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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第三章_PK討伐作戦

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28_プロローグ

 -ラタ森林地帯では、帝国から王国に移動するプレイヤーを狙ったPKが頻発している。移動には十分注意してかかれ-


 掲示板では、注意喚起がしっかりと書かれていたが、その警告を知らなかった者や、無視する者は少なからずいる。現在、PKに追われている若い女性も、そのうちの一人だ。最も彼女は、なけなしの所持金である八千ルピアを支払い、護衛付きの合同パーティーに加入した上で、集団での越境を試みたのだが、王国に入国した直後にPKの襲撃に遭い、護衛役のプレイヤーが全員逃散し、見捨てられたかたちで、一人で逃げ回っている。外見は二十歳前後の尖った長耳が特徴のエルフ種で、髪はオレンジブラウンのショートボブ、魔法使いを連想させるとんがり帽子とマントを装備していた。

 

 本人は黒い衣装で統一したいようだが、脚装備の色が揃っていない間抜けな装備で身を固めたシーフは、逃げる女性に向け、お得意のスキル【エアエッジ】を飛ばす。女性の上半身に命中した高速の風の刃の衝撃は、彼女の頭装備と外装備を破壊し、体を地面へ転がすには十分な威力だった。

 倒れた女性は、何とか起き上がり、逃げだそうとするが、今度は、追いついたプリーストがロッドで殴りつけたため、再び地面に倒れ込む。


 「へっへっへっ。もう終わりかい? もっと楽しませてくれよ」


 シーフが下卑た笑みを浮かべ、ゆっくりと近付いてくる。女性を追っていたPKは、スキル【エアエッジ】を飛ばしたシーフと、今しがたロッドで殴りつけたプリースト、それに後ろから遅れてきたゴブリン装備の戦士の三人であった。


 女性は何とか立ち上がり、三人のPKを睨み付け、魔法の発動を試みる。


 「【ウィンドカッター】!」

 「おいおい、もうMPが無いだろ? 無駄だぜ、お姉ちゃん」


 シーフが言ったとおり、魔法は発動しなかった。女性は迫る危機に身を震わせる。


 「こ、来ないで!」

 「そんなに、ツンケンすんなよ。アンタがその気にさえなれば、PKするの見逃してやってもいいんだぜ?」

 「ああ、そうだな。俺達を楽しませてくれたらなぁ!」


 そう言いながら、プリーストが女性の上着を掴み、強引に引き裂く。PKの執拗な攻撃で耐久値が限界に達していた防具は、あえなく破壊され、残骸を地面に散らす。女性の上半身は、無装備状態になり、白いタンクトップが顕わになった。彼女は悲鳴を上げ、胸元を腕で覆い、それを隠すように身をかがめた。


 「うっひょーぉぉっ! 服の上からでも分かったが、思った以上の巨乳だったぜぇ!」

 「こ、こいつは、すげぇ! たまんねぇぜ!」


 シーフとプリーストは、餓えた野獣が獲物を仕留めたように狂喜する。一方、戦士はその様子を黙って見ていた。


 この二人が行っている行為は、いわゆる「剥き」と呼ばれるものである。これは、意図的に防具の耐久度のみ消耗させ、対象を無装備状態、つまり白いタンクトップと短パン姿にすることを目的にしている。やられた側に大きな屈辱を与えるこの行為は、当然悪質なハラスメントとして認知され、プレイヤー間では忌み嫌われていた。


 「お、おい、やべぇよ。これ以上やったらハラスメント行為になっちまうぞ」


 ゴブリン装備で身を固めた戦士が間に入りこれ以上の蛮行を止めようとする。だが、目の前の女性をいたぶることに楽しみを見出した二人は聞く耳を持たない。


 「うっせぇ! こんなチャンスは滅多にねーぞ! 誰も見てねぇし、バレることないだろ?」

 「そうだぜ。プレイヤーを倒すのが俺達の仕事。プレイヤーを倒すのなら何をしても許される。それがPKだ」


 身勝手な理屈を述べて、戦士を脇に押しのけるシーフ。


 「さて、と。じゃあ次は、下も剥いちゃいますかねぇ」

 「そうだな。な、なんか興奮してきたぜ! く、靴だけは最後まで残しておこうな!」


 舌なめずりをして女性ににじり寄る二人のPK。女性は、胸を隠しつつ、二人から後ずさる。


 「や、やめてっ。助けて!」

 「泣き顔もかわいいよぉ! ほらぁ、もっと、もっと泣け!」


 プリーストが女性のスカートに手をかけようとした瞬間、後方より何かが飛んできた。


 「なっ!? がっはっっ!」


 不意打ちを食らい、苦しさから汚らしい声を発したプリーストの首に、鞭のようにしなう布が一重二重に絡みつく。布の力は強力で、首からそれを振りほどこうと悪戦苦闘するプリーストに為す術も与えず、無惨に後方へ引きずっていく。プリーストが地面をボロ雑巾のように引きずられていった先には、一人の男が立っていた。


 男は自らの足元まで引きずられて来たプリーストの心臓へ、腰に差していた刀を、瞬時に逆手で真上に抜き出し、突き立てる。たった一撃でHPがゼロになったPKプリーストのシリアルキラー・マンゾーは、アイテムや装備品を辺りに散りばめ消滅した。シーフと戦士、そして襲われていた女性まで、いま目にした一瞬の光景に目を疑い、呆気にとられ、身動きも忘れて、ただ隙無く納刀を行う男を見入っていた。


 男は、全身深緑色に統一され、簡素であるがしっかりとした基調の銀色の飾り紐や刺繍が入った軍服風の衣装をまとっている。ちなみに、プリーストの首を絞め、男の足元まで運んだ布は、肩に引っ掛けられた上着の袖である。袖のうねうねとした動きや、伸び縮みしている様は生き物を彷彿とさせた。

 

 「ク、クソッ、よくもマンゾーを! くらえっ、【エアエッジ】!」


 ようやく立ち直ったシーフが、攻撃を仕掛け、放たれた風の刃が男に迫る。同時にシーフが次の一手のため、スキルを発動する。


 「【スピードブースト】!」


 素早さを一定時間20%アップさせるスキルを発動し、牽制のため放った風の刃を追い、シーフは男に肉薄しようとする。バフにより上がった素早さを活かし、敵の刀と上着の袖の間合いの内側に入り込み、一撃必殺を狙おうとしていた。

 風の刃は、上着の袖のジャストガードによって簡単に弾かれてしまう。だが、シーフは焦らず無駄のない動きで、どんどんスピードを上げ、男との距離を詰めていく。袖もジャストガードした際に長く伸び、刀は依然、鞘に収まっている。男が自身のスピードに焦って刀を抜こうとする直前でフェイントをかければ、相手を翻弄できるはずだった。

 シーフは更に加速し、男の目前に迫る。だが、男は何故か防御も回避もしようとしない。


 「へっ、遅えな。俺のスピードについてこれねぇのか? 死ねっ、【ラインカッター】!」


 ―――これなら、フェイントもいらない。渾身のスキルで頸部を斬って、状態異常「怪我」に持ち込んで動けなくしてやる。そうした後は嬲り殺しだ―――


 高速斬撃スキル【ラインカッター】を繰り出し、シーフは勝利を確信する。だが、男が刀の鯉口を切ったその瞬間、目を疑うことが起きた。


 刃を地面に向け、切上げるような抜き付けは、初動がシーフのスキル発動より遅かったにも関わらず、自身が間合いに入る前に逆袈裟に斬られてしまった。右腰から左肩へかけての下から上への刃筋。大して深く斬られた訳ではないが、スキルは強制的にキャンセルされ、HPが残り二割程度まで削られてしまっている。


 「バカなっ! たった一撃でこんなにHPが減っちまうのか!? しかも、俺より早えぇって? ありえねぇ!」


 男の実力に驚愕し、バックステップで後ろに逃れようとするシーフであるが、もう手遅れだった。一瞬で男に追いつかれ、返す刀で先程と逆の刃筋で袈裟掛けに斬られる。

 こうして、PKシーフのリョージンもアイテム等をまき散らし死に戻った。


 「テメェ、思い出したぞ! あの時のアイテムマスターだな?」


 ゴブリン装備の戦士が、血振り、納刀を行っている男に向け、おもむろに叫ぶ。


 「装備を新調しても分かるぞ! テメェに二回も取られた俺の装備、今日こそ返して貰うからな!」


 先ほどの消極的な姿勢から一変し、怒声を発し、戦士は、両手にそれぞれ装備した錆びた剣を手に躍りかかる。だが、あえなく男の上着の袖に両腕を取られ、顔面から地面に引きずり倒されてしまった。

 男は、地面でもがく戦士に近付いていく。その後、戦士から武器と全部位の防具が消え、白のタンクトップと短パン姿の無装備状態になった。


 「ああっ、また盗りやがったな! ふざけんなテメェ! 返せ、俺の装備をかえせぇぇ!」


 泣きながら悪態をつく戦士の言葉を無視して、男は抜き打ちで首をはねる。最後に残ったPK戦士、ゴブ男もまた、男に装備の全てを奪われ、散った。


 女性は最後のPK、ゴブ男が消滅する様を夢を見ているような感覚で眺めていたが、ようやく死に戻りの危機から逃れたことを認識する。そして、近くで上着の袖を器用に扱い、ドロップしたアイテムや装備品を回収している自身を救った男を見やる。


 ドロップ品の回収が済んだ男は、女性の視線に気付き、声をかけようとしたようだが、急に顔を背ける。そして、慌ててインベントリから一着の服を取り出した。


 =個人アナウンス=

 アヤセさんから以下のアイテムが贈呈されました。受け取りを承諾しますか?

 ・純白のフリルブラウス(装備品:内体)

 

 「大丈夫ですか? もしよければ、これをお使いください」


 男は、初めて口を開いた。その口調は、先ほど問答無用でPKを屠った苛烈な戦いぶりからは想像できない、丁寧でそして、女性の受難を心から気の毒に思っていることを感じさせるものだった。

 女性は、男が自身の上半身の有様を見て、顔を背けたことに気付き、悲鳴を上げ、慌てて胸元を隠すように体を後ろに向ける。それと同時に、急に体が震えだす。今までPKに追いかけられ、辱めを受ける直前まで追い込まれた恐怖と、それを脱した安堵によって、緊張の糸が切れたためであった。

 男は、女性の様子を気遣い、そっとブラウスを背中から羽織らせた。


 「ひゃっ!?」


 急に、背中に何かが触れるのを感じた女性は、ビクッと体をすくめる。


 「……驚かせてしまい、済みません。ひとまずこれを着てもらった方がいいかと思いまして。無事で本当に良かった。でも、到着が遅れてしまい、申し訳ありません」


 女性は、震えたまま何も反応しない。顔も体も背けたままだ。


 「とにかく、PKは全員倒しました。それと、今回、連中がやったことは、PKから逸脱した完全なハラスメント行為です。訴え出れば連中は、間違いなくブラックリスト入りします。NPCの衛兵がこの後保護に来ますから、その時に申し出れば、処分が行われるはずです。その、言いにくいこともあるかもしれませんが……」


 男は、気まずそうにする。


 「辛い気持ちでいる時に、無粋なことを言ってしまいましたね。申し訳ありません。衛兵には女性もいますし、男性の自分とは違って色々相談もできますから、そのあたりフォローはしっかりしていると思います……」


 男の言葉は続かない。二人の間に沈黙が流れる。すると、樹上で鳥のきれいな鳴き声が聞こえてくる。男はそれを感じ取り、鳴き声に耳を澄まして聞き入っていたが、やがて独り言のようにつぶやきを漏らした。


 「いたか……。ようやく見つけたぞ」

 「おーい、おーい、誰かいるかー?」


 近くで聞こえる人の声。その声を聞き、男は大声で応じた。


 「ギー隊長! ここです! 生存者がいまーす!!」


 男は、女性に顔を向け、言葉をかける。

 

 「もう大丈夫です。衛兵が来ました」


 女性の反応は無かったが、程なくして、衛兵らしき格好をした数人の男女がこの場にやって来た。

 そのうちの隊長らしき一人の男性衛兵が男に声をかけた。

 

 「護衛が大方やられてしまったようだ。しかし、生存者がいて良かった」

 「隊長、奴等を発見しました。自分はこれから先行して詳細を確かめます。伝令は後ほど寄越しますので、応援をお願いします」

 「分かった。気を付けて行き給え。頼んだぞ」

 「了解です。……それでは自分はこれで失礼します」


 最後の言葉が、自分に向けられたものだと察した女性は、森の中に消えて行く男の背中を見送ろうと振り返ったが、そこにはもう男はいなかった。

 

 「大変な目に遭ったが、もう大丈夫だ。君の世話は女性衛兵が行う。今回の被害の件で申し出があれば、遠慮なく彼女達に言ってくれ給え。申し出に対し、何かしらの対処もできるだろう。今後の被害者を出さないためにも、加害者を処罰する証拠が必要だ。是非とも協力をお願いしたいところだ」


 衛兵隊長らしき男性のNPCは、女性を気遣いつつ、PKの違反行為に対する証言の協力をお願いする。女性は、羽織ったブラウスを両手で掻き合わせながら、衛兵隊長の申し出に対し、お礼の代わりに小さく会釈したものの、その応答は上の空といった感じだった。


 今、女性の思考を占めていたのは、先ほど自身を助けた男のことであった。

 

 =アヤセさんから以下のアイテムが贈呈されました=


 「あの人は、アヤセさんって言うんだ……」


 女性は、誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやく。


 アヤセの不器用ながらも、相手を思いやる優しい口調や、震えている自身に上着を差し出してくれた気遣いを思い返していたら、羽織っているブラウスが心なしか温かく感じられ、彼女の震えは自然に止まったのだった。


本日より第三章をお届けします。

仕事が多忙なので更新が前回より遅めになりますが、どうぞお付き合いください。

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