変貌
改心はしていないが、やっと解放されたディミトリ? トール王の方だな。
「おい、オッサン! 村に帰れば、ディミトリの家族が待っているんだぞ? そのままで接したら、別人ってバレるんじゃないのか?」
殴られて、顔の腫れたまま通りを歩くから、民衆に避けられている。
そんなところを偶然にも、サフラが男と楽しげに前から歩いて来たんだ。
傍らの男は、誠実そうで優しそうに見えた。
サフラは、こちらに気づかない程、相手の男を見詰めていて、あっという間にすれ違って行った。
トールのオッサンの事など、もう忘れてしまったようだな。
私は、励ましのつもりでオッサンの肩を叩いたが、それをグーパンで返されたからムカついた。
「くぅーーっ!」
まあ、ダメージを負うのは、オッサンの方だからいいけどさ。
「ライルゥ……サフラァ、行ったあ」
指をさしている。
その指を手のひらで包んでやめさせてから、教える。
「行ってしまっただぞ」
「うん、サフラ、行ってしまったあ」
「サフラは、幸せを掴んだんだよ。だから、これで良かったんだ。ラキ」
「幸せ、なったぁ?」
髪をピョコピョコ跳ねさせたラキを撫でて、宿屋を目指したのさ。
あの、無責任な宿じゃなく、ケッセラーの旦那に紹介してもらった宿にな。
何でも、女性が切り盛りする『朝露荘』と言う料理の旨い宿らしい。
のたのた後ろの方を歩いていたトールのオッサンは、それでも、ちゃんと着いて来ていた。
前回の宿とは反対の地区にあって、小ぢんまりとした家庭的な雰囲気の宿だった。
母娘で仕切っているらしく、部屋にまで案内してくれて、軽い食事まで運んでくれるサービスぶりだ。
だけど、トールのオッサンは、食事をしないまま就寝してしまい、翌朝、驚かされる事になるんだけど……。
*
「おい、オッサン! 起きろよ」
ゲシゲシ。
「うん?」
間違わないで欲しいが、これを言ったのは私じゃない。
トールのオッサンから言われているんだ。
「ん……なあにぃ……」
ベッドを蹴られたから、ラキは、眠い目を擦りながら起き上がった。
薄目を開けると、いつにも増してツンツン髪の頭が見えたぞ。
「乱暴だな……」
「おい、カネあるかオッサン」
「金? 有る訳ないだろう! ちっとは、自分で稼げよな」
「っんだよ、たりぃ事言ってんじゃねぇ。よこせ、オッサン」
グイと引き起こされて、首に冷たい物を当てられている?
「ダメーーッ!」
隣りに居たラキが大声を上げると、ナイフを放り投げたディミトリは、耳を庇った。
「っるせぇガキが! ああん?」
眉間に皺寄せして、口をひん曲げたディミトリは、ラキに顔を寄せて睨みを始めたんだ。
「いやあ、ライルゥー」
恐かったのか、私の背中に顔を附せてしまった。
私は、その、近い顔を手のひらで押さえてから、ペッ、と張り倒してやったよ。
『朝から、なんなんだ』
「何しやがんだ、ああ?」
『これが、本物のディミトリなのか? 取り込んだなんて言ってたが、それも嘘だったのかよ』
減なりしながら起きて支度を整えた。
それで、わかった事は、昨日のケッセラーの旦那のやり方は、あれで正しいという事なんだ。
誰彼構わず悪態をつき、そして、金品をせびる。
手のつけられない、いや、言葉の通じない根っからの悪党と言えば伝わるだろうか。
王様からしたら、色々とショックな事が続いて、トールのオッサンは、引きこもってしまったんだろうな。
で、ラキを蹴ろうとしたディミトリを縛いて、約束した広場に来ているところだよ。
「ああ? 何で、引きちぎれねぇんだ?」
特殊ロープを使って手足を縛っているから、力で切る事は難しいだろう。
『五月蝿から、口も縛るか』
ディミトリを足下に転がして、ハースト達を待っていた。




