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The end of the world online ~不遇職・アイテムマスター戦記~  作者: 三十六計
第六章_タマモ召喚!

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101_千本松原海岸洞③

 「しかし、茹で芋がこんなに美味いとは思いもしなかったぜ」

 「ホレイショも気に入ってくれたか。これはうちの菜園で採れたジャロイモを茹でた料理だ」

 「見た目は普通の芋なんだがな……」

 「『採れたて』、『茹でたて』を素早くインベントリにしまってあるのが工夫点かな? インベントリに格納すれば、直前の状態をずっと保てるのが利点の一つだ」


 アヤセが休憩のために供出した食料には、ジュイエ特製の洋菓子の他、甘いものが苦手なホレイショのためにアヤセが現状唯一作り出すことができる料理である、ジャロイモを茹でたものが含まれていた。現在その茹で芋を話題として、アヤセとホレイショが雑談を交わしている。


 「当初はこれだけでは味気ねぇと思っちまったが、小腹が空いた時とかには重宝しそうだぜ」

 「丁度今みたいなダンジョン攻略時の合間に、簡単に満腹度を上げるのには都合が良いかもしれない。それにこの茹で芋には、タマモも興味を持っているようだ」

 「タマモって、お前さんが今持っている思念の中身のことだな?」

 「そうだ。思念の色が変わっているのが分かるか? 色が変わっている際は、何かに興味を持っているサインでもあるんだ」

 「お、おう。……いや、済まん。俺には分からねぇな」

 「そうか、タマモは茹で芋に興味津々か」

 「先輩どうしちゃったんですか~?」


 インベントリから出す物を全て出し終え、全員敷物に腰を下ろした後、アヤセがソフトボール大の球体を取り出し、周囲の風景を見せながら何やらぶつぶつと独り言のように語りかけているのを初めて見たノエルとギードは面食らい、かける言葉が見つからず戸惑っていたが、なんとか立ち直ったノエルがホレイショにアヤセの行動について尋ねる。


 「どうも、あれは召喚獣の思念ってやつみてぇで、ああやって普段からコミュニケーションを取っておけば召喚時に何かと有利になるらしいぜ。新しいところに行くたびにやっているから、今では慣れっこになっちまったが、ボールみたいな物体に一人語りかけているのを初めて目にした時には、俺も相棒がどうかしちまったかと本気で心配したぜ」

 「そして、この『タマモの思念』の召喚こそが、自分の『千本松原海岸洞』への挑戦理由だ」


 絹布のような高価そうな布で『タマモの思念』を磨きつつ、アヤセが説明をする。ノエルは、アヤセが手に包み込んだ思念を大事そうにかつ入念に磨いているのを見て、自身でも何故そのような感情が湧いたが分からなかったが、嫉妬心を覚えてしまった。


 「この先のボスがいるエリアの向こう側に、自分が探しているアイテムが入手できる場所がある。これこそが『タマモの思念』の召喚時に必要となる『契約の器+』を強化する際のキーアイテムとなる」

 「それはどんなアイテム何ですか~」

 「ああ、それは……」

 「アヤセの旦那、ちょっと待ってくれやせんか?」


 今まで黙って話を聞いていたギードが口を開く。アヤセ達はこのタイミングで居住まいを正し、会話に割って入ってきたその真意を確かめるべくギードが続きを語るのに任せることにする。


 「すいやせん、勝手に会話に入っちまって」

 「いいえ、構いません。それより何か?」

 「へい、旦那方にお詫びをしなければならなくて……。ノエルの姐さん。まさか、姐さんがお一人であの蟹共と戦うなんてこれっぽっちも思ってやせんでした。あっしが入江の入口に案内しなければあんなことにならなかったのに……。本当に申し訳ありやせん!!」


 頭を地面につけるように下げ、ギードがノエルに詫びを入れる。


 「別にいいんですよ~。ピンチになりましたけど、先輩が助けてくれたし、エスメラルダさん達のパーティーから抜けるきっかけになりましたからから~」

 「そう言ってくれるとありがてぇです。本当にお優しい姐さんだ。……それとは別にアヤセの旦那とホレイショの旦那お二人にも謝らなければならねぇんです」

 「それはどういうこった?」

 「へい、まず、旦那方にこうして同行を許してもらってやすが、あっしは旦那方を利用するつもりで付いてきたんです」

 「どの様に利用するつもりだったのでしょうか?」

 「実はあっしも、この第三階層で手に入れたいアイテムがあったのです。それで、海賊の財宝の話を餌に腕の立ちそうな冒険者に声をかけて、ここまで連れてきてもらおうと考えていたんです」

 「海賊の財宝はガセだったのか!?」

 「財宝の話自体は本当です。ですが、その在り処はあの洞窟の通路ではありやせん。どこか別の場所だと思いやすが、あっしにも分かりません」

 「……」


 (道中で財宝に関する手がかりが一切無かったから、おそらく財宝とは無関係の場所だと思っていたが予想通りだったな。自分とホレイショはそもそも財宝には全く興味は無かったし、フロアボス戦でも、範囲攻撃が存分に活用できる地形だったり、本来ボスに挑戦する際に一切認められていない、参戦システムが何故か生きているというアドバンテージがあったり、そして何よりノエルと合流できたことがあって、こちらとしては感謝ずくめなのだが……。それよりも、ギードさんがこのタイミングでそれを打ち明けた理由を考えるべきだな。まぁ何となく察することができるが)

 

 「おそらく、ギードさんの目的とするアイテムは、自分達のそれと同じだと思われたのではないでしょうか? 『ダンガイイワツバメの巣』をお探しですね?」

 「……! さすが旦那、話が早ぇえ。左様でやす」


 ギードは、自身の思惑を言い当てたアヤセの見解に感嘆の声を上げる。


 「旦那もご存知のことかと思いやすが、燕の巣は珍味として有名で、高級食材として取引されておりやす。あっしが住んでいる集落で出入りの商人から燕の巣と引き換えに養魚場を建てる話が上がりやしてどうしても必要になったんです」

 「養魚場か。上手くいけば安定した食料が手に入りそうだな」

 「あっしたちの集落は、運任せ、自然任せの漁業が全てです。季節によっては全く食い物が取れねぇ日もありやす。養魚場があればそれも解決できるんじゃねぇかと思いやす。……せめてガキ共だけでもいつでも腹一杯食わしてやりてぇ。だからあっしらは養魚場が欲しいんでさぁ!」 


再び頭を地面につける勢いで下げるギード。


 「先輩、ギードさんには色々助けてもらったし、協力してあげましょうよぉ~」


ノエルが口添えするまでも無く、アヤセとホレイショの間ではその切願に対する答えは既に決まっている。


 「頭を上げてください。ギードさんのお考えは自分達にもよく伝わりました。燕の巣を持ち帰って集落の皆さんに安心してもらいましょう」

 「おおっ! 本当にありがてぇです! 第三階層のボスは手強いですがそれを倒して燕の巣を手に入れやしょう!」

 「そう言えば第三階層のボスって何ですか~?」

 「第三階層のボスは『ビッグ・マンイーター・クリフカイト』という鳥のモンスターでやす。空を自在に飛んで地面の相手に襲いかかる凶悪なヤツでさあ。旦那方でも苦戦を覚悟なさった方が良さそうですぜ」

 「え~!? 強そうじゃないですかぁ~」

 「ま、あの鳶は、通常手強い相手だと言われているよな」


 懸念を示すギードをよそにホレイショは、余裕たっぷりにニヤリと笑う。

 

 「自分達も色々情報を収集しまして、対策を立てています。幸いにノエルもいますので、油断さえしなければ撃破するにはそれほど苦労しないかもしれません」

 「は、はぁ……?」

 

 自信ありげな様子を見せるアヤセとホレイショ。これに対し、ノエルとギードは困惑して顔を見合わるのだった。


 ========== 


 =パーティーアナウンス=

 フィールドボスと遭遇。エリア内からの離脱ができません。


 「やはり通路の時とは違い、ここは通常のボス戦のようだ」

 

 海からアヤセ達目掛け一羽の巨大な鳥が高速で飛来する。この鳥こそ第三階層のボスとして恐れられる「ビッグ・マンイーター・クリフカイト」であった。


 この鳥は、翼を広げると全長五メートルに及ぶ鳶のモンスターで、風に乗って縦横無尽に空を滑空して地上の獲物も執念深く追いかけ、尖った嘴がどの様な固い物でも貫通させ、そして鋭い爪は爪先に少し引っかけただけでも金属製の鎧を軽く引き裂き、掴めば重装備の者であっても軽々と上空まで運び去ることもできる。また、羽の先端は槍の穂先のように鋭利であり、地上の敵に向けて大量に降らしてくることも注意を要する。その実力はダンジョン最奥を守るモンスターとしての名に恥じない凶悪なものだった。


 「と、まぁ、これだけ聞くと手強い相手に思うだろ?」

 「実際その通りなのだが、これさえあれば難易度は格段に下がる」


 敵が相手の出方を窺うため上空を旋回している時間を利用して、アヤセはインベントリから大量のアイテムを放出する。


 「これは、ビンですかぁ?」


 ノエルが目にしたものは、大量のビールやワイン等の飲料の空き瓶だった。瓶は何やら細工がされており蓋がされておらず、どれも布きれのようなものが詰め込まれ、瓶の口から布の先端を覗かせている。


 ======================

  【アイテム・特殊】狂気(マッド)の・(マッド)の・火炎(ファイア)(ボトル) 

           品質3 価値1 重量2 生産者:アヤセ 

   特殊効果:ハンドメイド品(転売ロックON)      

   ポテンシャル(1)…火勢の加勢(強)(延焼時間+120秒。100%引火。

          半径3メートルの範囲に延焼。火が非常に消えにくくなる)

 ======================


 「酒場から空瓶を譲り受けて作製したのだが、中に泥炭が詰められている代物で一度引火したら消火に手間取る危険物だ。……手筈は打ち合わせしたとおりだ! ホレイショは粘土格子で防御、ギードさんと自分で火炎瓶に着火、ノエルは風魔法で敵を牽制しつつ合図をしたらスキル【ウィンドブロウ】の発動を頼む!」

 

 アヤセの指示に皆一様に了解の返事をする。それと同時に上空から甲高い鳴き声が響く。それを合図に早速、巨体の鳥は高高度から滑空して地上に固まる四人に攻撃を仕掛けてきた。

 

 「おっと!!」


 アヤセ達の前に立ち、ホレイショが船材の部品である格子を構え、他の三人に飛んできた羽が当たらないように立ち塞がる。ちなみに格子には、取手を取り付け、地面に突き刺して固定化を図れるよう先端に金属製の杭が括り付けられ、また穴が空いている部分は粘土を埋め込んで補強しており、楯としての機能を持たせている(ベン場長の工房にあった廃材に防御性に優れたポテンシャルがあることをアヤセが発見し、楯へと再生利用した。HPが高いがその代わり防御力に不安が残る職業の水兵でも取り扱える代物は、ホレイショが盾役をこなすのに十分な性能であった)。


 ぶすぶすと羽が粘土に刺さり、貫通を防いだため、楯の陰にいたアヤセ達はダメージを全く受けていない。この結果を見た鳶は、羽を大きく羽ばたかせ、生じた小さな竜巻のような風で格子粘土の陰に隠れている敵をその外に放り出し、個別に仕留めようと目論見て、更に高度を下げる。


 「させないですよぉ~!」


 ノエルがスキル【ウィンドボール】を発動し、鳶が作り出した風に当てて勢いを相殺する。「ウィンド」という冠言葉が付いている魔法は、風属性の初級魔法であり、威力や飛距離も上位魔法に比べ物足りないものになりがちだが、基礎レベル50のノエルが放つスキルは、レベルアップで向上したステータス値が上乗せされ、基礎レベルの低い者が放つ下手な上位魔法よりも威力等が格段に勝っていた。

 ノエルの反撃を警戒した鳶は、一旦魔法が及ぶ範囲を離脱し、再度上空を旋回し始める。次の攻撃は高速降下で風魔法の迎撃を躱して接近し、直接アヤセ達を爪で掴むか、切り裂くかをしてくるだろう。だがもう敵に攻撃のチャンスは与えない。


 「ノエル!」

 

 アヤセが短く合図を送る。


 「はいっ、行きます! 【ウィンドブロウ】!」


 ノエルの掛け声と共に上昇気流が発生し、その場の空気が大きく立ち上り始める。このスキルの用途は敵や物体を上空に浮き上がらせることであり、実際に軽い物体であれば相当上空まで飛ばすことができた。


 「上空は安全だという思い込みが、命取りになったな!」


 アヤセはギードと共に着火した火炎瓶を次々と上昇気流の中に放り込む。ポテンシャルの効果で火が消えることなく、火炎瓶は風に乗り、ちょうどアヤセ達の真上にいた鳶の羽に掠って割れる。それと同時に尋常ではない勢いの火が羽毛に引火した!


 「ピ、ピィイギョロオ!」


 一瞬で火だるまになり、慌てた鳶が甲高い耳障りな鳴き声を上げ、上空を無軌道に旋回して火を消そうとするが、その程度でポテンシャルの効果が付加された火炎瓶の火を消し止められる訳が無く、次第に飛ぶ力が衰え、あえなく地上に落下してくる。アヤセはその機会を逃すことなくインベントリから「黒雨の長弓」を取り出し、矢をつがえた。


 =パーティーアナウンス=

 アヤセがスキル【連撃速射】を発動


 狙いすました数多の矢が垂直落下する鳶の身体に容赦なく突き刺さる!

 全身刺さっていない箇所が無いと思わせるくらいびっしりと矢を突き立てた黒焦げの鳶は、地上に落下するなりテクスチャを散りばめ消滅した。



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