トールのオッサン
そうしてベルナップは、少年から青年に変わった。
酷い有り様になってしまったルーミス達を置いて、急ぎカンツールの街に戻ったベルナップと私達。
祖父に報告に上がるから、着いてくるように言われたんだよね。
「フゥ、すっかり、指揮官らしくなってしまって断れなかったな」
「ライル、出掛けるなら馬車を用意させよ」
疲れの原因は、パワーアップしていた。
戻ってから、今度はディミトリとベルナップに付いている者達で一悶着があってさ。
お分かりの様に、ディミトリの中に居座っているのが、分離した王の良心だったと。
『こいつが、全ての元凶にさえ思えてくるから不思議だよな』
主不在で、大切な客だと思って扱っていたが、余りに厚かましいので、早々に注意して欲しいと言われ、ついでにお茶をしようと、ベルナップと私とラキとマァルで向かえば、、トールのオッサンは、優雅に庭でティタイムをしてやがったのさ。
「サフラはどうした?」
「戻ったのかライル。久しぶりだの~。サフラなら、下働きの真似事をしておるぞ」
『サフラはきっと、こいつの分まで働いているに違いない』
「あんた、まさか!」
「どうした? ベルナップ……の中の置物?」
家令に椅子を引かれ座りかけていたベルナップは、勢いよく立ち上がって問い詰めたんだ。
「なんと、もう一匹いたのか。では、ラキの方は偽物か」
「はっ?」
「ワシは、いつまた狙われるかと警戒しておったのだぞ」
「この!」
私が掴みかかろうと近づくのを、くっついていたラキが止めた。
「ライルゥ、いっしよ」
『こんな奴でもラキは仲間だと言うのか』
しばらく、ラキの穢れない瞳を見つめ頭を撫でながら心を落ち着かせた。
「ライルゥ?」
「もう大丈夫だ」
「帰ったばかりではないか。誰ぞ、ハーブティーを頼む」
トールのオッサンは、まったくと言っていい程動じずに、ベルナップの家令達に命じている。
ベルナップの成長ぶりに屋敷の者達は、目を見張りっぱなしで、素直にトールのオッサンの言う通り人数分のハーブティーを運んできた。
ラキが、一所懸命にふぅーふぅしながら飲む様には癒される。
「それで、ワシを追いかけてどうするおつもりかね?」
「「「?」」」
「どうもこうもする訳がないだろう。それより、働け!」
「ライルは、この者達の正体を知らんからな」
「知っている」
「では、ディミトリの意識が無い事は知らんであろう?」
勝ち誇ったように言われて、怒りが再燃しそうになる。
「うん? ディミトリの意識が無いだって? それじゃあ、今まで……」
私が驚いていると思っているのか、楽しそうに暴露しやがった。
「そうじゃ。ディミトリの心は、最初からワシにのみ込まれてしまっておる」
「のみ込まれたって、どういう事なんだ?」
「実は、ワシがここに来て最初に依り代に選んだのは、熊から貰った石なのじゃ」
「熊が石を霊体のあんたにくれたってか?」
「ムキョッ! 馬鹿にしおってけしからん。また、戦闘中に殴ってくれるわ!」
「あーっ! やっぱり、アレは、わざとだったんだな!」
「しまった、ワシとしたことが」
『堂々と笑いながら言いやがって』
怪しいとは思っていたんだ。トールのオッサンは、ラキを狙いやがるからな。
最初は、私に向かって来ていたが、逆に蹴られるとわかって、標的をラキに代えやがったんだ!
そうすれば、私が庇うとわかっているからだ。クソー!
痛くはないが、いいように殴られたぞ。
「熊とは、各地で目撃されていると言う鮭好魔熊ではないのか?」
ベルナップに戻ったらしい。
そう言えば、ギルドの掲示板にそんな事が貼られていたような。
「そなたの知り合いか? それなら褒美をやってくれ。あの強そうな熊に入る事は失敗したが、ディミトリが偶然にも石を拾ってくれてな、こやつが提げていた石と融合したとおもえば、ワシが主導権を得ていたと言う訳じゃ」
『ハッハッハッじゃねぇ。くそ、殴りてぇ』
「鮭好魔熊が出没を始めたのは、我が町の郊外に池が出来てからだな。これも偶然なのか?」
ベルナップがいぶかしむ中、いやいや、案外あの跡地は宇宙船の跡かも知れないな。等と考えた。




