43_星見の台地の死闘③
ライデンが放ったスキル【爆裂剣】をアヤセは、まともに食らってしまう。一撃目のダメージは無効となったものの、二撃目以降の衝撃によって爆風で吹き飛ばされ、為す術無く斜面を滑落する。
「アヤセ氏!」
まかろんは吹き飛ばされたアヤセに向かって叫ぶ。
周辺のプレイヤー達も爆裂剣の衝撃音とまかろんの大声に何か異変が起きていることに気付き出す。
「おい、お前は人の心配をしている暇はねーぜ」
「……!」
「少しだけ手間取ったが、衛兵隊本隊もそろそろ来そうだし、とっとと終わらせてずらかるとするか」
まかろんに迫るライデン。しかし、斜面下から飛来してきた複数の高速の矢がそれを阻む。
辛くも矢を躱したライデンは、舌打ちをして、斜面の途中で「黒雨の長弓」を構えているアヤセに向き直り、ゆっくりと斜面を下ってくる。
(スキルの出も攻撃速度も早い! これでは自分の素早さ(AGI)では、攻撃を躱せるか躱せないかというところだ。防ぐのは……。次はしのげるか? それと、ジャストガードは?)
爆裂剣を地面に放って、釘粘土を壊しながらアヤセにゆっくりと進んでくるライデンからアヤセはジリジリと斜面を後退しつつ頭の中で対策を考えていく。
「釘粘土がこの辺に落ちているから気を付けないとな。……ったく、こんなアブねー物を八百個もばら撒くなんて、さすがの俺でも少し引くぜ」
どうやらライデンは、釘粘土の威力をよく知っているようだった。
(全く、せっかく作った釘粘土をあんなに壊して! 最も、壊し方が雑だから大方斜面に残ってはいるが、ポテンシャル「踏抜必中」が発動しないな。発動までタイムラグがあるのだろうか?)
本来敷設している物に加え、アヤセが斜面を転がる途中で、ばら撒いた釘粘土が至るところで点在していたが、ポテンシャル「踏抜必中」が発動する範囲にライデンが進入しても無反応であった。どうやら直接踏み抜かない場合はある程度のタイムラグがあり、その間にライデンが範囲外に出てしまうのが不発の原因のようだった。頼みの釘粘土が機能しないとなるとライデンの言うとおり、アヤセの数少ない手札が一つ減ることになる。
「いつまでそうやってコソコソ時間を稼いでいるつもりだ! 斜面に誘い込んでも俺は釘粘土を絶対に踏まねーぞ!」
そう言いながらライデンはスキル【爆裂剣】を発動し、幾多の火球をアヤセに向け放ってくる。
「くっ……!」
アヤセは、インベントリからタダスケより譲り受けた「鉄の小刀」を取り出し、火球を次々とジャストガードで弾き返した。自身に向かってはね返ってくる火球を避けながらライデンは状況を冷静に分析する。
「おっ? ジャストガードを武器でやるとは器用だな。めんどくせーが、やっぱり近接戦か」
ライデンは両手に持った剣に魔力を注ぎつつ、剣をきびきび上下左右に振って何か印を刻むような動作をする。
「【飛燕剣】、【速歩】!」
瞬時に加速したライデンは、斜面を駆け下りアヤセに斬りかかる。
アヤセも「無銘の刀」に持ち替え、急いで鯉口を切る。
(鯉口を切っても、スローモーションにならずこの速さとは、やはりライデンの素早さの元値はかなりのものなのだろう。ここはギリギリまで引き付けて初太刀を食らわせるのが有効だな)
理想は、プリスや釘粘土で牽制しつつ、ウィークポイントへの八倍攻撃を見舞い、状態異常「怪我」に持ち込んで敵の行動に制限をかけ、後は続く限り四倍攻撃を繰り出す……。決して簡単にいかないだろうが、今のアヤセにできることはこのくらいに限られる。
ライデンの剣技は右手が攻撃を、左手が防御を主体にしているようで、攻守のバランスも良く隙が無い。ただ、アヤセはライデンの攻撃を躱しながら、その動きに法則性があることに気が付いた。
(早くて正確な動きだけど「正確」過ぎる。……オートモーションも考えものだな)
当然と言えば当然だろうが、現実世界で剣や槍等の武器の扱いに慣れているプレイヤーはそう多くない(それこそ本当に刀で「斬る」にしたって、それなりの技術が必要となる)。そのためプレイヤーが快適、爽快にプレイができるように武器の種類ごとに攻撃のモーションが幾通りかプログラムされており、プレイヤーは任意でそれを利用することができる。高レベルプレイヤーの中にはこのモーションを「コンパチ」だと言って嫌う者もいるが、現実世界では簡単にできないような動作(バク宙等)を盛り込んだ派手なアクションを手軽に行えたり、ウィークポイント等への誘導攻撃が組まれていたりと利点が多いため、ほとんどのプレイヤーがオートモーションを利用しているのが実情である。ちなみにアヤセは「鞘の内」の特性を活かすため無銘の刀を振るう際は、オートモーションを利用していない(一方で扱いに慣れていない銃や弓はオートモーションを利用している)。
(確かトップクランの団員でもオートとマニュアルを併用している場合が多いとか言っていたな。まぁ、オートモーションでも戦闘を十分楽しめるのがこのゲームの魅力なのだろうけど)
攻撃を躱し続ける自身に対しライデンが苛立ち、モーションのテンポを上げようと躍起になっている様子がアヤセには冷静に見えていた。そして、その隙を衝いて反撃に移る。
攻撃パターンを先読みして、攻撃動作の最後に右手の剣を大きく振りかぶってから切り下ろしてくるタイミングでライデンの右腕に狙いを定め、刀を抜き付ける!
「……! っ! くそっ!」
綺麗な半円を描く軌道でライデンの右腕を斬った攻撃は八倍攻撃の判定となり、状態異常「怪我」も追加される。上々の判定にアヤセは少し安堵とすると共に、更なる追い打ちをかけるべく、刀を両手に持ち上段に振りかぶる。ライデンは右腕を使えない。このまま右袈裟を見舞えば更なるダメージを与えられる。その後の三撃目、四撃目もイメージができているのでこれらが決まればいくら高レベルのライデンとはいえ、ただでは済むまい。アヤセは遙か遠くで微かに見える勝機を多少なりとも引き寄せられたと感じた。
しかし、ライデンも負けずに反撃に移る。
「おらぁっ!」
逆手に持った左手の剣に熱を込め、アヤセの胴体に向けて横薙ぎに切りつける。アヤセは素早いライデンの反撃に対し、両手持ちで振り上げた刀を片手持ちに変えつつライデンの斬撃を迎え撃つように振り下ろす。刀と剣がぶつかるタイミングや角度、それに上からライデンの剣を抑え込むように刀を叩きつけることで、理想的な武器受けができるとアヤセは思っていた。
だが、その目論見は間違っていた。
激しく物がぶつかり合った金属音を響かせた瞬間、アヤセの体の重心は大きく揺らぐ。
ライデンの剣勢がアヤセの刀に打ち勝ち、その衝撃で体ごと弾かれるかたちになってしまったのだ。
(そんなっ! 利き腕の攻撃ではないのに刀が弾かれた!?)
刀は幸いにして自身の手から弾き飛ばされていないが、体勢を大きく崩されてしまったアヤセは、大きな隙を眼前の敵に晒すことになる。
ライデンは振り抜いた剣を再び体の左側面に戻したあと、先ほどと同じような横薙ぎでアヤセに斬撃を加える。同じ動作を初めからやり直す体裁きは、全く効率的とは言えないが、それを行う余裕はアヤセの体勢が崩れているため十分にあった。
一方、アヤセはがら空きになった右胴にライデンの熱烈剣を食らった上、衝撃を受けて吹っ飛ばされた。何とかプリスの袖で防御し、致命傷を免れたのは不幸中の幸いである。
斜面を再び転がり、途中の岩の出っ張りにぶつかり転落が止まる。アヤセは受けた衝撃で軋む身体に抗いつつ何とか立ち上がり、相手に目をやる。ライデンは回復薬を服用し、釘粘土を警戒しつつ近付いてくる。ライデンの右腕は状態異常「怪我」が解消している。当然であるがそれに伴いHPも回復しており、今まで少しずつアヤセが与えたダメージは、全て水泡に帰してしまった。
(自分の武器受けが弾かれたのは、ステータスの差、つまり完全な力負けだ!)
トカゲとの戦いの際もポテンシャル「鞘の内」の効果が途切れた瞬間、形勢が一気に変わってしまった。どんなに手を尽くしても、結局一撃で状況を覆されてしまうほどの実力差を埋めることは、自分にはできないのか? アヤセは心の中で自身の非力なステータスを嘆く。
「この俺にここまでダメージを与えるなんて、中々やるな! だが、基礎レベルの差はどうやっても埋めようがねーぜ!」
再びスキル【速歩】を発動し、アヤセに納刀の猶予を与えずライデンは、連続攻撃を繰り込む。「鞘の内」の効果が全く無くなったアヤセは防御を試みるも、ライデンの早くて重い攻撃を防ぎきれず立て続けにダメージを受け、再度吹き飛ばされる。
斜面を三度転がるアヤセ。だが転落はほどなくして終わる。どうやら斜面を下りきってしまったようだった。
アヤセがふらつきながら立ち上がり、回復薬をがぶ飲みして、何とか頭の回転を取り戻そうと苦心しているところに、アヤセの「鞘の内」を慎重なくらい警戒したライデンが、スキル【速歩】を再発動して波状攻撃を仕掛けてくる。
「一気に決めてやるぜ!!」
「……! そう簡単に終わると思うな!」
アヤセもライデンの圧倒的なステータス差を前にしながら、決して勝負を諦めない。「鞘の内」での対抗が望めず、ジリジリと押されてはいるものの、相手の素早いオートモーションを見切って攻撃を躱したり、時には、刀やプリスの袖でジャストガードを決めたり、カウンターで、微小なダメージを与える攻撃を返したりして、ライデンに必死に食らいつく。
アヤセとライデンの傍目からは、目で追うのが難しい速さで繰り広げられる攻防の様子を、周囲のPKを大方片付けたプレイヤーが戦闘を中止し、成り行きを、固唾を飲んで見守っている。まかろんやコーゾ、ピランも斜面を下り、間近まで来ていた。
しばらく攻防が続いたが、鍔競り合いからアヤセを押し返し、お互いの間合いが離れたタイミングで予想外の抵抗に苛立ったライデンが叫んだ。
「どうして、どうして、低レベルのくせにお前はここまで戦う! 俺は青星達だけ殺れば他の奴等には興味は無いのに、どうして俺の邪魔をする!」
それに対し、アヤセは静かに答える。
「青星さん達が作戦の要とは先ほども言ったはずだ。例えお前が言葉どおり手を引いても、その次には、クラン『暗殺兵団』の強力な幹部達が必ず乗り込んで来る。青星さん達を失ったらそれを防ぐのが困難になる。だから、戦力的に損失の影響がない自分が足止めをして時間を稼いでいるのだ」
「お前は捨て石になっても構わないのか!? 青星やツルガはお前のことなんざ屁とも思っちゃいねーのに! それにあいつらだって言うほどの実力じゃねーぞ!」
「相手が自分をどう思っているかは関係無い。幹部達はお前より基礎レベルが落ちるらしいから、青星さんとまかろんさんの二人なら、他の人達と力を合わせて十分対抗できるはずだ。要はお前の妨害をして時間稼ぎするのが自分に課された役割で、自分はその役割を果たすに過ぎない。それ以外のことは全て二の次だ」
「馬鹿野郎が! 作戦の要は、青星達じゃなくてお前なんだよ! それなのに一番の貧乏クジをテメーで掴みやがって!」
ライデンはそう言うと、アヤセとの間合いを一気に詰める。
「【スラッシュ】!」
「ぐっ!」
前段階の動作を全く見せず、疾風の斬撃が防御のため展開したプリスの袖をすり抜け、アヤセの胴を薙ぐ!
「【クロスカッター+】!」
更に、初撃を上回る高速の二連斬撃が追撃をかけ、プリスとドルマンに強固に守られているはずの上半身を容赦なく斬り刻む!
「これで最後だっ! 【熱烈剣+】!!」
炎をたたえた刃でたたみ掛けるように繰り出された、渾身のスキルによる連撃は、アヤセに対処する暇を与えず身体中に無数の斬撃を見舞う。アヤセはこの攻撃だけで致命傷に至るほどHPを奪われた。更に全身のあちこちが状態異常「怪我」と判定され、体が動かせなくなる。
アヤセは地面に倒れ伏した。
「ああっ! 兄貴―!!」
「…アヤセ氏―っ!」
ピランとまかろんの声が聞こえる。また、コーゾや他のプレイヤー達からも同じような嘆息の声が上がるもの聞こえてきた。
そんな中、ライデンは瀕死のアヤセの前に立ち、声をかける。
「……死に戻らなかったのは装備品の性能のお陰か。だが、こうなっては何もできねーだろう。俺には俺の目的がある。それは譲れねー。でも俺はお前のような奴は嫌いじゃない。だから、せめてこのまま倒れていてくれ。俺が気に入った奴を自分の手で死に戻らせたくないからな」
「自分はお前に敵わなかった。情けは無用だ。だが、最後に教えてくれ。『下忍』はシーフ系のはずなのに、こんなに力(STR)があるものなのか? それにいくら初級職のスキルとはいえ、前動作が無いなんて、どうしたらそんなことができる……?」
息も絶え絶えなアヤセが無念そうに問いかける。
「ここまで俺に食らいついてきたお前に特別に教えてやる。俺が発動したスキル【飛燕剣】は一定時間ダメージ値の反映が力から素早さに変更される。これで俺みたいな俊敏だが非力なシーフ系も立派な火力職になるって訳だ。それとスキルの出が速いのは、『ブラインドスキル』、このテクを使ったからだ」
「ブラインド、スキル……。」
……思い出した。確かスキルの動作を完全に模倣した動きをすれば、対象のスキルを取得してなくても発動できる上級者向けのテクニックだったはずだ。
「マニュアルモーションで体の動きをスキルに合わせにいっている分、技の出が早くなるのが利点だが、最も、そもそもできねースキルもある上に、動作の完コピは絶対だし、おまけに成功判定がかなりシビアだから、ブラスキをマスターするのは中々大変だったぜ。俺でも初級職のスキル【スラッシュ】と【クロスカッター】くらいが精々といったところだな」
ライデンは自慢げに自身の手の内を披露する。そのくらいブラインドスキルを切迫した戦闘下でミスなく扱えるほどの上級者は、多くないということなのだろう。更にライデンは、通常戦闘時はオートモーションを利用しているから、ブラインドスキルを使用する際は、マニュアルモーションに瞬時に切り替えていることも見逃せない点である(ブラインドスキルを繰り出したあとすぐにオートモーションで熱烈剣を発動させていることから、モーションの切り替えの早さは特筆すべきだろう)。
「ブラインドスキル……。そうか、だからあの時にスキル【変則三段突き】が発動したのか」
ただ、必死に地面から立ち上がろうとしているアヤセも、過去にトカゲ達を相手にブラインドスキルを発動させた経験があることを忘れてはならない。
「何のことだ? 何っ! お前、状態異常『怪我』のはずだろ!?」
ライデンは、先ほどの渾身の連撃で死に戻り寸前まで追い込んだアヤセが、ふらつきながらも立ち上がり始めたことに驚愕する。
アヤセの状態異常「怪我」は、「深緑のズボン」のポテンシャル「大天使の摂理」の効果により回復した。また同様にプリスの特殊効果によりHPも僅かずつながら回復し続けている。
「自分にはまだ打つべき手が残されていたみたいだ。ライデン、お前には感謝している。反撃手段のヒントを自分に与えてくれたのだからな」
アヤセが牽制でプリスの袖を振り、ライデンを間合いから遠ざけたあと、手に持った無銘の刀を上下左右にきびきびと動かし始める。
「お、おい、まさか……」
=個人アナウンス=
スキル【飛燕剣】を発動。
「お前の洗練された完璧なモーションは、自分にとって最高のお手本なんだ」
難なくアヤセは、ライデンが発動したスキル【飛燕剣】の発動前動作を完全に模倣し、自らも発動して見せた。
これを見たライデンは、背筋に冷たいものを感じる。形勢は覆しようのないくらい自身に有利なはずなのに、この言い様のない不安は何なのか? 基礎レベルやステータスに圧倒的な差があるのに、「敗北」の文字が頭を掠めるのは何故なのか?
「クソっ! こいつは、決して雑魚なんかじゃねー! 職業や基礎レベルなんてものでは絶対に推し量れない途轍もないプレイヤースキルを持った危険な奴だ! こいつは……、こいつは、ここで絶対潰しておかなければならねー敵だ!」
ライデンは、両手の剣に魔力を必死に込め始める。
「俺の持てる全ての力をもって【爆裂剣】を叩き込む! 反撃の猶予を与えず燃やし尽くしてやるぜ!」
「そう何回も同じ手は通じないぞ」
ライデンは急ごしらえで剣に赤々と熱を送り込んでいたが、突然頭上に降り注いだ大量の水を浴びせられる。
====================
【アイテム・その他】湿原の湧水 (ラタス) 品質4 価値2 重量2
====================
アヤセはインベントリから、持ち得る限りの「湿原の湧水」をライデンの頭上に落とした。ライデンは、流れ落ちる水量に耐えきれず、地面に膝をつけられた格好になる。同時に、剣に付与されていた「爆裂剣」の炎が消し去られ、スキルの効果を無効とされてしまった。
「ゲホ、ゲホッ、こ、こいつ無詠唱で水魔法を使ったのか? ……ぐわっ!!」
水を飲んで咳き込むライデンは、何とか体勢を立て直そうと立ち上がろうとするが、その瞬間、顔面に強い衝撃を受け、動きが止まった。
その様子を見ていたコーゾが興奮気味に叫ぶ。
「針粘土をライデンの顔面に直撃させたのですかー!? 相手が踏まなきゃ直接ぶつければいいんですねー。その考えは無かったですぅー!」
アヤセは、釘粘土をプリスに持たせ、滝のようなラタスの湧水の水圧で怯んでいたライデンの顔面にありったけの力をもって叩き付ける!釘粘土踏抜き時の軽快だが小うるさい独特な効果音が鳴り響き、被弾したライデンにダメージとデバフ効果を与えた。
釘粘土の特殊効果「被ダメージ者の移動速度25%down」は重ねて効果を及ぼすため、十個ほど踏み抜くと、計算上では移動速度が通常時の十分の一より遅くなる。アヤセは追撃の手を緩めず、釘粘土の直撃を受け、動きが鈍ったライデンに容赦なく大量の釘粘土で追い打ちをかけた。
合計十個もの釘粘土をぶつけられたライデンの動きは、ほとんど止まっているように見える。だが、スキル【速歩】をはじめとするスピードアップ系のスキルを発動すれば、脅威となる機動力が瞬時に元に戻る可能性もあるため、予断は許されない。
(移動力低下に加えて、ポテンシャルに防御力ダウンが付いている釘粘土を有るだけぶつけたから、今の奴の防御力はゼロに近いはず。動きが止まっている今がチャンスだ! 一気に大技で勝負を決める!)
ライデンが自慢したブラインドスキル……。先ほど【飛燕剣】を発動してみせたが、アヤセには、もう一つだけこれで繰り出せるスキルがある。練習無しの一発勝負であるが、そのスキルは、絶対に失敗せず発動できるとアヤセは確信している。
無銘の刀を納刀し、ライデン目掛け駆け出すアヤセ。その途上でブーツのポテンシャル「足場設置」を階段状に発動し、徐々に空中を駆け上がっていく。最大設置数の五個目の足場に達した時には、五メートルくらいの高さにまでなっていた。
アヤセは最後の足場から蹴り上がり、空中に飛び出すと同時に鯉口を切り、刀を斜め上に抜き付けていく。鞘から徐々に抜き出される刀身がまばゆい光明を放っている。高さに刀身の角度、抜き付けるタイミング、体裁き……。どれも完璧だ。
「いくぞ!」
刀身は鞘から放れ、鞘を握っていた左手が柄へ移り、両手持ちの格好になり、アヤセは足場から大きく躍動する。
―――以前、あるレイドボスが原因で大陸北部の攻略が大きく停滞した際、一人のプレイヤーが強力なスキルを引っ提げ、単独でボスを打ち倒し、突破口を豪快に切り開いた。その後のトップクランによる北部攻略競争を促進し、大陸の趨勢まで変える一撃を放ったプレイヤーの名はエルザ。言わずと知れたトップクラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」のクランマスターでこのゲームの顔とも言える存在である。
美麗な女騎士が自身の身の丈の何倍もある巨大なモンスターを一刀両断したインパクトのある動画は、様々なメディアでもこのゲームを紹介する際に必ず用いられ、実際にそれを目にした多くの者達を魅了した。第三次組の一介のアイテムマスターであるアヤセもそのうちの一人だ。
アヤセは、その時のエルザ団長の動画を誇張ではなく、千回以上視聴している。団長の流れるような動作は、目を閉じればその一挙手一投足まで完全に思い浮かべることができる。尊敬と憧憬を胸に抱き、見入ったスキルを絶対に自分が失敗することはない。アヤセはそう確信していた。
足場から飛び上がったアヤセは落下の力を利用して、ライデン目掛け光り輝く刀を大振りに切り下ろす。一方のライデンは、釘粘土の特殊効果から回避が間に合わない。
「な、何だ、このスキルは!? クソッー! 逃げらんねー!」
「これが自分の全力だ!」
=個人アナウンス=
スキル【世界樹崩し】を発動
「鞘の内」の効果が相乗され、空気まで引き裂くような勢いで振り下ろされた袈裟斬りは、目が眩むほどの光を周囲に放ってライデンの胴体を両断した。




