自殺志願者は異世界転生の夢を見るのか
転生トラック。某小説サイトで物語の導入装置として一役を担う傍迷惑な総称。あるいは物語の魔王より余程主人公を屠ってきた舞台装置の名だ。
そして、その存在がまことしやかに囁かれたのは、皮肉にも自殺志願者の集う掲示板だった。男が見つけた内容は、金曜日の夜、22時22分丁度に富士の樹海前、国道139号を走る真っ黒なトラックに轢かれれば転生が出来るという内容だ。
馬鹿らしい。そう思いつつも、男は端末で山梨県の事故歴を調べる。当然に該当しそうな案件は無い。
だが、男はそれでも良いかと金曜日の夜を人生最後の日として決めた。
そもそもが、良い自殺の方法などを検索するような男だ。きっと彼はもう疲れきっていて、転生など出来なくても、その生を終わらせるだけで満足だったのだろう。
かくして、男は富士の樹海へと足を運び、なんの因果か黒いトラックを発見し。
おそらくはその人生で一番の勇気を振り絞り、その人生を終わらせた。
彼が最後に見た光景は、眩いばかりの光であった。
「さぁ貴方はどんな世界に行きたい?どんな能力が欲しい?望みのままに与えてあげるよ」
女は優しく問う。彼女は神ではないが、ある意味は救世主だった。
救世主は轢き殺すなんて野蛮な事はしない。そんな事をしたら大事な脳が破損してしまうからだ。ただ攫うだけ。そう、男は事故歴ではなく行方不明者数を調べるべきだったのだ。
人間の五感など所詮は電気信号。あるいはそこに芽生える自我や感情すらも火花にすぎない。ならばと女は考えた。五感に相当する電気信号を脳が受け取ったらどうなるのかと。
(ははは。嘘だろ。俺は本当に転生をしたのか!?ステータスオープン!)
その答えは男が知っていた。その世界は1と0が作り出す電気の世界。ゲームというには息遣いすらも感じる仮想現実。惜しむらくは、どこまで行っても現実足りえない、究極の夢。
男であったものは無事に転生をして第二の人生を歩みだした。
女は観察する。水槽に浮かぶ電極の刺さった脳が見る夢を。
「被検体4582号は無事に異世界を満喫しているようだな」
3年後。世界初となるフルダイブVRゲームが発売される。それはまるで、転生したと感じるほど、リアルな世界であったとか。
それが謎の失踪事件と関係があるかは誰も知らない。