113_ドゥ=パラース始末記
〇フレンドチャット
ナーカ:アヤセさんお疲れさまです! いまちょっといいですか??
アヤセ:ナーカさんお疲れ様です。構いません
ナーカ:ドゥ=パラースでは本当にありがとうございました!! あの後私達はすぐに解放されたのですが、エスメラルダさん達はまだ出てきません(苦笑のスタンプ)
アヤセ:そうですか
ナーカ:報告ですが、私達がアヤセさん達と一緒に行動していたことが気に入らなかったみたいで、パーティーから外されました。あと、現実世界でももう話しかけるなって言われました。就職の内定も取り消しです!
アヤセ:それは何というか……。しかし、こう言っては何ですが決着が早々について良かったかもしれません。「次」に進む準備に取り掛かれるでしょうから
ナーカ:はいっ! 私もシアンさんもパパやママと今後のことをいっぱい話しました。何で今まで話してこなかったのだろうと不思議に思っています
アヤセ:もしかしたら、それが「当たり前」という前提が大きく有ったからではないかと思います。ちなみに、エスメラルダとルクレツィアから嫌がらせを受けないか心配です。現実世界で早速実害を被っていませんか?
ナーカ:今のところは大丈夫です。ルクレツィアさんはともかく、エスメラルダさんは飽きっぽいので次の「お友達」を探すのに夢中のようです(苦笑のスタンプ)
アヤセ:人を物としか見ていないエスメラルダの性根は一生治ることはありません
ナーカ:それで私達は、今後王国の南の方を見ながら、王都に戻ります。王都ではアヤセさんに会えるでしょうか??
アヤセ:勿論です。ラタスに寄ってから王都の帰るつもりですので、少し時間が空きますがお会いする機会はあると思います
ナーカ:わぁ~、ホントですか(嬉しいのスタンプ)楽しみです~
「ちょっとナーカさん、何会う約束を取り付けようとしているのよ!? 大事なことを早く言わないと!」
「で、でも、言い出せなくて。あと、会う約束をしてから……」
「あー、もうっ!」
〇フレンドチャット
シアンさんがチャットに参加しました。
シアン:アヤセさんお疲れ様です。すみません。私も参加させてください(手を合わせて謝るスタンプ)
アヤセ:シアンさんお疲れ様です
シアン:まずは、私からもお礼を言わせてください。ありがとうございます。アヤセさんと出会えなかったら、今後もあの二人の取り巻きとして生きていくことになったと思います。詳しい進路の話は後日、ホレイショさんにも一緒に聞いてもらいたいと思います
アヤセ:了解いたしました。ホレイショも心配していましたし、その後のことを是非聞かせてください
シアン:それで、大変言いにくいのですが、ドゥ=パラースで飛竜のおばちゃんから貰った「飛竜の鱗」を私とナーカさんの分三十枚全てをルクレツィアさんに渡してしまいました。本当に申し訳ございません!
アヤセ:鱗は「手切れ金」として要求されたのですか?
シアン:はい、そうです
アヤセ:エスメラルダもあの場で「鱗を手に入る算段がある」と言っていましたし、簡単に入手をするのでしたらお二人から取り上げるのが一番手っ取り早いですからね。実を言うと、そのような事態になることは想定していました
ナーカ:えっ!? 分かっていて私達に受け取らせてくれたのですか?
アヤセ:鱗はエスメラルダの気を引くのにうってつけですから、恰好の取引材料になります。それにお二人には報酬を受け取る権利があります
シアン:私達のパーティー脱退の布石を打っていただいていたのですね。やっぱりアヤセさんは凄いです(敬礼のスタンプ)
アヤセ:その場しのぎの思いつきです
ナーカ:でも、燕の巣も持っていますし、エスメラルダさん達はアヤセさんのおかげで目標を達成しようとしているんですよね? アヤセさんはそれで大丈夫なんですか?
アヤセ:やはり、エスメラルダの目的は「契約の器+」の強化でしたか。まぁ、燕の巣と飛竜の鱗だけでは条件をクリアできませんので、それほど心配はしていません
シアン:そう言えばアヤセさんは、アンボワーズ公国には行かないのですか? 確かあそこにも必要アイテムがあると聞きましたが……?
アヤセ:あの国で手に入るアイテムは既に入手済みなので、今回はパスして次の目的地のラタスに向かいます
シアン:そうなりますと、エスメラルダさん達は、アンボワーズ公国でアヤセさんと会う可能性はゼロになるのですね。これだと必要アイテムの入手はできないかもしれませんね
アヤセ:残された時間も限られていますし、更に拘留中のようですから、この後アンボワーズで入手に着手しても間に合わないかもしれません
ナーカ:タイムリミットがあるなら、なおさら厳しそうです。運営の調査もあるかもって話ですし
アヤセ:運営の調査でしょうか?
シアン:ナーカさん! 済みません、実は私達が、エスメラルダさん達の不正を申告して、運営がその調査をするかもしれないっていう話なのですが、調査の機密を守る関係で他の人に言ってはいけない決まりなのです。だから今言ったことは内緒にしてください!
アヤセ:デリケートな問題ですね。分かりました。他言しません
ナーカ:ごめんなさい(汗)じゃあ、そろそろ私達もログアウトします。時間ができたらまた皆さんでクエストをしましょう。それではまた~(バイバイのスタンプ)
シアン:それでは失礼します。お休みなさい(月のスタンプ)
アヤセ:チャットありがとうございます。王都に戻ったら連絡します。王国の南側はまだ全容が分かっていないダンジョンやオブジェクトがあると聞きますから、何か発見がありましたら話を聞かせてください。それではお休みなさいませ
アヤセとのチャットを終えたシアンとナーカは、それぞれの画面を閉じた。
「アヤセさんとまた会えそうで良かった~。今から楽しみ~」
「ちょっと、ナーカさん! 最後の調査の話は結構ヤバかったよ! これで調査が中止になったら、私達だけでなくアヤセさんに迷惑がかかるわ!」
「ご、ごめんなさぁ~い」
「まぁ、アヤセさんなら誰にも言わないと思うけど」
ぶつぶつ小言を漏らしながらシアンは眼鏡を外し、曇りを取るため布で拭き始める。この動作をするときは何か考えを整理しているときだ。中学時代から付き合いがあるナーカはこれが始まるとしばらくかかるのを承知していたので、その間はテーブルの上に置かれたローズマリーティーを冷めないうちに味わうことにした。
「志村杏だからシアン、波村果奈だからナーカ、ノエルさんは野上恵瑠……。ゲームのプレイヤー名だけですら、命じられるくらい私達は支配されていたのに、そこから随分話が進んだよね」
「そうだね。自分達だけ『エスメラルダ』とか『ルクレツィア』なんて素敵な名前をつけて目立とうとして、私達はいかに変なところにいたんだなって思っちゃった。それがこんなに変わるなんてアヤセさんやホレイショさんのお陰だね!」
「特にアヤセさんね。ゲームをプレイしているだけなのに、それが現実世界に及ぶような駆け引きまで考えて動いているのはさすがとしか言いようがないわね。ノエルさんが好きになるのも分かる気がしたわ」
「そうだね! でもそれはノエルさんだけじゃ無いかも……。もっとアヤセさんと色々冒険してみたいなー!」
「きっと、クエストに挑戦するたび新しい発見や出会いがあるかもね。でも……」
シアンとナーカはそこまで会話を交わすと二人して憂いのため息をつく。
「でも、ね、……中退の手続きは終わった?」
「うん、今月末までの在籍よ」
「そうなの……」
「今後のことを考えると短大に在籍している意味は無いもの。これから受験の準備を始めないといけないから。あと、家に負担をかけないためにもバイトもやらないと。ナーカさんは、転部だっけ?」
「うん、来年四月から保育科に。あの二人は卒業しちゃうから同じ学校でもいいかなって。医療関係への道、諦めていなかったんだね」
「理学療法士を目指して四大、できれば国公立に行きたくて短大に進んだ後も少しずつ勉強していたのが役に立ったわ。でも受験は中学以来だから勘を取り戻すのが大変ね」
「校内テストで高等部入学組よりも順位が高かったシアンさんなら大丈夫だよ!」
「ありがとう。確かに偏差値六十六の高等部からの外部入学組にも引けを取らない自信はあった……。でも、ノエルさんより上の順位になることは一回も無かったけど」
「そう考えるとノエルさんってやっぱり頭いいんだー。四大編入だって余裕かもね」
「ノエルさんがアヤセさんと出会ったのがきっかけで、私達もアヤセさんと出会えた。さっきも言ったけど、状況が目まぐるしい速さで変化して人の縁の不思議さを感じたわ」
「うちは、パパが来年定年で、再就職もしないし、もう会社と関わらなくなるから都合が良かったけど」
「ナーカさんが羨ましい。うちは、入り婿の父さんは昔からエスメラルダさんの家との関わりを嫌がっていたのを私のために我慢してくれていたから、私の考えを認めてくれたけど、代々創業家に仕えていることを誇りに感じている母さんの方が頭が固くて中々認めないのよ。今でも家では口もきいて無いし。まぁ、もう決めたことだから何を言われても構わないけど」
シアンもナーカに倣い、ハーブティーに口をつけ一息つく。その間、しばしの沈黙が流れる。元々、アヤセとのチャットが終わったら直ぐにログアウトができるよう、前もって借りていた部屋の中は、現在ローズマリーの香りで満ちており、緊張を和らげるのに一役買っていた。
「初めは、アヤセさんのことが嫌いだったな……」
おもむろにつぶやいたナーカの独白に、丁度空になったカップに再びハーブティーを注ぎ直したナーカも同意する。
「あ、それ分かる! 何か理屈っぽくて、人間味が無い感じがして、『うわ、この人苦手!』って最初思っちゃった」
「それがどうして、ノエルさんや私達のような人間のことまで考えてくれたり、エスメラルダさん達のやり方に怒ったりして、本当に不可解な人ね。私達はあの人の言葉でこんなに変われたのだから」
ふぅーとシアンは息を吐き出す。そして、感慨深げに続きを語る。
「……エスメラルダさんとルクレツィアさんは、あらゆる面で絶対あの人に勝てない。きっと負けを認めるときがくる。そのときこそ自分達のやってきたことに向き合わされる瞬間になる」
「……」
「最も、向き合わないといけないのは私達も同じだけどね。今まで二人に従って多くの人達に迷惑をかけてきたのだから」
「……そうだね」
「私達のように困っている人がいれば手を貸す。助けを求めていたら私達のできる限り手助けをする……。あの人のように。それが私達の罪滅ぼしになると思う」
シアンの言葉にナーカも深く頷き同意を示した。
「勉強やバイトも有るけど、またこのゲームに戻って来たいな」
「そうね。息抜きにプレイしてもバチは当たらないと思う。まぁでも、今日はログアウトかしらね」
今までの自分達は間違っていた。だからこそ、これからは正しくありたい。誰かの痛みに気付き、手を差し伸べる。それが償いであり、誇りになるのだから……。シアンとナーカはそう思い、決意を新たにするのだった。
―――こうして、ドゥ=パラースでの一件は「始末」がついた。だが、物語はこれで終わらない。次に待つのは真の決着、アヤセとエスメラルダ達の最終対決が残されていた。




