壁の向こう側
その頃、ハーストは……。
「怪しいと思えば、皆が怪しい」
狩りに行かされたついでに、草むらに隠しておいた皮袋の水を飲んだ。
「まったく、あいつ等は、酒を飲むからいいけど、俺は、水がないと困るんだよ!」
誰にとはなく、苦情を叫ぶハースト。
その、ハーストが出て来た壊された壁の向こう側からは……。
*
「このままではいかん。いや、まだ大丈夫だ。私は、やれている」
ニヤリと笑う顔が映る趣味の器を磨きながら、自分を鼓舞する者がいた。
『どこからだ? いつから、計画は、狂い始めたのか』
ダボッチ山を讃える為に造らせた(表向き)、灯籠の周りをセカセカ歩き回る男は回想していた。
『未発達の世界を掌握し、アレを封じ込め、わざわざこの日の当たらない場所に村を作った。そこまでは、上手く行っていた筈。だが、あの黒い虫の始末に追われている間に……』
ガッシン、パラパラ。
「しまった、せっかく造った灯籠を粉砕してしまったか」
粉々にしてしまった石の欠片を拾い上げて、ホゥと笑う。
「成る程、そう言う事だったのか」
男は、踵を返した。
「そろそろ潮時かもしれねぇな?」
昨夜から仲間内と呑んでいた男は、酒の瓶を置いた。
もう、起きている者もいない、仲間は、おもいおもいの場所で、転がっている。
『賢く立ち回らなけりゃな』
が、もう一人、酩酊してはいるが、起きていた者がいた。
『心配だなや。いつまであるんだか。そだ、後でこっそり集めておけばいいだ……な……グオー(いびき)』
掃除の行き届いた整理整頓された部屋では、何かを書いている者がいた。
「昨日も、誰にも見られず、誰にも知られなんだ」
こんな辺鄙な村には珍しいペンを置いた。
そして、満足気に腕を組んだのだ。
慌ただしい朝が終わり、仲間内で房で採れた果実を食べていた。
「これから、どうなるだ?」
「家族が心配で」
「シッ! 黙って」
若者等が、ヒソヒソと心の内を語っているのを、古参の者が静止した。
どうやら、特等席に座る者を気にしての事のようだが、その者は、深く考え事をしていて、それには全く気付いていなかったのだ。
『都合よく死んだものと思っていたが、しぶといのう。それにしても、まさか、手の者に殺されかけようとは。何の因果か……』
思わず苦笑を漏らした事にも気付いてはいない。
ただ、その場で果実を食べていた者達が、その実を落として震えていただけだった。
と、心に一物を抱えた者達が巣食う壁の向こう側。
ハーストでなくても、逃げたくなるに違いない。




