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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第三章_PK討伐作戦

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40/107

40_果たすべき役割

 釘粘土の敷設の他、一通りの作業を済ませたアヤセは、青星達がいる場所まで戻ってくる。


 「アヤセさん、ちまちました作業お疲れ様~。こっちは誘導が済んで相手が来るのを待っているところ。早く戦闘(ゲーム)が始まらないかと、ウズウズしているよ」


 クラン「蒼き騎士団」の三人は、おそらくここから一歩も動かず、プレイヤーやNPC衛兵達に指示を与えていたに違いない。彼らの悠然とした姿は、緊張の面持ちでPKの襲撃に備える他のプレイヤーに比べて大きな隔たりを感じる。


 「ゲーム? ……それで、最後に打合せしておきますが、釘粘土の敷設地帯の後方にプレイヤーの迎撃部隊を配置、その後ろに護衛パーティー参加者達に留まってもらい、これを防衛します。自分達が今いる場所、つまり迎撃部隊の最後方が言わば『本陣』であり、最終防衛ラインです。できれば青星さん達にはこの場にて、迎撃部隊の指揮・監督をしていただきたいと思います。プレイヤー、特にクラン『断罪の暗黒天使』の団員達にとって、お三方の存在は士気を保つには必要不可欠です」

 「うーん、どうする? 僕達もPKを倒してノルマをこなさないとクエストを達成できないんだよねー。できれば前線でバリバリ戦いたいけどなー」


 クラン「断罪の暗黒天使」の団員達は、なし崩し的にPKと戦うために、青星達の指示に従っている。中にはクラン幹部を問答無用で討伐した青星の下でPKと戦うことに疑問を抱く団員も少なからずいたが、この場にいる唯一のクラン幹部を失い、他に指示を与える幹部が一人もいない現状に加え、青星の奇妙なカリスマ性のもと、当初からの「PKを撃退する」という目的に変更が無かったことから、表立って不満を言う者はいない。ただそれも実力者の青星の存在があってこそであり、万が一彼の身に何かあれば、この体制はすぐにでも瓦解することが容易に想像できた。


 「だから、アヤセ氏は、わざわざこんな設備まで用意したのだろうが。遠距離攻撃が得意な俺達にとって、寧ろ好都合だぞ」


 青星達は、自身の背後にある巨大な盛り土に目をやる。

 高さと奥行きはおおよそ四メートル、横幅は五メートルくらいある盛り土は、アヤセが急造で粘土を積み上げ、構築した射撃台兼遮蔽壁である。狙撃系PKがいた場合に備え、護衛パーティーの参加者達を守るために、同じような盛り土を相手の射角等を予想して、数箇所設置している(当初は土塀を作って全周を覆いたかったのだが、粘土の数量が不足したため断念し、敵が狙いにくい角度を考慮しつつ、間隔をおいて盛り土を作るに留めた)。そのうち一つを青星とツルガが遠距離攻撃をしやすいように粘土を他より多めに積み上げて、簡易射撃台を仕立てたのだった。


 「これを含めて、山全部をたった十分で作るなんて、ホント凄いね。これって土魔法の『クレイウォール+』でしょ? スキル【中級土魔法】を持ってないとできないやつだよね?」

 「いいえ、粘土の盛り土です。上に立つと周辺の様子が一望できますが、その分目立つのが短所です。急ごしらえで防御できる物が無いので、敵から狙い撃ちされる恐れはあります」

 「…それなら、あたしがいる」


 整った顔立ちの美少女は、表情を全く変えず淡々と答える。


 「実を言うと、結構似たようなシチュエーションで指揮してくれって、頼まれることが多くてさ。まかろんちゃんには、いつも守ってもらっているんだよねー」

 「…守ってばかりでレベルが上がらないけど、やることはやる」

 「この盛り土は俺達が有難く使わせてもらう。勿論、遠距離攻撃で利用するだけでなく、味方の士気を鼓舞するという役割も忘れずにこなすから、安心してくれ」


 クラン「蒼き騎士団」の三人は、「本陣」に陣取ることを承諾した。


 「ありがとうございます。あとこれは、コーゾ君とピラン君が今、戦闘に参加する皆さんに配っているのと同じものですので、良かったら食べてください。……バフの重ねがけはできませんので、一人一個でお願いします」


 アヤセは、インベントリから白パンを取り出し、三人に手渡す。この白パンは、ゲンベエ師匠から譲り受けた物で、師匠がラタスの工房で焼いたらしいのだが、窯との相性が合わなかったようで、しきりに出来上がりに対して不満を漏らしていた(それでも品質は3を下回る物は無いのが師匠の成せる業といったところか)。


 「ポテンシャル? えっ、バフが付くのか?」

 「ホントだ、僕のは『DEX 8%UP(効果三時間)』だね」

 「…あたし、VIT」

 「俺は、INTだ。バフ付きの食料なんて初めて見た。これが出回れば、攻略等も大分楽になるのではないだろうか?」


 (バフ付き食料は、この三人でも初めて見るのか。いかにポテンシャルが軽視されているかよく分かるな。それにしても、ポテンシャル付きの食料は評判が良さそうだし、やはりこれは売れるかもしれない)


 アヤセは三人の反応を窺いながら、ポテンシャルのついた食料に需要が見込めそうだと考える。


 「はぁー、アヤセさんって本っ当にマメだねー。このクエストってさ、PK倒せばいいんだよね? 達成条件に関係ないことまで色々やって、しかも撃破数を争う他のプレイヤーも助けるなんて、何でそんな無駄なことまでするの? コーゾさんやピランさんもこんなことを手伝うなんて物好きだね~」

 「おい、青星! 口が過ぎるぞ!」


 青星の明け透けで、無遠慮な言い方をツルガがたしなめる。


 「あっ、ごめん、また言っちゃった。確かにこれが、『あの』アイテムマスターが役に立てる唯一の方法なのかもしれないよねっ!」

 「構いません。自分のクエスト達成条件も一定数のPK討伐ですが、一番の目的は『護衛パーティーの参加者を守り抜くこと』だと思っています。話が変りますが、青星さんは護衛パーティーの参加者が支払う参加費がいくらか御存知でしょうか?」

 「えっ、お金取られるの?」

 「……」


 まかろんが青星を冷めた目で見る。さすがに今の彼の言動は、常識を疑われても仕方がないだろう。


 「……八千から一万ルピアくらいだな」


 代わりにツルガが答える。


 「ええ、そのくらいが相場だと言われています。この金額は、ゲームを始めたばかりの第四次組や、碌に収入が無い生産職のプレイヤーにとってかなり負担が大きいものです。おそらく、参加できても一回が限度でしょう。言わば、二回目以降はない、最初で最後の賭けとも言えます」

 「……」

 「例え、途中で落伍して死に戻っても参加費は返金されません。帝国から脱出して夢に見た王国での新生活を目前にPKに襲撃され、連中に経験値を捧げ、アイテム等を奪われて死に戻ったあとに残るのは、例え話ではなく本当に何も無いのです。その絶望感と言ったら、到底言葉では言い表せるものではありません」


 ヘラヘラ笑っていた青星の顔が、徐々に真顔に戻る。


 「我々がPKを撃退できなければ、彼・彼女らは連中に一方的に狩られて、死に戻るだけです。ですので、自分達はしぶとく生き残り、押し寄せるPKを全滅させるとは言わないまでも、撃退する必要があります。そのためには、自身のクエストの目標だけを優先せず、この場にいる味方のことを考えなければなりません。釘粘土や盛り土、バフ食料……。供出できるものは供出する、活かせる戦力は誰であっても活用する。この場には、一人として遊ばせておける戦力なんて無いのです」

 「……」

 「自分のやっていることを無駄なことだと笑うのは、構いません。ですが、自分に協力した二人まで笑う資格は、青星さんにはありません。彼らが自分を手伝ったのは、自らが果たせる役割がそこにあると思って自発的に動いた結果です。あなた方も背後に必ず守らなければならない存在があること、果たすべき役割があることを考えながらクエストに臨んでください。『ゲーム』だなんて、冗談じゃない!! ……自分の言いたいことはそれだけです。失礼、配置につきます」


 素早く青星達に背中を向け、大股にその場を立ち去るアヤセ。青星は何も言わずアヤセをただ見送るだけだった。


 ==========


 自身の配置場所である東側斜面でアヤセは、先ほどのことを心の中で思い返し、作戦前にも関わらず青星に感情をぶつけてしまったことを後悔する。


 (いくら何でも、戦闘を控えている場面で仲間と衝突するのは、まずい選択だった。しかも相手は、一番の実力者で作戦の成否を左右する人物なのに……。士気にも関わるし、今から戻って謝罪をすべきか?)


 作戦を無事に成功させるには、不安材料は全て取り除かなければならない。だが、再び青星のもとに戻ることに二の足を踏んでしまう。


 (青星さんのことを初めは、嫌味を感じさせない爽やかな人だと思ったのだが、何か表面的で薄っぺらい印象が付きまとうのは、どうしてなのだろうか? あの作られたイメージを見せられているような感覚は何なのだろう……)


 青星の明朗な性格や、卓越したリーダーシップ、それに実力は疑いようがないが、どうしても彼に対し、違和感を抱かずにはいられない。


 (特に、あの雰囲気? 一見失礼なことを言っても、憎めない人柄? 上手く説明できないな)


 答えが出ない疑問に割り切れない気持ちを抱えるが、自分がそんな感情を持つのはおそらく、自身には無い、青星の「人を惹き付ける魅力」をひがんでのことだと結論付け、青星のもとに戻ることをアヤセは決める。

 思い立ったが吉日と、勢いよく回れ右したアヤセであるが、いつの間にか自身の真後ろにいたコーゾとぶつかりそうになった。


 「ひゃっ!?」

 「あっ、済まない。大丈夫か?」

 「ぼ、僕の方こそ、後ろに立ってしまってすみませーん。……あー、心臓のドキドキが止まらないですぅー」


 コーゾは、アヤセとかなり近い距離まで接近したことを驚いているのか、赤い顔をして、胸を押さえて大きく深呼吸している。


 「ところで自分に何か?」

 「あ、あの、パンを配り終えましたー」

 「そうか、ありがとう。手伝ってくれて助かったよ」

 「みんな喜んでいましたよー。中には、もっと欲しいので、売ってくれっていう人もいたくらいですー……」


 コーゾは、そこまで言うと言葉を詰まらせ黙ってしまう。コーゾの隣にはピランもいたが、同様に何か言いたげだが、言い出せない様子を見せている。


 「まだ何か?」

 「あの、さっきの話を聞きましたー。僕達のことで青星さんに怒ってくれてありがとうございますー」

 「ああ、そのことか。別に二人のことだけを言った訳ではない。彼の作戦に対する姿勢に腹が立ったから言いたいことを言ったまでだ。だから、気にすることはない」

 「それでもです。俺ぁ、あいつらのことが気に入らなかったんで、兄貴がガツンと言ってくれてスカッとしましたぜ!」

 「実際は、そうも言っていられないな。作戦の要を公然と批判してしまったことで、今後に支障をきたすと困るから、これから謝罪に行こうと思っていたところだ。……ところで『兄貴』って何?」

 「俺は、兄貴の度量の広さに感動しました! 初めて会ったとき、あんなにふざけた態度をとった俺達なのに、その後色々と面倒を見てくれた上に、ケンカを売るのを承知で俺達のために王国最強のクラン幹部に楯突いたお姿を見て俺は、兄貴に惚れちまいました! 俺は一生兄貴について行きますぜ!」

 「ピラン、ずるいですよー! じゃあ僕も今から『お兄さん』ってお呼びしますねー」

 「二人とも、それは止めてくれ……。自分は青星さん達やクランに喧嘩を売るつもりは全く無い。それに、過大評価されるのは自分が辛くなる」

 「おいおい、そんなこと言うんじゃないよ」


 揉めている(?)三人に、男性プレイヤーが声をかけてくる。このプレイヤーは、当初ピランのパーティーに組込まれていたメンバーの一人だった。


 「アヤセさん、まずは、バフパンありがとさん。それでよ、俺もあの時たまたま近くにいて、話を聞いていたんだが、いやー、あの青星達相手によくぞ言ってくれた! あいつらここに来てからずっと仕切って、上から目線で命令しやがるから、少しムカついていたんだよな。正に俺が言いたいことを言ってくれたって感じだぜ!」

 「そうそう、なんか青星ってイラッとすること言うんだけど、何故かその場では、許しちゃうんだよね。……いつも後になって思い出すと、イライラがぶり返してくるのだけど。それに、助っ人プレイしているクランだから、下手に文句を言うと、周りからこっちが悪者扱いされるから、厄介だよねー」


 男性プレイヤーの話に、別の女性プレイヤーも加わってくる。


 「あっ……。急に話に割り込んでごめんね。でも、どうしてもバフパンを配って、罠まで置いてくれた人にお礼を言いたいと思っていたの。ありがとうね。アヤセさん」


 急に賑やかになったアヤセ達に気付き、周りにいたプレイヤーが集まってくる。気がついたら、その人数は三十人近くおり、東側斜面の配置についているほとんどのプレイヤーがその場に集まったかたちになった。


 「アヤセ殿、バフパンかたじけない」

 「釘粘土のポテンシャルって凄いですね! でも、どーして転売ロックがONになってるんですか?」

 「俺、最初は北側の警護に回される予定だったのです。アヤセさんが、青星さんに配置変更を言ってくれたのでしょう? もし、そのままでしたらクエストの目標達成自体が難しくなるところでした。ありがとうございます」

 「……」


 口々に声をかけられるアヤセは、戸惑い、押し黙る。アヤセの様子を見て、初めに声をかけてきた男性プレイヤーが説明を始めた。


 「ま、皆アンタに感謝しているんだよ。確かに、あそこで俺達のことを見下ろしている、あいつらを心の支えとしているプレイヤーもいるし、実力だって折り紙付きだ。だけど、俺達だって決しておまけの存在なんかじゃねぇ。これだけ、お膳立てしてくれれば、いつも以上の力を見せることだってできるだろうよ。あと、個人的にはアンタがあいつらに言った、『一番の目的は護衛パーティーの参加者を守り抜く』ってやつ? あれが心に響いたね。俺も昔、護衛パーティーに守られて王国まで来た日のことを思い出しちまったぜ」

 「そうよね! 今度は私達が、ルーキーと生産職の人達を守りましょ!」


 プレイヤー達がワイワイと話を盛り上げる。


 「あと、これは東の斜面のプレイヤーで話し合ったことなんだが、ここの指揮をアンタに任せてもいいかい? 実際に作戦や配置なんかは、青星達じゃなくて、アヤセさんの考えだったんだろ?」

 「えっ!? それは、しかし……」

 「ふふーん。やっと分かりましたねー。確かにこの作戦自体、お兄さんが衛兵隊長に提案して実行されているものなんですよー」


 何故かコーゾが得意顔で自慢を始める。


 「おおー! やっぱりそうか。じゃあ尚更頼みたいんだがいいかい?」

 「兄貴、ここは受けた方がいいんじゃないですかい?」

 「しかし、指揮も何も、もう言うことなんて、ほとんど無いのだが……」

 「でもー、他のプレイヤーが青星さん達を支えとしているように、東側斜面のプレイヤーは、お兄さんをトップにして結束したいんですよー」

 「自分をトップに結束?」

 「はいー。みんなも言っているように、第四次組や生産職達を守るっていう決意を初めに口に出したのがお兄さんですからねー」

 「お、エルフの兄ちゃんいいこと言うね! 正にそれよ! アンタが中心にいれば、モチベーションが上がるって感じだな」

 「……」


 (出せるものは全部出したと思ったが、自分自身にまだ利用価値があったか。人を動かすのは決して物だけでは無い……、本当にいい勉強になった)


 地面に視線を落とし、一点を見つめ思案するアヤセ。その様子をコーゾやピランをはじめ周囲のプレイヤー達が見守る。


 「……分かりました。自分の存在に役立つ意味があるのなら、東側斜面の指揮を務めさせていただきます。皆さんの御協力方、どうぞよろしくお願いします。必ずこの斜面を守り抜きましょう!」


 アヤセが脱帽し、深々と礼をすると、周囲のプレイヤー達から拍手が送られてきた。


 アヤセを中心にして、東側斜面が次第に活気を見せていく一部始終を、クラン「蒼き騎士団」の三人は、アヤセが去ってから早速陣取った盛り土の上から見ていた。


 「今は演説を止めた方がいいな。場合によっては白ける」


 ツルガは青星に語りかける。


 「東の斜面は彼に任せよう。衛兵にルーキー達の護衛もやらせたら、俺達は南の斜面にだけ集中できる。それは、戦闘中に士気を鼓舞するために取っておけ」


 青星は、未練がましく手に持っていたシャウトアイテムを黙ってインベントリにしまう。


 「何でっ……! 僕より低レベルのアイツを頼りにするっ……!」

 「戦闘が始まれば、本当に信頼できる者が一体誰なのかすぐ分かる。お前が普段通りの実力を見せれば、再び皆がお前の方を振り向く。それは変わることはない」

 「……」


 青星達を言葉無く無表情で見つめるまかろん。

 一方青星は、アヤセに対し、静かに、そして激しいライバル心を胸の内に灯す。


 様々な思いが交錯する中、星見の台地における戦いの火蓋がいよいよ切られようとしていた。



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