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底の村

 行きは途中、楽させてもらったから、帰りは、こんなに遠い村だったかと思うくらいには大変だった。


 「見えてきたな」


 ラキは、少し前から私の脚と一体化している。


 「大魔王って、こんな隔絶されたようなところで育ったのか」


 ハーストが、あまりに何もないところなので驚きの声を上げる。


 そして、みんなでディミトリを振り返ったが、「チッ」と舌打ちをしたきりソッポを向いた。


 「懐かしいとかないのか?」


 「るせぇな」


 盆地の底の底にある、板で周りを囲った村に近づいて、入り口から入ろうとすると……。



 「待て待て待てえ~」


 門番の制止だ。


 「村長に頼まれて、息子を捜して連れてきた。ほら、ディミトリに間違いないだろう?」


 私は、ディミトリの顔を見せた。




 「ん? ええーーっ! デミだってえーーっ!?」


 門番は、甲高い声を上げるものだから、暇そうな奴等が集まってきてしまったぞ。


 「蝉だと?」


 「バカ言うな。手土産だろう?」


 「あんら、いい男」




 昼をとうに過ぎていたから、わらわらと人が集まってきたな。


 「ディミトリ、何とか言え」


 私は、繋いでいた拘束具を外してディミトリを前に押しやった。


 すると……。



 「パプリンは何処だ?」


 と、ディミトリの声。



 集まった村人は、ディミトリの赤いツンツン髪から、異様なネックレスを見て「「「「デミ坊っちゃん!」」」」と愛称を呼んだようだ。


 騒ぎであのカサカサ言うベストを着た側近がやって来て……。



 「デミ坊っちゃん! よくお帰り下さいました」


 と、何やら感動している。


 私は、やっとディミトリを切り離せたので、脚にしがみついているラキを抱き上げる事が出来たんだ。


 「ライルゥ」


 必死に首にしがみついてくるラキ。



 『もう、ラキの方が強いだろうに、何に怯えているのやら』


 そのうち、転がるようにやって来た村長が……。


 「デミタン! お帰り~」


 と言ったのには、正直恐怖したな。



 『確かに。ラキが怯えるのも無理ないか』


 しばらく、見えない人達とされていた私達にようやく気付いた村長の第一声はこれだ。



 「一応、役には立ったんだな。クズ共」



 ハーストもネビルもキョトン顔だ。


 あんな悪党を捜して連れ帰ったんだから、お礼を言われて当然だと思っていただろう。


 だが、ここの村に常識は当てはまらないんだ。


 「次は、獲物でも狩って来い。デミタンの帰村の宴の食材にする」




 『もっちり顔のあの頬をムギュリと握り潰してやりたい』



 怒りに耐えながら考える。


 一瞬、ベルナップからの借用書を出してやろうかと思ったぞ。



 『だが、モニュメントの情報を収集する迄は我慢だ』


 ラキの震える身体を落ち着かせながら、ハースト達と狩に行くことにした。



 *


 「なあ、何で俺達、こんな扱いなんだ?」


 怪訝そうに質問してくるハースト。


 「ディミトリが育った村だぞ? 常識なんてある訳ないだろう」


 「そう言えば、嫌々捜しに出たんだっけ?」


 「そうだ。あの村自慢の彫像を偶然壊してしまって、それで、責任を取らないと役人に訴えると言われたんだ」


 「壊したのなら仕方ないじゃないか」


 「私は、ディミトリの借金を幾つも肩代わりして、ここまで連れ帰ったんだから、もう十分だと思うが?」


 「確かに」


 ハースト達も、ディミトリには騙されて大変な思いをしたから、納得してくれた。


 「それで、どんな彫像を壊したんだよ?」


 「珍しい生き物の彫像だったかな?」


 「ふーん。そんな物飾って、村起こしでもするつもりだったのかね」


 「まあ、そういう事も含めて、これから調査しないとならないな。領主様からの依頼だ。頼むよハースト」


 「情報収集は得意だから任せてくれよ」


 「頼りにしている」





 向かってきた魔物を、この世界では重いとされている金属棒で殴り簡単に狩りは終了だ。


 夕暮れ迄、ハースト達とこれからの動きを確認して、それから村に戻った。




 *


 「随分と大量だな。これ全部、兄ちゃん達が仕留めたのかい?」


 「ああ、けっこう大変だったぜ」


 人懐っこい笑顔で話すハースト。


 「ご苦労でした。では、こちらの納屋ででも休んでください」


 カサカサベストの側近が案内してくれたのは、半壊して屋根が崩れた危険な場所だった。



 「なんだよここは! 崩れてんじゃないか」


 ハーストが勇敢にも抗議したが、「嫌なら、井戸の中でもよいのですよ」と言われ、怯えるラキを見て諦めたようだ。




 とりあえず、半壊の建物を壊して更地にして、残っていた柱を使い四本立てて布を貼ったさ。


 中には、斑胴食肉猫(レプティ)の毛皮を敷き詰めた。



 「これで、夜も温かいだろう」


 「ここまで野宿だったんだぜ。今夜からはゆっくり眠れるんだから、十分だよ」


 「ハストの言う通りだから、気にしないで」


 ネビルは、ラキに笑いかけた。


 ラキは、マァルを抱いて私にくっついている。



 『すっかり、萎縮しているな。心配したマァルが、居心地のいい鞄から出てきているもんな』


 「ナ~ウ」


 「……」


 携帯していた水を飲んで、少し仮眠をしていたら、焼いた肉を持って来てくれたようだ。


 「そら、食うといい」


 小さな皿に盛られた焼き肉を差し出してきた。


 「俺達が狩ってきた獲物だけどな」


 「スープは、村の食材だぞ」


 ハーストの嫌みにチクリと反撃してくる。


 「以前よりはましか」


 私が、苦笑いして言えば「あれは、下層人の餌だからな」と、シレっと答えた。



 『この村の者は、切り返してくるからやりづらい』


 後ろから目付きの鋭いオバサンが、四人分のスープを運んできた。


 「食べ終わったら、器は、井戸のところに持ってきて洗っといておくれ」


 言うだけ言って、スタスタ行ってしまったな。



 「温かいうちに食べようぜ」


 ハーストが明るく言ってくれたから、私達も食べ初める事にしたよ。


 ラキには、私の分のスープも渡そうとしたが、あまり喉を通りそうにないようだ。



 『フゥ。マァルは、ラキの分の肉をガツガツ食っていたがな』




 こうして、塩対応の村での潜入捜査の幕開けとなった。

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