表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

人は一度きりの人生ですけど?

 公園のベンチに腰掛けて、本当に色々なものから解放された私は本日2度目の盛大なため息をついた。

 「あのさ、私が言うのも何だけど、あんたもうちょっと自分の立場ってものを考えた方がいんじゃない?」

 「と、いうのは?」

 「だって、あんたから見たら私は敵でしょ?しかもその本陣に乗り込むだなんて・・・って、あれ?あんた、あそこどーやって入ってきたの?入口IDカードないと入れないはずだけど?」

 何だそんなことかと、ディークは軽く肩をすくめると、どこから取り出したのか一枚のIDカードを私によこした。

 これは?

 「それ、もう用はすんだので、本人に返しておいて下さい」

 見ると、警備部部長なる文字が見える。

 あー、聞きたくない。絶対これヤバいやつじゃん。聞きたくないけど・・

 「いっ、一応聞くけど・・これどーしたの?」

 「そこそこ偉そうな人がいたので、スりました。上の人の方が権限が多いので、色々重宝するかと思って」

 さー、と流れる音が聞こえる。もの凄く歪んだ笑を浮かべた私は学んだ。

 人は、血の引く音が聞こえることを。

 

 警備部部長って、公安のトップやーん。そして国際犯罪組織課(うち)の指揮官やーん。

 これ返すの?ねー返すの?どーやって?同じ部内とはいえ向こうは公安にあるいくつもの課を束ねる、ごっつエリートで雲の上の人でっせ?と言うか、警察幹部だし。

 私みたいな、みそのカスみたいな女が話しかけていい訳?何て?

 警備部長、IDカード殺し屋の男にスられてましたよ。気をつけて下さいね。てへぺろ。

 

 「絶対ムリだー!!」

 「さっきから何をぶつぶつ言ってるんです?」

 頭をかかえ、突然叫び出した私にディークは若干引いた顔を向けてきた。

 「もう、いっそ殺して」

 「・・それは依頼ですか?」

 「うん。ごめん。私が悪かった。忘れて」

 こっちはこっちでシャレにならないヤツだ。


 頭上では雀だか何かの鳥が、ピピピと鳴きながら羽ばたいていった。

 鳥って平和そうでいーわー。

 余程、絶望した顔をしていたのだろう、ディークは苦笑いするとベンチに背を預けると空を仰いだ。

 「何をそんなに悲観する事があるんですか?」

 「もろもろよ!あんたの事がバレたりとか、今後の事とか!」

「そんなに問題ないのでは?僕の主要活動地域は欧米ですし、日本の警察(貴女の所)はそれほどまでに僕を真剣に追ってないのでしょう?そもそも、国際犯罪組織課なんてものは国際社会への関心をアピールする為のもので、もっぱらの仕事は、テロ等の情報収集及び未然防止に向けた対策だ」

 「・・・」

 「本気で僕を捕まえたいのなら、いくらなんでも僕の顔を知らないような人間(坊や)は置きませんよ」

 そう言ってディークはにこりと微笑むが、私はますます引き攣った笑に遠い目になるのが自分でもよく分かった。


 おうおう。よくも人んちの事情をそれはそれは的確に把握しやがって。

 というか、こんだけ言われるってもはや馬鹿にしてないか?とは思うものの、あながち間違っていないところが、問題だと思う。

 そぅなのだ。実際は大層ご立派な課はあるものの、基本国外の事件は火の粉さえ被らなければ、我関せずのスタンスを貫いている。

 しかし、他国のましてや犯罪者にそんな内部のデリケートゾーンを掌握される国っていかがなものなのだい?


 長い長いため息を迷わず吐いていると、隣の男はにこやかに何やら弁当箱らしき物を差し出してきた。

「ともあれ、長居しすぎると日本の警察も動かざるおえなくなるので、3ヶ月以内には僕は去ります。とりあえず、お昼どうぞ」

  

 差し出された弁当箱におずおずと手を出して、蓋を開けると中には美味しそうなサンドイッチが詰められていた。

 開けた瞬間爆発するんじゃないかと、一瞬身構えたのは秘密だ。

 「どうしたの?これ?」

 「作りましたが?」

 「うっそ!プロ並みじゃん!」

 「色々と起用なんですよ」

 

 食べて食べてと、訴える色とりどりのサンドイッチの魔力に争う事が出来ずに私は大口を開けて頬張った。

 「!!!!ふぁにほれ(なにこれ)ふほふおふふう(すごく美味しい)

 「口に入れたまま話さないで下さい」

 飲み込んだ後も美味しさの感動が抜けず、ほわーっとしている私にディークはそれはもの凄くいい笑顔を向けてきた。

 「そんなに美味しかったですか?自白剤入りのランチ」

 「!!!!!!!!、、、え゛?」

 ざーっと血液がすごい勢いで下がる私を横目に、ディークは「くはっ」と、奇妙な声を漏らすと下を向いて肩を震わせた。

 「ははっ、冗談ですよ。貴女本当にいいですねぇ。予想を裏切らないと言いますか・・・あぁ、そんな絶望した顔で見られると、一度殺してみたくなります」

 そう言うや、ディークはひやりと冷たい手を私の頬に当てた。心臓がドキドキと早鐘を打つ。

 

 ときめきかって?断じて違う!!

 リアルに命の危機を感じて、ガタガタ震えながら全力で緊張している。

 そもそも、人は一度しか死ねないからな?一度殺したらそれで終わりだからな?


 「・・っ!あんたが言うとシャレになんないんですけど?」

 「そうですね。大丈夫ですよ。今はまだ生きている貴女を見ていたい」

 そう言うとディークは軽く両手を上げた。


 ねえ?聞き違いじゃなかったら()()って言った?()()って!?

 考えちゃダメよ!私!精神衛生上よくないから!


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ