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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第六章_タマモ召喚!

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116_剣術指南?

 梅雨の合間に覗く晴れ空、湿った小島を駆け抜ける涼やかな風、粘土を積み上げただけの無骨な土塀、そして、火勢に飲み込まれたリザードマン共が上げる断末魔―――。周囲の爽やかな環境を語る上ではどれも欠かせない要素だ。


 「何か最後の方は怖いですぅ~!!!」


 ……ノエルが渾身のツッコミを入れるが、その声は無情にも粘土の壁に吸収された。



 ここは「旧湿地木道」の沼地の小島。

リザードマン狩りによる経験値稼ぎのためここを訪れたアヤセはその目的を達するため、初めに小島に陣取っていたリザードマンの集団を掃討した後、再びフィールドに出現するまでの短い間に必要な「仕掛け」を敷設し、必要な体勢を構築した。

 現在、アヤセの敷設した「仕掛け」は支障なく稼働し、パーティーメンバーのアヤセ、ノエル、マルグリット、アメリー、ルネの五人は苦労せず経験値とドロップアイテムを機械的に獲得している(アイには本人が申告したとおり経験値が配分されていない。また、ドロップアイテムも追加されなかった)。


 「あの、安全にレベルを上げられるのは有難いのですが……」


 アメリーが戸惑いの声を上げる。


 「そ、そ~ですね。でもぉ……」

 「まぁ、発想がアーヤらしいと言えばそうでしょう。ただ、斬新過ぎますが……」


 ノエルとマルグリットもアメリーの意見に同意を示す。三人とも困惑しきりで、話には聞いていたが、実物は想像の斜め上を行き、まさかこれほどとは思っていなかったというのが正直な感想であった。


 「あと、あのアイさんってヒトは誰なんですか~?」

 「さぁ? 私達が小島に到着した際には、既にアヤセさんがパーティーに加入させていましたし、いつの間に合流したのでしょうか?」

 「先ほどお二人は、古いお知り合いと伺いました。アーヤにあの様な方がいるなんて聞いていません……!」

 「それに、ちょっと先輩に馴れ馴れしくないですか~?」


 ノエル、アメリー、マルグリットがうろんな目でアイを見るが、当の本人はそれに気付かず、アヤセと談笑している。彼女はアヤセが作り出した「仕掛け」に興味津々であり、その仕組みを熱心に尋ねていた。

 

 「お見事です! アヤセさん。このような仕掛けを作ってリザードマンと直接戦闘をせずに倒す方法を考え出すとは、運営チームも想像していませんでした!」

 「この辺りは、まとまった量の泥炭や粘土を簡単に採取できますので、何度か戦闘を試すうちに思いついた手です」

 「粘土の壁を渦巻き状に積み上げて、そこにリザードマンを誘き寄せて、両端を塞いで、泥炭に火をつけて延焼ダメージで倒す方法は確実にかつ安全に倒せますね」

 「トカゲは火に弱いですし、壁を破壊する術も有りません。それに何より跳躍ができないので閉じこめてしまえば後は如何ようにも料理できます。少し時間がかかるのが難点ですが」

 「他に何か工夫されたことはありますか?」

 「そうですね……。まず、渦巻き状にしたのも工夫点だと思います。四角形等、角のある物はトカゲが思うように奥に進まなかったので、動線を考慮した結果、このようになりました。それと、後退ができないように、通路をトカゲ一体分が通れる幅にしたことと、渦巻きの長さをリポップまでの間隔等を考慮して構築している点です。まぁ、初めはトカゲの再出現場所に囲いを作ろうかと思ったのですが、さすがに出現場所がランダムで、決まった位置に出てくる訳ではありませんでしたので、この方法は早々に没になりました」


 アイに詳細を説明したように、アヤセが構築した「仕掛け」の全容は、粘土を積み上げた渦巻き状の壁であった。上から見ると蚊取り線香のような形状の壁の中央部にアヤセ達は陣取り、入り口から中央部に至る間の通路を塞ぎ、敵が到着できないようにしてある。


 トカゲがリポップした時点でアヤセが、弾丸が障害物を貫通するポテンシャル「貫通弾」を持つ「フリントロック式ピストル」で壁越しにトカゲを射撃し、その攻撃でターゲットに定めたアヤセ目掛けて仕掛けに一列に並んで殺到するトカゲが全体入り込み、渦巻きの中頃まで進んだ時点で最後方のトカゲの背後を塞いで閉じ込め、地面に敷きつめたポテンシャル「火勢の加勢」を付与した泥炭に引火させ一網打尽にするというものだった(以前、アヤセは一人でトカゲ相手にレベリングを試行したことがあったが(注:32_ラタス到着参照)、その際に考案した技法で、この壁の構築ノウハウは後にジュマ山脈の峠でル=ヴィルパンの雨避けと防風壁を敷設するのに大いに活用された。世の中何が役に立つのか分からないものだ)。


 「兄ちゃん、終わったみたいだぜ」

 「片付いた? それでは泥炭を敷き直してきます」


 アヤセは、通路を塞いでいた粘土をインベントリに回収し、泥炭の再設置のためアイに断りを入れその場を離れる。その様子を彼女は感心したように何度も頷いていた。


 「あー、オイラレベルが最大になっちまった。レベルが上がってもあんま強くならないなー。姉ちゃんはどう?」

 「えっ? そうね、私も10から20になったし、順調に上がっているわ」

 「マルグリットさん凄いですね! 益々強さに磨きがかかりますね!」

 「あ、ありがとうございます。あの、それで、アイ……さん? 貴女はアーヤとお知り合いだと先ほど伺いましたが?」 

 「はい! 私は大陸中で冒険をされている冒険者様のお手伝いをしているのですが、この仕事に就く前に自信を無くしかけたことがありまして、その際にアヤセさんに励ましてもらったことがあるのです。こうして、久しぶりにお会いすることができましたので、嬉しくてしばらく同行をお願いさせていただいたのです」

 「冒険者(プレイヤー)の手伝いってどんなことをしているのですか~?」

 「そうですね、戦闘時にパーティーに加わり一緒に戦うのがメインですが、他にも冒険に有用なヒントをご提供するのも含まれます」

 「へぇ~、それってどんなものなのですかぁ~?」

 「例えば、クエストクリアまでの道筋を案内することです。あと、プレイヤー様個人の取得すべきスキルや適性の高い職業等の御相談を承ることも稀にあります」

 「凄いですねぇ~。本当にアイさんってお助けキャラなんですね~」

 「ありがとうございます、ノエルさん。最も、お助けキャラなのにアヤセさんには助けてもらっていますが」

 「……」

 「あっ、アヤセさん敷設は終わりましたか? お疲れ様です」


 粘土の壁を補修しつつ戻ってきたアヤセをいち早く視認したアイは、労いの言葉をかけつつ駆け寄る。壁を敷設して以降、アヤセはアイに何かと相談を持ちかけて、しきりに話し込んでいる。そのため会話に入れないノエル達は心中少なからず不満を抱えていた。


 「ラタスに帰るまでには、もう七、八回サイクルをこなすことができそうです。アイさんが粘土や泥炭集めを手伝ってくれたお陰でスムーズに事が運んでいます」

 「お役に立てて良かったです! 嬉しいです!」


 アヤセの言葉に、アイは満面の笑顔で頷くのだが、一方、ノエル達はその笑顔を見て眉をひそめた。


 「粘土、拾っておけばよかったですね……。まさかこんなに重要な物だったとは」


 アメリーが悔しそうにぽつりとつぶやく。


 「ホントですよぉ~。アイさんって、準備万端なんですね~。まるで、先輩の専属サポートみたいですぅ」


 アヤセのやろうとしていたことを事前に知らなかったとはいえ、粘土と泥炭を拾っていなかったノエル達はそのことを後悔するが後の祭りである。


 「まぁ、しかしこれだけの回数をこなすとなると、待ち時間が長くなりますから考えものです」


 アヤセはアイに改善点を述べる。

 実際、トカゲが燃えるのを待っているだけの簡単なお仕事ではあるが、それまで時間が空くのは事実であり、その間の時間の使い方が悩みどころなのは本人の言う通りなのかもしれない。


 「今は自分が錬金で衛兵隊に卸す回復薬を作り、ノエルは風魔法の熟練度上げを目的に魔法の空打ち、マルグリットさんは召喚獣の長時間召喚で親密度と熟練度上げをしていますが、アメリーさんやルネ少年は時間を持て余しているのではないでしょうか」

 「私はアヤセさんのお手伝いができればそれで構いません」

 「ズカンの整理も終わったけど、オイラはアンタレスとチャコとボールで遊ぶからそれでいいよ」

 「二人がそれで良いのでしたら構いませんが、アイさんも手持ち無沙汰ですよね?」


 今まで相談という名目で会話を交わしていたのも、アイを退屈させないためのアヤセなりの気遣いであったのだが、午後も午前よりも更に長い時間このような状態が続くことが目に見えていたため、アイに不便が無いか尋ねる。


 「アヤセさんとお話しできることは、非常に有意義に感じています。でも、そういうことでしたら一つお言葉に甘えさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 「ええ、勿論です。何か御希望がありましたら仰ってください」

 「ありがとうございます。それでは……」


 アイはそう言いながら目を落とす。彼女が目を向けたのは、彼女が帯刀している刀であった。


 「私のメインウエポンは、日本刀です。戦闘時は剣戦士として最前線でアタッカーの役割を担うことが求められます」

 「なるほど。見た目から想像ができますね」

 「それで、ゆくゆくは、侍かソードマスターにクラスチェンジする計画なのですが、少々支障が生じていまして……」

 「支障とは?」

 「実は、刀を扱う際に動作エラーが出てしまうのです。アヤセさんでしたら『刀が馴染まない』等と言われるでしょうか。そのために戦闘で満足な貢献ができずにいるのです」

 「それは難儀ですね。しかしこう言っては何ですが、AIでしたらウェブ上に有る武道の動画や資料等で学習できるのではないでしょうか?」

 「それはそうなのですが……。実際の体の動かし方とか色々試していますが、どうしても分からないのです」


 アイは恥ずかしそうに顔を赤らめ視線を逸らす。一方アヤセは、アイの表情の多彩さに感心しながら彼女が抱えている苦労について考えを巡らせる。


 (AIの学習能力や限界がどの程度か分からないが、一介のプレイヤーに打ち明けなければならないほど、本人は真剣に悩んでいるのだろう。自分も「見取り稽古で技を盗め」と言われたことがあるが、実際はそんな簡単にできるものではないのは、経験上理解できる)

 

 「私が日本刀を選んだ理由なのですが、アヤセさんの戦い方に憧れたからなのです。今までアヤセさんの戦闘ログを何度も見直してきました。その度に強敵に立ち向かい、最後まで諦めず、機転を利かせて勝利をおさめてきたお姿は正にヒーローと言えるものです」


 顔をアヤセに振り向けたアイは真剣な顔で熱っぽく語り出す。


 「ヒーロー!? 余りに大げさでは?」

 「いいえ、そんなことはありませんっ! アヤセさんの原動力は腰に差している『無銘の刀+』です。その象徴とも言える刀の扱い方をアヤセさんから学びたいのです。実を言うと今回こうしてアヤセさんのもとを訪れたのも、それをお願いするのが目的の一つでした。……お願いします! 是非私にアヤセさんの剣術を学ばせてくださいっ!」

 

 腰を直角に曲げ、アイは頭を下げる。その熱意にノエル達も黙って成り行きを見守っている。


 「しかし、自分も修行中の身ですから、教えられるほどの技術は持ち合わせていません」

 「いいえ、どんな小さなことでも構いません。アヤセさんから吸収できることは必ずあるはずです!」

 「……」


 (随分と熱心だな。まぁ、自分も学生時代に後輩の指導をした経験もあるし、一般的な刀法くらいは伝えることはできるかな)


 一度は指南の依頼を断ろうと思ったアヤセであるが、アイの熱意も汲み取り、考えを改めた。


 「分かりました。基礎的な話でよろしければ御依頼をお受けします」

 「ありがとうございます! 頑張りますのでご指導、よろしくお願いいたします!」


 アヤセが受諾したことにアイは満面の笑顔を見せ、再度頭を深く下げるのだった。



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