100_千本松原海岸洞②
ノエルが発動したスキル【ウィンドカッター】により、致命傷を与えられた敵はまた一匹消滅する。だが、このスキルの発動をもってMPを全て使い切ってしまった。
荒い息遣いのノエルは洞窟の壁を背にしてへたり込む。そんなノエルを追い詰めるように暗闇からガサガサと薄気味悪い音が聞こえてくる。音の主は第二階層のボス「ロック・ジャイアントクラブ」というモンスターとその取り巻きだ。この巨体の蟹は一匹の親蟹が子蟹達を四十匹程度統率し、自身の身辺を守らせている。今まで子蟹を半分近く倒したものの、打たれ弱い魔法使いが一対多数で戦闘を行うにはやはり限度がある。もうノエルには戦闘を続ける余力が残されていない。
孤軍奮闘の報いも全く得られず無意味に死に戻ることになる結果に対し、ノエルの目には涙が滲む。死に戻ったら、そのことをルクレツィアが罵倒し、エスメラルダは鼻で笑い、他の二人がそれに乗じて嫌味を言ってくるだろう。その様なやりとりは、このグループにおいてはいつものことであり、ノエル以外にとって取るに足らない出来事に過ぎない。しかしそれはいつまで続くのか、自分がいつまで揶揄の対象として人格否定されるのか、それを考えると未来に対する希望が一切奪われたように感じられる。
もう、もうこんなのは嫌だ。もう楽になりたい。消えてなくなりたい……。彼女の心に絶望と虚無が重くのしかかる。
ガサガサという音が先ほどより近くで聞こえる。それは子蟹であるということは確かめなくても分かる。親蟹に比べて二回りほど小さいが自動販売機くらいの大きさで「子蟹」と呼ぶには、過分に体格ががっしりしているモンスターは、既にノエルに抵抗する術が無いことを承知しており、彼女の絶望する様子を嘲笑っているかのように、かちかちと目前で鋏を鳴らすだけで攻撃に出るのを控えている。モンスターの悪趣味な挙動はノエルを益々自暴自棄にさせた。
死に戻ったところで辛い日常からは解放される訳では無いが、少なくてもこの戦闘の苦痛からは解放されるだろう。もう、何もかも嫌になった……。
子蟹はノエルの反応を観察することに飽き、引導を渡すべく彼女の目前にいた一匹が棍棒のような鋏を振り上げる。それに合わせ、この場にいる親蟹を含めた全部の蟹達が鋏をかちかち鳴らし始める。ノエルも全てを諦め、目を瞑った瞬間、突然アナウンスが鳴り響いた。
=個人アナウンス=
パーティーID:SMKD 0331から参戦要請が来ています。承諾しますか?
「ノエル! 早く参戦要請の『承諾』を!!」
アナウンスと重なるように蟹の鋏を鳴らす音を全てかき消すような大声が洞窟内に反響する。この声は聞き覚えがある。ラタ森林地帯で自身をPKから救い出してくれた声、そしてまた希望を与えてくれる一番聞きたかった声!
ノエルが参戦要請を承諾すると同時に数多の矢と散弾が敵に命中し、数匹の子蟹が姿を消す。
一方、背後からの不意打ちを食らうかたちになってしまった親蟹は、自身を防御させるため子蟹に対して慌てて集結の指示を出す。
だが、その背後には既にアヤセが到達しており、親蟹がアヤセの存在に気付き、指示の手遅れを悟るのと同時に無銘の刀の抜き打ちが繰り出された。
鞘から抜き出された刀身が煌いた刹那、腹の底に響く、物が芯から断ち切れる音と共に、親蟹の左脚部は残さず斬り落とされ、更に横薙ぎの刀身が胴体に吸い込まれる!
ほんの一瞬で原型を留めないほどに左半身を無残なかたちに変えられた親蟹であるが、何とか力をふり絞り、残った右脚の鋏で打撃を加えるべく、強引に回転の力を頼りに体の向きを変えて振り付けてくる。しかし、鋏の振り回すタイミングを見計ったアヤセの精密な切り下ろしによって、関節部を簡単に斬り落とされてしまった。
最早親蟹は文字通り手も足も出ない。アヤセは最後にプリスの袖で親蟹の口の中に焙烙玉を押し込む。狭い洞窟内では爆風が自身にも影響を及ぼす恐れがあったため、使用を控えていたが、甲羅に守られた親蟹を内側から爆散させる手段としてこれほど適当な物は無かった。
「………!!」
親蟹は何もできず、激しい轟音と共に四方八方に残骸を飛び散らす。爆裂音と飛び散る破片を目の当たりにしたこと、そして何より司令塔である親蟹を失ったことにより子蟹は動揺を見せ、動きがほとんど見られなくなる。残りは烏合の衆に過ぎない。この機を逃さずアヤセとホレイショは残敵掃討に取り掛かる。
鋏をプリスの袖で絡め捕り、ひっくり返した後にホレイショが腹部にカットラスを叩き込んだり、粘土を積み上げ圧し潰したり、固い甲羅をものともせず無銘の刀で真っ二つに叩き斬る等して、効率良く駆除していく。事の終始をノエルは夢でも見ているかのように眺めていたが、掃討は瞬く間に終了した。
「ノエル、無事か?」
全てを片付けたアヤセがノエルのもとに駆け寄り、手を差し伸べる。
「先輩……、先輩っ!!」
感情の昂ったノエルは、溢れ出る涙を止めることもできずアヤセの胸に飛び込み、そして、声の限り泣いた。
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自身の胸の中で子供のように泣きじゃくるノエルに対し、アヤセはそっと頭を撫でつつ、感情が全て吐き出されるのを辛抱強く待った。
彼女が今までどのような気持ちで感情を封印し、明るい振る舞いと笑顔で自分をごまかしてエスメラルダ達と付き合っていたのだろうか? ノエルの上げる心の悲鳴を手に取るように感じ取ることができ、アヤセは心を痛める。
「やっぱり先輩は、ノエルの白馬の王子様です」
大泣きから立ち直ったノエルが、おもむろにつぶやく。
「……それは、買い被り過ぎだ」
「そんなことはありませんよ。だって、いつだってノエルのことを助けてくれるじゃないですか。あの時だって、そして、さっきだって。本当にノエルが嫌だって思っている時に、助けてくれる人は白馬の王子様です」
「……」
「やっぱり、ノエルは先輩のことが大好きです。ラタ森林地帯で出会ったあの時から。この気持ちに変わりはありません」
「……」
「先輩に気が無いのは分かっています。でも、いつか、いつか先輩に助けてもらうだけじゃなくて先輩を助けられるようになって、先輩に相応しい彼女になりますっ!」
「……彼女って気が早いな。自分では期待に応えられないかもしれないのに」
「フフッ、そうかもしれませんね~」
ノエルはアヤセからそっと離れ、にっこりと笑いかける。それはいつもと同じ明るい笑顔で、それでいて何かが吹っ切れたような笑顔であった。
「ですから、これからもノエルに色々教えてください~」
そう言いながら、ノエルは右手をアヤセの前に勢いよく差し出す。
「世話のかかる後輩だ。だけど、自分もノエルから、今後も多くのことを学ばせてもらうだろう。こちらこそよろしく」
そう言いながらアヤセは、差し出されたノエルの手と握手した。
「はいっ! よろしくお願いします~!」
「おうおう、お前さん達、お熱いこって」
「アヤセの旦那もスミに置けねぇですね~」
タイミング見計らったようにノエルがアヤセの胸の中にいる間、上層の偵察という名目でこの場を離れていたホレイショとギードが声をかけてきた。おそらく一部始終を見ていたに違いない。二人は顔にはニヤニヤ笑いが貼り付いている。
「……戻ってきたのだったらさっさと声をかければいいものを。立ち聞きなんて趣味が悪いな」
「旦那ぁ~、人聞きが悪いですぜ。あっし達はたった今戻ってきたところですぜ~」
「そうそう、俺たちはたった今戻ってきたんだよな。勘違いしてもらっちゃ困るぜ!」
「……」
冷ややかな目で無言の抗議をするアヤセを無視して、ホレイショはノエルに快活に声をかける。
「よぉ、ノエル嬢、気分はどうだ?」
「はいっ! 先輩から愛の力を分けてもらいましたからもう平気です~!」
「残念ながら愛の力でHPは回復しな……」
「それと、ホレイショ先輩にもお礼を言わないといけませんね! カニさんをやっつけてくれてありがとうございますぅ~」
「いいってことよ。最も蟹共は、ほとんど相棒が倒しちまったがな。いつもながら惚れ惚れする腕前だぜ」
「感情に任せて斬ったせいか、切り口はいつもに比べて雑になってしまったな」
「あれでか!? ……まぁ、相棒の感情が波立つのもよく分かる。ノエル嬢よ、お前さん、一人で戦っていたのはエスメラルダ達に殿を押し付けられたんだろ? 俺達はそれに腹を立てているんだ」
ノエルの顔が瞬時に強張る。ホレイショの指摘が正鵠を得ていたことを彼女の表情から察したアヤセは、努めて言い含めるように語りかけた。
「ノエル、自分達は『部外者』だから、ノエルとエスメラルダ達がどの様な関係で行動を共にしているかは分からない。だけど、『部外者』だからこそ見えることもある。正直言って連中と一緒にいることは、ノエルにとってマイナスにしか作用していない。連中と距離を置くことについて、できることがあるなら力になりたいから、何でもいいので話してくれないだろうか。……もう、ノエルに先ほどのような目に遭ってほしくない」
「先輩……」
「相棒の言う通りだ。なあ、お前さん達の話を聞かせちゃくれねぇか? そうすれば何か俺達ができることが見つかるかもだぜ」
エスメラルダ達の話題が出てノエルの表情は曇るが、アヤセとホレイショの自身の身を案ずる説得を受けて、大きく頷き決心を示すのだった。
==========
アヤセ達は第二階層を抜け、崖上の第三階層に移動する。
サスペンスドラマのラストシーンの撮影現場になりそうな切り立った断崖絶壁から望む大海は雄大で、遥か彼方には地平線が広がっている。海から崖上に吹き付ける風は、湿った洞窟の淀んだ空気とは比べ物にならないくらい新鮮で、ノエルはその空気を大きく吸い込み、深呼吸したあと、話を始めた。
「先輩たちは『慈聖学院』って学校を知っていますか~?」
「確か、今年で創立百二十周年を迎えると新聞で見た記憶がある。都内にある全国有数のお嬢様学園だったはずだ」
「エスメラルダさん達とは、そこの短大の同級生なんです~」
「そいつは、スゲェな。ノエル嬢も良いところのお嬢ってことか!」
「そ~でもないですよぉ。学校にはノエルのようなフツ~の生徒もたくさんいます。本当にスゴイのは、エスメラルダさんとルクレツィアさんみたいな『プラチナ』のヒトたちです~」
「『プラチナ』だって?」
「はい~。二人は附属幼稚園からずっと進学してきたんです。幼稚園から慈聖に入っているのはスゴイお金持ちなんですよ~」
「……」
「それで、いつも二人一緒のシアンさんとナーカさんは中等部から入学した『シルバー』で、ノエルは高等部からの『ブロンズ』なんです~」
「その言い草だと初等部は『ゴールド』というところか。随分と御立派なランクだな。ちなみに短大からの入学組の呼び方は何なのだろうか?」
「ルクレツィアさんは時々『平民』とか言っていますけど、短大から入った人はそういう呼ばれ方は無いと思いますよ。『ブロンズ』や短大からの入学者はそれ以上のヒトとあまり話すことがありません~」
「どの時点で慈聖に入ったかで親の財布の重さが分かる仕組みになっているってことか。しかしまぁ、何とも露骨で嫌らしい呼び方だぜ!」
ホレイショが吐き捨てるように慈聖生徒の格付制度に悪態をつく。最も、この様なランクシステムは、当然のことながら公式に設けられている訳では無く、外部の人間が面白がってつけたのが事の始まりだろう。しかし、在校年数のみならず実家の資産や社会的地位等が生徒間で公然と共有される風土は、生徒の発言力の大小を決定し、ノエル達のような小グループにおける極端な序列づけにまで影響を及ぼす弊害があるのだろうとアヤセは感じた。
「ノエルは、高等部に入学したときにお友達がなかなかできなかったのですが、エスメラルダさんに声をかけてもらってグループに入れてもらえたんです~。本来だったら『ブロンズ』が『プラチナ』と接点を持つことが無いので、光栄に思いなさいってシアンさんとナーカさんに言われました~」
「実情は、使い走りが欲しかったのだろうけど」
「まあな。パシリ兼弄られ役ってところか」
「エスメラルダさんのお父さんは、旧財閥系の大企業の社長さんで、皆と一緒にノエルも内定をもらって卒業したら、その会社で働くことになっているんです~」
「……」
「このゲームも、エスメラルダさんのお父さんの会社とゲーム会社に関わりがあって、若い女の子のモニターが欲しいからってことで、皆で始めたんです~」
「しかし、他の四人が第三次組でノエルだけ第四次組なのは何故なのだろうか?」
「ゲーム機の入荷が遅れるから、ノエルはお預けって言われました~」
「……」
おそらくこれにしたって、ノエルを後続組にすることにより自らの優位性を確立し、彼女に劣等感を抱かせるためのエスメラルダ流の嫌がらせだろう(更に帝国から王国までの危険な移動(注:28_プロローグ及び47_ノエル参照)を何の支援もせずノエル一人にやらせているのも質が悪い)。ただ、その後ノエルは、連中と合流するまでにアヤセから贈られた「純白のフリルブラウス」のポテンシャルをフル活用した釣りで経験値を荒稼ぎした結果、基礎レベルが50にまで到達しており、連中のそれを追い抜く結果になったのだが、このことはプライドの高いエスメラルダの癇に障ったのは想像に難く無い。
「……事情は大体飲み込めた。就職が絡んでいると、グループから抜け出すのは簡単ではないだろうな。だけどノエルはどう思っている? こんなことを言うのも何だが、このままではこの先ずっと、エスメラルダとルクレツィアの影がついて回ることになる。極端に言えば、生涯連中の小間使いのように扱われるかもしれない。それでもいいのか?」
「実家同士の付き合いとかあったら難しいかもしれねぇが、一回親御さんにも話した方が良いと思うぜ」
「……」
アヤセとホレイショの言葉に、ノエルは下を向き黙り込んでしまう。事が事だけに早々に下せる決断では無いこともアヤセ達は理解している。しかし、このままでは不幸が訪れることが明白なのに何も手を打たないのは望ましくない選択だ。
「……話が変わるが、今内体は何を装備している?」
「えっ……!」
「自分が贈った『純白のフリルブラウス』をいつも着用していたと思うが、何故今は上着をかき合わせて中を見せないようにしている?」
「そ、それは……」
アヤセの指摘で動揺を見せるノエル。更にアヤセは核心に踏み込んでいく。
「ブラウスは、エスメラルダかルクレツィアに取り上げられたのだろう? 価値も高いし、ポテンシャルもある意味秀逸、そして何よりマリーさんお手製のセンスの良いデザインだから、あいつらが欲しがるのも分からなくもない。だが、本当の理由はノエルがニコニコしてブラウスを着こなしている姿が気に入らないからだ。奴らの根底には下に見ている人間が、楽しそうにしているのを絶対に許さないという思考がある」
「……ごめんなさい。ブラウスはエスメラルダさんに渡してしまいました」
「他にも何か取り上げられていないか?」
「他にルピアを貸しています」
「金額は?」
「三十万、です」
「おい、マジかよ!?」
「……!」
想像していたよりも高い金額がノエルの口から出て、アヤセとホレイショは驚愕する。
「よくそんなにルピアがあったものだぜ」
「釣った魚を売ったお金なんですが、エスメラルダさん達はあまりお金が無かったので装備品を買うから貸してって言われました」
「あいつらっ!!」
貸したルピアは、今後びた一文ノエルの元に戻ってくることは無いだろう。ホレイショが憤慨し、感情を吐露した一方、アヤセは黙って耳を傾けるだけに留めたが、内面はホレイショと同じく、はらわたが煮えくり返る思いだった。
「ホレイショが言うように、一度これからのことを早急に御両親と話した方がいい。内定を蹴って、今後就職に何か不利が生じたら自分だって多少は力になれる。……あいつらはノエルのことを決して人として見ていない。だから、早く縁を切った方が賢明だ」
「……」
アヤセ達の説得を受け再度黙り込むノエル。しばらく考え込んでいたが、自分の中で心の整理がついたようで、真剣な顔でアヤセ達に向き直り決意を語り出した。
「決めました! エスメラルダさん達のパーティーを抜けます~。ノエルは元々短大じゃなくて四大に行きたかったです。お父さんとお母さんにも相談しますが、もう、あのグループから抜けて編入学を目指して勉強をしようと思います~」
「四大への編入か。なるほどそれは良い選択だぜ。……短大の進学もエスメラルダの意向に従っていたのか。本当に苦労したんだなノエル嬢……」
「ちょっとぉ、ホレイショ先輩泣かないでくださいよ~! ノエルは、ノエルのことをこんなに親身になって心配してくれる先輩方と巡りあって良かったと思ってます~! ノエルの背中を押してくれて本当にありがとうございます!」
「ノエル……」
「あ、それじゃあ、フレンド削除もしちゃいま~す。それで、パーティー『エスメラルダ&ルクレツィア』はもうメンバーから外されていますから、先輩たちのパーティーに入れてくれませんかぁ?」
「ああ、そうだな。それじゃノエル嬢を招待っと……」
「はい、招待がきました~。これで、本当に先輩たちの仲間になったような気がします。これからもよろしくお願いしますぅ~!!」
パーティー「ID:SMKD 0331」(おそらくパーティー名は、千本(S)松原(M)海岸(K)洞(D)の331番目のパーティーという意味だろう。パーティー結成時に名前を設定していなかったので、このような表記になったものと思われる)。に加入したノエル。これでようやく真の仲間になったように感じた彼女は、誇らしげな顔をしていた。
「それでは、新生パーティーで第三階層のボスに挑むことにしよう。ただ、自分達の本当の目的は、ボスを撃破してからが本番だ」
「本当の目的って何ですか~?」
「それを説明する前に、絶景を眺めながらお茶と洋菓子で休憩しないか? 自分達には少し気分転換が必要だと思うが?」
「あっ! いいですね~。休憩しましょう!」
早速、ギードが目を丸くして見守る中、敷物やティーポット、洋菓子の用意を始める三人。アヤセがインベントリからアイテムを取り出している中、ノエルがおもむろに問いかける。
「そ~いえば、さっき先輩が『今後就職に何か不利が生じたら自分だって多少は力になれる』って言っていましたけど、あれってど~いう意味ですかぁ~?」
「ああ、あれは、もしエスメラルダの実家から妨害があって就職活動に支障をきたすことがあったら、その息がかからない就職先を紹介できるかもしれないという意味で……」
「え~! ノエルをお嫁さんとしてもらってくれるんじゃないんですか~!」
「残念ながら安月給の自分には、家族を養うことはできない」
「カワイイ後輩をその気にさせといて、先輩ったらひどいです~!!」
「だからどうして、そういう解釈になる……!」
「おいおい、相棒、言ったことにはちゃんと責任を持てよ?」
「旦那、男は一度決心さえすれば、後はどうにかなりますぜ」
「なっ……! お前達も無責任なことを言うなっ!」
アヤセが珍しく大声を上げるのを見て、ホレイショとギードが大笑いする。
そして、それを傍らで眺めるノエルの顔にもいつもの笑顔が戻っていたのだった。




