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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第六章_タマモ召喚!

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110_百足坑道⑤

 アヤセ達が背後からかけられた声に反応して慌てて振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。


 ケピ帽の検知にも全くかからず、突如現れた女性は尋常な存在ではあるまい。アヤセは鍔元には手をかけなかったが、相手の出方次第ですぐに刀を抜き付けられるよう、左腕を体にくっつけて警戒を強める。


 「……」


 一方の女性は声をかけたものの、その後何も言わずにアヤセ達を値踏みするように頭のてっぺんから爪先まで無遠慮にジロジロと視線を向けてくる。年齢は四十代後半くらいで豊かな金髪をボリュームアップさせ、海のように鮮やかな青色のロココ様式に似たドレスを見事に着こなす様子は、絵画等で見るヨーロッパの貴族の女性を思わせるものだったが、特徴的なのはこの女性が非常に()()()()であることだ。腰部を締め付けるコルセットやスカートを膨らませる下着の特性を全て無意味なものに変えてしまうほどの体型は、昔は美人だったと思わせる顔と合わさり非常に印象的で見た者の目を離さなかった。


 「あなた達、こちらにいらっしゃい」


 一通りアヤセ達を観察し終えた女性はおもむろに口を開く。その口調が有無を言わさないものの、敵意を感じさせるものでは無く、寧ろ気品を覗かせるものだったのは意外に感じた。


 「……」


 女性は言いたことだけ言うと、相手の反応を顧みること無く背を向けてそのままツカツカ歩き始める。アヤセ達は女性の出し抜けな物言いに戸惑い、お互いに顔を見合わせていたが、その言葉に従い後を追う。

 ついて行った先には、何も無い原っぱのような場所にポツンと二、三人が腰掛けられる背もたれ無しの長椅子がスクール形式に二個並べられており、その前方に教卓のような台が設置されていた。


 「……」


 女性は無言で長椅子に座るように身振りする。そして自身は教卓を回り込み、アヤセ達と対面するように立った。


 「……座れってことだよな?」


 ホレイショの問い掛けにアヤセは無言で頷く。片方の長椅子にアヤセとホレイショ、もう片方に女性陣三人が腰を下ろす。青いドレスの女性は、それを見届けると軽く咳払いして再び口を開いた。


 「『大召喚士と竜の女王』」

 「?」


 女性は、教卓の中から分厚い紙の束を取り出し、アヤセ達に見えるように立てる。一枚目には、かわいらしい丸文字で女性が述べた題目が書かれ、デフォルメされた龍のイラストも添えられていた。


 「昔々、大陸北部の『樹氷回廊』三合目に『アイノ王国』という小さな国がありました。この国は年間を通して寒冷で、土地も痩せていて作物の実りも少ないことからお世辞にも豊かな国と言えるものではありませんでしたが、ドワーフ種の国王のもと様々な種族が集い互いを尊重し、協力し合って平和に暮らしていました」


 二枚目はドワーフと思しき人物が中心に描かれ、それを人種、エルフ等の様々な種族が取り囲み同じ方向(視角から空を見ていると推測できる)を見ている絵であった。絵を見る限り「アイノ王国」という国は、多種族が共存共栄する理想国家の見本のような国だったらしい。


 「何か紙芝居が始まったな?」

 「いきなり何なんですかぁ~!?」

 「……」

 「相棒?」


 ホレイショとノエルが突然始まった紙芝居に戸惑いの声を上げるが、アヤセは傾聴の姿勢を崩さず、真剣な面持ちで聞き入っていた。


 「先輩ったら、すっごくマジメに聞いてますねぇ~」

 「静かに! この紙芝居は聞く価値がある」

 「何か気にかかることがあったのか? まぁ、俺達も聞いてみるか」


 アヤセの姿勢に倣い他の者達も女性の話に耳を傾けることにする。

紙芝居は次に移り、目の前の人物と同じ真っ青なドレスを着用した若い女性と、それと背中合わせにして、絵であっても迫力を感じさせる強大そうなドラゴンが描かれていた。


 「樹氷回廊五合目には、アイノ王国が建国されるよりも昔から一匹のドラゴンが住んでいました。……古代(エンシェント・)(ドラゴン)種の中でも上位の実力を誇るそのドラゴンは、大陸の栄枯衰退を何百年にもわたり飽き飽きするくらい見てきたことから、この王国の隆興についても興味を持つこともなく、相手が恐れて自身の縄張りに入ってこないこともあり、普段は魔力の消費を抑えるため擬人化した姿で人里離れて住民達と距離を置き、単独で暮らしていました」

 「綺麗なひとですねぇ~」


 ノエルがため息混じりに独り言を漏らしたように、描かれた女性からは凛然と気高い雰囲気が見て取れ、正に「絶世の美女」と表現するのに相応しい容姿だった。


 「あら、ありがと~」

 「えっ?」


 女性はにこやかに礼を述べる。だが、呆気にとられるアヤセ達を見て自身が出し抜けな発言をしたことに気付き、慌てて取り繕い紙芝居の続きに戻った。


 「ゴ、ゴホン、竜は、大陸の住人達を嫌っていました。何故なら過去何度か住人たちの勢力争いに巻き込まれたことがあり、それに嫌気がさしていたのです。寿命が短いくせに権力欲だけは旺盛、同種同族同士であってもためらいもせず殺し合いをしたり平気で他人を騙したり、とにかく振る舞いが醜くて愚かでその上脆弱と、大陸の住人は、誇り高い竜の女王と付き合うに値しない下等な生物であると思っていました」


 四枚目は、古代竜の力を利用しようとしたと思しき様々な種族が醜い顔で描写されている。その酷さは絵の中の女性が背中を向けて心底嫌悪を顕わにした表情が印象的だったこともあり、女性の言う「竜の女王」が経験させられた怒りや苦労が余りあるくらい窺い知れるものだった。


 「そのような経緯があり、今は滅びて消え去った眷属の竜人達が大昔に建築した古びた城で、世の中を倦んで人を寄せ付けず暮らしていた竜の女王でありますが、転機が訪れます。……ある男が古城を訪ねてきたのです」


 五枚目には古城のテラスに置かれた椅子に物憂げな顔で腰掛けている竜の女王と、それをテラスの下から見上げ、両手をメガホンのようにして何かを叫んでいるような仕草をしている人物が描写されていた。


 「古城を訪ねて来た者達の中心人物は人種の男でした。男は竜の女王を恐れることなくテラスの下まで歩み寄るとこう呼びかけます。『竜の女王よ、力を貸して欲しい』と」


 紙は六枚目に移る。新しい紙には呼びかけを行っている男がクローズアップされ、詳細な姿形が描かれていた。


 「あれぇ、この男の人って?」

 「ああ、少し瘦せていて格好(ナリ)も違うがさっきの修道僧に似ているな」

 「修道僧と紙芝居の人物は同一だ。ル=ヴィルパン……。十年前に百足坑道で行方不明となり、道化師が手がかりを求め続けている主と見て間違いなさそうだ」

 「何だって!?」


 アヤセが述べた推測にホレイショ達は驚きの声を上げる。一方で、言おうとしていたことを先に言われてしまった女性は、アヤセの言動をたしなめた。


 「ちょっと、アヤセ君だったかしら? 話の先が分かっても言っちゃだめよ」

 「……あっ、済みません。決して話の腰を折るつもりで言った訳ではありません」

 「まぁ、いいわ。ヴィルパンのことを知っているということは、ドミニクや鉱山労働者達ともそれなりに親しいようね」

 「ドミニクさん、でしょうか?」

 「ドゥ=パラースの街中にいる道化師よ。彼は元々ヴィルパンの護衛騎士だったの」

 「元騎士か。あれだけゴツいガタイならさもありなんだぜ」

 「ドミニクさんが鎧を脱いで道化師の服を着ている理由も気になるが、騎士というそれなりの身分の者を護衛として従えている、ル=ヴィルパン氏の素性が自分としては気になるな」

 「はい、そこまで。察しが良いのは話が早くて助かるけど、良すぎるのも考えものねぇ……。それで、あなた達の知りたいことはここから出てきますから、お喋りは止めて私の話を聞いてちょうだい」


 女性は困った顔をしつつ注目を促し、アヤセ達を話の続きに引き戻した。


 「突然の来訪者の名はル=ヴィルパン。アイノ王国に流れ着いた傭兵で、竜の女王の住処の近くにある村落の守備のため派遣されたそうです。彼がわざわざ訪ねて来たのは、国境を接する帝国領からしきりに来襲するモンスターが村落の安全を脅かしていたのでその排除を依頼するためでした」


 先ほども述べたとおり六枚目は、五枚目でテラスの下から竜の女王に声をかけていた男性(少し美形化され、顔の周りがキラキラしているように見えるのは、おそらく気のせいでは無い)がクローズアップされ、その人物が詳細に分かる。

 アヤセの推測のとおりこの人物は、山の尾根で祈るような姿勢で固まっている修道僧と同一人物であり、更に女性がル=ヴィルパンと名を告げたので、彼の推測が当たっていたことを裏付けた。

 

 「当然のことながら、厭世の思いを今まで募らせていた竜の女王がル=ヴィルパンの依頼を簡単に聞き入れるはずはありません。『愚か者め! 早々に立ち去れ!』そう言いながら竜の女王は氷の塊を彼らの頭上に降らし、追い払ったのでした」


 七枚目には、竜の女王が生み出した複数の巨大な氷塊が容赦なくル=ヴィルパンを始めとする来訪者達に降り注いでいる場面が描かれている。デフォルメ描写され、吹き出しから「うわー」とか「ぎゃー」等の台詞を述べている人間達の倍以上もある大きさの氷塊が何個も降り注いでいる様子は、竜の女王の魔力量が規格外であることを示していた。


 「これだけ痛めつければ弱い種族の者達はもう二度と来ることはあるまい、と思っていた竜の女王ですが、その考えが間違っていたことに気付いたのは翌日でした。……またあの男が姿を現わしたのです」


 八枚目は小さくコマ割りされ、右半分は四つに分かれそれぞれに番号が振られている。振られた番号を、順を追って見ていくと、初めにル=ヴィルパン達が前の紙と同じように竜の女王に呼びかけ、次のコマで氷の大塊を落とされ、三コマ目と四コマ目でそれが繰り返されている。


 「前回と同様に呼びかけてくるル=ヴィルパン達に氷の塊を落とし、再度追い払いますが、彼らは追い払っても、追い払ってもしつこく協力を仰いできます。それが何度も続き、とうとう竜の女王は根負けして、彼らの求めに応じてしまうのでした」


 同じ紙の左半分には、体中の至るところに包帯を巻いた満身創痍のル=ヴィルパンと護衛騎士と思しき体格の良い人物(おそらくドミニクかと思われる)によって、村落に連れ出された竜の女王が描かれている。その表情は諦観がにじみ出ており、ル=ヴィルパン達の来訪がいかに粘り強く、そして押しの強いものであったかを窺い知ることができた。


 「本来、村落防衛の重要な戦力であったル=ヴィルパン達を痛めつけて使い物にならなくさせてしまったこともあり、竜の女王はしぶしぶモンスター討伐を引き受けます。最も村落を襲撃してくるモンスター共は数が多いだけの烏合の衆、竜の女王にとって討伐自体はお茶の子さいさいで、あっという間に片付けてしまいます」


 次に移った紙にはモンスターの大群を、すっかり見慣れた巨大な氷塊で潰して回る竜の女王の活躍が描かれている。その手際は鮮やかで圧巻の一言だ。


 「竜の女王にとっては虫を追い払うくらいの感覚しかなく、適当にあしらっただけだと思っていましたが、全てを片付けて村に帰って来た際、ル=ヴィルパン達傭兵だけでなく、村人達からも熱烈な歓迎を受けたのでした」


 十枚目は困惑の表情を浮かべる竜の女王を村人達(と傭兵)が感謝を述べるために取り囲み、そしてその様子を満足げな笑みを浮かべて遠巻きにル=ヴィルパン主従が見ている画だった。


 「自らは大した労力をかけている訳では無いと思っていたところで、これほどまで謝意を示されることと、過去にあったように自身の力を良からぬことに利用しようと目論む輩が持っているような邪心を隠している訳では無く、純粋に感謝されたことに竜の女王はただただ困惑するのでした」


 紙は十一枚目に移る。そこには焚火の傍らに置かれた丸太に腰掛ける竜の女王が疲れた顔で火を見つめている様子と、その隣に座るル=ヴィルパンが描かれていた。

 

 「『飲むか?』『私は酒が苦手だ。たかだか魔物を追い払ったくらいでこれほど馬鹿騒ぎして。人間共はつくづく愚かな生き物だな』盛り上がりが続く自らを歓待する宴席から離れて休憩する竜の女王が愚痴をこぼしますが、ル=ヴィルパンはそれを笑って受け流します。『まぁ、貴女には虫けら程度であっても、この村落で暮らす村人や私達傭兵達にとってあの魔物は大きな脅威だったのだ。それを駆除してくれたのだから感謝されるだろう』『それでもだ。第一傭兵達だけでもあれくらいの魔物に十分対抗できたはずだ。ことさら魔力の量が多い貴公がいればな』」


 紙が十二枚目に入れ替わり、今度はル=ヴィルパンに焦点が当てられる。遠くを見るような目で火に視線を落とす彼の横顔を、竜の女王が真剣な顔で見ている。


 「『気付いていたか』『当然だ。人間にしては規格外の魔力を有しているからすぐに分かる』『やはり貴女には隠し事はできないか』『これほどの魔力を持っているならばあの程度の魔物なぞ簡単に駆逐できるはずだ。それなのに私を引っ張り出して……。それに、貴公は平民という訳では無いな』『驚いたな。そこまで分かるとは』『何百年と生きていればそれくらい分かる。身分を隠し傭兵に身をやつしている理由は何なのだ?』竜の女王の詰問にル=ヴィルパンは火をしばらく見つめていましたが、やがて重い口を開きます『貴女はドゥ=パラース公国を御存知か?』『ああ、知っている。東部諸国の一国だな。だが、それが何か?』『私は、現君主の嫡男なのだ』『……そうか』『最も妾腹で継承権は腹違いの弟にある。本来だったら弟が公位をついで私は気楽な生活を送る。そうなるはずだった。……この魔力さえなければな』」


 高山特有の冷たい空気が一筋の風となりアヤセ達の間を吹き抜ける。感情を乗せ一人二役を演じている女性は一息ついた後、大きく息を吸い込み紙芝居を再開する。


 「『私に比べて弟はからっきし魔力や魔法の才能が無くて、公国を継ぐ者として資質を問う声が上がり始めた。最もこれは私を担ぎ出して実権を握りたい者共の蠢動(しゅんどう)に過ぎなかったが、良くも悪くも目立つ私の魔力は都合の良い口実になってしまったのだ』『そうか。権勢欲の強い愚か者はどこにでもいるものだな』『魔力量の多寡と国の統治能力は何の関係性も無い。それに腹違いとはいえ、弟とは上手くやっていた。彼は将来の君主となるべく十分な教育も受けてきたし、何より能力面の心配は何も無い。邪魔者の私が公国から出奔すれば事は全て上手く収まる、という訳だ』『それで傭兵に?』『公国(くに)を出た私が効率的に稼げる手段としてはうってつけだし、それに傭兵は荒事が日常茶飯事だ。私の存在を邪魔に感じている弟の取り巻き、直前で逃げ出した裏切り者だと決めつけている私を担ぎ出そうと画策していた連中、人質としての価値を見出した帝国や教国が差し向ける刺客達を処分するにも最適だからな』『貴公も誰かに利用されていたのだな』『ああ。貴女と同じくね』『……』『今まで私の場合と似たような連中に手を焼かされたのだろう?』『私のこともお見通しのようだな』『実際は伝承を本で読んだからなのだが、貴女が大陸の各種族に辟易しているのは伝わってきた。だから声をかけた』『何だって?』竜の女王は彼の言葉の真意を問い質します」


 話はこれから本題に入る。女性もそれは十分承知しており、長い場面を演じて疲れた様子を窺わせるものの、一息ついた後、気持ちを入れ直して続きを語り始めた。


 「『知ってのとおり、現在の大陸は帝国をはじめとする列強諸国のくだらない領土争いのせいで何十万もの民が苦しめられている。これが原因で相互の憎悪が掻き立てられ、敗戦国の民を奴隷として売り飛ばしたり、不当な差別や迫害が至るところで生まれたりしている。そんな中、アイノ王国は種族の垣根を超え全てが平等である国家を理想として、大陸で繰り広げられている悲劇から住民を守るという理想の実現のため、国王以下全員がまい進している。この国は私のような流れ者も含め、種族や出自を問わず多くの者が暮らしている。誰でも平等に助け合い日常の平和な暮らしができる国を建てること……、私はそれを貴女にも加わって欲しいと思ったのだ』『……』『下等種の言葉など聞くに及ばないかもしれないが、この国には種族を問わず共存共栄を目指している。その理念がまがい物でないことを貴女に知って欲しい。それに、孤独はどの様な者であってもそれに耐えることはできない。貴女と我々は目的を同一にして共に歩むことができると私は信じている』ル=ヴィルパンは竜の女王に熱く語りかけ、一方で竜の女王はずっと黙り考え込んでしまいます。ですが、少し時間をおいて再び口を開きます。『住人共は相変わらず勝手だな。こちらの都合も考えもしないで、よくもそこまで熱っぽく語れたものだ』『ぬっ……』竜の女王の指摘によってル=ヴィルパンが反対に黙り込んでしまいます。『おまけに私が孤独だと? 私は誇り高き竜の女王、孤高は優良種である私にこそ与えられた特権だ! ……と、まあ言いたいところだが、貴公の言い分にも一理あるだろうと感じた』『それでは!』『退屈凌ぎにもなるだろう。力を貸そう』竜の女王からの承諾を引き出せたル=ヴィルパンの声が弾みます。『勿論、貴女を失望させることはしない。私の、いや我々の決意をその眼で確かめて欲しい』『期待半分だな。貴公がこれほど言うならばその覚悟を見せてもらいたいものだ』一見冷ややかな対応ですが、声質は出会った当初に比べて大分変っていることにも竜の女王本人も気付いていました。『シグリットだ』『何?』『私の名前だ。貴公は、共に仕事をする者の名を覚えぬつもりか?』『……これは、私としたことが淑女(レディ)に対して気遣いが足りなかったな』『そうだな。これでは先が思いやられる。以降は貴公だけでなく他の者も私のことを名前で呼ぶよう、申し伝えよ』こうして、竜の女王はアイノ王国の片隅の村で平和を守るル=ヴィルパン達の手助けをすることになります。帝国軍に使役されていると思しきモンスター共が何度も越境してくるのを撃退し、時には村落の住民達の農作業や狩猟を手伝ったり、傭兵達と国の行く末を語り合ったりしていくうちに竜の女王は村落の一員として欠かすことができない存在へと変化していきます。そして、ル=ヴィルパンとの距離も自然と近付いていき、お互いに意識するまでの仲になっていきました」


 当時を懐かしむかのような女性の語り口は、アヤセだけでなく他の者も感じ取ることができたに違いない。竜の女王とル=ヴィルパンが恋愛感情を育んでいる様子に対してノエル達女性陣は目を輝かせている。

 紙芝居は一見和やかに進行していると思われたものの、続きを語るにつき、女性の口調は突如暗鬱としたものへと変わった。


 「しかし、平穏な時は突然崩れ去ります。『アイノ王国の大受難』……。後にそう呼ばれることになる帝国軍の侵攻が始まったのです」



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