表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第六章_タマモ召喚!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/116

112_百足坑道⑦

 竜の女王ことシクリッドによる通称「飛竜(ドラゴン・)超特急便(エクスプレス)」は、つい先ほどにジュマ山脈の最高点を通過し、一路ドゥ=パラースへ向けて空路を飛行している。当人が言うには目的地までの所要時間は一時間ほどらしい。長い時間をかけ、苦労の末に山脈を越える大冒険を繰り広げてきた身としては、ほんの僅かな時間でドゥ=パラースに帰還できることにいささか複雑な感情を持ってしまうは仕方がないかもしれない。


 シクリッドの手足によってしっかり固定されたゴンドラは揺れることもないし、高速高度の飛行による、風の抵抗や気温の低下も一切感じさせない。「飛竜超特急便」は現実世界においても匹敵するものが無いくらい快適な乗り物だ。


 「本来こんな高度で飛んでいたら、凍える程度でも済まないでしょうね。やっぱり風魔法の影響でしょうか?」


 シアンの分析にホレイショが見解を重ねる。


 「多分な。これほどだから竜の女王は水魔法だけでなく、風魔法も強力なものを扱えると見た方がいいかもだぜ」

 「ステキな景色ですねぇ。何だかカンドー的ですぅ~!」

 「ノエルさんが言う通り、空から見る大陸を初めて見れて私も感動しましたっ!」

 

 他の者達が高揚した気分で会話を弾ませる中、アヤセは一人ゴンドラの外に目をやる。

 確かに見渡せる範囲は広域であり、大陸の広大さを改めて実感させられる光景であるものの、これだけの高度をもってしてもアヤセが見たいと思っている場所を捉えることはできなかった。


 (ドミニクさんが言っていた『百足坑道一の宝物』とは回収した宝箱のことだろうから、『飛竜の鱗』はこの後、確実に手に入るだろう。ただ、自分達の目的は達成できるがシクリッドさんが抱える問題は、何も変わらすこの後も続くことになる)


 アヤセが思う通り、シクリッドは今後も変わらず自らの召喚と引き換えに、魔力供給の据え置き永久機関と化してしまったル=ヴィルパンの恢復に奔走するだろう。ル=ヴィルパンが元に戻る方法は明確に示されていないが、先ほどの紙芝居で述べられていたとおり、大陸南部のどこかにある魔力源に召喚獣の思念を収めて、召喚主と召喚獣を分離化させることにより実現する可能性が高い。最も、彼女自身は行動範囲が限られ、自らが現地に赴くことができないから、そうなるとドミニクや他の者達に自らの思念を預けざるを得なくなる。現在、魔力源はワールドマップ上に表示が無く、ここを目指すことは実質上、大陸南部の未開部の開放、つまり「攻略」を意味していた。


 (ジュマ山脈を越える道は南部攻略の新ルートとして今後知られることになるだろう。そして、シクリッドさんの目的と大陸南部の未開放部の開放は密接にリンクしている。手助けしたければ、攻略勢と同等の実力を備える必要があるということだ)


 アヤセは、ゴンドラの縁に載せていた手に目を落とす。


 (大陸開放の難易度は、トップクラン『ブラックローズ・ヴァルキリー』ですら苦戦するくらい高くて、低レベル、ソロプレイヤーの自分が気軽に参入できるものでは無い。……シクリッドさんの力になりたいのはやまやまだが、自分が何かをするにしてもあまり役に立てないだろう。そう考えると『飛竜の鱗』を獲得しても手放しに喜べないな)

 

 これからも、ル=ヴィルパンの側で憂鬱な想いを抱えて過ごすシクリッドのことを考えると、何か手助けをできないかと考えるが、その実力が不足していることを思い知らされ、アヤセは無念に感じる。


 (最も、自分達以外にも力になれそうなプレイヤーが案外すぐに現れるかもしれない。まぁ、悩んでも仕方が無いことだから、今自分ができることをするとしよう)


 「モルタルが欲しいな」


 アヤセの台詞は、峠で雨風に晒されるル=ヴィルパンの姿を脳裏に浮かべてのことだったのだが、他の者はアヤセがそのようなことを考えているとは勿論理解できず、彼が唐突に脈絡の無いことを言い出したように感じて当惑の色を見せた。


 「先輩ったら、何を言っているんですかぁ?」

 「あっ……、済まない。思わす独り言が漏れてしまったようだ」

 「いや、それはいいが、お前さんが言っていたのは建材のモルタルか? ドゥ=パラースは鉱山都市だから、そこいらで売っていると思うが入り用なのか?」

 「そろそろ、ドゥ=パラースに着くわよ。あまり近くに降りると街がめちゃくちゃになるから、少し離れた場所にするわね」

 「おっと、到着か。モルタルの話は後で聞かせてくれよな」


 当初の予定通り、ドゥ=パラースには一時間程度の空旅だった。シクリッドがあらかじめ伝えていたとおり、ゴンドラはドゥ=パラース近くの街道脇の草地に下ろされ、アヤセ達が地面に降り立った際には、既にシクリッドは人型に姿を変え、準備を整えていた。

 その後は徒歩で移動し、程なくしてドゥ=パラースに到着する。城外に着地したとはいえ、巨大な古代竜の飛来は城壁内にいる住民達にも十分に視認ができたようで、門衛隊長が部下を全員引き連れ、城門前で来着を待ち受けていた。


 「シクリッド様! ようこそお越しくださいました」

 「ごきげんよう、隊長。ドミニクに会いに来たのだけれども、いつものところかしら?」

 「左様でございます。例の如く広場で冒険者の挑戦を受け付けているはずです」

 「そう。それじゃ、広場に行ってみるわ。ありがとう隊長」

 「もし、お時間がございましたら、ドゥ=パラース公にもお会いくださいませ」

 「そうね、考えておくわ」


 どこの街もそうだが、警備上の理由から城門の通行にはそれなりの手続きを要するものであるが、シクリッドの場合は、ほとんど素通りに近い状態で、しかも門衛隊長が最敬礼をしてその通過を見届けるほどの厚遇ぶりだ。その後も街中を歩いているだけで彼女の姿を認めた多くの住民が挨拶をしたり、声をかけてきたりしたので彼女がいかにこの街の住民から敬意をかち取っているのかが十分理解できた。


 「随分顔が広いようですね」

 「昔ね、モンスターの大群の発生、スタンピードっていうのかしら、それがドゥ=パラースに押し寄せて来た時、斜面から氷塊を転がして全部潰したことがあって、それ以来、ご近所付き合いが続いているのよ」

 「……」


 この国における飛竜は守り神のような位置付けである……。住民の間でそのような認識があることは承知していたが、直接本人から豪快な逸話を聞かされ、アヤセは改めて住民達がそう感じるのは当然だろうと思うのだった。


 そうこうしながらも一行は、ドミニクのいる広場に至る。普段だったら広場には彼の述べる口上が高々と聞こえてくるのであるが、アヤセ達が聞いたのは何かを言い争う声だった。

 

 「おいっ! これだけ持ってきてやったのにどれも違うとはどーいうことだよ!」

 「端っから、俺達に鱗を渡すつもりなんてねーだろ! ふざけんなよ!!」


 予想していたが、広場では一足先にドゥ=パラースに死に戻ったエスメラルダ達がドミニクに詰め寄っていた。連中が広げたであろうアイテム等が散乱し、それなりの面積がある広場を他の利用者のことなどお構いなしに占有している。人だかりができる中、エスメラルダとルクレツィアが不機嫌そうに後ろで見物を決め込んでおり、男性プレイヤー達が躍起になって凄んでみせていたが、頑強な体格のドミニクは不動の姿勢をとり一切動じる様子を微塵も見せなかったので、傍らで見ると連中の行いが余計滑稽に見えた。


 「こんなところでガラクタを広げて露店でも開くのか? 迷惑だからさっさと引っ込めな」


 ホレイショが背後からかけた声に一斉に振り返るエスメラルダ達。声の主が分かるとエスメラルダ以外全員驚いた様子を見せたが、間髪入れず敵意むき出しの顔になり、食ってかかってきた。


 「あなた達、今頃坑道から逃げ戻ってきたのですか? 私達はこの礼儀知らずの道化師に道理を説いているところです。邪魔はしないでください」


 ルクレツィアは、アヤセ達がダークネス・スカウトの大群を駆除した後、自身の後を追いかけていたことも想像できず、単純に坑道から逃げ帰ってきたものと決めつけているらしい。

何も知らず、勝ち誇った顔をするルクレツィアに対し、ホレイショが吐き捨てるように皮肉を返す。


 「道理だと? お前らが説ける立場だと本気で思っているのなら、これほど笑える話はねぇな?」

 「んだと? テメェゴルアァ!」


 男性プレイヤー達が色めき立ち、広場に緊張が走るが、アヤセはそれを一切無視してシクリッドを伴いドミニクの前に進み出た。


 「ドミニク!」

 「シクリッド様!?」

 「例の物、見つかったわよ! さぁ、アヤセ君お願い!」 

 「ドミニクさんがお探しの品が見つかりました。この宝箱を御覧ください」


 アヤセはシクリッドの求めに応じ、インベントリから空の宝箱を放出する。


 「はあぁっ? 何だよ、ゴミじゃねぇか!」

 「その宝箱は中身も無い屑アイテムですよ。それのどこが『百足坑道一の宝物』なのですか? ……。いや、でもこのアイテムは谷底にあったはず。あなた達、どこで手に入れたのですか!?」


 アヤセを嘲り笑っていたルクレツィアが、宝箱の入手について疑問を持つが、すぐに目前に置かれた宝箱が、自身の探し求めていた物であることを理解したドミニクが機先を制し口を開いた。


 「これこそ、私が求めていたものだ。……閣下、ついに見つかりましたぞ」


 いつものような甲高い声ではなく、体格から連想される重厚な話し口になったドミニクは片膝立ちで宝箱に手をやる。そして、手慣れた手つきで蓋や中底、蝶番等に施されている仕掛けを次々解除していく。その様子をアヤセ達のみならずエスメラルダ達も黙って様子を窺っていたが、ものの数分で仕掛けが全てはずされ、蓋裏の板が一枚勢いよく飛び跳ねた。


 「シクリッド様、こちらを」


 板が外れた蓋裏の隙間から取り出された群青色の球体がドミニクの手から大事そうにシクリッドに手渡される。色こそ違うが同じ形状のものを毎日見ているアヤセは、それが召喚獣の思念であるとすぐに分かった。


 「感じる……。魔力の流れを。懐かしい……。ヴィルパンの魔力を」

 「……」

 

 アヤセ達が見守る中、手に思念を包み込み、目を瞑って何かを感じ取るシクリッド。その頬には一筋の涙が光っていた。


 「シクリッドさん良かったですねぇ~」

 「ああ、十年ぶりの再会か。本当に良かったぜ」

 「良うございました、シクリッド様」


 ドミニクは感慨深くシクリッドに声をかけた後、アヤセ達に向き直り、肘を曲げた右腕を胸前で平行に掲げる。これは王国や南方三公国の騎士が好んで行う敬礼の所作だ。


 「アヤセ殿、それに他の皆様、シクリッド様の思念を探し出してくださいまして、このル=ヴィルパン様の護衛騎士ドミニク、御礼の申しようがございません」

 「お役に立てて何よりです。ドミニクさんの長年に及ぶ御苦労をお察しします」

 「小官は、あの時取り返しのつかない過ちを犯しました。道化師の身なりをしたのは自分自身を哂うためだったのであります」

 「もう道化師の格好をする必要は無さそうですね。これからは魔力源を目指す仕事が待っているでしょうから」

 「左様ですな。護衛騎士ドミニクとして生涯を賭ける任務ができました」

 「ドミニクには期待しているけれども、無理はしないでね。それで、アヤセ君達もお疲れ様。本当に助かったわ。今度から『シクリッド』だなんて呼ばずにおばちゃんって呼んでねー♪ あなた達は私にとって息子や娘のように思えてきたわ!」

 「俺みたいなオッサンでも息子なのか?」

 「さすがに、『おばちゃん』って呼ぶのはいかがなものかと……」

 「あなた達に親しみを持ってもらいたいからです。あ、あと御褒美を忘れちゃだめよね。今回は私から渡すわ。はい、一人十五枚ずつね」


 =個人アナウンス=

 飛竜のおばちゃん(シクリッド)から以下のアイテムが贈呈されました。インベントリに収納されます。

 ・飛竜の鱗


 また、クエストを達成したことにより、経験値5,000を獲得しました。

 

 なお、クエストの達成結果が優秀だったため、以下の報酬が加増されました。

 ・飛竜の鱗×14


 「なっ!? 十五枚だと?」

 「え、えーと私達も貰っていいのですか!?」


 思いもしなかった破格の報酬を軽い調子で渡され、ホレイショとナーカが慌ててシクリッドに問う。それに対する彼女の応答は実にあっけらかんとしたものだった。


 「報酬はパーティーみんなで仲良く、ってことね。それで、おばちゃん竜で爬虫類でしょう? 最近脱皮したのよ。抜け殻に付いていた鱗で使えそうなのを集めたけれども足りるかしら?」

 「は、爬虫類!? それに脱皮ですか……?」

 「あっ! もしかして太ったとか思っている? ひどいわアヤセ君!」

 「い、いえ、そのようなことは決して。竜として一皮剥けたということでしょうか。新陳代謝も活発なようで、お若い証拠ですね……」

 「ふざけないで! 何であなた達が先にクエストをクリアしているのよ!」


 アヤセ達の会話に喚き声が割って入る。

声の主は勿論ルクレツィアである。余程アヤセ達に先を越されたのが悔しかったのであろう。怒りの炎が目の中で燃え盛っていた。

 

 「見ての通りだ。アンタ達はクエスト達成アイテムを持ってこれず、無様に失敗したんだよ。それだけだぜ」

 「その宝箱は、私達が道中で見つけた物です! その所有権は私達に有ります。だから、鱗も私達の物です!」

 「はあ?」

 「その宝箱は本来私達の物です。あなた達が盗んだのです!」

 「おいおい、何を言っているんだ? さっきクズアイテムとか言って笑っていたじゃねぇか」

 「アイテムは、不正に入手した場合を除いて最終的に所有している者がその所有権を主張できます。ルクレツィアさんの物であると言うのであれば、何故本人のインベントリに格納されていなかったのでしょうか? 自分達は百足坑道の転移装置で移動した先でこの宝箱を発見しました。山脈の谷底で中身を荒らされ、捨て置かれた物を回収したのです。仮に貴方に所有権があったとしてもフィールドに放置された時点でそれは無効です。それくらいは御存知ですよね?」 

 「そんな重い物持って歩けないでしょう! 後で取りに行くつもりだったの!」


 ルクレツィアの言動はまるっきり子供だ。もう少しましな言い訳が無いのかとアヤセは呆れ果て、ため息をつき、冷たく応じる。


 「つまりは、大事な、大事な宝箱をその辺に放り出していたという訳ですね? ……全く話になりません」

 「なんですって!」

 「はい、やめなさい。そこまでよ」


 会話の流れを断つため、シクリッドが手をパンと叩いて前に出る。ルクレツィアと男性プレイヤー達は、先ほどから場の中心となり話をどんどん進める彼女に苛立ちを募らせていたため、怒りの矛先を変えてかみついてきた。


 「お前は関係ないだろ! 引っ込んでろ!」

 「さっきから話の邪魔しやがって! 何なんだよ!」

 「連中は、シクリッドさんが死に戻らせたのですよね? もう顔を忘れてしまったのでしょうか?」

 「あの時は怒って竜に戻っていたから、人化の姿は分からないでしょうね」

 「……ああ、そうなのですね」

 「何をコソコソ話しているのですか! 私達は、そこのアイテムマスターに用があるのです。部外者のあなたには用がありません」

 「帰れババア!」

 「ババア?」

 「ハハッ! ババアか。確かにそうだな! おい、ババア、帰れよ!」


 周囲の空気が瞬時に凍りつく。

 シクリッドは感情を制御するのに苦心しているようで、内面から溢れ出る怒気同様、体から強い冷気が漏れ出るのを抑えきれずにいる。


 「シクリッドさん、落ち着いてください!」

 「大丈夫……、大丈夫。さっき関係ないとか言っていたけれども、とんだ勘違いよ。だって、ドミニクに宝箱を探させる依頼を出すように頼んだのは私だもの」

 「何を言っているの?」

 「私が望んだ宝箱を持ってきてくれたのはアヤセ君達。山脈の反対側の峠で真の依頼主である私に示してくれたの。ル=ヴィルパンのことを侮辱しようとしていた、あなた達じゃなくてね」

 「ル=ヴィルパンですって?」

 「貴方達が身ぐるみを剥ごうとした修道僧のことです。それと、山脈南側の峠で飛竜に襲われて死に戻りましたよね? その時の竜がここにいるシクリッドさんの真の姿です」

 「何だって!?」

 「デマカセ言ってんじゃねぇぞ!」

 「ウソかどうか試してみる? 氷の魔法は本来相手を圧し潰すものでは無くて、冷気で体温を下げ、命を奪う魔法よ。氷漬けにしてあげたらその効果を実感できるかしら」

 

 シクリッドが腕に魔力を纏わせると、冷気が周囲を包み込み気温が更に下がる。まるでその場にいる全員が大型冷凍庫の中に放り込まれたようだ。


 「さ、寒いですぅ~!」

 「シクリッドさん、それまでです! これ以上は周りに危険を及ぼします!」


 アヤセの制止を受けシクリッドは、纏わせた魔力を徐々に収めていく。しかし、最後にエスメラルダの目前に鋭い氷柱を落として警告することを忘れなかった。

 

 「これで信じてもらえたかしら? ……二度目は無いわよ」

 

 自身らを死に戻らせた、絶対的な強者にその実力をまざまざと見せつけられ、さすがに厚顔無恥なエスメラルダも青ざめた顔をしている。他の者も恐れおののき、一言も発することができずにいたのだが、ルクレツィアがなけなしの虚勢をかき集めて反論を試みようとした。


 「な、何をっ……!」

 「ルクちゃん!」


 今までルクレツィア達に発言の全てを押し付けていたエスメラルダが、ルクレツィアを強い口調でたしなめる。表情はいつもと変わらず平静を装っているが、少なからず動揺しているのは先ほどの言葉ぶりからも窺えた。


 「残念ですが今回は引き下がりましょう。宝箱を盗まれたことが認められなかったり、誤解が解けなかったりしたのは不本意ですが、そういうことは話が分かる方々とするのが原則ですからね」

 「そ、そうね! これ以上この人達と話していると私の親友エスメラルダの貴重な時間が勿体ないからね! あなた達、エスメラルダの寛容さに感謝なさい」 

 「ハッ! 何が感謝しろだよ!」


 男性プレイヤー達も置き去りにして、自身にとって都合の良いことを言う二人の様を見てホレイショは心底うんざりして吐き捨てるが、そんな非難も受け流すのが淑女(レディー)の嗜みだと言わんばかりにエスメラルダは澄まし顔をしている(それでも広場に散乱しているアイテム類を回収せず立ち去ろうとする様子から、体裁構わずこの場から早く退去したいと思っているのが察せられるのだが)。

 

 「どちらに行かれるのですか?」


 立ち去る素振りを見せていたエスメラルダは、声をかけたアヤセに向き直る。その顔は笑みをたたえていたが、心の奥底に蠢く怒りと邪悪な憎悪を隠そうともしなかった。

 

 「もう、この国には用がありませんから次の地に向かいます。アヤセさんが御苦労なさって手に入れた鱗は、私達も手に入れることができるでしょう。それも簡単な方法で。……今回はこのような結果になりましたが、次も上手くいくとは思わないでください。『あの』アイテムマスター如きに何度も奇跡は起こらないのですから」

 「用が無いのは自分も同じですが、別の方々は貴方達に用事があるようです」

 

 エスメラルダはアヤセが目をやった先を追うと、騒ぎを聞きつけたのか隊列を組んだ衛兵が広場に到着しており、厳しい目を向けている。また、先頭にいる隊長と並んで鉱山労働者と思しき男も立っていた。


 「衛兵隊だと!?」

 「緑巻髪の戦士と黒髪の剣士の一行……! この者達です。仲間に危害を加えておまけにダークネス・スカウト共を大発生させたのは!」


 エスメラルダ達を指さして糾弾した鉱山労働者は、百足坑道の第六十四番坑道にいたミシェルの父親だった。ミシェルの父親の告発を受け、隊長が彼女達の前に進み出る。


 「我々衛兵隊は、貴殿らを坑道内における傷害及び危険行為、大型馬車の危険運転、脅迫、無銭飲食、器物破壊、強盗未遂等による嫌疑で拘束する。この場での抵抗は貴殿らにとり有益なものにならないと警告する。本部まで同行願おう」


 隊長の宣告とともに、大勢の衛兵がエスメラルダ一行を取り囲む。彼女達は抗議の声を上げる間も無く、強制的に武装を解かれ拘束される。そのような中、アヤセは連行される連中に対して声をかけた。


 「あれだけのことをしたのですから、おそらくドゥ=パラース公国にはしばらく入国することはできないでしょう。ですが、その前にそれなりの禁錮の期間があると思いますので、精々この国での滞在を満喫してください。……貴方達こそ次は無いのかもしれません」


 ========== 


 「……こんなところでしょうか?」

 「ああ、仕上げもバッチリだぜ」

 「イイ感じだと思いますぅ~」


 アヤセとホレイショは、作業の仕上がりが自身らの望む基準に達していることを確認する。突貫の工程だったが、何とかその日中に仕上げることができ、心中安堵する。


 ここは、ジュマ山脈南側斜面の峠。竜の女王ことシクリッドと出会い、彼女が上演した紙芝居を鑑賞した場所でもある。


 ドゥ=パラースの広場におけるエスメラルダ達との対決の後、アヤセ、ホレイショ、ノエルの三人はシクリッドに願い出て、再び峠に戻った。シアンとナーカは、途中までエスメラルダと行動を共にしていたこともあり、連中が衛兵隊に拘束された際に事情聴取のため同行を求められ、二人がダークネス・スカウトの撃退に多大な貢献をしたことをアヤセ達が詳しく伝えたものの、残念ながらその場で別れることとなってしまった。

 

 当初、シクリッドはアヤセ達の意図が分からず戸惑いを見せたものの、説明を聞き、モルタルを大量に買い込んだ彼らを快くこの場まで連れて来た。今はこうして彼らの仕事ぶりに満足しているかたちだ。


 「とても良くできているわ。これならヴィルパンも安全ね」

 「風雨を凌げることは最低限として、今後、往来が増える冒険者の中にエスメラルダ達のような者もいないとは限りませんので、対応策を講じるのは無駄では無いと思います」


 アヤセとホレイショが手掛けていたこと……。それは山の斜面に吹きさらしになっていたル=ヴィルパンの周囲に雨避けと防風壁を敷設することだった。これらは、アヤセが常備している粘土とドゥ=パラースで購入したモルタルと鉄の棒を材料にして作られ、本人達も納得したように、急造ながらもまずまずの仕上がりを見せていた。


 「この辺では雨は滅多に降らないけど、日差しや風が強い日があって妨げる物も無いからヴィルパンの身体に悪影響が出ないか心配だったの。それに囲い壁も有ればあの時のような不届き者が何かをするということも減りそうね。随分大掛かりにやってもらっちゃったわね」

 「粘土を積み上げるだけでも形にはなったでしょうが、それだと強度に問題が出そうでしたので、この際凝らせていただきました」

 「基礎も粘土で固めてあるし、鉄棒で芯を通し、モルタルを塗って補強したから、まぁ、持ちはいい方だと思うぜ。実際の建築でも似たような工法があるみたいだしな」

 「あなた達、本当に、本当にありがとうね」

 「いえ、御礼には及びません。できれば今回作った雨避けと壁が、自分達が再度戻ってくるまで保ち続けて欲しいと思っています」

 「……気付いているようね」

 「ええ、自分の実力不足は承知しています。」

 「飛竜の思念を託され、大陸の奥地に挑むことは、見返りも期待できるし、冒険者にとってとても名誉なことであることは私だって知っている。気を悪くしたらごめんなさいだけど、この辺りにしても少し進んだだけで、今のあなた達では手に余るワイバーンの巣があるの。大事な思念を託す相手を選ぶのには慎重になってしまう……。だから魔力源のへの依頼は他の人に頼むかもしれない。今までアヤセ君達に色々してもらったのに」

 「それは、ある意味シクリッドさんの『親心』かもしれませんね。ですから、気に病まず好機をお待ちください。それに大陸攻略だけがゲームの楽しみ方ではありません。自分にとってシクリッドさんとル=ヴィルパン氏の目的を達することが最重要なのです。まぁ、最もいずれはシクリッドさんが依頼するに値するプレイヤーとなり、戻って来たいと思っていますが」

 

 世界の果てを目指すことが目的のこのゲームにおいて、未開放部の「一番乗り」と「開放」はゲームをプレイする上で計り知れない恩恵をもたらす。プレイヤー間で名が知れるものその一つであるが、例えば未知のアイテムや装備品の獲得や、著名な冒険者として待遇を受け、各国の王宮やVIP専用の施設の出入りが許されたり、特定の人物(この場合シクリッドも該当する)から大きな見返りが期待できる専用クエストが指名で発注されたり等といった例がある。


 シクリッドもそのメリットは承知しており、南部攻略の新ルートのスタート地点に自力で到達し、そのキーマンたる自身の個人的な悩みまで解決したアヤセ達は、攻略を一番初めに挑戦する権利を得たに等しく、その権利を放棄させられることは例え実力上の理由があったとしてもフェアとは言えない(本来だったら特定の地点に到着することが目的なのだから基礎レベルの高低は無関係である)。


 新ルートの出現はすぐさまプレイヤー間に広まり、時を置かずして大勢の挑戦者がこの地を訪れることになるだろう。そうなるとアヤセ達より実力のあるプレイヤーがシクリッドから依頼を受け、大陸未開放部への一番乗りを達成する可能性が高い。シクリッドはその点について後ろめたさを感じていたのだった。


 「私達のことを心配してくれて本当に嬉しいわ。必ず成長して戻ってきてね。おばちゃん待っているから」

 「おう、そのつもりだぜ」

 「モチロンですぅ~!」

 「それで、アヤセ君はサモナーなのかしら? 『飛竜の鱗』を求めていたということは、『召喚の器+』を強化させることが目的よね?」

 「はい、この『タマモの思念』の召喚を目標としています」

 「はぁ~、これね。これは……、中々の逸品ね。召喚獣との相性も良さそうだし、召喚が叶ったらアヤセ君を大いに助けてくれるでしょうね」

 「本当でしょうか?」

 「もちろん! 召喚獣のおばちゃんが言うから間違いないわ! チーちゃんを見ただけで分かったけれども、アヤセ君は召喚獣に好かれる素養があるのよ。タマモだけでなく、これからもあなたの周りには沢山の召喚獣が集まってくるでしょう。自分のことより私やヴィルパンのためにおせっかいを焼いてくれるアヤセ君を慕ってね」

 「……」


 にっこり笑顔のシクリッドは、最後に大きな太鼓判をアヤセに押す。


 「召喚獣はね、大好きなの。あなたみたいなおせっかいな人が。だから召喚した子達を可愛がってあげてね! アヤセ君の旅の幸運を祈っているわ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ