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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第二章_深緑装備

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19/108

19_サモナーギルド

 一連の騒動も決着がつき、マリーへ注文している服の完成を待つあいだ、アヤセはかねての用事を済ますため、各ギルドへ転移届けの提出に行くことにする。


 このゲームでは、様々な「ギルド」と呼ばれる職業組合のようなものが存在し、プレイヤーは、最大三つまでギルドに所属できる(ただし、「冒険者ギルド」の所属は必須であるため、残り二つを任意で選ぶかたちになる)。ギルドの種類は多岐にわたり、プレイヤーがギルドに関連する職業に就いていなくても、得られる恩恵は減るが所属自体は可能である。加入のメリットとしては、独自のクエストを受注できること、ギルド特製のアイテムや装備品等の購入権が得られること、特別なスキルの習得が可能になること等が挙げられる。冒険者ギルド以外は、途中の脱退、加入も可能であるがその際は、貢献度 (ランク)が一からやり直しになるため、頻繁に所属を変えることは推奨されていない。

 アヤセは現在のところ、「冒険者ギルド」と「アイテムマスターギルド」に所属している。今後王都で生活を始めるため、ギルドに対して拠点変更を申し出る必要があった。


 宿をチェックアウトし、街に出る。今まで周囲を気にする余裕も無かったので気付かなかったが、改めて見回すと王都の中央地区は整備された石畳と、綺麗に区画された建物が並ぶ大変美しい街並みだった。

 

 (まるで、中央地区は世界遺産のドゥブロヴニクのようだ)


 アヤセは、テレビで見た「アドリア海の真珠」と謳われるクロアチアの都市を思い浮かべる。よく見ると印象的なオレンジ色の瓦屋根や白い壁がよく似ている。実際のドゥブロヴニクは、海沿いの都市なのだが、王都も同様に海に面しており、港湾施設もあるようだった。


 (港に行けば、船もあるのだろうか。世界観で考えると木造帆船だと思うから、是非とも一度港湾施設を見学に行かなくては)


 アヤセは、現実世界において、十八~十九世紀のナポレオン戦争を舞台に帆船が登場する海洋冒険小説を愛読している。そのため、ゲーム内で帆船が現役で稼働している可能性に心をときめかせた。


 (そうは言っても、港に行くのは、やることをやってからになるかな)


 各ギルドは、王都の丁度中心部に位置する王城近くにまとまり、区画を形成し、その界隈は一般的にギルド街と呼ばれている。王城から各方面の城門(王都の東側は港湾部になっており城門は無い)は、途中で低所得者層の住宅が密集して往来の妨げになっている南門を除いて、大通りでつながっており、ギルド街も各方位の入り口からのアクセスが大体同じくらいになるように位置が決められていると思われる。いずれにしても所在が固まっていることは、用事をまとめて済せることができるので利便性は高かった。

 冒険者とアイテムマスターの各ギルドで、拠点変更の手続きをさっさと済ませる。クエストを覗くことを考えたが、とりあえず今回は必要最低限の用事に止めておくことにした。

 

 (一度、サモナーギルドに立ち寄ってみるか。「契約の器++」の情報も欲しいし)


 足は、サモナーギルドに向く。他のところもそうだが、建物の中に入ると入口や外観からは、想像もつかないくらいの広さを感じることがある。特に冒険者ギルドについては、空間が歪んだとしか思えないほどの広さだった。


 (まぁ、これはゲームと言うことで。建物内の構造が変なのは、ギルドだけではなかったしな)


 アヤセが今まで宿泊した宿屋も、チェックインした後、客室のある階層へ移動するため階段を昇ると、そこには自分の部屋のドアが目の前にあるだけだった。普通だったら、廊下沿いに客室が並んでいる光景を思い浮かべるし、宿泊客はアヤセ以外にも大勢いたのに、一体どこに泊まっているのか疑問に思ったものだ。


 サモナーギルドは、神秘さを演出させるためだろうか、昼間なのに窓は厚手のカーテンが引かれ、明かりも薄暗かった。目の前にいる受付の女性の、薄いヴェールで顔を覆ったどことなく占い師を連想させるような服装も、そう感じさせるのに一役買っている。


 「いらっしゃいませ。サモナーギルドにようこそ。初めての方ですね? 当ギルドの説明をお聞きになりますか?」

 「いいえ、大体分かりますので、説明は結構です」

 「かしこまりました。それでは、本日のご用は何でしょうか?」

 「『契約の器++』というアイテムを探していまして、ここで取扱っていますか?」

 「『契約の器++』ですね……。申し訳ございませんが、現在、当ギルドでは取扱いがございません」


 (残念ながら、取り扱いが無かったか。そうなると、どうやって手に入れるのだろうか)


 「ちなみに、入手の方法は御存知でしょうか?」

 「ええ。『契約の器++』の作成には、『契約の器+』を強化する必要があります。強化には多くの貴重な素材が必要です。当ギルドで発注するクエストのクリア報酬等でも入手が可能な素材もありますが、それ以外の素材も必要になってきます」

 「なるほど。それで、『契約の器+』の入手方法は?」

 「こちらは、当ギルドでも取り扱いがありますが、一定の貢献度に達した方に販売しております」

 

 (やはり、貢献度が必要か。他のギルドも興味があるが、所属はサモナーギルドにしようかな?)


 他のギルドも覗いた方がいいのだろうか? アヤセは悩む。


 「アヤセ様は、価値の高い思念をお持ちのようですね?」

 「え? 分かりますか? 一応持っていますが……」

 「『契約の器++』のことを聞かれましたので、もしかしたら、そのような思念をお持ちではないかと思いました。ちなみに、思念の獲得をギルドに御報告くださいましたら、報酬が手に入りますよ。そのようなクエストも発注しておりますので」

 「それは、凄いですね」

 「ただし、当ギルドに所属していることが受注の条件になります」

 「そうですか……」

 「せっかく貴重な思念をお持ちでしたら、これを召喚しない手は無いと思います。職業がサモナー以外でも初級サモン術のスキルが取得できますし、サブジョブが選択可能になる前から、召喚術の技能レベルを上げておくことをお勧めしますよ! ですので、この機会に当ギルドに加入して、クエストを受注して経験を積まれてはいかがでしょうか?」


 (随分勧誘に熱心だな……)


 アヤセは、急に元気になり、勧誘を始めた受付の女性の熱に押されつつ、話を聞く。


 「テイムモンスターは、食事が必須ですが、召喚獣は決して必要という訳ではありませんので、経済的ですし、『契約の器』がその分必要になりますが、召喚獣の所持数に制限がありません! テイムモンスターは、『使役術』の技能レベルやスキル次第で所持数に制限がかかることに比べれば、どちらが良いか比べるまでも無いでしょう。ここは是非、テイマーギルドよりもサモナーギルド、大事なことなので、もう一度申し上げます。テイマーギルドよりもサモナーギルドに何卒、御加入ください!」


 カウンターに額が付くくらいの角度でお辞儀をする女性の熱心さに呆気にとられるアヤセであるが、すぐに気を持ち直し、質問する。


 「『契約の器』があれば召喚獣を呼び出せるとのことですが、『契約の器』、つまり『+』でも『++』でもない廉価版の器はどのように入手するのですか?」

 「ノーマルの『契約の器』は当ギルドで販売しております。値段は一個十五万ルピアです」

 「止めます」

 「そんなっ、即答で!?」


 背後で「ガーン!!」という擬音が出ているかのような錯覚を覚えさせるほど、ショックを見せる受付の女性。一方アヤセは、質問を重ねる。


 「先ほどの説明を聞く限りでは、召喚獣一体につき『契約の器』が一個必要になるように理解しましたが、それで間違いありませんか?」

 「はい、そうです」

 「例えば、召喚獣を三体所有したい場合、最低でも四十五万ルピア必要になると?」

 「はい、仰るとおりです……」

 

 (これは驚いた。戦闘職だって、簡単に稼げる額ではないぞ。現に自分も十五万ルピアなんて持っていないし……。テイムモンスターだったら、極端な話どこかで捕まえることもできるから、二者択一だったら皆テイマーに流れてしまうだろうな)


 もしかしたら、受付の女性がこんなに勧誘に熱心なのは、サモナーを選択するプレイヤーが減っているのではないかとアヤセは推測する。そう思って周りを見てみると、ギルド内にいるプレイヤーの人数も心なしかまばらなような気がしてきた。


 「残念ですが、自分の所持金では『契約の器』を購入することができません。貴重なお時間を割いていただき、そして、有益な情報を教えてくださいまして、ありがとうございます」

 「ま、待ってください。お願いです。最後まで話を聞いてくださいっ!」

 

 立ち去ろうとするアヤセに必死に女性はしがみついてくる。NPCとはいえ、女性にこうも密着されると動揺が隠せない。ゆったりとした服装で分からなかったが、女性はかなりグラマーな体型をしており、服越しにそれが分かるような感触が伝わってくることも、動揺に拍車をかけた。運営スタッフは、NPC(多分女性だけ)の設定を凝りすぎではないかとアヤセは感じる。


 「わ、分かりました。話を聞きますから、一回離れてください。周りの人達も見ていますので止めてください」

 「あっ、私ったら我を忘れてこんなことを……。取り乱してしまい、失礼いたしました」

 「そ、それで、話の続きですが」

 「はいっ、ありがとうございます。先ほどお話しした、思念の獲得を報告することによって報酬が得られると申しましたが、その中に『契約の器』と初級召喚獣の思念のセットが含まれているのです」

 「本当ですか?」

 「はい、これによってアヤセ様の場合、スキル【初級サモン術】を取得されれば、すぐにでも召喚獣を呼び出せるようになるのです。ですから、加入の件、考え直して頂けませんか?」

 

 (今の説明で少し心が動いたが、もう一つ聞きたいことがあったのを忘れていた)


 「少し話が変わりますけど、召喚獣の思念の主な入手方法を教えてもらいたいのですが。知り合いに聞いた話だと召喚獣の思念を手に入れるのは、モンスターをテイムするより難しいと聞きましたが、実際はどうなのでしょうか?」

 「思念の主な入手方法は、モンスターからのドロップです。テイム可能なモンスターよりも種類は少なくドロップ率も低めですが、強さや育成の効率は召喚獣の方が勝っています。後は、ギルドでの販売も不定期に行ってはいますが、値段を考えるとドロップを獲得する方がお得かもしれません」

 「ギルドでの販売額は……?」

 「初級品で五万ルピアから販売しています」

 「それなら皆、ドロップ品を狙いそうですね」


 (召喚獣の長所と短所は、こんなところか)


 ○召喚獣 

  長所…テイムモンスターより強めの個体が多い。所持数制限なし

     ランニングコスト(エサ代等)は低め。好きな時に召喚又は

     召還できる

  短所…「契約の器」そのものが高い。召喚獣の種類が少ない

     (サモナーの特徴だが)召喚中はMPを常時消費

     ドロップ、購入両方とも「思念」の入手が比較的困難


 (今の説明では、報酬でとりあえず一体は、召喚獣を呼び出せるようだから、ギルドに加入して「何もできません」ということはなさそうだ。一番のネックは割高なコストであるが、やはり「タマモの思念」から一体どんな召喚獣が生まれるか非常に興味があるな)


 アヤセは、以前両手で、包み込むように持った「タマモの思念」から伝わる温もりと鼓動を思い出す。思念はまるで、生き物のようだった。根拠の無い直感だが、思念に触れた際にタマモも外の世界に出たがっているのではないかと感じた。もしそうだとしたら、やはり召喚は自分の手で行ってみたい。

 

 「やっぱり、皆さんルピアの話になると同じような顔をなさいます。最近はテイマーギルドにどんどん人を取られて、ギルドマスターから勧誘を強化するよう、申し付けられているのですが、サモナーがお金のかかる職業という情報が知れ渡っていて、中々加入してくれないので困っています」

 「済みません。気が変りまして、ギルドに加入させて欲しいのですが」

 「アヤセ様にも御無理を言って申し訳ございま……、えっ? 今何て言いました!?」

 「ですから、加入をさせてくださいと言いました」

 

 アヤセの加入の意思を聞いた女性の顔が、暗い室内で輝いたように見えた。


 「本当ですか? 本当ですね? ありがとうございます! もう、テイマーギルドには行かないって約束してください。行ったら召喚獣を呼び出して八つ裂きにしますよ☆」

 「……物騒なことを言わないでください。それよりも手続きお願いします」

 

 恐ろしいことをしれっと言う女性の案内に従い、所属の手続きを済ませる。手続き自体は、複雑なものではないので直ぐに終り、アヤセのステータス画面上に「サモナーギルド」所属の記載が加わった。

 手続きが済んだら、早速クエストの受注だ。


 「クエストの受注ですね。申し遅れましたが、私はサモナーギルド職員のマルグリットでございます。以降、お困りごと等ありましたら、何なりと御相談くださいね」

 「改めまして、アヤセです。職業はアイテムマスターです。偶然入手した思念から召喚獣を召喚したいと思い、ギルドに加入させていただきました」

 「アイテムマスター……(『あの』アイテムマスターがどうやって、価値の高い思念を手に入れられたのかしら?)。ゴ、ゴホン、失礼しました。それで、思念ですが、私に見せて頂ければ報告したと見なされ、クエストも完了しますよ」

 「分かりました。それでは早速……。これが『タマモの思念』です」

 「価値7!? 高い価値の思念をお持ちなのは、先ほど伺いましたが、ここまでの物とは思いませんでした。価値7の思念でしたら、こちらのクエストが完了します」


 ====================

 【クエスト(サモナーギルド)】

 思念の報告(1)

 内容:召喚獣の思念(価値2以上)の入手をギルド職員に報告

 報酬:貢献度+2、魔力回復薬(小)×5、月長石×5、500ルピア、

    経験値100

 ====================


 ====================

 【クエスト(サモナーギルド)】

 思念の報告(2)

 内容:召喚獣の思念(価値4以上)の入手をギルド職員に報告

 報酬:貢献度+12、契約の器×1、召喚獣の思念 (ランダム)×1、

    翡翠×5、7,500ルピア、経験値700

 ====================


 ====================

 【クエスト(サモナーギルド)】

 思念の報告(3)

 内容:召喚獣の思念(価値6以上)の入手をギルド職員に報告

 報酬:貢献度+20、スキルスクロール(サモナー専用)×1、

    アメジスト×5、15,000ルピア、経験値900

 ====================


 「それでは、報酬をお受け取りください」

 

 インベントリに受け取ったアイテムを収納する。

 「契約の器」が無料で入手できたのは幸運だった。本来だったら、少しずつサモナーとして成長していく過程で価値4の思念を入手し、中堅程度の実力がついた時点で、召喚獣を更に増やすタイミングとして「契約の器」等が報酬として与えられる趣旨だったのだろうが、いきなり価値7の思念を入手したアヤセは、順序が逆になるかたちで、サモナーとしての第一歩を踏み出すことになったのは皮肉とも言えた。


 「まずは、初級サモン術のスキルを取得するか」


 このスキルなら、職業がサモナーで無くても取得できる。スキルポイントは4必要だが、アヤセは現在、30ポイント所持しているので取得は問題ない。

 

 =個人アナウンス=

 スキル【初級サモン術】を取得しました。


 「スキルスクロールもこの際使ってしまおうか」

 

 =個人アナウンス=

 スキルスクロール使用により、スキル【念話】を取得しました。


 「スキルスクロールを使用したのですね?【念話】は、召喚獣に直接声に出さなくても指示等ができるスキルですよ」


 ちなみに、召喚獣からある程度距離が離れていても指示が出せるそうなので、このスキルは何かと便利そうだ。


 「それでは、いよいよお待ちかね、『契約の器』を使用して、召喚を行いますか。果たしてどんな召喚獣が出てくるかな」

 「ランダムですからね。開けてのお楽しみです♪」


 「契約の器」の中に「召喚獣の思念」を置く。思念が置かれた器は、光を帯び始め、やがて全体が派手に輝いたあと、器が消え、召喚獣が現れた。


 召喚獣は、大きさが雀と同じかそれよりやや小さい程度の鳥だった。背中側が抹茶色、腹側は白と綺麗に色分けされ、目の周囲が白く縁取られている。


 ====鑑定結果====

 【召喚獣】★1

 名前  チーちゃん(メージロ(ユニーク))

 レベル  1

 HP   10

 MP    9

 親密度  1

 スキル 視覚共有、果実探索、青い鳥

 ============


 「………………」

 「………………」


 無言で召喚獣「チーちゃん」を見つめる二人。召喚獣の鳥は、そんな二人を見て首をかしげるような仕草をしている。

 

 「これは、メジロ?」

 「メージロ、ですね。一応、召喚獣に分類されています」


 (ゲームではメージロと呼ばれているのか? しかし、これは当たり外れをどう判断したら良いのだろうか?)


 「あ、あの、これって……」


 マルグリットに評価を求めようとするが、アヤセの視線を受けて、彼女は目を泳がせる。


 「あ、あははははは。こんなことは珍しいのですが、召喚はランダムですし、こういったこともあるかな、って……。あはっ。あはは」


 マルグリットは、引きつった笑顔で乾いた笑い声を上げている。そして上目遣いでアヤセの顔を見て言った。


 「怒って、ギルド……、辞めないでくださいね?」


 (やっぱりチーちゃんは、ハズレだったようだ!)



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