デイラの話し
『血行が悪くて、いつも険しい顔をしていたのか』
てっきり、主人のケッセラーが厳しいから痩せ細っているのかと思っていた。
「隣り街の郊外にいたらしいが、旅の途中で偶然見つけたのか?」
「そうでした」
背負っていた荷物から出すふりをしながら、ベルナップから預かった借用書を懐から出して見せた。
「何だこれは……ベルナップ様だって? ディミトリ! この借用書の金は何に使ったんだ」
「ムキョ! 注文をしただけで、こんな物を書いて弁償しろと言うのだ。ここの領主の孫など、大したことはないぞ」
「ディミトリ!」
「あ~う~ん、許して下さい。ねっ? ねっ?」
ラキは、立ち上がってトールのオッサンを庇ってやった。
ケッセラーは、ラキのウルウルの瞳に怒りが浄化されたんだろう。それ以上何も言わず、こちらに向き直ったぞ。
「それから、この町に住む若者達から石炭を巻き上げて、代わりに売ってやると言ったらしいですよ。それを信じて、ディミトリに置き場所を教えてしまったそうです」
「その金を持って隣り街に行ったのか」
相づちを打つ。
「それで、厚かましいお願いなんですが、若者を四人程雇ってもらえるところを紹介してくれませんか?」
「後の二人はいいのか?」
「流石、よく見てる」
「世辞はいらん。四人でいいのか?」
「残り二人は、旅をしたいと……何でも親から離れたいようで、それで、私が連れて行こうと思っています」
「子供を食い物にする親がいるんだな。まあいい」
そこで、一息ついたケッセラーの旦那。
「はっきり言えば、俺は、あんたを雇いたいんだが、この町に留まる気はないんだろう?」
「すみません。カンツールの街に家を貰っているんで」
「ハッ、まさか、ベルナップ様からか?」
「まぁ、その繋がりでご領主様から……」
半分口を開けたままで、しばらくの間睨まれていた。
「どうしたの?」
ラキに質問されて、やっと話しをしてくれた。
「先に、言っておけば良かったと思ってな」
『なんだろう?』
「遅い俺が悪い」
「ご領主様が気に入っているのはラキの方ですよ」
「坊主がか?」
「はい」
「確かに、善良で素直ないい子だが、清廉過ぎて将来が心配だがな」
まじまじとラキを見ているケッセラー。
『確かに……私もいつまで守ってやれるだろうか?』
「ラキの仲間十五いるよ。心配ない」
「何が十五いるんだ?」
「わっ、ラキ! こんなところで呼んじゃ駄目だぞ」
「呼んじゃ駄目?」
く~、キョト顔が可愛いすぎる。
それで、おとなしくしてくれたから、助かったよ。
何だかわからないケッセラーは、目で説明を求めてきた。
「ラキは『能力』を授かったので、それに期待された領主様が、言語の先生をつけてくれたんですよ」
「そう言う事か。なら、しょうがねぇ。若者四人は、うちで引き受けてやるよ」
「いいんですか?」
「この悪人を捜し出して捕まえてくれただろう? その、礼だ」
「ディミトリは、底の村に連れて行きますよ」
「あんたのお陰で、俺の責任は果たせたからな。それに、石炭に劣化品が混ざった理由も判明した。後は、保証金を払って説明すれば終わりだな」
「保証金って、幾らぐらいするもんですか?」
「ライルが払ってくれんのか?」
マァルのマッサージに、夢心地だった秘書のリーデルが教えてくれた。
「八十万デイラです」
「デイラ?」
一デイラ=一青銅貨
十デイラ=一銅貨
百デイラ=一鉄
千デイラ=一銀貨
万デイラ=一金貨
他に白銀貨や純金もあるそうだが、王様でもなければ見る事も使う事もないそうだ。
それから、鉄製のナイフや防具なんかは、硬貨の代わりになるんだと。
ラキは、きちんと皮紙に記入していたな。
思わず一緒に勉強させてもらった。
「八万デイラと言う事は、金貨八枚ですね?」
「かなりの痛手だが、これを、底の村の村長に請求してやるよ」
「その請求書を買わせてもらえませんか?」
「金貨と言ったら大金だぞ?」
「実は、クピクピ族からこんな物を沢山もらったので、ここで買ってもらおうと思って持って来たんですよ」
今度は、背負っていた荷物から『灯り石』を取り出してテーブルに並べて見せた。
「こんな貴重な物、売ってしまってもいいのか?」
「勿論です。これを、若者四人の保証金として持っていて下さい。それから……」
懐から金貨を八枚出して置いた。
「こんな大金どうしたんだ?」
「これは、西の砦にある魔物の塔を掃討して頂いた金貨です」
「西の砦には、新人冒険者が向かったと聴いていたが、まさか、ライルだったのか」
「他にも冒険者のパーティーがいましたが、ラキのお陰で、関係を良好に保つ事が出来たんです」
「こいつ、ディミトリも行ったのか?」
「嘘をついて、作戦から外れました。それで、ベルナップ様のお屋敷で好き放題過ごして、これですよ」
借用書を指差した。
「ディミトリ、聞いていたか? 参加して、家も金も職も手に入れた手本がいるぞ」
「ライルの家なら、ワシの家でもある。ご苦労だったなライルよ」
ゴツッ。
『あの腫れた顔のまま連れ帰ったら、あの村長の事だ大変だぞ。フゥ』




