表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第六章_タマモ召喚!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/115

109_百足坑道④

 (ホレイショ達は上手く敵を引き付けてくれたようだ)


 大多数のダークネス・スカウトが土台に殺到した状況を確認したアヤセは、鯉口を切り壁の陰から飛び出す。標的のダークネス・スカウトの親玉まではおおよそ三十メートル。ポテンシャル「鞘の内」の効果をもってすれば目前に躍り出るには数秒もかかるまい。ダークネス・スカウト達は物陰から襲撃をかけてきたアヤセに気付いたものの、完全に不意を衝かれたかたちになり応対が遅れた。

 

 (親玉のレベルは普通のダークネス・スカウトと比べて3高い程度か……。思った通り、こいつは第三波クリアフラグのアドバルーン、「張子の虎」だ!)


 前に出てきた取り巻きの一体を抜き打ちで顔面斜め斬りにして仕留め、返す刀で他の敵の頸部を横薙ぎで刎ね、余勢を駆って反対の方向の敵に刃を返して斬り付け、更にもう別の一体の鳩尾に諸手突きを送り込む。以降も一連の流れを止めず、疾風の如く一体二体と縦に横に斜めに斬って進路上にいる取り巻きを排除して、ダークネス・スカウトの親玉と一対一の勝負へ強引に引きずり込むことに成功した。


 一方のダークネス・スカウトの親玉は得物の大剣を、両手持ちで大上段に振りかぶり背丈に劣るアヤセを叩き潰そうとする。対するアヤセは技の「一連の流れ」を切らしておらず、四倍攻撃の条件を維持したまま脇構えにしていた刀を頭上に振り上げ、すれ違いざまに敵の振り下ろしを凌ぐ高速の斬撃を右肩に叩き込んだ。 

 肩口からバッサリと右腕を斬り落とされたダークネス・スカウトの親玉は、残された左腕だけで大剣を振るうことができず、足元に切っ先を落とすかたちになり、その隙を衝いたアヤセは腰の回転を意識しつつ、身体を敵に向き直すのと同時に刀を横に振り抜いて右脚に鋭い斬撃を入れる! 右腕に加え、右脚まで斬り飛ばされた敵はこれによりバランスを崩し、後頭部から盛大に倒れ込んだ。


 「数に物を言わせて勝ったつもりでいたか? 甘いな!」

 

 先ほどダークネス・スカウトの親玉が見せた以上の大上段に振りかぶったアヤセの刀身が、残された左腕で反撃を試みようとしていた敵にその機会を与えず、断頭台の刃の如く斬り下ろされる! 勢いよく刎ね飛ばされた頸部が空中で消失し、目標の撃破はこの一撃をもって完了した。


 「……!」

 「瞬殺ですよ! スゴイっ、アヤセさんって!」

 「な、心配する必要は無かっただろ?」


 アヤセがダークネス・スカウトの親玉を簡単に片付ける一部始終を見届けたシアンとナーカが手際の良さに驚嘆し、それに対してホレイショが慣れっこといった感じで応じた。


 「こ、これでは、先ほどホレイショさんが言われていたように、私達の方こそやられないように気を付けないといけませんね。リーダーを倒しても、他がまだ残っていますから」


 司令塔損失の影響は既に目に見えて表れていたものの、ダークネス・スカウトの残党は消滅することなく、かといって逃げ出したりもせず未だに土台を乗り越えることに拘泥して戦闘を継続している。その対処は骨が折れそうだった。


 「さぁ~、残りもやっつけちゃいますよぉ~」

 「でも、ちょっと数が多いから大変ですよね」

 「ああ、それなら相棒から預かったこれで解決だぜ。……ほらよっ」


 ======================

  【アイテム・素材(食料品)】オリーブオイル 品質2 価値2 重量2

   生産者:アヤセ 

   特殊効果:ハンドメイド品(転売ロックON)

   ポテンシャル(1)…新鮮食材(小)(料理素材に使用時完成品の品質1up)

 ======================


 ホレイショがおもむろに指をパチンと鳴らすと同時に、インベントリから放出された大量の油が、土台の壁面に取り付いていたダークネス・スカウト達に滝のように降り注ぐ。

 その効果はてきめんで、油を浴びたダークネス・スカウト達がつるつると壁から滑り落ち、下にいた仲間を押し潰した。ホレイショが放出したオリーブ油によって敵は壁の下で再びよじ登ることができずにいる。


 「滑ってお互い潰しあってやがる。いい塩梅だぜ、相棒特製のオリーブオイルは」

 「オ、オリーブオイル!?」

 「これって、ボスのゴキブリさんを倒したのと同じものなんですよね~」

 「ああ、普通のオリーブオイルだ。油でゴキブリを窒息させるやり口といい、よく考えるぜ、相棒はよ」

 「先輩の考えていることって時々分からなくなりますよ~。でも、そのおかげで助かっちゃいましたね!」

 「最も俺のインベントリのキャパだと、そんなにホイホイと大量に持てる代物じゃないから運用は簡単にはできねぇが。これにしたって、相棒に俺のアイテム全部預けてインベントリをパンパンにしてやっとって感じだぜ」

 「……」

 「ま、そういう訳で、残りを倒して合流するか」

 「は~い、そうしましょ~」

 「……」

 「メ、メチャクチャ過ぎるわ……」


 ナーカとシアンは、アヤセのダークネス・スカウトの親玉を圧倒した実力と思いもしない戦い方に呆気にとられ絶句してしまうのだった。


 ========== 


 第六十四番坑道において混乱をもたらしたダークネス・スカウトの襲来は、アヤセ達の活躍により無事鎮圧された。今、坑道内は鉱山労働者からの通報を受け、押っ取り刀で駆けつけてきた衛兵やおこぼれを期待して集まってきたプレイヤー達で溢れかえっている。

 その様な中、アヤセ達は坑道の後始末を衛兵に引き継ぎ、エスメラルダ達を追うため連中が利用した転移装置を作動させ移動した。


 転移先は元いたダンジョンと変わらない暗くてじめじめした洞窟の中だったが、モンスターとのエンカウントも無く、道々にエスメラルダ達が荒らしたと思われる空の宝箱が転がっている一本道の単純な構造である点が「百足坑道」と異なっていた。ただ、その一本道の距離がかなりあるようで随分な時間を進んでいたが、変化など見られず一体どこまで通じているのか分からない。五人は連中に追いつくため洞窟を進んでいたが、その道中で先のダークネス・スカウトとの戦闘に関する話題が自然と上がった。


 「そう言えば、シアンさんの氷魔法ってあんなに威力あった?」

 「ナーカさんも気付いた? 私のスキル【ブリザードグラベル+】はあんなに威力があるはずないのに……」

 「ああ、それは風魔法との相乗効果だと思いますよ。相性の良い属性の魔法を同時に発動すると効果が上がると以前聞いたことがあります」

 「やっぱりそうでしたか。魔法使いでサブジョブ剣戦士の『赤魔導士』なんて悪い意味で呼ばれることがある、中途半端な職業の魔法剣士の私があんなに火力を出すなんて変だと思ったのですよね」

 「そうは言っても、遠距離の魔法でノエル嬢を助け、おまけに壁を登らせないように俺と一緒に剣を振るったのはどちらもお前さん自身の実力によるものだ。お前さんが魔法と剣のどちらもイケる魔法剣士で良かったぜ」

 「ありがとうございます。エスメラルダさんとルクレツィアさんに回復役を兼ねてなるように命じられた職業ですけど、初めて魔法剣士になって良かったと思います」

 「ノエルさんや私も二人のサポートができる職業を選ぶように言われたのですよね。私もシーフなんかじゃなくて銃士になりたかったなー」

 「御自身は不満かもしれませんが、ナーカさんのスキル【エアエッジ】は精度が高いですね。自分はシーフ系の『飛び道具』に何度も苦しめられた経験があるので、あのスキルは更に磨けば強みになると思います」

 「えっ!? そうですか? アヤセさんからそう言われると嬉しいです。でも、さっきの戦いのMVPはダンゼンアヤセさんですよねっ!」

 「ホレイショさんも勿論そうですけど、アヤセさんの実力も知らずに職業が『あの』アイテムマスターというだけでパーティー加入を断ったのは、本当に愚かなことです。……あの時は失礼なことを言って済みませんでした」

 「ごめんなさいっ!」

 「先輩の強さ、分かってくれましたか~?」

 「……ノエル、止せ。お二人共、もうその話は言いっこなしです。自分達もお二人の協力が無かったらダークネス・スカウトの大群相手にこうも上手く立ち回れなかったと思います」

 「まぁ、『五人の結束の勝利』ってことだな。ありきたりな言い回しだが、俺は嫌いじゃねぇぜ」

 「ノエルもそう思いますぅ~!」


 ホレイショの表現に対し、ノエルだけでなくアヤセ、シアン、ナーカも同意を示す。成り行きで結成した即席パーティーだったが、大きな山場を全員で乗り越えたことにより、その結束を強められたと皆一様に感じたのだった。


 ========== 


 先行させたチーちゃんの案内に従い、程なくしてアヤセ達は洞窟の出口に到達する。外に出たには出たが、暗くて深い谷間の底であり、流れが速くて大きな水流の音が響く沢が沿うように流れる緩い傾斜の谷底を登っていく形で道が示されている。敵が出現しない以外は洞窟内と変わりは無かった。


 「それにしても、奴等に追い付く気配がねぇな。……全く、途中の宝箱は行儀悪く荒らしているくせしやがって、しっかり進みが早いのは腹立たしいぜ」


 ホレイショは、エスメラルダ達が御多分に漏れず荒らし、地面にひっくり返した宝箱を見て苦々しく悪態をつく。一方、アヤセは放置された宝箱の一つに視線をやり、じっと眺めている。その様子に気付いたナーカが声をかけた。


 「アヤセさん、宝箱が気になるのですか?」

 「ええ。シーフのナーカさんでしたら【鑑定】のスキルを習得していますよね。この宝箱にスキルを発動してくださいますか?」

 「えっ? はい、分かりました?」


 ナーカは怪訝な顔を見せるが、アヤセの求めに従い、足元の宝箱にスキル【鑑定】を発動して情報を確認する。


 「どう見ても空の宝箱でしか無ぇようだが?」

 「いえ、やっぱり変です」

 「何か気になることがあるの?」

 「うん、これ、アイテムだよ」

 

 ======================

  【アイテム・その他】谷底の打ち捨てられた宝箱(空) 品質1 価値1 重量85 

 ======================


 「ほう? しかし重さだけはヤケにあるな」

 「普通宝箱はオブジェクト扱いで、アイテムとして存在しないはずなのだが。何か妙だな」

 「言われてみたらそうだけどよ」

 「……」


 アヤセは少しの間考える素振りを見せていたが、宝箱をインベントリに収納した。


 「おいおい、持っていくのか!? そんな重いだけで意味も無さそうなアイテムを?」

 「確かにポテンシャルも付与できないし、そもそも宝箱は空で無意味かもしれない。だが、他の宝箱と違って何故これだけがアイテム扱いなのかは非常に気になる。インベントリも先ほどオリーブオイルを大量放出して余裕があるから持っていても問題無いだろう」

 「先輩、気になりますかぁ~? こうなっちゃうとコーフンが止まらなくなっちゃいますよね~」

 「人が変な性癖を持っているような言い方をするな。まぁ、自分でも細かいこだわりがあるのは自覚しているが……」

 「ア、アヤセさんの性癖はともかく、こんなところに他と違う明らかに不自然な物があると何かあると思ってしまいますよね」

 「アヤセさんって変わった趣味があるのですね……。私も理解できるように頑張ります!」

 「二人共、それは違います。……ノエルのせいで二人に誤解を持たれてしまった。変なことを言わないように」

 「は~い、ごめんなさぁ~い。でも、ノエルは先輩のこと全部受け入れますよ~。何でも言ってくださいね~」

 「……。自分からは、今後余計なことを言わなければそれで充分だ」


 宝箱を回収した後、しばらく急流の轟音を聞きつつ谷底を上っていたがやがてそれは終わる。明るい開けた場所に出た先は、周囲を高い尾根に囲まれた平坦な土地が広がっていた。


 「道が通っている? ……ここは峠?」

 「ワールドマップを見てみたら、どうもここはジュマ山脈らしいぜ」

 「ジュマ山脈だって? しかし、方位を見たところ山肌は()()にあるが」

 「ああ。ドゥ=パラースは()()の斜面に造られた都市だ。つまりここは……」

 「ドゥ=パラースの反対側、そして山脈の反対側……。大陸南部の領域か!」


 ホレイショは破顔して大きく頷く。


 「そうだ。俺達は山脈を越えて、大陸南部への新ルートに足を踏み入れたことになる。攻略勢を出し抜いてな!」

 「ええ~っ! これてってすごくないですかぁ~?」


 文字通り南部攻略の「障壁」となっていたジュマ山脈を越えるルートの発見は、今後のゲーム展開に少なからず影響を与えることを意味している。図らずとも自身らがその当事者になったことに、ノエルが驚嘆するのは無理の無いことだった。


 (エルザ団長も世界地図を拡げていくたびに、こうした誇らしさを感じていたのだろうか)


 エルザの感じていたことを自身の身をもって体験できたことに、アヤセは一人で彼女と一体感を持てたような錯覚を覚えてしまう。しかし同時に、高揚した気分を他の者に知られないように苦心する。そんなアヤセの様子をノエルは機敏に感じ取るものの、この場で問い質すことは控えたのだった。


 「まぁ、最もこのルートの第一発見者は厳密にはエスメラルダ達になるが……」

 「チッ! 坑道の鉱山労働者達を踏み台にした奴等にそんな資格はねぇのにな!」


 ホレイショは心底嫌悪する様子で悪態をつくが、それと同時に肝心なことを思い出す。


 「そう言えばあいつらってどこにいるんだ? そのまま南部攻略に出かけちまったのか?」

 「さすがにこの足で山下りはしないと思うが……」


 遮るものも無く、高山地帯に無遠慮に照りつける日差しを浴びつつ、アヤセは周囲を見回す。辺りはごつごつした岩肌と申し訳程度に丈の短い草が生えている荒涼とした場所であったが、ふと目を向けた先で動きが止まり、そこにあるものを確かめるために目を凝らした。


 「あれは、人!?」


 見ると山の鞍部の真ん中あたりに、地面に前かがみになり膝をついている人の姿が確認でき、ホレイショ達も同様にそれを視認した。


 「確かにそれっぽく見えるが。……とにかく行ってみようぜ!」


 場所が場所なので、遭難者の可能性ある。アヤセ達は急いで斜面を下る。


 アヤセが視認したとおりその場にいたのは人であった。

 この人物は三十代くらいの細身の男性でボロボロのフード付きのローブをまとい、胸の前で手を組んで祈るような恰好をしている。見た目や仕草から修道士を連想させるものだった。


 「大丈夫ですか?」


 容態を確かめるため声をかけるが返事が無い。思わしくないことになっていないか改めて様子を確かめてみるが、血色は良く息もある。


 「目立った外傷等は見られないが何か変だ。ポーションや回復薬が使用できない。それに……、打たれた杭のように動かすこともできない」

 「私の回復魔法も発動しません」

 「まぁ、しかし意識は無い以外は至って健康のようだぜ」

 「……」


 アヤセは、この人物の素性について見当がついている。しかし、何故このような状態でこの場所にいるのかは分からない。疑問を頭の中で持て余し、考え込む中、突然背後から声がかかった。


 「冒険者が二組も来るなんて、今日は本当に珍しい日ね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ