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料理上手

 「・・・」

 「・・・」

 お互いに無言で見つめ合う事、およそ1分。


 相手に引く気がないと察した私は、うっすらと背中に嫌な汗をかき始めていた。

 だいたい、何で殺し屋で、ちょっといい男で、すごい料理上手な男にそんな事を追求されなければいけないんだ?

 あれ?悪口にならなかったな。


 何だか、今更それはチャーハンです。とは非常に言いづらい。

 白状しよう。

 自慢じゃないが私は料理が大の苦手だ。

 苦手と言うのを通り越して、もはや逆に才能なんじゃないかと思う。

 どのくらい才能かと言うと、高校時代同じ部活の先輩にバレンタインのクッキーを友人達と手作りして差し入れることになったんだけど・・・私のクッキーの出来上がりを見た友人達の絶句した顔は今でも忘れられない。

 友人は、同じ作り方をしていたはずなのに、何故⁈と首を傾げていたが私が聞きたい。

 

 その後、部活に差し入れられたクッキーは見事に私のだけ避けられました。

 それでも、強者はいるもので、私の作ったクッキーをお情けで一つかじってくれた先輩がいたのだが、その後謎の体調不良を起こし、三日間学校に姿を見せなかった。

 ねー、クッキーって小麦を練って焼くだけのお菓子だよね?体調不良の布石ってどこにあるの?

 

 それでも私は、手作り料理なるものに憧れがあるのか、よせばいいのに隙あらばこうしてチャレンジしていたりする。

 深層心理でいうところの、幼少期に母親のご飯を食べれなかったお袋の味への憧れなのかもしれない。


 兎にも角にも、そんな私が作ったチャーハンが、今、目の前に犯罪の証拠のごとく鎮座している。

 気分は言い逃れの出来ない犯罪者だ。


 あれ?

 立場逆では?

 現実的に考えて、本来ならこちらが断罪者だろう。

 

 「あのっ・・・」

 「何です?」

 「・・・・。」

 くっ、怯むな自分、思い出せ立場!!


 「まさかとは思いますが・・・本当にスライ・・」

 「いや、それチャーハンだから」

 「・・・・・はい?」

 しまったーーーー!!

 いや、別に隠すほどの事でもないんだけど、何となく口が滑った感が否めない。

 

 ディークは眉間に皺を寄せると、僅かに首を傾けた。

 「・・・チャーハン?僕の想像している中華料理は日本人のそれとは違う物なのでしょうか?」

 いや。多分同じだと思う。

 そんな難攻不落な問題を前にしたみたいな顔しないで欲しい。


 「悪かったわね。料理が下手で!!」

 「・・・料理が下手・・じゃあ、これはれっきとした食べ物なんですね?・・・」

 食べ物である事からの確認って・・・。

 あー。これはいよいよ可哀想な子を見る目ですね?旦那。


 「別にいーでしょ!?自分1人が食べる分には誰にも迷惑かけてないんだから」

 「その口ぶりですと、既に誰かが犠牲に?」

 「・・・」

 おい。こら。犠牲って言葉、殺し屋(あんた)に言われたかないわ。

 

 私は、軽く肩をすくめると素知らぬ振りで、焼魚に箸を伸ばした。

 あー。ちゃんとした焼魚が自宅で食べれる日が来るとは。なんて、感動の波に溺れていると、いつだって現実は突然で

 「死んだんですか?」

 「ぐふっ・・!?」

 突如として、物騒な発言にもちゃんと飲み込んだ自分は偉いと思う。

 「やめい!!高校時代にお菓子を作って、ちょーっと体調不良を起こした先輩がいたけど、死んでないわ!!」

 「お菓子・・?ちなみに何を作ったんですか?」

 「えっ?ごく一般的なクッキーだけど?」


 ディークは形のいい顎を指で挟むと、ふむ、と首を傾げた。

 「クッキーで体調不良の布石ってどこにあるんです?まだ、炭になって食べれない方が理解出来るのですが?」

 それな。うん。私も不思議に思ってるよ。

 

 思わず「ゔっ」と怯むと、何を思ったのかディークは何の迷いもなく、引き出しから箸を取り出した。

 「えっ、ちょっと待って!?今更だけど何で箸とかの場所知ってんの?」

 すると、ディークはそんな今更な事かと呆れた顔を向けた。

 「盗聴器や武器の把握は昨夜の段階で調べは済んでますが?・・・あー。ちなみに昨日僕に向けたベレッタ()は手入れしてあります。ただ、個人的な意見としては、非常事に玄関に置くなら、女性ですしもう少し軽く扱いやすい・・」

 「ちょっと待てい!!」

 言い終わらないうちに、私はガタンと音を立てて勢いよく立ち上がった。

 いやいや、本当にちょっと待て!調べるって、調べるって・・・

 

 「あんた、私のクローゼットも開けたの?」

 下着とか見られた?見たのか!?

 「ええ。もちろん確認済みですが?」

 「・・・」

 雨の日は傘さしますよね?的な当たり前の事を指摘しているような口ぶりに、ぐらりと眩暈がした。

 少しは悪びれようよ?そんな常識じゃん?みたいな顔されても困るんですけど?えっ?何か?私の感覚がおかしいのか?

 そもそも殺し屋と食卓を囲んでる段階で、私がギルティな(悪い)のか?えっ?ちょっと待って?混乱してきた。


 そんな心の葛藤を他所に、目の前の殺し屋は麗しい微笑みを浮かべた。

 「案外少女趣味なところもあるんですね?()()()()と」

 お前は間違いなくギルティ(有罪)だぁ!!!!

 

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