王都にいる限り、これからもノエル嬢に会う機会は、いくらでもあるだろ? お前さん、その度にコソコソ逃げ回るつもりか?」

 「正直言うと、先ほど逃げ出したのは、いきなり『運命のひと』なんて言われて、動揺してしまったからなんだ……」

 「ハハハハッ! 沈着冷静ないつものお前さんらしくもねぇな」

 「……。実際に接してみて、『変わった面』もあるが彼女は明るくて純粋な心の持ち主だと思ったのも事実だ。なるべく会わないようにしたいが、万が一出くわした際には、ノエルさんに『運命』なんて言葉に振り回されず、自分に対する感情が誤っていないかよく考えてもらうよう、伝えるつもりだ」

 「お前さんってヤツは……。まぁ、彼女がお前さんに対しどんな感情を持っているかは、今度自分で確かめてみるといい。それより、狐陶庵の雨どいの話は、俺は全く問題ねぇ。できれば紹介者と一緒に行った方が話は早いだろうから、お前さんの予定に合わせるから一緒に来て欲しいぜ」

 「了解だ。そもそもあそこには、もう一度訪ねる必要があるので、同行については自分からも申し出ようと思っていたところだ」

 「しかし、俺もバンボーには、さんざん出入りしてきたがそんな施設があるなんて知らなかったな。どうして今頃になって出てきたんだろうか?」

 「おそらく、これは自分のイベント絡みだ。何が原因か、心当たりはあるにはあるが確証もない。もう少し情報収集をする必要があるかもしれないな」

 「そうか。ま、狐陶庵を訪ねる目途が立ったら教えてくれるかたちで俺はいいぜ。じゃあ次は、相棒のラタスの冒険譚について聞かせてもらうか」


 その後、二人の話題は、アヤセのラタス滞在の話に移っていく。少し話が進み、徳利の酒が尽きかけてきたところで、タイミング良くオチヨが料理を運んできた。


 「お料理お待ちどうさま~。ホレイショさん、アヤセさんもいらっしゃいませ。久しぶりですね。ホレイショさんが来てくれなくて、私、寂しかったです……」

 「相棒も俺も最近忙しかったから、顔を出せなくて済まねぇな。その代わり今日は飲むからじゃんじゃん酒を頼むぜ」

 「今日は、熟成樽からお酒を出す日ですから、良かったら注文してくださいね。あ、あとアヤセさんにお客さんですよ」

 「自分にお客でしょうか?」


 (まさか……)


 バンボーのこの店にまで、自分を尋ねて来るような人間はそうそういまい。アヤセに嫌な予感がよぎる。


 「せんぱ~い、ノエルを置いていくなんてひどいじゃないですかぁ~」

 「ああ、やっぱり……!」


 嫌な予感が的中したことに、アヤセは悲嘆して、頭痛を鎮めるように両手でこめかみを押さえる。一方、ホレイショは先ほど話題に出たノエルが目の前に現われたことに興味津々といったかたちだ。


 「なあ相棒、紹介しろよ。この別嬪さんは誰なんだ」

 「やだぁ、お上手ですね~。先輩、このダンディな方を、早くノエルに紹介してくださいよ~」


 アヤセは、ノエルがこの場にいることを唯一説明できそうなオチヨに目をやる。オチヨはアヤセの恨みがましい視線を受け、少しだけ気まずそうな顔をしたが、淡々と経緯を語り出した。


 「狐陶庵の前で、困った様子を見せてオロオロしているノエルさんに気付いて声をかけたのです。何でも緑色の服を着ている人を捜していると聞きまして、もしかしたらアヤセさんのことかなって思ったんです。今日アヤセさんが来られるのは、ホレイショさんから聞いていましたから、この店にお連れすれば二人が会えるんじゃないかなって……」


 アヤセは続いてホレイショに目を移す。


 「オチヨちゃんには人伝で今日行くことはあらかじめ伝えておいたぜ。何かまずかったか?」

 「いいや、別に……」


 たまたまホレイショがオチヨに事前に来店を伝え、たまたまオチヨが狐陶庵の前を通りがかり、ノエルに気付いて声をかけたという偶然が重なったものなのだが、悪いことは重なるものである。アヤセは運命なんて言葉は、絶対に信じないが、今日の出来事は自身の手には及ばない、何か超越した者の悪いいたずらのように感じられた。


 「それより、アヤセさんもスミに置けないですね~。こんな素敵なカノジョさんがいるなら教えてくださいよ~」

 「もぅ~、オチヨちゃんたら、人をからかっちゃだめですよぉ~」


 ノエルは、アヤセが苦虫を噛み潰したような顔をしているのをよそに、本日二度目の再会を無邪気に喜んでいる。

 一方で、ホレイショはその様子を見てニヤニヤしながらアヤセに促す。


 「ほら、相棒、早く紹介しろって」


 事ここに至っては止むなし……。アヤセは大きくため息をつき、二人を引き合わせる。


 「ノエルさん、この者は自分のフレンドでホレイショと言います。自分とは、港湾部の工房で出会いました。共同である事業に取り組んでいる相棒です。それと、ホレイショ、この方がノエルさんだ。自分とはラタ森林地帯で出会い、今日、バンボーで再会した。……ただそれだけだ」

 「何か紹介が雑なような気がしますが、ノエルです~。先輩に助けてもらって運命の出会いをしました。よろしくお願いしま~す」

 「おう、よろしくな。俺はホレイショだ。紹介は、大体今相棒が言ったとおりだ。それでよ、俺達は見てのとおり二人で飲んでいるんだが、酒が飲めるんだったら一緒にどうだい? アンタみたいなコが参加してくれるなら大歓迎だぜ」

 「お、おい、ホレイショ……!」

 「ホントですかぁ! ノエル、二十歳になったのでお酒は大丈夫です~」

 「そうかい、ありがとな! じゃあ、オチヨちゃん、ノエル嬢の分も追加で頼むぜ」

 「はーい、かしこまりました。少々お待ちくださいね!」

 「この店には日本酒が置かれている。ゲームの世界ではかなり貴重な物だから、内緒にしといてくれよな」

 「はい、分かりました~。何か楽しみです~」


 アヤセは、二人の会話を聞きつつ、今日何度目かになるため息をついた。



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