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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第三章_PK討伐作戦

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38/108

38_作戦開始!

 ここはギー隊長の執務室。


 部屋には、ギー隊長にアヤセ、それにクラン「断罪の暗黒天使」の団員であるコーゾとピランの四人が、先ほどまでリザードマンのドロップ品が山積みされていた会議用テーブルに掛けている。

 コーゾとピランは、いきなり衛兵隊のトップの部屋に連れてこられ、ソワソワして、落ち着かなげな挙動を見せていた。


 「二人とも、少しは落ち着いたらどうだ?」

 「そんなこと言っても、どーして僕達がここに連れてこられたか分かりませんから、とっても不安なんですよー……」

 「ああ、それは、ギー隊長と相談して決めたのだが、現状を二人に知っておいてもらいたかったからだ。あと、手伝って欲しいことがあるので、その依頼だな」

 「その話は、おいおいするとして、まずは話を進めていくぞ」


 ギー隊長がアヤセ達に注目を促す。


 「コーゾ君とピラン君だったかな? 私がラタス衛兵隊長のギーだ。何でも君達は、我々衛兵隊の中に人狩り共と通じている者がいると疑っているらしいな?」


 ギー隊長は冷然とコーゾとピランを見据える。身をすくめる二人は、まるで蛇に睨まれた蛙だ。


 「だが、それは誤解だ。我々の仲間には、人狩りとの闘いで命を落とした者もいる。……ジョルジュのようにな。我々もラタ森林地帯で横行する人狩りを決して許さないということはどうか知っておいて欲しい」

 「……」


 二人は、ギー隊長の言葉を耳にして顔を見合わせる。おそらく今まで、衛兵隊は自分達の活動を邪魔する存在であると聞かされていたので、抱いていたイメージとの乖離に戸惑っているのだろう。

 

 (まぁ、そのあたりは、当人達で折り合いをつけてもらうしかないな)


 アヤセはそう考えつつ、ギー隊長の話の続きを待つ。


 「それで、アヤセ君から提供を受けた、長弓の所有者履歴を見させてもらった。ジョルジュを殺害したラセツという人物について、私は心当たりがある。……奴は、我々衛兵隊が指名手配している、クラン『暗殺(アサシン)兵団(レギオン)』のクランマスターだ」

 「ええっ!?」

 

 コーゾとピランが同時に驚きの声を上げる。


 「二人は、クランのことを知っているのか?」

 「知っているにも何も『暗殺兵団』の名前は、忘れたくても忘れられませんよー。僕達の護衛パーティーを毎回襲撃してくるPKクランなのですからー!」

 「何だって!」


 さすがにこの事実には、アヤセも声を上げて驚いた。


 「襲撃する側とされる側のクランマスター同士が、装備品を譲渡しあうほどの親密な仲であるという事実は、何を意味するのか? ……答えは自ずと出てくる」


 護衛パーティーを主催するクランとそれを襲撃するクランのクランマスター同士が知り合いだった。護衛パーティーを主催するクラン「断罪の暗黒天使」は、衛兵隊の内部にPKの内通者がいると決めつけ、衛兵隊の支援の申し出を逃げ回るように拒み続けている。それが、PKクランの襲撃に対し後手に回る原因となり、多大な被害をもたらす結果になっている。そして、護衛パーティーの集結日に必ず襲撃に現れるのは、クラン「暗殺兵団」である。


 これらの事実をつなぎ合わせると、一つの推察に思い至る。


 「クラン『断罪の暗黒天使』とクラン『暗殺兵団』のクランマスター、いや、もしかしたら幹部達も裏で結託しているとか?」

 「その通りだ。先ほど幹部三人からも供述を得て、裏を取った」


 アヤセが至った推察に、ギー隊長が裏取りの結果をもって肯定する。コーゾとピランは、驚きを隠すことができない。


 「連中のやり口としては、クラン『暗殺兵団』がクラン『断罪の暗黒天使』が集めた護衛パーティーを提供された情報に従い、大体的に襲撃する。そして、『断罪の暗黒天使』は、ラタ森林地帯における、人狩りの脅威を大袈裟に煽って集客に利用して、パーティーの参加者を増やす。そして、再度それを人狩りが襲撃する。……護衛パーティーを主催すればするほど、お互いが得る利益が跳ね上がるという仕組みだ。まぁ、あまりに被害が大きいと信用に関わるから、人狩りの襲撃による損害率をコントロールしているらしいから質が悪い話だ。あと、連中は、襲撃時にお互いのクランの団員同士を戦わせて、生き残って基礎レベルが上がった団員を相反する側の幹部が狩って、経験値を得ていたとも言っていたな。最も、これは幹部達にとって、余興程度のものだったようだが」

 「それ、ありましたー。いつも幹部の人達は、後になって戦闘に参加して、弱ったPKにトドメを刺していましたねー。それにしても、僕達は必死に戦っていたのに幹部の人達は遊び半分でこんなことをさせていたんですねー。ひどいですぅー!」

 「全く、ジョルジュの殺害犯が判明したあたりから、思わぬ事態になったものだ。まさか両クランが結託などしているとは、考えもしなかった!」

 

 ギー隊長は、急転直下した事態に驚嘆を示すように言った。


 「『信じているのではなくて、信じさせようとしているのかもしれない』……。アヤセさんの言っていたことが今分かりましたー。衛兵隊は信頼できない組織であると僕達に信じさせた方が、都合がいいからですー」

 「隊長が言われたように、まさかこんなことになるとは思いもしませんでした。クランの幹部達がPKの対抗策を今まで講じてこなかったのには理由があったということですね。マッチポンプに、対策も何もあったものではないのですから」

 「マジかよ……。信じらんねぇ……」


 今まで黙っていたピランが絞り出すように声を出す。


 「ここまで判明して間違いなく言えるのは、クラン『断罪の暗黒天使』が現在主催している護衛パーティーの『第四次組や生産職等の戦闘が苦手なプレイヤー達を、安心安全に王国に送り届ける』という本来の目的は、全くの嘘偽りだということです。……全ては幹部達の欲望のためだけに、多くのプレイヤーが犠牲を強いられている。とてもではないが、看過できる問題ではありません。ろくでなし共め!」

 「くそっ……。俺達はPKのエサだったのかよ……! チクショウ! クランを信じて幹部の命令を守ってここまでやってきたのに、俺達は利用されていただけだったのかよ!」

 

 ピランは、テーブルに顔を伏せ、体を震わせていたが、突然顔を上げ、叫ぶように自分の心情を吐露する。コーゾも似たような思いを持っているのか、ピランが感情を爆発させる様子を黙って見ている。


 (「信じていた」ね。クランで地位を築くために幹部の言い付けを信じていたのか、自身のやっていることが皆の役に立っていると信じていたのか、どういう意味で言っているのか真意は分かりかねるが、結果として本人が良いように利用されていたことには変わりないか)


 自身もクランを追放された過去を持つアヤセは、二人が抱く落胆や怒りを理解することができたが、だからと言って、二人が今までやってきたことが帳消しにならないだろうと感じる。


 「二人の裏切られたという気持ちは分からなくもない。だが、クラン幹部に命令されたというだけで、自分のような無関係なプレイヤーに絡んで外奴隷をキャッチしようとしたり、護衛の力不足を承知でパーティーメンバーを勧誘したりすることは感心できない。自身が被害者であると同時に、加害者の片棒を担いでいたことをこの際自覚すべきだな」

 「それは、クランにノルマがあって、仕方なくやってたんだよ!」

 「ピラン、それがクランの命令を言い訳にしているって、アヤセさんは言っているのですよー。確かに僕達のやっていたことは他のプレイヤーに迷惑をかけていましたからー」

 「……っ!! くっ、その通りだ!」


 コーゾの指摘を受け、アヤセの言っていることの意味を理解したピランは、拳でテーブルを激しく叩いたあと、俯き黙り込んでしまう。


 「……人は、何かを信じ過ぎると思考が停止して、決断を誰かに任せてしまうことがある。だが、大事なことは『自分で考え、決めること』だ。それさえ忘れなければ、どんな立場や状況に置かれていても、良心や信条に従って自身の身の振り方を決めることができる」


 今まで三人の会話を黙って聞いていたギー隊長が、口を開く。三人の目は自然とギー隊長へと向く。


 「それで、コーゾ君とピラン君。君達は、この後どう身の振り方を考える? これほどクランにコケにされて、まだ考えることをクラン幹部達に委ねるのかね?」

 

 ギー隊長の問いにコーゾとピランは、少しためらう素振りを見せたものの、すぐに意志を表明する。


 「ぼ、僕はクランを脱退しますー」

 「俺もクランを辞める。あいつらの悪事にこれ以上付き合ってられっか!」

 「そうか、それが君達の決断だな。それで、一つ提案なのだが、今まで到達点回帰を余儀なくされた冒険者達に対する君達の罪滅ぼしの意味も兼ねて、衛兵隊から依頼を発注させてもらいたいのだが? アヤセ君、これを渡してくれ給え」


 アヤセは、ギー隊長から用紙を受取り二人に渡す。用紙を手渡された二人は内容に目を通した。


 「あん? 特別クエスト?」

 「討伐隊への参加ですかー?」

 「そうだ。有り体に言うと、明日の人狩り討伐作戦への参加要請だ。これから、ラタスの冒険者等に向けて同内容を緊急依頼として発出する。クラン団員の君達の参加があれば何かと有利に事が運べそうだから、是非とも協力してもらいたいものだ」

 

 二人はお互いに顔を見合わせる。


 「……コーゾ、これどうよ?」

 「脱退するって決めていきなり、元のクランに関わるのもどうかって思いますが、PKの討伐に協力できるのは魅力的ですねー」

 「そうだな、あと、護衛パーティーのメンバー達の安全を守ることにもなるんじゃねぇかな?」

 「それそれー。僕は良いと思いますよー」

 「うし、決めたぜ。俺達は受けるぜ」

 「よし、分かった。依頼の受注を確認した。作戦開始までは衛兵隊本部で待機していてくれ給え」

 

 クエストの受注を受け、ギー隊長は満足げに頷く。


 「二人ともよろしく頼む。自分も討伐作戦を受注しているので、一緒に頑張ろう。二人の再出発を後押しするという訳ではないが、これを受取って欲しい」


 アヤセは、テーブルの上に、トカゲから回収した二人の装備品に加え、五人組の泥男と鎧男の各装備品をインベントリから放出して広げる。


 「これは、僕達の装備品……! それと、マッドさんとガイさんのもあるじゃないですかー! 『黒雨の長弓』の件で何となく想像していましたが、僕達の装備品を沼地のリザードマンから奪っていたんですねー」

 「自分は、トカゲ共との戦闘を周回して、五人の装備品を全て回収している。コーゾ君は、魔法使いだけどプリーストと装備品は共通しているよな? あと、ピラン君は、槍戦士のようだから、鎧男のメイスは不要かもしれないが、まぁ、必要に応じて使ってくれ。……兜もいらないかもしれないけど」

 「はいー。僕はプリーストのも装備できますから大丈夫ですねー。嬉しいですぅー。ありがとうございますー!」

 「俺は、本当は打戦士なんですが、ガイさんに槍にしろって言われて、槍戦士をやってました。不要だなんてとんでもねぇ! 勿論、兜だってありがてぇですぜ!」

 

 テーブルの上に広げられた装備品を目にした二人は、本来の装備品の他に幹部の装備品まで進呈されて興奮気味だ。


 「でも、どーしてアヤセさんは、僕達に装備品をくれるのですかー? 全部自分の物にしちゃえばいいのにー?」

 「二人は、今の装備品でPKと戦うつもりか? 味方の戦力は高い方がいいだろう?」

 「ああ、君と二人は依頼内容が異なるぞ。ちなみにアヤセ君には、人狩り討伐を依頼している」


 ギー隊長が補足的にアヤセ達に解説する。


 「えっ!? 討伐系ですかー?」

 「す、スゲぇ! 本当ですかい?」

 「あ、あの、自分の依頼と二人の依頼は内容が異なるのですか? 皆一緒では? あと、何で二人はそんなに驚いているの?」

 「僕達の依頼内容は、『討伐作戦の後方支援』ですー。多分、衛兵の皆さんや、護衛パーティーのメンバー達のサポートをすることが主な仕事になると思いますよー」

 「討伐系は、危険度が高いからよっぽど強くないと依頼が来ねぇんすよ。でもま、リザードマンをぶっ倒せるくらいの腕っ節だから、依頼が来るのも当然といっちゃあ当然か」

 「ちょっと待ってください。自分の基礎レベルは、二人と同じくらいですし、職業だって生産職のアイテムマスターなのですよ? 何で自分だけ危険な依頼内容になるのですか!」

 「まぁ、ピラン君が言うように、沼地のリザードマンをせん滅できるくらいの腕だからね。普通に考えたら討伐もこなせると考えるだろう? それにもう依頼は変更できないからそのつもりで」


 (依頼も人によって異なるのか……。どうも自分の場合はトカゲの討伐が条件に触れてしまったようだな。依頼を変更できないなら仕方がないか。以前の考えどおり自分より弱いPKを狙って人数を稼ぐ作戦でいこう。……最もそういうPKはそれほどいないかもしれないけど)


 「……。分かりました。依頼内容が変更できないのでしたら、もうこれ以上何も言いません。ちなみに、コーゾ君とピラン君が作戦に加わってくれたことで一つ提案をさせていただきたいのですが」

 「まぁ、報酬もアヤセ君の方が高いから、それを励みにしてくれ給え。それで、提案とは何か? 君の提案なら大歓迎だ」

 「はい、まずは、コーゾ君とピラン君がクランに在籍したままという前提で、配置を変更します。それから……」


 アヤセは、簡潔にギー隊長に内容を説明する……。

 

 「委細承知した。具体的な人選は、こちらに任せてくれ給え」

 「ありがとうございます。詳細はよろしくお願いします」

 

 アヤセの提案にギー隊長は賛同を示し、採用を決定する。アヤセによる説明も一段落つき、ギー隊長は室内の時計に目をやる。


 「さてと、大体話すことはこれくらいか。作戦開始は夜中になるからそれまで休んでおいた方がいい。時間が来たら呼びにやるのでそれまで宿舎で休み給え」

 「そうだな。今日は朝から色々あって疲れたぜ」

 「でも、緊張して休めるか分かりませんねー」

 「自分も一旦ログアウトして、夜に備えるか。でも、その前に工房で装備品のチェックを受けた方がいいかもしれないな。それと、二人の装備品にポテンシャルを付与しよう」

 「えっ!? ポテンシャルですかー?」


 コーゾとピランはアヤセから出た言葉に、顔を引きつらせる。


 「先ほど確認したら、良性ポテンシャルを付与できそうなのがいくつかあったので、ついでにやっておこうと思ったのだが。何か問題でも?」

 「い、いえ、でも、ポテンシャルって『あの』ポテンシャルですよねー……。」


 コーゾの返事は歯切れが悪い。ピランも視線を逸らしアヤセと目を合わせようとしない。二人とも、できればポテンシャルの付与を避けたいように見えた。


 (どうやら二人は、ポテンシャルに対して良いイメージを持っていないらしいな。ポテンシャルがどれだけ忌避されているか、皆の反応を見るたびに現実を見せつけられているようで悲しくなってくる……)


 二人の態度から、落胆したアヤセは、付与を無理に勧めることもあるまいと、これ以上話題にするのを控えることにした。


 ……その後、工房に移動したコーゾとピランは、アメリーにより、ポテンシャルの重要性とアヤセのアイテムマスターとしての資質がどれほど素晴らしいかということを、とうとうと聞かされることになるのだが、これは別の話である。


 ========== 


 時刻は午後十一時三十分を回った。

 衛兵隊本部の演習場には、篝火が煌々と焚かれ、討伐作戦に参加する衛兵とプレイヤーが全員集結している。招集された衛兵の人数は戦闘員と非戦闘員を合わせて九百人。ラタス衛兵隊の定員が約千二百人であることから、実に三分の二の人員が今回の作戦に投入されることになる。PK撲滅とラタ森林地帯の治安回復に執念を燃やすギー隊長の並々ならぬ思いが窺い知れた。


 (それに、当日の緊急クエストだったのにも関わらず、よくプレイヤーが百人近くも集まったものだ)


 アヤセは、演習場の一角に集められたプレイヤー達を見回し、集まった人数の多さに感心する。

 クエストを受注したプレイヤーの人数は、アヤセ、コーゾ、ピランを含め九十八人であった。最も参加者の基礎レベル、職業はバラバラで、中には基礎レベルから察するに明らかに第四次組と思われる者や、戦闘主体の討伐作戦にも関わらず戦闘に不向きな生産職も混ざっていた。


 (まぁ、クエストの内容が後方支援業務というプレイヤーもいるみたいだし、特に基礎レベルや職業で参加を制限されたりしないのだろうな。それに今日は休日だから、たまたまクエストが発出されたときに、ログインしていたプレイヤーが応じたというのが現状かもしれない)


 勿論、討伐系のクエストにはPKを専門に狩るPKKプレイヤーキラーキラーと思しき者も少なからず参加しているようだから、プレイヤー達が衛兵隊の足を引っ張るということは、まずないだろう。実力のあるPKKは、作戦上の重要な戦力となるはずだ。


 「集合が完了した班は報告せよ」


 学校の校庭にある朝礼台のような物の上に立ったギー隊長が声を発する。マイクや拡声器を使用していないが、その声は、列の後方にいるアヤセにもよく聞こえてきた。


 「いよいよ始まりますねー。僕、緊張してきちゃいましたー」

 

 コーゾが不安そうにアヤセに語りかける。


 「衛兵隊の戦力も充実しているし、プレイヤーも基礎レベルの高いPKKが多数参加しているようだから、今回の作戦はそれほど心配することはないだろう。逆に大々的過ぎて相手に気付かれないかが気掛かりなくらいだ」

 「大丈夫すよ。衛兵隊は過去にもデカい作戦を何回もぶち上げて、その度に空振ってますから、今回もクラン幹部達はいつもと同じだと思って、きっと余裕こいていますぜ」

 「しかし、今回はネネコ達幹部が三人も拘束されているから怪しまれないだろうか?」

 「ネネコさん達は、しょっちゅうサボるから、いないからといってそんなに怪しまれないと思いますよー」

 「……ああ、そうか。あいつらの性格がこんなところで役に立つとはな。皮肉なものだ」

 「君達、ちょっといいかな」


 突然アヤセ達は、声をかけられる。


 「何か?」

 「君達の中にコーゾさんとピランさんっている?」

 「ええ、こちらの二人がそうですよ。それで、あなた方は?」


 アヤセ達に声をかけてきたのは、男性二人と女性一人の三人組のプレイヤーだった。見た目は男性二人が弓士と魔法使い、女性は重装備の戦士といった感じだ。それぞれ風体は異なるが、皆一様に青と白と黄色を基調とした装備品に身を包んでいる。

 

 「あー、ごめん、僕はフォレストハンターの青星だよ。それと」

 「大魔導師のツルガだ」

 「…ヘビーウォリアーのまかろん」


 弓士、魔法使い、戦士がそれぞれ名乗る。三人の自己紹介に対し、アヤセ達も自己紹介を返した。


 「思っていたより、二人とも基礎レベルが低いね。……おっと、いきなり失礼なこと言っちゃったかな? 僕達はクラン『蒼き騎士団』の団員なんだ。今回のクエストの内容を見たけど、討伐系の依頼を受けたプレイヤーは一度、形式的に君達の指揮下に入るらしいじゃない? だから、品定めとついでに挨拶をしておこうと思ってさ」

 「はぁ、それはどーもですー」


 コーゾが毒気を抜かれたような返事をする。青星は字面にすると失礼なことを言っているように見えるが、本人の態度や話し方からは、悪意が感じられず寧ろ爽やかさを感じさせる。人類種で短い銀髪、身長はアヤセより少し高いくらいで決して高い方ではないが、相当の美男子であり、彼が笑顔になるだけで周囲の空気が浄化されるような錯覚すら覚える。


 「僕達さ、PKKとかも時々やっているから戦力になるよ? だから、討伐は全部僕達に任せて、君達は身の安全だけを考えてくれていていいからねっ」

 「おい、青星」

 「え? あっ! また失礼なこと言ったね。ごめーん!」

 「全く、口のきき方に気を付けろといつも言っているだろう? 済まない。いい奴なのだが、あまり考えもしないで何でも口に出してしまう悪い癖があるのだ」

 「…本当に困った人」


 ツルガとまかろんがそれぞれフォローを入れアヤセ達に謝る。


 「あ? 別にいいぜ。俺とコーゾは後方支援のクエストだから、討伐には拘っちゃいねぇよ」

 「そう言ってくれると助かる。後方支援がなければ討伐も上手くいかないから、お互い協力しあって作戦を成功させよう」

 「えっと、そうなると、アヤセさんは討伐系? 『あの』アイテムマスターが、まさか嘘でしょ!?」

 「またお前は! しかし、アイテムマスターだって?」

 「……」


 アイテムマスターは、どこに行っても相手の反応は同じだ。対応には慣れたとはいえ、何度も同じようなことが繰り返されると少しうんざりする。アヤセは心の中でそっとため息をつく。


 「あっ……、済まない。アヤセ氏の職業を決して馬鹿にしている訳では無いということは、分かって欲しい」

 「ええ、分かっています。自分も歴戦の勇士の皆さんの邪魔をしないように立ち回るつもりです。よろしくお願いします」

 「…ごめんね、アヤセ氏」

 「ほら、もういいだろう、青星。行くぞ。作戦前に急に話しかけて済まなかった」

 「そうだね。アヤセさんもごめんね。じゃあ、お互い頑張ろう!」


 青星は、ツルガとまかろんに小言を言われながら立ち去って行く。アヤセ達はそれを無言で見送ったあと、コーゾが口を開いた。


 「爽やかでイヤミじゃないんですけど、何か疲れますねー」

 「だが、実際に、一時的とはいえ自身を統率することになるプレイヤーが、どんな人物なのか気になるのは分からなくもない。それだけ二人は注目されているということだ。……期待していますよ、リーダー殿」

 「アヤセさんまで、そんなこと言わないでくださいよー。僕達はアヤセさんやギー隊長の指示に従って依頼をこなすだけなんですからー」


 アヤセがギー隊長に行った提案によって、討伐系のクエストを受注したプレイヤーは、コーゾとピランがリーダーを務める二組のパーティーのうち、どちらかに必ず組込まれることになった。

 当初は、難色を示すプレイヤーも何人かいたのだが、パーティーへの加入は一時的なもので良いと分かると、皆すんなりと受け入れ、幸いにして大きなトラブル等は起こらなかった。


 「俺はあいつらのことが気にくわねぇな。あの有名なクラン『蒼き騎士団』の団員だか何だか知らねぇが、態度がなっちゃいねぇ」

 

 ピランが吐き捨てるように言う。


 「よせ。あの三人の基礎レベルを見ただろう? 自分は、王国に来て以来、初めてレベル55以上のプレイヤーを見た」


 大陸におけるプレイヤーの基礎レベル別の頒布は、かなり偏っており、帝国の版図とほぼ重なる大陸中心部と北部に高レベルプレイヤーが集中している。更に帝国から周辺諸国に向けて低レベルプレイヤーの大量流出がこのところ頻発しており、頒布の偏りがより顕著になりつつある。東部の王国も例外ではなく、王都やラタスの近郊でモンスターと戦ったり、採取に勤しんでいるプレイヤーも、基礎レベルが30にもならない第三次組や第四次組がほとんどを占めるようになっていた。


 なお、三人の基礎レベルは、青星が58、ツルガが57、まかろんが55であり、トップクランの団員クラスに匹敵し、王国内では文句無しに高い部類に入る。アヤセが王国に入国して出会ったプレイヤーの中で、今まで基礎レベルが一番高かったのは、クラン「ビースト・ワイルド」のクランマスターの牛頭ことゴズであったが、それでも45であり、青星達には10以上差をつけられている。それを考えると彼らが自らの実力に自信を持つのも分かるような気がした。


 「ちなみに、彼らが所属するクラン『蒼き騎士団』ってそんなに有名なのだろうか?」

 「あれ、知らねぇんですかい? クラン『蒼き騎士団』は王国最強といわれるクランですぜ。さっき俺達に絡んできた三人はそこの幹部だったはずすよ」

 「お助けプレイ中心のクランですから、王国内では評判が良いですよねー」

 「評判のいいクラン……。何か新鮮な響きだ」


 アヤセは今まで、トップクラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」やクラン「ビースト・ワイルド」に「断罪の暗黒天使」と関わってきたが、どれも印象が良くないものばかりであり、クランと言えば自らの欲望を満たすことだけを目的とした団員同士が、私欲と打算だけで寄せ集まっているに過ぎないという先入観を持つに至っていた。そんな中、クラン「蒼き騎士団」のような人の役に立つことを目標にしているクランが存在しているという事実は、アヤセにとって、ある意味衝撃だった。


 「そんなクランなんて、存在しないと思っていた。絶対に……」

 「アヤセさんって、クランに対して一体どんなイメージを持っているんですかー?」


 感慨深げに感想を述べるアヤセにコーゾは呆れ顔をする。

 

 「隊長訓示!!」


 前方から大きな声が響き渡る。ようやく各隊の点呼が終わったようだ。

 先ほどから朝礼台に立って点呼の様子を見届けていたギー隊長が静かに話し出す。声量は特段大声を張り上げるようなものではなく、普段通りであったが、声自体は後方まで問題無く届いている。声が聞こえるのは、ゲームの仕様でもあるだろうが、演習場の水を打ったように静まり返り、物音一つ聞こえない状態も決して無関係だとは言えないだろう。今や衛兵達の真剣な面持ちと静寂は、プレイヤー達にも伝播している。


 「帝都からラタスを経由し、王都まで延びる街道は、帝国から逃れてくる者達にとって重大な要路である。昨今、ラタ森林地帯におけるこうした者達を狙う人狩りが横行しており、我々衛兵隊は取り締まりに心血を注いだが後手に回らざるを得ず、何度も煮え湯を飲まされてきた。だが、幸いにしてジョルジュの黒い長弓がこの度見つかり、それをきっかけとして護衛パーティーの集結地を割り出すことができた」


 篝火の薪がバキッと大きな音をたてる。

 演習場に集まった衛兵とプレイヤーは、黙ってギー隊長の訓示の続きを待つ。


 「場所は、『星見の台地』、敵はクラン『暗殺兵団』だ。なお、クランマスターのラセツはジョルジュの殺害犯であり、捕縛の最優先人物でもある。また、当該クランは、護衛パーティーの主催者であるクラン『断罪の暗黒天使』の幹部と結託している。よって、クラン『断罪の暗黒天使』の幹部も併せて捕縛対象とするので、各員はその心づもりで事に当たれ。……人狩りやそれに与する奴等に、決して容赦をするな」


 ギー隊長はここで話を区切り、一息つく。

 そして最後に力強く訓示を締める。


「これより、討伐作戦を発動する。ラタ森林地帯で傍若無人に振る舞う人狩り共を一人残らずせん滅せよ。各員の奮闘に期待する。人狩りとの戦いで傷つき、命を落とした仲間達のためにも今回で必ず決着をつけるぞ!」


 衛兵達は、一斉にギー隊長に向け、一糸乱れぬ敬礼で了解の意を示した。

 隊長訓示により、衛兵達の士気は大いに上がった。そしてそれは、プレイヤーも同様だった。各々気合いを入れ、クエストへの意欲を掻き立てる。


 =参加者全体アナウンス=

 クエストが発動されました。


 「各隊出発準備! 先発はコーゾ隊及びピラン隊! 直ちに出動せよ!」



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