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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第三章_PK討伐作戦

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45/107

45_追尾

 ライデンが走り去ってから十分もしないうちに衛兵隊の本隊が到着した。


 星見の台地の襲撃に加わっていたPKは、ほとんどが討伐作戦の参加プレイヤー達によって討ち取られていたが、南側斜面に残っていた数少ない生き残りも続々と到着する衛兵達を目の当たりにして、襲撃の失敗を悟り、四方八方に逃げ出した。この様な状況では最早クラン「暗殺兵団」の幹部達も乗り込んでくるとは考えられない。星見の台地の防衛はこれで完遂したといえるだろう。


 「……と言う訳で本隊を二手に分け、一隊を『星見の台地』の応援へ、もう一つの隊を人狩りの残党掃討にそれぞれ振り分けました。ギー隊長は現在、後者の隊の指揮をとっておられます」


 甲冑姿のアメリーは、アヤセをはじめとするプレイヤー達の前で説明する。


 「皆さん、本当にお疲れ様でした。軽微な損害で人狩りを敗走させ、最後まで護衛パーティーのメンバーを守り通したこと、衛兵隊長に代わってお礼申し上げます。皆さんの御活躍は隊長も高く評価しています。報酬の加算も検討するそうです」


 報酬上乗せの話を聞いたプレイヤー達から歓喜の声が上がる。


 「なお、この後の依頼については我々の方で分担を決定させていただきます。依頼を受取られた方は、内容を確認の上、それぞれの責任者の指示に従って速やかに行動してください。それでは引き続きよろしくお願いします」


 アメリーの話が終わり、クエストをメールで受取ったプレイヤー達は、早速それぞれの持ち場に散っていく。


 「俺とコーゾは、後方支援す」

 「森で薬草とか素材を集めて補給部隊に持っていくそうですー」

 「…あたしは、ここにいる護衛パーティーのメンバー達をラタスへ護送すること。今のあたしには、これが丁度いいかもしれないけど……」


 まかろんの言葉は歯切れが悪い。彼女の憂いはおそらく頻繁に耳につく青星のフィールドシャウトが原因だろう。まかろんを見捨て、ライデンから無様に逃げ隠れした青星であるが、衛兵隊本隊が到着するや否やどこからともなく現れ、シャウトアイテムを使い護送クエストを仕切り出している。彼女は、そんな青星に嫌気がさして、同じクエストへの参加を憂鬱に感じているようだった。


 「あいつのお守りとは可哀想だな。でも、他の連中に面倒をかけないために同じクランなら責任もって面倒見てくれや。それで、兄貴はやっぱり討伐系ですかい?」

 「アヤセさん!」


 アヤセ達の前にアメリーが走り寄ってくる。


 「アヤセさん。……無事で本当に良かった。『星見の台地』の防衛で、随分と危険な目に遭われたって聞きました。もうっ、私、心配したのですからね! 無理をし過ぎてはいけませんよ!」

 「…何、あの女?」


 アメリーがアヤセに話しかける様子を見て、まかろんが苛立ちを見せながらピランに尋ねる。


 「衛兵隊のアメリーさんだぜ。さっきも俺達の前で説明してただろ?」

 「…それは知ってる。二人は知り合いなの?」

 「俺もよく知らねぇが、何でも、アメリーさんが兄貴に悩みごとを解決してもらったとか言っていたから、それなりに親しいんじゃねぇか?」

 「…そう、なの」


 まかろんは、アヤセと親しげに話すアメリーを羨望と嫉妬がないまぜになった感情でしばらく見ていたが、やがて大きなため息をつく。

 

 「…王国内にいればチャンスはまだある。負けるな! あたし!」


 幸い、フレンド登録もしてもらったし、次回どこかで巡り合ったときは、自身が他の女の子達にアメリーのように羨まれる存在になってやる……。まかろんはそう思い直し、気持ちを切り替えた(ちなみにフレンド登録はコーゾとピランともしている。また、アヤセも何だかんだ言って二人とフレンド登録を行っていた)。


 「…アヤセ氏」


 まかろんは、アヤセに声をかける。


 「…あたし、そろそろ行くね。ありがとう、あたしのことライデンから守ってくれて。今度もまた、アヤセ氏と一緒に戦いたい。それまで、じゃあね」

 「自分は自分の役割を果たしたまでです。こちらこそクエストやイベントで御一緒になった際は、よろしくお願いします。またお会いすることを楽しみにしていますね。それまで、お元気で」


 アヤセは右手を差し出す。まかろんは少し恥ずかしそうに、ためらいつつアヤセと握手した。

 

 「お兄さん、僕達も行きますね」

 「兄貴、御武運を!」

 「ああ、二人ともありがとう。本当に世話になった」


 同じようにアヤセは二人と握手する。短い間だったが、一緒にクエストに挑戦した仲間と別れるのは名残惜しいものだと感じた。


 手を振り、三人がそれぞれのクエストに向かうのを見送っていたアヤセであるが、突然、聞き慣れた声が頭の中に木魂する。


 (ご主人~!! チーちゃんを置いていっちゃうなんてひどいの~! チーちゃん、とっても寂しかったの~!)

 

 声の主は、念話で語りかけるチーちゃんだった。アヤセは眠っていたチーちゃんをギー隊長に預け、星見の台地に赴いていたが、ようやくチーちゃんは目を覚ましたようだった。チーちゃんは、自身が寝ている間にいなくなっていたアヤセに対し、恨みごとを述べている。


 (チーちゃんごめんね。でもチーちゃんをギー隊長に預けたのは理由があったんだ)

 (ギーのおじちゃんから話は聞いたの~。チーちゃん、お空が明るくなってきたからもう飛べるの~)

 (そう。じゃあお願いできるかな?)

 (はいなの~。だけど、これが終わったらチーちゃん、オーランジいっぱい欲しいの~。あと、ご主人にたくさん撫でて欲しいの~。)

 (分かった。終わったら何でも言うこと聞くよ)

 (チーちゃん、嬉しいの~! それじゃご主人、スキル【視覚共有】発動するの~)


 アヤセの目前に、チーちゃんが見ている視界の映像が映し出される。チーちゃんの視界には、ギー隊長が映っていた。

 チーちゃんが、どうやらギー隊長に向け鳴き声で合図をしたらしく、隊長は力強く頷いたあと、周囲の衛兵に指示を出す。指示を受けた衛兵達が三人の男女を隊長の眼前に引き立てて来る。この男女はネネコ、マッド、ガイのクラン「断罪の暗黒天使」の幹部達だった。


 「ギー隊長が、予定通り各クランの幹部をあぶり出すため、ネネコ達を釈放して囮にするようです」


 アヤセは、アメリーに状況を報告した。


 星見の台地では、PKをほぼ全滅させることに成功したが、クラン「断罪の暗黒天使」と「暗殺兵団」の幹部達は依然として広大なラタ森林地帯のどこかに隠れている。事の元凶であるこれらの幹部達を捕縛しない限り、今回の作戦は目的を達したとは言えない。衛兵隊がラタ森林地帯にくまなく展開して包囲の幅を狭め、森に潜むPKを締め上げるくらいの人員が動員されているとはいえ、しらみ潰しの探索は非常に骨の折れる仕事になるだろう。


 そこで、アヤセとギー隊長は、ネネコ達が心許ない装備で、ラタ森林地帯の真ん中で放り出されたら、庇護を求めて自身のクラン幹部のもとに逃げ込むと見込み、少なくてもクラン「断罪の暗黒天使」の幹部達の居所だけでも探ろうと策を講じた。チーちゃんは、言わばネネコ達を見失わないための追跡ドローンのようなものである。


 「了解です。それでは、アヤセさんには、かねてからの依頼のとおり、解放したネネコ達を追尾し、クラン幹部達と接触を図らないか監視をお願いします」


 アメリーから提示された新たなクエストは、広大なラタ森林地帯を駆け回る機動力と対象を探し出す探索能力が求められるものだった。ネネコ達の動向を探るには、アヤセの召喚獣「チーちゃん」の他、装備品のうち「無銘の刀」、「深緑のケピ帽」、「宵闇のヘシアンブーツ」にそれぞれ付与されたポテンシャルも大いに活かされるだろう。


 「チーちゃんのスキル【視覚共有】はネネコ達の追尾に役立ちそうです。本当に頼りになる召喚獣です」

 「ギー隊長もチーちゃんのスキルに期待を寄せているようですよ。それにしてもアヤセさん、チーちゃんによっぽど好かれているのですね。チーちゃんの目が覚めてアヤセさんがいないことが分かると、大きな声で鳴いておろおろし始めたので、宥めるのに大変だったのですから」

 「そうだったのですね……。うちのチーちゃんが御迷惑をおかけしました」

 「いえ、お互いに信頼し合っている様子が窺えた上に、アヤセさんのサモナーとしての一面を垣間見ることができたので新鮮に感じました。でも、あれだけ仲が良いと何だかちょっと妬けちゃいますね。私もあんな風に……」

 「あんな風に?」

 「もっと仲良くなりたい……。い、いや、済みません何でもありません。作戦中に関係ないことを言ってしまいましたね」


 アメリーは、顔を真っ赤にして前に突き出した手を、激しく振りながら慌てて話題を変える。


 「そ、それでは、依頼の件、よろしくお願いします。それで、アヤセさんの依頼には含まれていないのですが、集結時刻までに到着しなかった三つの護衛パーティーのメンバー達が、途中で人狩りの襲撃を受けて、森の中を散り散りに逃げているらしいという情報が入っています。人数はおおよそ九十人程度ですが、追尾の途中で出くわすようなことがありましたら、可能な限り人狩りの討伐をしつつ、救出をお願いします」


 どうやら、定刻までに星見の台地に到着していなかったパーティーは途中でPKの襲撃を受けていたようだ。ラタ森林地帯にはまだまだ少なからずPKが跋扈しており、速やかな掃討が求められている。


 「了解しました。ネネコ達の追尾はチーちゃんにも任せられますし、できる限り護衛パーティーのメンバーの保護に努めます」

 「先ほども言いましたが、ご無理はなさらないでください。あの、それで、私もコーゾさん達みたいに握手をして、アヤセさんをお送りしたいのですが……」


 アメリーは、おずおずと右手を差し出す。

 アヤセは笑顔で頷き、アメリーと握手をした。


 「どうかご無事で」

 「お気遣いありがとうございます。今回の依頼内容は、あくまで敵の居場所を探るものですから、幹部達と戦闘するつもりはありません。ギー隊長には申し訳ないのですが、ライデンとの戦いで身の丈に合わない相手とはやり合わない方がいいと思いましたので……」

 「……」


 本人はそう言っているが、アメリーは、目の前で危機に瀕している者がいたらきっとアヤセは、ライデンと対峙したように、相手がどれだけ強敵であろうと身の危険を省みずに立ち向かうだろうと思っている。彼女は憂いを募らせるが、何とか顔に出すのを抑えチーちゃんを追うアヤセを送り出した。


 ラタ森林地帯は間もなく夜明けを迎える。討伐作戦は、いよいよ大詰めを迎えようとしていた。


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