山が割れる
「婆さん、大丈夫か?」
駄目だ。気を失っているみたいだな。
「ライル、あたいが運ぶよ」
頼りがいのあるニーアが、倒れた婆さんを新しい村まで担いで行った。
「馬鹿力だな」
「ライルゥ、終わったあ」
代わりにちょこちょこと走って来たラキ。
そして、その後にデデーンと腕組みして並ぶモーラ達。
「よく頑張ったな、ラキ」
両手をこちらに上げているから、抱き上げて怪我を確認したぞ。
どうやら、髪がくしゃくしゃになっているだけで、後は、万能スーツが治癒してくれたようだ。
「そうだ! ディミトリはどうしたかな?」
「知らな~い。モール?」
ガシャガシャと鱗がうるさいな。
えっ? モール?
聞き間違いだな。
そろそろ、私の脳がスパークリングしているのかもしれない。
リーダーが紅で他にも蒼や藻なんかの鱗の色がいるな。
「ライルゥ、デミ、あっちに行った」
ラキのハネ髪が、ピョコリと立ってから教えてくれたが、まさか、アンテナじゃないよな。
婆さんの事を話さなければと、考えなしに追いかけたぞ。
「ダボッチ山って事は、町に行くつもりか? あいつ」
ゴゴゴーッ。
「うわっ、地震か?」
暗闇迫る中、ゴロゴロと岩が崩れた振動もして、驚きで足が止まったな。
「ハハッ、これでどうだ! 俺様は、最強だーっ!」
割れた崖の間から漏れた光りは、空まで照らして、大きな影を私達に落としたんだ。
「ライル、どこだーっ!」
頭上から、わんわん響くダミ声。
「あれ? コレ、死んだか?」
「ィヤーー、ライル、ラキ、モール一緒!」
半ば冗談で言った言葉にラキが大袈裟に反応して叫んだ。
すると、男の声を確かに聴いた。
「叶えよう」
それから、いったいどうなったのか……。
流れに身を任せるしかない程、もみくちゃにされて、気づいた時には、手足のゆび五本にリングを装着されて、色のない空間に浮いていた。
「何処なんだここは?」
「ライルゥ、ライルゥ、ライルゥ」
「そうだ、ラキは、何処だ?」
「ラキ、一緒」
この捕らえられた空間から、ダイレクトに骨に伝わる声。
「ラキなのか?」
「俺様に戦いを挑むってか? 上等じゃねぇか」
今度は、ディミトリの声だ。
突然、ゴーグルのような物をかけられて、視界がひろがった。
目の前には、巨大化したディミトリが、プロテクターのような物を装着した姿で構えていた。
その脇にモールだかのガイドが解析されて表示されている。
『まさか、まさか、合体したとか? 私がオペレーターとかか?』
ドクンと身体中を流れた恐怖。
これは、私ではなくラキの気持ちか?
「こねぇなら、こっちから行くぜぇ」
力を溜めてから跳躍して、襲いかかるディミトリ。
反射的に、ファイティングポーズからのジャブを繰り出すが、腕みじけぇ。
簡単に捕まり、振り回されて投げ飛ばされてしまった。
『うう、う』
もんどり打って、背中を強打したか?
ラキの苦し気な声が伝わる。
が、ディミトリは、今度は、馬乗りになって殴ってきたのさ。
「オラ、オラ、オラ、オラーッ!」
『ぃたー、ううっ』
くそ、このままでは、ラキが痛い思いをするし、我慢するから、余計に辛そうだ。
しかし、この魔物の手足が短くて、喧嘩慣れしているとは言え、いつもの動きは難しそうなんだ。
パシッと、殴るディミトリの両腕を掴み止め、解析されたゴーグルの端を見れば、デビルアイからリキッドと示されていたんで、迷わず指示したさ。
プシャっとディミトリの目に直撃だ。
「グゥ!」
顔を手のひらで覆い、後退ってくれたぜ。
「デミ、許さねぇぞ」
怒りMAXで、反撃してやる。
短くても面積の広い足裏で蹴りの連発。
おまけに、捻れば、突起のついた重い尻尾までもが、ディミトリの身体を引き裂いた。
「汚ねぇぞ! 目潰しなんかしやがって」
結構、爛れてんな。
デミの奴、目だけ出た兜メットしてやがったから、してやったりだぜ。
「悪いが、攻撃されたくないんでね」
「その声は、ライル! てめえかよ」
蹲っていたデミの身体から、蒼白い閃光が散って、闇雲に放電しやがった。
どうにも、逃げ足が遅くてかわしきれずに喰らってしまったが、土の魔物だからなのか、鱗から地面に流れてダメージはなかったのさ。
『フゥ、土の魔物で助かったぜ。これ以上、ラキに痛い思いはさせたくないからな』
その瞬間、みなぎる力。
モール達だな。
それで、何か一撃必殺はないかと考えると、出ました『対敵刺』。
どうやら、一押しらしいが、これを見舞ったらディミトリの奴死じまうんじゃないか?
しかし、高まり続ける闘士。
モール達も、ディミトリの奴に鬱憤がたまっていたんだな。
そうは言っても、もう少し穏やかな奴はないのか?
『刺乱打』
『爪串刺』
『投力刺』
どれもエゲツないぞ。
仕方ない。
お勧めの『対敵刺』を指示。
すると、背中を丸めた巨大モールは、そこにあった鋭利な鱗を射出した。
楓の葉のように尖った形のものが、トスッ、トストストスと地面に刺さり、デミの背中にも斜め掛けするように刺さったのさ。
「ウギャー、イテェ」
あいつ、生身での巨大化なのか?
まあ、装具をさっき尻尾で粉砕しちゃったからなぁ。
パワーは、私の力に寄っているのか、破壊力が壮絶なんだよ。
「イテェ、イテェ」
血を流しながら、転げ回るディミトリ。
ドクン。
ディミトリ相手に感じた事のない憐れみの気持ちが伝わってくる。
ラキの気持ちだ。
私が戸惑っているうちに、ディミトリの体は小さくなっていて、側にはやはり、あの男が立っていた。




