黒山
「キャー」
「みんな逃げれーっ」
若い女性何人かとすれ違ったぞ。
逃げる者がいる中、ニールと呼ばれていた取り巻きの一人が、立ち止まって声を掛けてきた。
「あんた! 強ぇんだろ? あれを何とかしてくれや」
そう言われても、アレって何だ?
取り巻き連中が、普段からたむろしている食堂のような広場には、特に何も見当たらない。
すると……。
「テッテケテー」
黒い虫が、列をなして横を通り抜けて行くじゃないか。
「何だいこれは?」
ニーアは、出会った事がないのか、テッテケテーを知らないようなのだ。
「テッテケテーと言って、魔物を操ったりする虫なんだ。ラキがよく集られていた」
「ラキに? じゃあ、この先にラキが! 急ぐよ」
またラキが狙われているのか。
『自分が狙われているなんて、なんで思っていたんだ私は』
今さらながら、己の勘違いに呆れた。
村で襲われた時、隣りに居る筈だったのはラキじゃないか。
「フゥ」
テッテケテーをニーアと追う後ろからは、村長の取り巻きのニールが叫んできたんだ。
「俺は、あんたを応援するかんな」
「何だあいつ?」
調子のいい奴め!
自分への苛立ちもあって、更にムカついたぞ。
「ライル、見て!」
ニーアの指差すところには、なんと、カビが生えたような黒山が出来上がっていたんだ。
「フゴゴーッ! 誰かあ~」
ゴロゴロゴロゴロ。
あの変わった叫び声は……。
模様の美しい壺に入った村長が、黒山からこちらに転がってきたようだ。
「おい! ラキは何処に居る?」
それを足で捕まえて詰問する。
「う~ん、ラキ? そんな者知らん。それより、わしを助けんかい!」
どこもかしこも揺れていて腹が立つ。
イラッとして、そのままカビの山に蹴り返してやった。
「ンガゴーッ」
「ライル、何を遊んでいるんだい! ラキは、この中なんだろう?」
「コイツらは、払っても取れないんだ。このまま突っ込んで、ラキを救出する」
万能スーツを操作して、顔までのマスクを出して準備した。
「ニーアは、ここで待機していてくれ」
「頼んだよ」
「ああ」
テッテケテー、テッテケテーと、何処からこんなに集まってくるのか。
「ラキー! 何処だ」
カビの黒山に突っ込めば、村長の家だったのかそのままぶち壊して侵入してやった。
「ラキー!」
中にもギッシリ詰まっていて、マスクをしていなかったら、口に入っていたな。
それに、視界はゼロだ。
「テッテケテーをかき分けて進むしかないか」
破壊して進む度にガシャン、パリンと何かの割れる音がするが、知ったことじゃない。
「ラキー!」
上から、ドスンドスンと音がする。
「上か?」
泳ぐように向かえば、くぐもった声と、何かがもがいているような音がして……。
「ここか? ラキー!」
「ペッ、ペッ。来んな!」
「ディミトリ、そこに居るのはディミトリか?」
「ああん? 気安く呼ぶんじゃねぇ」
私は、その辺りに蹴りを入れた。
「ガハッ、何しやがる!」
「テッテケテーのせいで、力が緩和されたか」
「何しやがる! ペッ、ペッ」
フッ、口に入ったのか、ザマア。
「ディミトリ! ラキをどうした!」
「ん~、ん~」
と、微かに可愛い声がした。
「ラキー! 無事か?」
手探りで下の方を探すが、テッテケテーの潜り込む勢いも凄くて追いつかない。
仕方なく、手近にいたディミトリを掴み、無理矢理振り回してみる。
中々動かないが、壁に穴を空けて侵入したのが良かったのか、テッテケテーの入り込む密度は固くはない。
ディミトリの足が、部屋の壁を壊したところで、漸く振り回す事が出来たんだ。
一度でも振り回せれば、風圧も出来て部屋の中が見えてきた。
するとラキは、床にうつ伏せになっていたようだ。
私は、ディミトリを放り投げて、すぐさまラキを救出したさ。
手足だけじゃなく、口まで縛られていたからこんな事になったんだな。
「来るのが遅くなった。大丈夫か?」
「う~、やっ!」
ラキの胸が緑色に光り、テッテケテー達が霧散していく。
「ラキ、その胸の雫石は何なんだ?」
「ん~、これ?」
ラキが胸から出したら、また凄い勢いでテッテケテー達に襲われたよ。




