迫る危機
「わいをこんなところに連れて来るとは、万死に値するぞい」
評議会から、ライルの監視の役目を依頼されたのは、古の八百万の神と言われる存在だった。
リニアモーターカーの技術が確実な物になってからは、上位世界では、誰でもが宇宙に気軽に行ける技術を手に入れていたのだ。
それからさらに発展して、生まれたばかりの恒星を支配するまでになっていた。
それとは対照的に、化学では証明できない神秘の技を持つ独立国があったのだ。
神、怪しと言われる存在に祈りを捧げ、依代から魂を分離させて対象者に取りつかせ、自由に操ると言う術である。
その力を手に入れる為に、何人かの世界屈指の富豪達が挑んだが、皆、不審な死を遂げていた。
それからは、法外な金額でこの豊葦原之国に依頼した者が、地上世界を牛耳ると囁かれるようになったのだ。
しかし、世界には地上があれば天上も存在する。
そこには、上皇人と言う一握りの超人類が頂点に君臨していた。
全身から光りを発する、ハイスペックな上皇人は、すでに対策を立てていて、神秘的な妖術を排除する装置をとうに開発していたのだ。
そう言った理由で、流石の和製狛犬も上皇人のスペースシップに乗船する事が出来ず、ライルからすっぱり離れるしか道はなかった。
諦めて別行動を取った迄は良かったが、まさか、そのまま移動するとは夢にも思わず、近くに居た四本足の獣に憑依して、この町の前までやっとたどり着いたところだったのだ。
「逃げようとするとは、迷惑な奴だぞい」
魂のままでは、勝手に帰る事も出来ず、どうしてもライルが持っている非常通信装置が必要である。
「サッサとそれを奪って、アイツを……」
―失敗すれば死を―
それが依頼の内容だ。
連れて来てくれた四本足の獣から離れて、町の中をふよふよと飛行する。
すると、こちらに走ってくる男がいて、それは、偶然にも探していたライルだった。
「よし! はやいところ乗り移って始末するぞい」
ところが、見えていない筈なのに、堅いオーラにはねとばされて、誤って知らない者に取りついてしまったのだ。
それは、ライルから身を隠していた肩揉怪獣を押し付けた男だった。
「丁度いい、こいつの体を使って出て来たところを探してみるぞい」
道を辿れば、通りの並びに安宿の看板があった。
そこに予想して入ってみたのだ。
「オヤジ、今しがた出て行った若者に、貸した物を返してもらう約束なんだぞい。部屋を教えて欲しいぞい」
ポケットから一番安い硬貨を渡せば、「面倒事は困る」と言って部屋を指差した。
*
『ここか?』
賑やかな通りに、ひときわ大きな縦長の店があって、ライルでもすぐに大棚の小間物屋がわかった。
「随分賑わっているな」
世話しなく荷を運び出す男達は、大柄で体格がいい。
しかし、気安く声を掛けられる雰囲気ではない。
と、そこに店の店員らしき女性が、客の忘れ物を届けに出て来たのだ。
タイミングを見計らって、挨拶をして足止めする作戦にしよう。
「ハイ、そこのお嬢さん。『ディミトリ』って男に知り合いはいないかな?」
「ハーイ、イカしたお兄さん。商人がタダで情報を教えると思っていたら、浅はかね」
肩越しに髪を払った仕草が、彼女がサッパリした性格だと告げている。
「綺麗な顔してキツいんだな」
「まあ……そんなんじゃ騙されないわよ」
顔を隠しながら言っても説得力がないな。もう一押しだ。
「それじゃあ、ご馳走するよ。今日、仕事終わった後どうかな?」
「ん~、考えとくわ」
「じゃあ、後で」
「しょうがないわね。ふふ」
容姿だけはマシな部類で助かったな。
とりあえず、ラキに何か買って行ってやるか。
彼女、断らないところをみると、かなりの情報を持っていそうだ。
これで、どうにか足取りが掴めるだろうと、楽観視していた事を覚えている。
ラキと肩揉怪獣のイメージ画は、活動報告に載せてあります。興味のある方は覗いて見て下さい。(o≧▽≦)ノ