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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第六章_タマモ召喚!

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115_アイ

 日の出とともにラタスを出立したアヤセ達は、ラタスの南に広がる湿原地帯を歩き、おおよそ二時間かけ「旧湿地木道」の沼地の小島にたどり着く。小島には、以前アヤセが戦闘を繰り広げたリザードマン達が相変わらずたむろしており、対岸に現れた一行を警戒してギャアギャアと甲高い鳴き声を上げている。好戦的な姿勢を見せてはいたが、前回と変わらず向こうから仕掛けることはできないようだ。


 「ここはまだクランの狩場になっていない。それに、待ち伏せしているPKの反応も無い。……良かった、これなら稼げる」


 刀の目釘を確かめつつ、アヤセはケピ帽のポテンシャルによる検知と、チーちゃんの偵察の結果を皆に伝える。小島を狩場として占拠しているクランや、経験値稼ぎでやってきたプレイヤー狙いのPKがいる可能性をあらかじめ伝えられ、油断をしないよう言い渡されていた他のメンバー達は緊張を幾分緩める。


 「だが、念のため警戒は続けた方が良いだろう。ノエルは、引き続きここで周囲の見張りを頼む。チーちゃんも残す」

 「先輩、ノエルも一緒に行きたいです~」

 「いえ、アーヤの背中は私と召喚獣が守ります。だから私をお連れください」

 「わ、私も衛兵の端くれです。アヤセさんの盾となり、戦う覚悟はあります!」

 「三人ともありがとうございます。ですが、敵の動きをコントロールするには、一人で動いた方が都合が良いのです。すぐに終わりますから、ここでお待ちください」

 「皆さ、ここは兄ちゃんに任せた方がいいぜ」

 「……」

 「……」

 「……」

 

 ルネの取り成しで、競うように同行を申し出たノエル、マルグリット、アメリーは、それ以上何も言わず黙り込む。無言の送り出しを受けたアヤセは、古びた木道の上を歩き小島へと足を踏み入れるのだった。


 =個人アナウンス=

 特別エリアに侵入。エリア内からの離脱ができません。


 戦闘態勢をとるリザードマン達。剣、槍、斧の近接組が九体、弓組が三体、魔法使い・プリースト組三体による三体一組の十五体五組編成は前回と変わりは無い。敵のレベルは30から35程度。目の前のトカゲ達は、王国で活動する一般的なプレイヤーが対峙した場合、苦戦必至の強敵に分類される。


 (だが、自分も自分で今までの経験を通して成長を重ねてきたつもりだ。稼ぎのための「下準備」もあるから、手早く終わらせてもらうぞ!)

 

 半円を描くように侵入者の包囲体勢を敷こうとする近接組三組のうち、アヤセは真ん中の組目掛け鯉口を切り、速攻を仕掛ける。


 (トカゲにはつけ入る弱点とも言うべき特性がある。一つ目はフェイントに弱いことだ)


 真ん中の組に接敵する直前で、アヤセは直角に曲がり、右端の組へ攻撃目標を変える。見立て通り敵は、急な方向転換に対応できず、少なくない時間棒立ちになる。アヤセはその間隙を衝き無銘の刀を鞘から疾らせた!


 抜き付けで一体、返しの横切りで一体、諸手突きで一体と、息つく暇も無く葬る。戦闘開始からここまで十秒も経っていない。

 あっという間に一組消滅した近接組であるが、残りの二組は士気衰えず数の有利を頼りにアヤセに襲いかかろうとする。だがアヤセは、六体が横に広がった瞬間を見逃さなかった。


 (特性その二、トカゲは跳躍できない!)


 鎖鉄球が巻き付いたプリスの片袖が振り抜かれ、重い音を後ろに残し、近接組の脚部を一体残らず薙ぎ払う! トカゲは、敵の動きに素早く対応し、後ろに飛び退き、後の先を取ることができる脚力がありながら、何故か上に跳び上がる力は無いに等しく、自身の膝上の高さまでも跳ぶことができない。膝下あたりの、跳ぶか退くか判断に迷う絶妙な位置を狙った一薙ぎで、トカゲ達は足に深刻なダメージを受け全体地面に這いつくばり、歩行不能になる。間髪入れずこれらを片付けるため、インベントリから火炎瓶を放出し、焼き払った。


 業火を瞳に映したアヤセの横顔目掛け、複数本の矢が放たれる。アヤセはその矢の飛来を予測しており、すかさず積み上げた粘土でそれを防ぐ。矢が粘土に刺さるのと同時に、刀を素早く納刀して、インベントリから取り出した「黒雨の長弓」を構えて粘土の壁から飛び出した。


 =個人アナウンス=

 スキル【連撃速射】を発動。


 弓組三体のうち、狙いをつけたスキル【連撃速射】は、上手くコントロールされ、一体目掛けて矢が集中する。仲間がテクスチャを散りばめ消失する様を見つつ、残りの二体は散開して機を窺おうとするが、アヤセはこの機を逃さず、鎖鉄球を巻き付けた袖とは別のもう一本の袖で焙烙玉を投擲し、自身から離れた場所にいた一体を爆散させる。更に、爆発の衝撃から立ち直れない最後の一体に素早く接近し、真上からの抜き打ちで頭部を叩き斬って仕留めた。


 ここまでかかった時間はおおよそ三分。

 残りは無力に等しい魔法使い・プリースト組を残すのみ。前回よりも時間は大幅に短縮されている。アヤセは、自らの技量の向上に手応えを感じつつ、残敵掃討に取り掛かるのだった。


 ========== 

 

 トカゲのせん滅が済み、アヤセは小島に移動するようノエル達に合図を送る。そして自身はその到着を待つことになったが、トカゲのリポップまでの僅かな時間内にやらなければならないことが山積しているので、時間は無駄にしない方がいいだろう。そのような事を考えながら作業に着手しようとした矢先、突然目の前に一人の女性が出現した。


 「こんにちは、冒険者さん! 私はアイ。皆様の冒険をお助けする旅の戦士です!」

 

 アイと名乗るNPCの女性は急所部や肘と足に限定してアーマーを装着し、反りのある日本刀を腰のベルトに帯びている。見た目は、シーフヤハンター等の軽装備系の冒険者といったいで立ちだ。また、髪色に合わせたのか装備品のアクセントにパステルカラーのピンクを用いている点が特徴的だった。

 

 (見たところ敵性NPCでは無さそうだが、登場の仕方が不自然だし、油断はしない方がいいな)


 アヤセは、目の前に出現したアイが接触を図ってきた真意が分からず心中警戒をするが、目の前の若い女性はにこやかに笑顔を見せ、親しげに話しかけてくる。


 「あの、私のこと、お分かりになりますか?」

 「失礼ですが、自分は貴女とどこかでお会いしたことがありますか?」

 「ふふっ、アヤセ様とは二人きりで何度かお会いしたこともございます。……この格好では分かりにくいでしょうか?」

 「……」

  

 自身のことを「アヤセ様」と呼び、髪色がパステルカラーのピンクで、服飾品にも同じ色を好んで使う、アヤセが知る者は一人しかいない。


 「運営AI!?」

 「はいっ! さすがはアヤセ様です。お気付きくださいまして本当に嬉しいです!」

 「お会いするときはいつも事務所のような場所でしたし、服装も違いましたからすぐに気付きませんでした」

 「先日のアップデートにおいて、実装されたお助けプレイ専門のNPCを務めることになりました。プレイヤー間のトラブル防止や、ゲームのプレイ環境の調査を行うため、こうしてNPCに扮装して様々な場所に赴くようにしているのです。『見回り』という表現が合っているかもしれません」

 「『AI』だからAI(アイ)というネーミングなのでしょうか? それにしても、なかなか多忙そうな役割ですね」

 「実は、本体のAIの私が直にフィールドに出ている訳では無く、分身体のようなものがこうしてお話をさせていただいています。今、同時に大陸各所には四十人の『アイ』が稼働して動向を見守っているのです。言わば、クラウド上のAIが複数の端末で同時に活動しているようなものでしょうか」

 「AIの分身体? 正直分かるような、分からないような……」

 「アヤセ様の目の前にいる『アイ』は、私であって私では無い、それでいて私の思考体の一部を形成しているような存在です」

 「益々難解ですね……。自分にはさっぱりですが、とにかく貴女と一緒にゲームを楽しめるのは良い試みだと思います」

 「本当ですか? 皆様がゲームの世界により親しんでいただけるよう、精一杯『アイ』を演じさせていただきます。これからよろしくお願いいたします」


 運営AIことアイはにっこりと笑いお辞儀をする。プレイヤー同様、アイ自身もフィールドや街等で多くの出会いと発見を得ているのであろう。出会うたびに人間らしさに深みが増しているようにアヤセは感じた。


 「こちらこそよろしくお願いします。それで、今回は自分に何か用があっていらしたのではないでしょうか? 現れ方から自分が一人になるタイミングを見計らっていたような気がしたのですが」

 「……。やはりアヤセ様には、いつもこちらの意図を見破られてしまいますね」


 アイの表情は真剣なものに変わる。最も、アヤセ自身は、先日のシアンとナーカとチャットをした際に知らされた内容から、彼女が直に会いに来た理由に見当がついていた。


 おもむろにアイは指をパチンと鳴らす。すると湿原地帯をさざめいている草木や飛んでいる鳥の動きが目に見えて鈍くなった。


 「一時的に私とアヤセ様の時間の経過速度を早めさせていただきました。申し訳ありませんがログアウト時に少し怠さを感じるかもしれませんが、大きな副作用は有りませんのでご安心ください」

 「まぁ、それは構いませんが、この後のことも有りますので、お話は手短かにお願いします」

 「はい、かしこまりました。お尋ねしたいことは、あるプレイヤーの不正行為に関する事情聴取です。アヤセ様はエスメラルダとルクレツィアというプレイヤーをご存知でしょうか」

 「勿論です。最近やたらと関わる機会が多くて、その度に見苦しい行いを間近に見てきました。自分も連中による、自分のフレンドに対するハラスメント行為に関して、運営に申し出るタイミングを計っているところでした」

 「アヤセ様もそのようにお考えでしたか……。今回の告発は、二人の『リアルマネートレード』行為に関するものです。最も、彼女らはゲーム内のアイテム売買ではなく、パーティーメンバーを募る際に現金を用いた行為を告発されています。アヤセ様は、エスメラルダ達のパーティーに関してそのようなことを見聞きしたことはありますか?」

 「実際に現金が飛び交っていたことは知りません。ただ、トロワーヌ公国からドゥ=パラース公国に移った僅かな期間で、それなりの実力のある複数人のパーティーメンバーを集めたことに疑問を感じていました。確か男性プレイヤーが五、六人いたかと思います」

「買収したプレイヤーは六人です。一人当たり三十万円程度支払っていたようです」

 「六人だと、百八十万円ですか。結構な大金が動いていますね」

 「はい、そのため運営もこの事態を重く見ています。今後もこのような、現金が万能の解決方法となりますと、ゲームの環境は瞬く間に悪化して、健全な運営が不可能になってしまいます」

 「……」

 

 (エスメラルダとルクレツィアはノエルと同い年だから二十歳か。二十歳の人間が百八十万円もの大金をそう簡単に用意できるのか?)


 最も、エスメラルダの実家の財力をもってすれば、用意できない金額では無いかもしれない。だが、ゲームの世界でここまで執着するものだろうか?


 「今まで、告発者や関係者に事情聴取を行いましたところ、パーティーメンバーのうち二人が買収された事実を認めました」

 「そこまで分かっているのでしたら、二人に罰則を与えることはできるのではないでしょうか? 自分にまで事情聴取する必要は無いと思います」

 「それがそうはいかないのです。彼女達は少々扱いが難しい立場にありまして……」

 「親の会社が運営会社に出資しているから、処分の言い渡しに慎重になっている、と言ったところでしょうか?」

 「ご存知なのですか!?」

 「二人の『実家』のことはノエル達から聞いていましたし、それぞれの会社のホームページで取引先企業やIR情報を見比べれば推察ができます。エスメラルダの親の会社はAI分野で一山当てることを目論んで、ゲームの世界でAIの発展に成果を上げている御社の技術に目をつけて随分投資をしているようですね。気を使わなければならない相手であることは想像がつきます」

 「……はい、仰る通りです。運営としては、処分の内容に不満を持たれてスポンサーの不興を買うのは避けたいですし、だからと言って、野放しにしていると事実が明るみに出た際にゲームの信用が揺るぎ、取り返しのつかないユーザー離れに繋がる恐れもあるのです。現在運営は深刻なジレンマを抱えています」

 「運営の御苦労は心中お察しします。ですが、ゲームは何のために存在しているのか運営が正しい認識を持っていれば、粛々とエスメラルダ達をブラックリスト入りさせるはずです」


 一方、心の中では、「言うは易く行うは難し」とアヤセは感じている。組織は過ちを犯しやすい。主に決断する者達の保身や過信のせいで正しい判断が下せない場合がある。現実世界において自身も組織の歯車の一つであるアヤセは、それを痛感する場面に出くわし、同時にほぞを嚙んだことが幾度かあることから運営の苦労も想像できた。


 「運営チームの中にも、行動に移すべきと考える者達もいます。よって私も事実関係の掌握に努め、来るべき場面に備えて準備をしているところです」

 「運営の中に良心を持った者がいることは大きな力になるでしょう。期待をしています。自分もエスメラルダとルクレツィアに大きな因縁を持っています。自分も自分なりにゲームの世界において、近いうちに二人と決着をつけるつもりです」

 「このゲームを楽しんでいらっしゃるアヤセ様の貴重な御意見は、今後の参考とさせていただきます」


 自身が意見を言った際に、返ってくるいつもの台詞を運営AIが述べる。しかし、今までのようなクレームに対する無機質なテンプレート的な応答とは異なり、幾分熱がこもっているように感じたのは気のせいでは無いだろう。


 「なお、今後ですが、ホレイショ様やノエル様にもお話を聞かせていただく予定です」

 「そうですか。ホレイショとノエルに事情を聞く際は、できれば今回のようなプレイ中に時間の流れを変えるような方式では無く、ログイン時の事務所内での聴取が良いと思います。自分としてはその方がプレイヤーにとって都合が良いと思いましたので」

 「畏まりました。検討させていただきます」


 運営AIはそう言いながら深々と頭を下げた。


 「それでは、聴取は以上といたします。貴重なお時間をいただき誠にありがとうございます。以降は、引き続き当ゲームをお楽しみください」

 「いえ、自分の話が何か参考になれば幸いです。ところでアイさんは、この後どうされるおつもりですか?」

 「それなのですが……、折り入ってアヤセ様にお願いがございます」

 「その内容を伺っても?」 

 「はい、実はこの後少しだけアヤセ様のパーティーに加入させていただけないでしょうか? パーティーに加入しても私の分の経験値は分配されませんので御迷惑はおかけしません」

 「自分達のパーティーに? 何故ですか?」

 「端的に言うとプレイヤーの皆様のニーズの把握方法やコミュニケーションの取り方のノウハウデータが欲しいのです。『アイ』としての活動はまだまだ新人ですので……」


 頬を染め、視線を逸らしながらアイはアヤセに願い出る。

そして、断る理由も無いアヤセはその勉強熱心さに感心して応諾した。


 「ええ、構いません。最もこれから自分達がここで行うことは大した動きを伴うものでは無いので、アイさんが期待するような成果を得られないかもしれませんが」

 「いいえ、そのようなことはありません! アヤセ様から学ぶべきものは多く有ると思っていますので、同行を許可していただいたのは大変ありがたいと思っています」

 「ただし条件があります」

 「はい、条件を伺ってもよろしいでしょうか?」

 「パーティーに加入している際は、自分の呼び方を今のものから変えてください。『アヤセ様』という呼び方は周囲に誤解を招くかもしれませんし、聞く人が聞けば運営AIを連想させてしまうかもしれません」


 アヤセの提示された条件を理由付きで示されたアイであるが、二つ返事で回答する。


 「条件承知いたしました。アヤセさん。以後、よろしくお願いします」


 そう言いながら、アイは再びにっこりと笑顔を見せたのだった。



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