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03_アイテムマスター

 ここは帝都の噴水広場。

 ダンジョンでアイオス達に置き去りにされたアヤセは、直後に襲いかかってきたモンスターに対抗などできる訳もなく、あっさり死に戻り、回帰地点の噴水広場のベンチに気持ちを沈ませ腰掛けている。


 (しかし、クモってあんなに気持ち悪かったのか。これは、夜な夜な夢に出てきそうだな……)


 アヤセは、死に戻りの際に、身体中寄って集ってダンジョンスパイダーに噛みつかれたが、その光景を再び思い出し、身を震わせた。そして同時にアイオス達の顔が思い起こされる。


 (ハラスメント行為も認められなかったし、あいつらとまた顔を合わせる機会があるかもしれないのか……)


 他のMMORPGと同様に、このゲームもプレイヤー同士のトラブルに運営が介入することがある。例えば、装備品等の現金取引行為 (リアルマネートレード)のほか、付きまといや嫌がらせ、暴言等のハラスメント行為に対しては、加害者のアカウント削除(アカBAN)も含め厳正に対処されている。アヤセは、今回のアイオス達が自分に行った悪趣味な追放劇を運営に申し立てたが、返信メールで現場が目撃者のいないダンジョン内であるため、ハラスメント行為が客観的に立証できないと理由が付され、証拠不十分ということで棄却されてしまった。なお、追伸で今後、嫌がらせを受けた際は、運営通報用の動画撮影であれば、スクリーンショットと動画撮影をブロックしているプレイヤーも撮影の対象になることから、撮影の上、証拠として提出して欲しいとも案内されていた。そのような仕組みを知らなかったアヤセは、非常に悔しい思いをしたのだった。


 (次会ったときは容赦しないとか言っていたし、今度同じような目に遭ったら動画を運営に送れば対応してくれるかな? 最も、あいつらには二度と会いたくないけど。今の自分では、あいつらにとても勝てそうもないし)


 戦闘職と生産職の差、単純な基礎レベルの差を痛感しているアヤセは、ため息を漏らす。


 (しかし、何だってアイテムマスターなんて職業を選択したのだろうな。あーっ! 過去に戻ってアイテムマスターを選ぼうとしている自分を止めてやりたい!)


 この噴水広場は、帝国領内での死に戻りの回帰地点であると同時に、ゲームのチュートリアルを終えたプレイヤーのスタート地点でもある。最近、第四期の追加販売があり、広場は多くの新規参入プレイヤーでごった返している。期待に胸を膨らませて仲間同士ではしゃいでいるプレイヤーを横目に、アヤセは過去の自分を呪っていた。


 ちなみに、アヤセは、第三期追加販売時に当選購入したプレイヤーであり、ゲーム全体では後発組に属する。元々攻略組のように戦闘職に憧れてゲームを購入したのだが、古参プレイヤー達のあまりのガチぶりに後追いを断念、別のプレイスタイルを模索していたところに第三期追加販売と同時に実装された職業「アイテムマスター」を知った。

 紹介文に謳われている文句を鵜呑みにして、職業を選択してしまった結果、現状に至っているのだが、当時はアイテムマスターに可能性を感じ、また魅力を感じたものだった。


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新職業アイテムマスター!

第三期追加販売記念!今ならアイテムマスターを職業に選んだプレイヤー様に、20スキルポイント進呈中(○月×日まで)!

 

○今回のリリースに伴い、新たに装備品やアイテムに様々な能力付与ができる“ポテンシャル”が実装されました! ポテンシャルを付与できるのは、新職業“アイテムマスター”だけ! 他とは違うプレイスタイルが楽しめます。


○アイテムマスターは、全職業の装備品を装備可能! 君だけのバトルスタイルを作り上げろ!


○装備した武器、防具の効果や使用したアイテムの効果にボーナスが加算! 質の良いものほど効果も高くなるので、その強さが実感できます!


○戦闘職系の技能レベルが充実しているので、生産職だけでなく戦闘職プレイも楽しめちゃう!


 さぁ、あなたもポテンシャルを駆使して果てしないTewの世界を駈けめぐろう!

 ※既にプレイを楽しんでいるプレイヤーの皆様も当該職業へ転職できます。

  ただし、再転職はできません。

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 以上が、アイテムマスターの職業紹介文である。スキルポイントまでおまけにつけるくらい当時の運営は、熱心に定着化を図ろうとしていたことが窺い知れる。


 第三期追加販売時に参入したプレイヤーの中には、物珍しさもあり、アイテムマスターを選択した者も少なからず存在したようだが、リリース後の検証が重ねられるにつれ、次第に職業の欠陥が明るみになっていく。


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○ポテンシャルを付与できるのは、新職業“アイテムマスター”だけ! 他とは違うプレイスタイルが楽しめます。

→付与されるポテンシャルは、やり直し不可の完全ランダム。しかもその内容が無意味、無駄、特性殺し等、クラッシャー的要素満載で散々なもの。付与されたポテンシャルのせいで、一級品の装備がゴミになったと運営にマジギレしたプレイヤーがいるとかいないとか。


○アイテムマスターは、全職業の装備品を装備可能! 君だけのバトルスタイルを作り上げろ!

→全職業の装備品は装備可能だが、重量制限と装備条件は他の職業と全く同じ。また、紹介文には書いていないが、アイテムマスターのステータス上昇率は、各職業の最も上がりにくいステータス上昇率よりも更に低いぶっちぎりの最下位。体力の上昇率が、最低ランクの魔法使い系よりも低いと言えば、その酷さが分かるというもの。装備条件がステータス値で制限されることが多いこのゲームでは、とてもではないが、「君だけのバトルスタイル」の構築なんて夢のまた夢。


○装備した武器、防具の効果や使用したアイテムの効果にボーナスが加算! 質の良いものほど効果も高くなるので、その強さが実感できます!

→装備品や使用アイテムにボーナスが加算されるのは確かだが、その加算率が1.045とあまりにしょぼい。現に防御力20の防具では、加算されても20.9にしかならず、小数点以下切り捨ての計算システムのせいで、数値に変化が生じない悲しい現象が起こる。装備品の効果が高ければ、その分数値も上がるが、これはもう誤差程度。ちなみに、「植物魔法威力アップ(極小)」といった数値で効果が表示されないものについては、加算有無不明(検証者が匙を投げて引退してしまったため)。


○戦闘職系の技能レベルが充実しているので、生産職だけでなく戦闘職プレイも楽しめちゃう!

→技能レベルは戦闘職系のみならず、全体的に初期にしては高めだが、それ以前の問題。ステータスの上昇も望めないので戦闘職には不向き、既存のアイテム無しでは、ポテンシャルの付与すらできず、一から何も作り出していない時点で生産職と言えるのかと。運営もアピールに事欠いてテキトーに文章作った説が急浮上。どっちのプレイも楽しめません!

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 ネタ職にもならないゴミ職――――。アイテムマスターがそう認知されるのに時間はかからなかった。戦闘力皆無、サポートらしいことも全くできない、生産に活路を見出すことも絶望的……。このゲームでは、一度選んだ職業は変更できないので、アイテムマスターを選択したプレイヤーのほとんどが引退するか、アカウントを再取得して別の職業でやり直すかのどちらかの道を選んでおり、アイテムマスターは、「絶滅危惧種」等と揶揄されている。


 周りからアイテムマスターであることを度々馬鹿にされ、不愉快な思いを散々経験したアヤセであるが、一つだけ良いことがあった。それは、トップクラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」に検証要員として採用された際に、クランハウスで団長のエルザと話す機会に恵まれたことである。そもそもアヤセがこのゲームを始めたきっかけは、動画サイトでエルザの戦いぶりに触発されたためであり、偶然ではあるが憧れの人、エルザと話ができたことは、天にも昇る思いだった。


 「アイテムマスターは、まだ実装されたばかりで未知な部分が多い。これから検証を行い、十分な実力をつけて、クラン発展に力を貸してくれることを期待している。検証次第では、共に前線で戦って貰うことになるかもしれない。その時が来るのを楽しみにしているぞ」


 あの時は緊張のため、何を話したかはっきり覚えていない。だが、最後に団長がにっこり笑みを浮かべながら言った台詞を今でも鮮明に覚えている。いつか、あの人と肩を並べて戦えるチャンスが自分にも巡って来るのではないか……。アイテムマスターが戦闘職として全く実用性が無いと思い知らされるまでは、団長の言葉を思い出すたび心を躍らせたものだった……。


 アイオス達に期待外れと罵られたことは最早どうでもいいが、団長は期待に沿えなかった自分に失望しただろうか? もし、失望したのであれば非常に心が痛む。だが、すぐにそう思うのは自惚れであるとアヤセは思い直した。おそらく団長は自分の存在をとっくに忘れているだろう。トッププレイヤーが一介のアイテムマスターを記憶に留めておく理由はどこにも無いのだから。



とりあえず三話まで投稿してみました。なろうで多くの名作に出会い、いつか自分も面白い小説を書いてみたいと思って始めてみましたが、「生む苦しみ」を体感させられています……。

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