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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第三章_PK討伐作戦

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49/127

49_流れにのせて

 「もともと、お前らなんて敵じゃねーが、こんなにあっさり終わるとは思わなかったぜ。PKクランのクランマスターも無様なもんだな」


 ライデンは、自身が状態異常「怪我」に追い込んだクラン幹部達を、容赦なく次々と抜き打ちで死に戻らせているアヤセを傍目で見つつ、足下で大の字で手足を投げ出すラセツに声をかける。ラセツもライデンのスキル【熱烈剣+】によって、念入りに両手足を切り刻まれアヤセにトドメをさされるのを待っているかたちだ。


 「クソッ! ライデン、俺達にこんなことをしてタダで済むと思うなよ」

 「おーおー、怖いねー。どーせお前らの長期禁錮は確定だろうから、次に会うときには、俺とお前の基礎レベルと技能レベルに今より差がついているだろうぜ。……俺こそ次は容赦しねーぞ。お前の体を骨まで燃やし尽くしてやるからな」

 

 ライデンはラセツを眼光鋭く睨み付ける。ラセツはライデンの殺気に恐れを抱いたようだが、大方の仕事を終え、自身にトドメをさしに来たアヤセに対して罵声を浴びせる。こんな状況でも自身より基礎レベルの低い生産職のアイテムマスターを下に見る意識には呆れるばかりである。


 「おい、アイテムマスター! アヤセとか言ったな? お前の顔を覚えたぜ。お前のことは迅雷や他のクラン幹部を総動員して、必ず引退に追い込んでやる! 必ず、必ず潰してやる! 殺してやるぞ!」

 「……運営通報用の動画を撮りました。通報します」

 「なっ……!」

 「更に罪を重ねるかラセツ君。君はホントにバカだねー」

 

 ライデンが嘲り笑う中、ラセツは顔を真っ赤にしてアヤセを睨む。だが、手足も動かせない状態ではただただ滑稽にしか見えない。


 「聞くところによると、衛兵隊では基礎レベルや技能レベルを下げたり、装備品を破壊する措置も取るそうですから、あなたもそれを受けた場合、果たして今と同じ実力でいられるか分かりませんね。今まで散々第四次組や生産職を食い物にして私腹を肥やし、経験値を稼いできたのですから、今度は、狩られる立場というものを経験されてはいかがでしょうか?」

 

 早速撮影した動画を運営に通報しながら、アヤセは冷ややかに応じる。

 ラセツや迅雷は、クランを二つも設立して護衛パーティーの主催とその参加者を襲撃する仕組みを作り上げ、多くのプレイヤーを犠牲にして莫大な利益を得ていた。


 アヤセは個人的に、ラセツ達の一連の行動は、道義上問題があり運営から処分されて然るべきだと考えているが、現実としてPK自体は (ゲーム上では)違法行為ではなく、その手段や方法も問われないことから、ことさらクラン「暗殺兵団」とクラン「断罪の暗黒天使」のクランマスター同士が結託して、PKの体制を構築していた事実だけをもって、運営が処分を下すことはないだろう。先ほどのアヤセに対する暴言にしたって、ハラスメント行為として一応認定されるだろうが大した罰則は受けまい。


 ただし、衛兵隊がどの様な罰を下すかは話が別だ。


 「衛兵隊は、これまでクラン『暗殺兵団』に手を焼かされてきましたから、今後の見せしめも兼ねて、王国で活動できないくらい重罪を科すと言っていました。衛兵殺しが高くつきましたね。……それと、装備品は回収させていただきます」


 アヤセは、他のトドメをさした幹部同様、スキル【換骨奪胎】でラセツの装備品を一式回収する。


 「お、おいっ!何をした!? 俺の装備品を返せ!」

 「皆さんから回収した装備品は全部売り払って、あなたが殺した衛兵の遺族への見舞金に充てます。最も、大した金額にはならないでしょうが」

 「止めろ! 品質も価値も4の装備品なのだぞ。そんなこと、許さないぞ!」

 「品質と価値は高めですが、ポテンシャルが今ひとつです。大方、錬金術師が『★』の高い素材を大量に使って強引に作製したのでしょう。どちらにしてもこれは、近い将来、役に立たなくなります。……もういいでしょう。お覚悟を」


 アヤセは刀の鍔元に手をやり、一歩足を踏み出す。


 「止めろっ! 俺はこんなところで衛兵に捕まる訳にはいかないのだ!」

 

 アヤセは冷ややかにラセツを見下ろしつつ、無言で鯉口を切る。


 「ま、待ってくれ! 俺達は帝国で好き勝手やっているトップクランに一泡吹かせることを目標にしている。それには、実力やカネが必要だ。将来的にトップクランの力を俺達が削げば後続組も恩恵を受けることだってある。今はこんなかたちで力をつけているが、いずれはお前のような低レベルプレイヤーを助けてやるクランにすると約束する。だから見逃してくれ!」


 泣き出しそうな顔をして命乞いをするラセツであるが、アヤセの冷ややかな目は変ることはない。


 「トップクランへの対抗のため、後続のクランが様々な方法で力をつけているのは、以前、他のクランでも、似たようなことをしているのを見たことがありますので、想像はできます」

 「話が早いな。じゃあ、俺達の志も分かるよな?」

 「そのクランは、重大な違反行為をしたので運営に通報され、結果的に解体されました。あなたの話を聞いて、そこのクランマスターがほとんど同じことを言っていたのを思い出しましたよ。……あまりに身勝手な言い分に非常に腹が立ったのを覚えています!」

 「え?」

 「『自分達のために、低レベルや生産職のプレイヤーは黙って犠牲になれ』という反吐が出るような言い分は、到底承服できるものではありません。これ以上の言葉は不要でしょう。あなたのペナルティが少しでも重くなることを祈っています」

 「ひっ……! た、助けてくれっ!」

 

 問答無用とばかりに抜き付けられた刀は、瞬時にラセツの頸部を正確に断ち切った。


 =個人アナウンス=

 クラン「暗殺兵団」幹部を1体撃破。目標:50/5(達成済)


 =討伐作戦参加者アナウンス=

 クラン「暗殺兵団」及び、クラン「断罪の暗黒天使」の全幹部の捕縛を確認。以降、プレイヤーは、現時点で受注しているクエストの終了をもって、作戦が完了します


 「クラン幹部は全員捕らえられたようだ。一応、自分のクエストもこれで終了だ」


 ラセツが散らすエフェクトを目にしながらアヤセが、ライデンに報告する


 「そうか。しかし、ラタ森林地帯にはPKがまだ残っているだろうから、討伐作戦自体はまだまだ続くだろうな」

 「NPCの衛兵は残党討伐を継続するらしい。それにしても、自分一人では、ラセツ達を倒すことができなかった。依頼を受けてくれて感謝する。ありがとう」

 「いや、俺も奴等を倒したいと思っていたから、手を組んだまでだ。礼を言われるまでもねー」

 「まぁ、それはそうと、惚れる相手はよく選んだほうがいいと思うぞ」

 「なっ……、うるせー! そのことは言うな! あと、さっきのことは誰にも言うなよ!」


 顔を真っ赤にしてライデンはアヤセに口止めを念押しするが、遠くで人声や甲冑を鳴らす音が聞こえてくる。どうやらチーちゃんが衛兵隊を誘導してこちらに向かっているようだった。


 「……衛兵隊か?」

 「どうもその様だ。先ほど自分が遣った伝令が案内しているだろうから、この河原に真っ直ぐ向かってくると思った方がいい」

 「まずいな。今から逃げ切れるか?」

 

 ライデンは懸念を口にする。PKのライデンにとって衛兵隊との鉢合わせは、極力避けたいところであろう。


 「ステルス系のスキルを持っていなかったか? それで逃げられるのでは?」

 「スキル【隠匿】を取得している分には取得しているが、持続時間が短いからこれだけ衛兵が多いとちょっとキツいな……」

 「そうなると、別の方法を考えなければならないか」


 アヤセは念話で、チーちゃんに遠回りして衛兵隊を誘導するよう指示を出す。これで時間は少し稼げそうだった。


 「それはそうと、俺も一応PKなのだが、お前は俺のことを討伐しないのか? さっきから俺を逃がそうとしていないか?」

 「自分の討伐数は既に達成しているし、何よりラセツや迅雷の捕縛で借りができたからな。それと、報酬の後払い分は逃亡の手助けを考えていたところだ」

 「お前なぁー、仮にも討伐作戦の参加者だろ! PK助けてどーすんだよ!」

 

 ライデンはアヤセの突拍子もない考えに呆れる。だが当の本人は至って真面目に考えているようだった。


 「これはあくまで自分の直感なのだが、お前は他のPKと一線を画すような気がした。低レベルプレイヤーは狩らないと言っていたし、おそらく今後、ラタ森林地帯で他のPKがやっているような面白半分で、自分より弱い者を襲撃するようなことはしないだろうと信じている。それに、お前が言っていたことではないが、自分もお前のことが気にいってしまったのかもしれないな」

 「なに真顔で、小っ恥ずかしくなることを言ってんだよ! 全く、お前ってつくづく訳分かんねー奴だぜ」

 

 重ねて呆れるライデンをよそにアヤセは、ライデンの逃亡方法を模索する。この河原は、二面を川に面し、一面を岸壁で遮られ、残りの地続きの一面からは衛兵隊が迫っている。追い詰められたライデンに打てる手は残されているだろうか?


 「……これに賭けてみるか」


 ====================

 【アイテム・生活用品】木樽(大) 品質2 価値2 生産者:- 重量150 

 ====================


 アヤセは、インベントリから一個の樽を取り出す。この樽は、高さが百十センチ、直径は八十五センチ程度の大きさである。先日ホレイショに作ってもらった物の一つで、この中に食品や水等を詰め込み、インベントリのスペース節約に利用している。樽の容量限界まで物を詰め込んでも重量は150から変化しないし、種類枠も樽一個分のみしかカウントされないので、出し入れは面倒だが、インベントリの省スペース化に一役買っているのは確かだ。


 「これは樽か? お前、インベントリの中に何を入れているんだよ……」

  

 ライデンは突然目の前に現われた樽を訝しむ。


 「少し窮屈だが、これなら一人分くらいのスペースがあるだろう」


 アヤセは樽の蓋を取りながら独り言を漏らす。この独り言でライデンはアヤセが何を考えているのかおおよその見当がついた。


 「まさか、この中に入れってことじゃないだろうな?」

 「よく分かったな。この樽を川に流す。さすがに衛兵隊といえども川まで非常線を張っていないから、上手く流れに乗って対岸の帝国領に打ち上げられたら、逃れることができるはずだ」

 「……本当にそんな上手くいくのか?」

 

 嫌な予感を覚えたライデンの顔がこわばる。一方でアヤセは(本人にとって)、妙策を思いついたことで満足げな顔をしている。


 「さぁ、時間がないぞ。急げ! 早く中に入れ!」

 「お、おい、ちょっと人の話を聞けって。おい、押すな!」


 有無を言わさずアヤセは、プリスの袖でライデンを樽に押し込め、蓋をする。樽の中から何やら「狭めー!」とか「暗れー!」とか声が聞こえるような気がするが、多分気のせいだろう。


 「さて、これで良し、と」


 蓋をした樽を横倒しにするアヤセ。自らの手とプリスの袖で、川縁まで樽を転がす。途中で樽の中から何やら「痛てー!」とか「目が回るー!」とか声が聞こえる気がするが、これも多分気のせいである。

  

 (衛兵隊の手に及ばないところに流れ着いてくれればいいが……。後はライデンの悪運に任せよう)


 樽を水面に浮かべ、プリスの袖で伸びる限り川の真ん中に向けて押し出す。やがて樽は流れに乗り、ゆっくりと下流へ流されて行った。


 こうしてアヤセの討伐作戦は、朝日できらめいた川面に浮かぶ樽を見送って終了した。


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