ラキの焼きもち
すっかり荷運びの終わった小間物屋は、営業する迄、まだ時間があるのか人気がなかった。
だから、良く見えたのだろう。リーデルがすっとんで迎えに出てきたよ。
但し、マァルのな。
「マァルさんいらっしゃいませ」
「ナーウ~」
私が、ラキの髪にブラシをかけた後、ラキがマァルにブラシをかけるから、綺麗な毛並みになっていてツヤ光りしているリボンもあってか、このところ、随分とお上品に見えるんだ。
中腰で、折った右腕を恭しく差し出してきたリーデルに、まんざらでもないマァルがのった。
『フゥ。今、私達は、いったい何を見せられているのやら』
「どうぞ、こちらに」
その後、背を向けたリーデルは、振り向きもしない塩対応をしたさ。
それでも、店の中を案内して、若者に実際の仕事の説明をしてくれた。
「それで……」
シェイやファントの悩みを相談すると、「引き受けたからには、責任を持って対応するのが、店の信条でございます」と言われたんだ。
ケッセラーの旦那なら、安心して預けられるな。
シェイとチェイフィーは、飛び上がって喜んでいたし、ロウリは、「嘘だろう……」と、まだ信じられないみたいだったがな。
「ファント、良かったな」
なんと! ファントは、泣いていた。
ハーストに背を叩かれて、必死に隠していたがしゃくりあげているんじゃバレバレだ。
そんな時、一番に心配するラキはと言うと……まだ、私の足と一体化しているな。
「ラキ?」
「……」
フゥ、まあ、後でゆっくり訊いてみるか。
リーデルに頼んでネイビの治療をしてもらい、勿論、薬草代金は支払ったさ。
後は、ディミトリーを預けて、若者達の親に挨拶に行こうとしたら、「それは、ケッセラー様の仕事でございます」とリーデルに断られたんだ。
『それなら、ネイビを送りがてら、ハーストの親にも挨拶に行くか』
右腕にラキを抱き上げて、左腕にネイビを抱き上げてと。
「ライルゥ」
眠くなったのか、ラキは、私の首に腕を回して密着だ。
「ラキ、心配しなくても、ネイビは、足が治れば自分で歩く」
どうしてか、ハーストは、そう言った。
やはり、眠いのだろう。
ラキは何も答えずに、私の胸に顔を埋めたままだったんだ。
退廃地区の更に手前まで来た。
「ライル、ネイビの家はもうすぐだ。ここで下ろしてやってくれ」
「大丈夫だ。それに、この後、お前の家にも行くからな」
ビクッとして立ち止まるハースト。
「俺の家に何しに来るんだ?」
「あ! 言ってなかったか?」
「来るな!」
振り返ったハーストは、初めて会った時よりも酷い拒絶をみせた。
無言で立ち尽くしていたが、少し落ち着いたハーストが話してくれた事で、私も伝える事が出来たんだ。
「チェイフィー達の事には、礼を言う。だけど、同情で俺の家に入る事は止めてくれ」
「勘違いするなよ。これから、仕事仲間を勧誘しに行くだけだから、お前の家に興味はない」
「仕事仲間?」
「そう。仲間を思いやれるしっかり者と、心優しい者を二人勧誘しにな」
その時、初めてネイビと目が合ったかもしれない。
『うん? 小さな鼻に睫毛の長い茶の瞳、心なしか唇が紅い? まさか、女の子?』
「ネイビ、お前、女の子なのか?」
俺は、思わず腕を緩めて降ろしてしまった。
ズイと、ネイビを守るように前に出たハースト。
「あんた、まさか、ネイビに……」
「待て、私の一番はラキだから誤解するな」
ピョコンとラキの髪が元気に跳ねて、ラキは、やっと自分から降りてくれた。
「ライルゥ、ライルゥ、ライルゥ♪」
楽しそうに、私の周りを跳ねるラキ。
『ぅん?』
「ブッ……」
吹き出したハースト。
さすがラキだ。皆の心を和ませる天真爛漫さ。
「改めてお願いするが、二人共、この先の大仕事に協力してくれないか?」
「大仕事って、ディミトリーを村に送ったら終わりじゃないのか?」
「それは、脅されてやるやっつけ仕事で、今は、詳しく話せないが、私にはやらなければならない使命があるんだ」
ハーストとネイビは、顔を見合せている。
その間、ラキが嬉しそうにくっついてきた頭を撫でてやっていた。
「ふーん、でも、何で俺達に?」
「私は、知らない土地からここに来て、ラキを保護した。だから、信頼できる仲間がいないんだな」
「会ったばかりの俺達を信頼するって?」
「ハースト、お前は少し一緒に過ごしただけでわかる程良いリーダーだ。だから、是非、協力して欲しい」
「ネイビも一緒でいいのか?」
「頼みって、ネイビの事なんだろう?」
『ちょっと、驚いているな』
「そうだ。ネイビは、可愛いから、もうすぐ何処かに売られるかもしれない」
「腿の傷は、昨日の外出を咎められでもしたか?」
今度は、ネイビがピクリとした。
『思い出したくもない過去だが、今も十分役に立っているから不思議だな』
孤児だった頃の仲間の顔が浮かびそうになって、それを何とか頭から追い払ったぞ。
「また、ネイビが殴られない為にも、ここを早く脱出しよう。協力してくれるな?」
「わかった」
それからは、意外にもトントン話しが進んだんだ。
領主のいる街に家を持っているので、連絡が取れる事と、一応、身請け金も渡したので、両方の親は文句なく喜んで預けてくれた。
「フゥ」
で、ディミトリーとマァルを引き取り、ネイビとハーストを連れて『朝霧荘』に戻って来た。
*
タッタ、タッタ。
「ハースト、おはよう。今日も訓練かよ」
早朝、わざわざ小間物屋への通りを走るハースト。
それに、軽く手を上げてすれ違って走り抜けて行く。
実はこうして、ロウリ達四人が元気に働きに行く姿を確認していたのだ。
仲間が一人も欠けずに頑張っているようで、安心したハースト。
そうして、宿に戻って、ライル達と朝食を摂ってからギルドに行くのが日課になった。
ハースト達は、今、ライルに従って依頼をこなしながら、自分の役割を勉強しているところなのだ。
ネイビはと言うと、腿の怪我が、ラキの看病で(万能スーツ)快癒したと感動して、それを薬草のお陰だと勘違いしたまま、目下、薬師の勉強をしている最中である。
ハーストも負けじと、斥候の役を勉強しているが……。
ハーストの場合は、ライルに向いていると言われて、やってみようと試しているところなので、ネイビよりは、いささか情熱に欠けていた。




