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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第一章_王都へ

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16_【閑話】マリーの憂鬱

 私の名前はマリー、職業は裁縫師です。一応β版からの古参プレイヤーですが、部屋に籠もって服飾品を仕立てていることが多かったので、基礎レベルは未だ35です。

 

 現実でも生活は苦しいですが、ゲームの世界においても、それはあまり変わりません。理由は簡単です。私が仕立てる服を、クランのシノブさん達があまり高い値段で買い取ってくれないからです。高い材料費と安い買取り額の差は、クランからの貸し付けというかたちで埋められ、あるとき、私が借りているお金は、積りに積もって十万ルピアであると告げられました。現実世界の金額で百万円程度の借金を私はいつしか抱えていたのです。


 それからは、言われるがままに服の作製を命じられ、ただ、ノルマと納期に追い立てられる生活が長い間続きました。当初の目標であった、「自分だけにしか作れない服を仕立て、気に入ってくれた人達に着てもらう」ことなど忘れ、ただ、シノブさん達からぶつけられる心無い言葉に耐えて、何も考えず、裁縫道具を動かす毎日が続きました。


 でも、ほんの七日前くらいに、状況が一変しました。

 アヤセさんとの出会いです。

  

 「あの」アイテムマスターでありながら、草原の強敵、プレーリードッグをあっさりと倒す実力や高い採取能力も素敵でしたが、お金も取り柄も無い、ただの生産職の私に対等な「取引」を持ちかけ、お互いの利益を尊重しようとする考え方に、自然と私は惹かれてしまいました。

 

 あの人は、優しい人です。自身も存在を否定され、辛い目に遭った過去の経験から、同じように苦しんでいる人を放っておけず、他人の気持ちに寄り添える人です。そうでもなければ、珠玉の白パンをトレードしてくれませんし、いくら先行投資とはいえ、十万ルピアをポンと渡さないですし、状態異常「混乱」のせいにして、下着姿で迫った際も、拒絶も軽蔑もせず、二人だけの秘密にした上で、何も無かったことにしてくれないと思います(でも、あの夜はちょっとだけ、私のことを受け入れてくれないかと期待していましたが……)。


 ゲームの時間で僅か七日間程度ですが、何度も何度もアヤセさんに助けて貰いながら、クラン「ビースト・ワイルド」の解散に伴って、私は裁縫師として自立の第一歩を踏み出すことができました。アヤセさんからは、私は、返しても返しきれない恩を受けたのです。


 ただ、恩を感じている人に対して、言うのは気が引けますが、実はアヤセさんに対し、二つほど、気掛かりを感じています。一つ目は、アヤセさんが持っている目標です。


 アヤセさんの目標は、自身を追放した、トップクラン「ブラックローズ・ヴァルキリー」の幹部に対する復讐だそうですが、「生産職を搾取する戦闘職やクラン」に対しても、強い敵愾心を隠そうとしません。それこそ見境なく戦いを挑んでいく様子は、傍らで見ていて、心配という言葉では足りないくらい危うさを感じました。まさか、私のためとはいえ、シノブさん達と戦うとは思いもしませんでしたので、あの人達の死に戻りを掲示板で見たときは、すごくショックを受けました……。


 今回はアヤセさんにとって上手くいったかもしれませんが、今後クランやそれに所属する戦闘職を相手に戦うということは、大勢の基礎レベルの高いプレイヤーと戦うとことになります。それがどんなに危なくて絶望的だということは、私にだって分かります。

 クラン「ビースト・ワイルド」を相手にしていたアヤセさんが、目標のための復讐に突き動かされて、私と話すときには、絶対にならない乱暴な口調になり、時には冷たい薄ら笑いまで浮かべ、クランを追い詰めていくのを見て、とても悲しい気持ちになりました。私に手を差し伸べてくれた優しいアヤセさんは、こんなことをする人ではないはずです。


 恩を受けた私は、アヤセさんが望むことに協力をしたいと思っています。ですが、復讐については、話は別です。私の勝手な思いと言われても構いません。今後も復讐に囚われて欲しくないことを伝えていきたいと思います。


 それで二つ目ですが……。何て言ったらいいのか、アヤセさんの女の人への接し方です。何度も言っていますが、アヤセさんは、優しい人だと思います。ですが、それがたまに度を越すことがあると感じています。運営AI、そう、困っている女の人に特に優しいのではないかということです!


 アヤセさんは、字面にすると、とても恥ずかしくなるようなことを真顔で言います。多分、他の人が同じことを言ったら、周りから言っていることを信用されずに変な目で見られるでしょう。でも、アヤセさんが言うと、その言葉に嘘や偽りが無いのが心で理解でき、言われた当人は、素直に言葉を受け入れてしまうのです。この違いは、はっきりと分かりませんが、少なくとも本人の本気で他人に向き合おうとする誠実な人柄が影響しているのは、間違いないと思います。私自身、アヤセさんの気遣いがとても嬉しく感じられたことが何度もありました。


 問題は、本人には、そのつもりが無くても、周りで聞いていた人によっては、言葉の裏に下心がありそうに聞こえてしまうかもしれないと心配しています。簡単に言えば「キザな女たらし」って思われて、周りから不快に思われないか心配しているということです。

 実際あの時、運営AIをアヤセさんが励ましている様子を見て、何か妙にアヤセさんと彼女(?)との心の距離が近付いている気がして、あの人は、私だけでなく、誰にでもこんな風に接しているのかと疑いを持ち、言葉では説明できない、心が晴れないモヤモヤとした気分になりました。

 どうして、アヤセさんは、周りから信用を落とすかもしれない言動で運営AIに接するのでしょうか? 私一人だけに優しくしてくれたら、逆に誠実で一途な人として評価されるでしょうに……。その軽率さを腹立たしく感じました。いつかアヤセさんが善意につけ込まれて、騙されてしまうかもしれないのに! 何で、他の女の人にまで、そんな優しくして隙を見せるのですか!


 ……自分でも分かっています。二つ目の気掛かりは、私の身勝手な主観でしかないことに。だから、外見上は女性でも、性別があるのか分からない運営AIにすら嫉妬を覚え、アヤセさんが女の人に鼻の下を伸ばしているような言い方で一方的に非難してしまったのです。本当は、周りの人だって、それほど言動に違和感を持たないのかもしれません。私は、自分の嫉妬をアヤセさんの優しさのせいにした嫌な女です。このことは、後でお詫びを絶対にしなければいけません。


 でも、今後、アヤセさんが、私よりも才能がある生産職に惚れ込んでしまったら……、奥手な女騎士の不器用ながらも熱烈なアタックによって情にほだされてしまったら……、元気な後輩の面倒を見ているうちに次第に恋愛感情が育まれてしまったら……、いつも一緒にいるNPCの従僕と主従の絆を深め禁断の恋に陥ったら……、気の置けない同期との友情がいつの間にか愛情に変わってしまったら……、モンスターとの種族を越えた愛に目覚めてしまったら……。そう想像(妄想?)しただけで、作業をしている手も止まり、何も考えられなくなってしまいます。


 ここまで、思いを巡らして確信を持ったことは、私は、アヤセさんのことが好きです。あの人ともっと一緒に同じ時間を過ごしたい。あの人が心の奥底に隠し、一人で抱えている傷を癒せるようになりたい。あの人が求めるのならば、この身を捧げても構わない。そう思っています。


 そうは言っても、当然ですが、アヤセさんが好きになる人は、私には決められません。いつかあの人が、誰か好きな人と結ばれたとき、「取引」のみで繋がれたあの人と私の関係は、どれだけ長く続いていても簡単に崩れ去ることでしょう。


 そうなる前に私ができることは、一つだけあります。それは、アヤセさんにとって、私が特別な存在となること、つまり、私を選んでもらうということです。そのためには、努力を惜しんではいられません。


 運が良いことに、そのチャンスが服のオーダーメイドというかたちで早速やって来ています。

 私の裁縫師としての実力を高く評価してくれたアヤセさんに、これまでの恩返しとこれからも私が、あの人にとってメリットのある存在であるとアピールするために、世界に一つだけしか無い最高の服を作り出してみせます。あの人が喜んでくれるなら、それは、私にとっても幸せです。ちなみに、明日、採寸を行います。明日が待ち遠しくて仕方ありません。

 

 そう言えば、あの時、アヤセさんは何か大事な話があるようでしたが、私が話を遮り、その後は、アヤセさんも何だか怯えたように口数も極端に減ってしまい、うやむやになってしまいました。人の話は最後まで聞かないといけませんね。私を選んでもらうには、こういうところの気遣いが大事でしょうから、今後の反省点として活かし、明日、お話を聞かなかったことへのお詫びをして、続きを聞いてみたいと思います。

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