アルセルゴの町
検問所では三人程の兵が入場者の対応に追われていた。
ラキは、緊張して私の足と一体化しているな。
順番が回ってきたんで、人探しの依頼状を提示した。
「三日間の滞在を許可する」
「ありがとうございます」
依頼状に日付とサインをもらって受け取ろうとすると……。
「どうした? 仕事で使うなら入料を払いなさい」
「!」
しまった! 金の粒しか持っていないぞ。
「早くしねぇか!」
後ろに並んでいた大荷物を持ったオヤジに怒鳴られて、慌てて一粒渡す。
「麦は持っていないのか?」
「麦?」
兵同士で相談している。
そこに、後ろの男が声を掛けてきた。
「兄ちゃん、この肩揉怪獣を買わねぇか?」
「えっ?」
『肩揉怪獣:肉球を使って凝りを解す使役獣』
万能スーツのナビの説明だ。
「坊主、可愛いだろう?」
「チィチィ」
ラキは、手のひらに渡された小さな獣を食い入るように見詰めている。
そして……。
「ライウゥ」
大切そうに肩揉怪獣を胸に抱いたラキが、物言う瞳でヒタと見上げてきた。
「その金、一粒でどうだ? なんなら、通行料も払ってやんぞ?」
「ん~、ライウ?」
「フゥ、負けた」
ラキの頭を撫でてやり、後ろのオヤジに金を渡した。
「へへ、まいど」
黙って見ていた兵が、依頼状を突き出して渡す。
それを受け取り、やっと町に入れたよ。
「しかし、仕事の利用料を取られるとは……」
「……」
喜んでいたと思っていたのに、何だか元気のないラキ。
「どうした?」
良くみれば、肩揉怪獣は眠っているのではなく虫の息だった。
「あのオヤジ! 何処に行った?」
騙すつもりの奴が、おとなしく歩いている訳がない。
「うぅっ」
ラキの悲しい声。
仕方なく医者か薬屋を探す破目になってしまった。
万能スーツのナビに問えば、ギルドに行くのが一番早いそう。
ついでに、背負っていた荷物の奇蹄鉄災の鎧を全部売ってしまおう。
「これはもう、高価な『清清慈雨』を使う他に手立てはないでしょう」
『清清慈雨:高価な治癒薬』
ギルド職員にそう説明されてしまい、ラキは唇を噛んで耐えている。
そしてその『清清慈雨』は、ここには売って無いそうだ。
ギルド加入料を支払う為に、奇蹄鉄災の鎧を売り払ってしまう。
手入れ無用な素材で、案外高値で売れたようだ。
それから、安宿を教えてもらい直行だ。
兎に角、ラキと肩揉怪獣を置いてこないと身動きが取れない。
宿代を払って部屋に入った後は、一か八か、あの方法を試すしかないか。
ラキの、万能スーツを脱がせ、予備のシャツを着せておいて、それに肩揉怪獣をくるんで寝かせておく。
「ラキ、もうこれしか方法がない。後は、こいつの生命力次第だから、このまま見守ってあげなさい」
「うぅっ」
詳しくは理解していないだろうが、人探しも三日しかないのだ。
「ラキ、おとなしく待ってろよ」
「ライウ?」
依頼状を見せて、辺りを見回す仕草でなんとかわかってくれたようだ。
少しの間だから大丈夫だろうと、私は村長の息子が修行に行った大棚に話しを聞きに出掛けた。
*
「やっと追い付いたぞい。まさか、上皇人のスペースシップに入ってしまうとは……やれやれ、面倒な奴だぞい」
遡る事半年前。
争い衰退するばかりの異世界をもてあましたヴィズダム王は、いっそ指導者でも送ってしまえと、皇太子に厳命した。
疲弊した文明の低い異世界になど、誰も行きたがる者はおらず、人選に苦慮していたところだった。
そんな時、命の恩人だと乳母が若者を連れて来たのだ。
調べてみれば、ゴミのようなクズだった。
こんな者は、この世界に不要と判断し、丁寧にもてなしてから上手く持ち上げて、指導者役を押し付ける事にしたのだ。
が、乳母の手前、最高の贈り物として装備品を取り揃え、サバイバル術のレクチャーもサービスとして付けてやった。
乳母は、とても感謝して喜んでいたようだ。
それなのに、評議会の奴等は納得せずに、余計な監視者を寄越してきて、本当に面倒でしかない。
だが、あの間抜けな男のお陰で葬る事が出来た上に、誤って転落したと乳母に伝えたところ、悲しみ責任を感じた乳母は、代わりに孫を推薦してくれたのだ。
これで、皇太子としてのメンツは保たれ安泰である。
ただ……。
ここのところの王の様子が少しおかしい事が気に掛かるのだが。