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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第三章_PK討伐作戦

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30/109

30_ラタスへのお使い②

 ラタスへ向かいつつ採取を続けるアヤセ。採取ポイントで入手できる物は、ほとんど粘土と泥炭だった。ただし、「★」のグレードは、2から5とまずまずの質をキープしている。


 こうして、しばらく木道を進んでいくと、途中の道を横切るかたちで沼地が広がる。木道は沼地の中心部に向け伸びており、そのまま進むことができるようだったが、進んだ先に、木々で覆われた薄暗い様相の小島があり、そこに相当な数のモンスターがたむろしているようだった。チーちゃんにも上空を飛んでもらい、スキル【視覚共有】で様子をうかがったところ、そこにいたのは、二足歩行しているトカゲのような爬虫類型のモンスターであった。数は全部で十五体。全員プレイヤーさながらに武器と防具で武装している。まともに相手をするには、難儀しそうな敵だった。


 幸いにして、アヤセは、ブーツのポテンシャル「健脚」の効果で悪路影響を無効化できることから、さほど時間をかけず、ぬかるんだ沼地の縁を迂回することも可能である。ここは戦闘を回避し、採取を続けつつ先を急ぐことを選択した。


 沼地を大きく迂回し、既にインベントリの大部分を占めるようになった粘土と泥炭を更に採取しつつ、元の木道筋への復帰を目指す。途中小島にいるトカゲ達が見え、敵も対岸にいるアヤセを視認しているようだったが、他の湿地にいるモンスターとは異なり、襲い掛かかる素振りを全く見せなかった。どうやら連中の縄張りは、地面が低い半分水没しているような小島だけに限られているようだ。


 ギャアギャア鳴き声がうるさいトカゲ達を尻目に沼を迂回し、木道へ戻る道筋が見え始めたところで、五人のプレイヤーが沼地の縁付近の木道に留まっているのが「マッピング」で現認できた。やがて、向こうも採取を続けながら近付いてくるアヤセに気づき、うろんな目を向けてくる。


 「こんなところで採取している奴がいるぜ。必死に泥だらけになって、バカじゃねぇの?」


 五人組の一人が出し抜けにアヤセを哄笑し、そのうち二人がそれに同調して笑う。

 アヤセは、失礼なことを言う五人組の中に見たことがある顔を見つける。


 (あの時のエルフの小僧とチンピラドワーフ?)


 王都でアヤセに絡んできた二人組。先日アヤセは、この二人のマナー違反行為を運営に通報したあと、二人のことはすっかり忘れていたが、引き続きゲームをプレイしているくらいだから、仮に処分が下されたとしても軽いものだったのだろう。ちなみに当の二人は、目の前にアヤセがいるにも関わらず、他の三人と同じように笑ったり、突っかかるようなことをしてこない。アヤセは初め、運営へ再通報されるのを恐れて二人は何も言ってこないかと思っていたが、様子を観察してみると、どうやら極度に緊張しているようで、上の空でアヤセのことなど目に入っていないようだった。


 (何故二人があれほど緊張しているのか分からないが、向こうから何も言ってこなければ、こちらとしては気にすることでもないな)


 アヤセは、二人が自身に気付かないのを良いことに、五人組を無視して未回収の採取ポイントから素材を採取しようとする。沼の周りでは、★4又は5の粘土と泥炭が高い頻度で採取できた。ケピ帽の特殊効果も影響しているだろうが、元々ここは良質な素材が採りやすい場所だったのだろう。


 「おい、お前。お前だよ! お前!」


 「お前」を連呼してアヤセを呼びつける五人組のひとり。薄手の服を纏い、仰々しい杖を持った男の職業は、スキル【鑑定+】によるとプリーストのようだった。


 「……」


 アヤセは無視して採取を続ける。人が採取している様子をせせら笑う連中になど関わるつもりはない。

 自身の呼びかけを無視された男は、語気を荒げアヤセにかみつく。


 「お前、聞こえてんだろ! このクソアイテムマスター! 地面にへばりついて俺の声も聞こえねぇのかよ、ゴキブリ野郎!」

 「……」

 

 こんなプレイヤー共と関わると碌なことがないから、アヤセは徹底無視を決め込む。男の言動は腹立たしいが、今一番男にとって頭にくるのは、下に見ているはずのアイテムマスターに全く相手にされないことだと思い直し、採取に専念することにする(このお陰ではないが、この後★5の粘土が十個ほど採取できた)。


 「この野郎! いい加減しろよ!」


 業を煮やした男が、怒りで顔を真っ赤にして木道から地面に飛び降り、アヤセに近付こうとする。だが、地面に降り立ち、アヤセに向かって十歩も歩かないうちに足をぬかるみにとられ、動けなくなってしまった。


 「うっ……、くっ、クッソ! 抜けねぇ!」

 「……」

 「オメー、何笑ってやがる!」


 笑ったつもりはないが、もしかしたら相手が指摘したように笑みが漏れていたかもしれない。それほど目の前の男が泥にはまり、じたばたともがいて悪態をつく姿は、見ていて滑稽だった。


 「……」


 このままバランスを崩して、体ごとぬかるみにはまる様を傍観していても良かったのだが、アヤセは男を助けることにする。

 男の背後から木道に向けて、インベントリに収納していた粘土を放出し、坂道を作るように積み上げていく(インベントリからアイテム等を放出する際、実行するプレイヤーの手元から、ある程度まで離れた場所を指定できるのは、このゲームの便利な点の一つである)。やがて積まれた粘土は、ちょっとした盛り土のようになり、一番高いところが、木道の高さと同じくらいになった。

 

 アヤセが粘土の山を築き上げる様子を呆然と見ていた男であるが、急いでぬかるみにはまっているブーツから足を引き抜き、履物をそのままに粘土の山を四つん這いで泥まみれになりながら木道に這い上がる。裸足の男が木道の上で仰向けに寝ころび、荒い息を吐いていると、涼しい顔をしたアヤセが上がってきて、木道に到達したあと、積まれた粘土とついでに男の脱ぎ捨てられたブーツをインベントリに収納した。ちなみに、エルフの小僧とチンピラドワーフは、アヤセが木道に上がってきた際に、初めて存在に気付いたようで驚いていたが、それ以上の反応は示さず、事の成り行きを黙って見守るつもりのようだった。


 「お、お前、土魔法を使って俺のことハメたな?」

 

 男は見当違いなことを言うが、アヤセは全く相手にしない。


 「泥だらけになって、随分と必死ですね。木道にへばりついていないで、さっさと用件を言ったらどうですか?」

 「んだと?」

 

 男は、上半身を起き上がらせて、凄んでみせるが、ぬかるみからの脱出で体力を消耗したようで、先ほどまでの威勢は消え失せている。代わりに語を継いだのは、アヤセを哄笑した三人のうちの一人で、背の低い猫型獣人の女性弓士だった。


 「随分と舐めた真似してくれるじゃない? 私達が誰だか分っているの?」

 「ええ、多分。クラン『断罪の暗黒(ダーク)天使(エンジェル)』の方々でしょうか?」

 「ふん、知っているのね? それなら、私達にケンカを売る意味も分かるわよね?」

 「ケンカ? 滅相もない。この人が勝手に地面に飛び降りて、勝手にぬかるみにはまって、勝手に盛り土を這い上っただけでしょう? これのどこがケンカを売ったことになるのですか?」

 「あまり調子に乗らないことね? これ以上ふざけたことを言ったら、クランを敵に回すことになるわよ?」


 猫型獣人の言葉が終わらないうちに、アヤセは素早い動作で左手を鍔元にやり、鯉口を切る。


 「……お前達こそ調子に乗るなよ。ここでクランの名前を出して凄んだところで、今この場にいるのは自分達だけだ。先ほどのこいつみたいに、お前達全員をここのぬかるみに叩き落して、上から粘土を降らせてやってもいいのだぞ。そうなったら、こんな僻地で身動きも取れず、モンスターに嬲り殺されるまで死に戻ることもできないまま、しばらく湿原で足止めを食らうことになるだろうな」


 鋭い目つきになり、五人組を睨みつけるアヤセ。PKすら辞さない構えで見せる殺気は、いくら鈍くさいプレイヤーでも察することは難しくないはずだ。そして、それはアヤセよりも基礎レベルが高い猫型獣人の弓士ですら、怯ませるのに十分だった。

 

 「ふ、ふん……? 残念だけどアンタには、構っている暇はないのよ? 寝言は寝てから言ったらどうなの?」

 「そうですか。こちらは本気で言っていますので、次も同じような態度に出るつもりでしたら、それなりの覚悟をしておいてください。……ところで、用件を伺っていませんでしたが?」


 クラン「断罪の暗黒天使」に対しては、先般のエルフの小僧とチンピラドワーフの件もあり、アヤセは、良い感情を持っていない。目の前のどことなくシノブを彷彿とさせる猫型獣人の態度次第では、本気でこの場にいる全員を沼地のぬかるみに叩き落してやるつもりだったが、思ったより簡単に相手が及び腰になったため、自身も態度を軟化させる。アヤセの目に見える変化に緊張を解く五人組であるが、猫型獣人は自分たちの箔を何とか損なわないように尊大に接してくる。


 「用件? 簡単よ? アンタ、早くここから消えなさい?」

 「理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

 「そんなことアンタに言う必要は無い……」


 アヤセが再び、刀の鍔元に左手を添えたのを目にした猫型獣人は、言葉に詰まる。しばらく緊張した沈黙が続いたあと、アヤセがゆっくりと左手を離すと猫型獣人は大きく息を吐いた。


 「……これから、僕達は、この先の小島にいるリザードマン達と戦うんですよー。だから、僕達が戦っているところを見られて、攻略の参考にされると困るじゃないですかー?」


 思わぬ方向から答えが返ってくる。言葉の主は、ずっと緊張状態で上の空だった二人のうちの一人、エルフの小僧だった。


 「黙っていろ、コーゾ!」

 

 エルフの小僧は、名前をコーゾといった。ちなみにチンピラドワーフの名は、ピランという。名は体を表した分かりやすい名前だ。


 「えっ、小島のトカゲと? 本気ですか?」

 「アンタ、あそこのリザードマンのこと知ってるのか? やっぱ強いのか?」

 「おい、ピラン! テメーも黙れ!」


 エルフの小僧とチンピラドワーフを怒鳴ったのは、今までアヤセとの話を猫型獣人に任せていた、やけに重そうな鎧を着こんだ男だった。兜が頭部をすっぽりと隠すタイプのもので、素顔が全く分からない。

 

 「大したことは知りませんが、小島にいるトカゲ達のレベルは、最低でも30は下らないと思いますよ」

 「本当かよ!? 先輩、やっぱり止めたほうがいいすよ!」

 「黙れ、このクソドワーフ! 全部こいつのデマカセだ!」


 今度は、泥まみれになったプリーストの男がチンピラドワーフを怒鳴る。

 勿論、アヤセはトカゲ達のレベルについて嘘を言っていない。この情報は、チーちゃんのスキル【視覚共有】で視認したモンスターを、自身の持つスキル【鑑定+】で確認して得たものだ。この方法を用いれば、遠くにいる対象物の情報を難なく取得できる。チーちゃんの思わぬ活用方法を喜んだアヤセであるが、目の前にいる泥男に、そのようなことを想像できる訳が無く、頭から嘘と決め付けてかかっている。


 「モンスターとのレベルに差がありすぎると、戦いは厳しくなりますね。それに数も多いのは厄介です」

 「何体くらいいるのですかー?」

 「十五体です」

 「えっ……!?」


 エルフの小僧は絶句する。他の四人も程度が違うが同じような反応を示す。

 

 モンスターのレベルは、プレイヤーの基礎レベルと基準が異なる。一対一で戦う場合、プレイヤーは、初期に登場するモンスター等の例外を除き、戦闘職で3から5程度、生産職で5から15程度基礎レベルが相手より上回っている必要があると言われる。

 この理由として、プレイヤーは、通常、チームやパーティーを組み、数的に有利になる状況を作り出せることから、その対抗策として、出現に限りがあり、数で劣るケースが多いモンスターのステータスの方が、全体的に高めに設定されているという事情がある。


 いずれにしても、五人組の基礎レベルは、猫型獣人の39が最高で、あとは、鎧男と泥男がそれぞれ37と35、エルフの小僧とチンピラドワーフが20台であり、最低でもレベル30の敵が十五体もいる状況下では、質・量ともに五人組が圧倒的に不利であることは変わりない。


 「せ、先輩、無理ですぜ。止めといた方がいいすよ」


 気弱な発言をするチンピラドワーフ。傍目で見ると、いかつい格好のチンピラが臆病風に吹かれている風に見え、情けない光景のように見えるが、実際の戦力差を鑑みると、もっともな意見だと言える。

 

 「おい、ピラン。ビビってんじゃねーよ! こいつの言ってることなんか、当てにならねーよ。それに、手柄が欲しけりゃ無理すんのも当然だろ! 男なら腹括れや!」

 

 相変わらず状況が見えない泥男が、チンピラドワーフをどやしつける。


 「そうだ。このクエストを放棄するには勿体ねぇ。リザードマンのドロップは実入りがいいし、それに、ここが新しい『狩場』になるかもしれねぇから早めに押さえておく必要もあるしな。……俺達みたいにクラン幹部になりたけりゃ、黙って言うことを聞けや」

 「ちょっと、喋り過ぎよ?」


 猫型獣人の注意によって鎧男は、目の前にいる部外者の存在を思い出し、慌ててアヤセを睨み付ける。


 「あ、あのー、アヤセ……さん? 僕たちと一緒に戦ってくれませんかー?」

 

 エルフの小僧が突拍子もないことを言い出す。


 「はぁ? アンタ正気?」

 「馬鹿かお前! こいつは、部外者だぞ。おまけに低レベルで職業が『あの』アイテムマスターときてやがる。こんな奴、寄生虫以下だぜ!」

 「で、でも、前にお会いした時、もの凄いスピードで走っていましたよねー? あれだけ早く動ければ敵の攻撃も余裕で躱せるんじゃないですかー?」

 「……自分に弾避けになれと言うのですか?」

 「そ、そうじゃなくてー。僕達だけでは敵の攻撃を引き受けきれるか不安なんで、漏れが出た敵だけでも引きつけてくれないかなーって……」

 

 アヤセは、エルフの小僧の話を聞き、チンピラドワーフを含めた二人が何故、自身の存在に気付かず、上の空になるほど緊張していたのか理解できた。この二人は、強敵に対する体のいい盾役として、理不尽な役割を押しつけられていたのだ。


 (チンピラドワーフは、職業が戦士系だから、ある程度は盾役もこなせるだろうが、魔法使いのエルフの小僧は、かなり厳しいだろうな。盾役は鎧男がやればいいのに。戦闘職もクランのヒエラルキーによって犠牲を強いられることもあるのか……)


 アヤセは、目の前にいる二人に少しだけ同情を覚えるが、だからといってクランに協力するつもりは毛頭無い。


 「お断りします」

 「そうよ、うちのパーティーに寄生なんか入れる余裕はないわよ? アンタもこんなところにいつまでもいないで、採取でもしたらどお? 暇なの?」

 

 猫型獣人がもう沢山とばかりに、話を切り上げる。さすがにアヤセに対し、再び「消えろ」とは言わないまでも、この場から追い払いたいようだった。


 「そうですね。お互いに時間は有限でしょうから、無駄話は終わりにしましょう。でも、トカゲと戦うのは止めておいた方がいいと思いますよ」

 「うるせぇ! お前なんかの指図は受けねぇよ!」

 

 裸足の泥男が息巻く。この男は、自分の靴装備がアヤセに回収されたしまったことにいつになったら気付くのだろうか?


 「もういい。行くぞ。おら、コーゾとピランは先に行けや」


 鎧男が出発を促す。エルフの小僧とチンピラドワーフは、アヤセの気が変らないか期待していたようだったが、当人がその気を全く見せなかったことに諦めたようで、黙って鎧男の指示に従い、先頭を歩きだした。

 次に鎧男が続き、猫型獣人と泥男がその後をついて行く。二人はアヤセを睨み付け何か言いたげだったが、何も言わずトカゲ達が居座る小島へと向かって行った。


 (全く、クラン所属の戦闘職は本当にどうしようもない連中が多いな。しかし未達成のクエストか。位置的にはラタスのギルドが発注元だろうが、フィールドボスがいたら初撃破の報酬も期待できるな。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」と言うが、最もあいつらのやっていることは「暴虎馮河の勇」、考え無しの無謀な行動に過ぎない。少しだけエルフの小僧とチンピラドワーフが気の毒に思えてしまった)


 アヤセは、五人組の背中を見送りつつそう思うのだった。


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