ラキの気持ち
あそこで真っ黒い奴にベロベロされているのは……ラキだな。
ベトベトにされたのに、それも楽しくて仕方ないって顔して無邪気に笑っている。
「他の者なら即刻処分だが、ラキなら特別赦す」
上皇人にも気に入られて、可愛いがられているようだ。
その様子に、もっと幸せにしてやりたいと言う気持ちが増すばかりだ。
ダボッチ山を越えてエッテ川を渡ればアルセルゴの町はすぐそこに見えるそうだ。
オート管理のスペースシップは、目的地到着のお知らせを光りのパルスで知らせてきた。
「到着したか。ラキ、我と行かないか? 決して不自由はさせん」
上皇人の何度目かの誘いに、悩みながらも私と一緒がいいと伝えるラキ。
「ライウいるー? ラキいる」
「ガウガウ、クマクマ」
また、クマクマ言ってるよ。あれ、中は人かな?
「マーちゃん、わかってる。ラキは、あの者を慕っていると言うのでしょう?」
「ンーマッ」
正式名は、鮭好魔熊と言う凶悪顔の岩のような魔物だ。
それが、上皇人の頬をベロンと舐めて、上皇人も蕩けそうな顔をしている。
「慰めてくれるなんて、マーちゃんは優しい……」
真っ黒な魔物と、煌めく上皇人のからみ……。
『胸くその悪い光景だ』
私は、それをかろうじて我慢する。
「ラキ、おいで。さよならだ」
こちらに来たと思ったのに、また上皇人の元に戻って、頭をぐりぐり擦りつけているラキ。
『名残惜しいのか』
「ラキ……。元気でいるのだぞ」
「ケエー、クウ」
上皇人と鮭好魔熊の名前らしい。
そう言って手を握ったり開いたりして、ラキなりのさよならをしたようだ。
それから、トスッと私の足にしがみついて顔を隠してしまった。
すると、周囲に歪みが生まれスペースシップは直ぐに、我々二人を外の目的地前に移してくれたようだ。
「あー、肩が凝ったー」
トントンしてみせたが、ラキは何も見えない空をジッと見詰めている。
可愛いがってもらった記憶のないラキからしたら、夢のような時間だったんだろう。
考えたら、上皇人の側に居た方が不自由なく幸せでいられたのかもしれない。
なのに、連れて来てしまった。
『少しの罪悪感』
「ラキ、淋しいか?」
「うー、ライウ……」
胸を押さえてみせるラキ。
「それを、淋しいって言うんだよ」
「さび……い」
ラキの小さな呟きは、「ビー、ビー」とレベルアップの音に掻き消されてしまった。
『貴方の能力のミッショナリーがレベルアップしてスコラーに変わりました』
町の脇にある死角に降ろされていたので、目の前の道を行き交う様々な人を観察して、万能スーツを、旅人達の服に似せるように変化させてから道に出た。
「ふぁ……」
門の上にまで居並ぶ兵。
それに、かなり立派な石造りの門だ。
見るのも初めてなラキは、淋しさを忘れてしまう程の驚きで立ちつくしている。
『フッ、子供だな』
「ラキ」
荒れてゴツゴツしていたラキの手は、万能スーツのお陰ですっかり子供らしい滑らかな手だ。
その手を取って、いざアルセルゴの町の門に足を踏み出した。
*
昨夜は、万能スーツに能力の説明をしてもらっていた。
最初のミッショナリーとは、自分の知識を教え広めるとレベルアップする仕組みで、能力としては、旅人扱いの口の上手い者程度だそう。
なんとなく腑に落ちる。
今のスコラーは、仕組みは同じだが能力としては、少しは人々に尊重してもらえて、説得力が増す程度のようだ。
これで、チートなのかと疑問に思うが、普通に過ごしているだけで、確実に向上出来るんだから、やはりチートなんだと言わざるを得ないか。